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【十二の星の華】黒の月姫(第3回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第3回/全3回)

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 正悟の連絡を受けた佑也は、校舎の裏で、赫夜の到着を待っていた。そこには、赫夜を心配した諸葛涼 天華(しょかつりょう・てんか)や、アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)も集まっている。
 ブロロロロ…と音がして、正悟は軍用バイクを佑也の手前で止めた。
「正悟殿、これはどういうことだ」
 赫夜は、面々を前にして動揺しているようだった。
「…はかったか、正悟殿!」
「これが一番いいんだ、あんたのためにも、みんなでちゃんと話をしよう!」
 と言う正悟だが、耳を貸さず、剣を抜く赫夜。
 天華は防戦だけのために、『怪力の籠手』を手にし、赫夜の説得に進み出た。
「赫夜さん、私はあなたの爺やさんに剣を交え、私の思いを認めて貰いました。それに、私の思う人への気持ち、あなたに打ち明けたとき、あなたはそれを優しく受け止めてくれました。最初にお渡しした歓迎会の花、覚えていますか? 白いバラは『心からの尊敬、私はあなたにふさわしい』、トゲのないバラは『誠意と友情』…赫夜さん、赫夜さんは私ととても似ている。愛する人への思いを抱え、苦しんでいる。もう、これ以上、苦しまないでください」
 アシャンテ・グルームエッジ(あしゃんて・ぐるーむえっじ)も同様に説得をはじめる。
「…赫夜、仮面をしていても解る。あの苦渋の表情。私は忘れていないぞ。何をそれほど悩む? それにどんな理由があろうと、人を殺させるわけにはいかない…私のこの場での役目は、お前を止める事だ…」
 右手は光条兵器の小銃を構え、いついかなる時も、背中の剣を抜ける構えをしているアシャンテ。その周りにはアシャンテのために尽くす動物達も同行していた。
「そうです。赫夜さん、思い直してください」
 天華も説得に力が入る。
「今ならミルザムもクウィーン・ヴァンガードもいない。それに真珠を救出するため、にゃん丸やイーオンたちも向かっている、これ以上意地を張ってどうする」
 アシャンテたちの言葉に確実に赫夜の心は揺れていた。星双頭剣がぶるぶると軸を失っている。
 それまで、無言でことを見ていた佑也がつかつか、と赫夜の方に丸腰で歩み寄っていく。
「…佑也殿!」
「赫夜さん、静麻さんや、政敏さんから事情は聞いた。…ルクレツィアさんのことも、ミケロット、それにケセアレ・ヴァレンティノのことも…辛かったんだね…俺はあの公園で赫夜さんが涙を流しているのに、何もできなかった。凄く悔しい」
「く、くるな…」
 赫夜は星双頭剣を佑也に向けようとするが、ブルブルと手が震えているのが側から見ても良く解った。
 そしてそのまま、佑也はどんどんと赫夜に近づき、赫夜は校舎の壁に背をつけるところまで追い込まれる
 そして、佑也は赫夜の手にある星双頭剣をなぎ払うと、赫夜を壁に押しつけた。そして、赫夜の仮面を思い切って剥がす。
 佑也は手荒なことを好まないが、さすがに事情が事情だけに力が入り、派手な音がして仮面が地上に落ちた。
 そして現れた素顔の赫夜を見て、佑也ははっとする。
 いつもの赫夜はそこにはいなかった。
 赫夜の顔は涙でぐしゃぐしゃだった。涙の後が頬に何本も残り、長いまつげには涙の玉が溜まっている。そして赤い瞳はいつも以上に真っ赤でまるでウサギのようだった。
 佑也の瞳にも一瞬、涙がこみ上げてくる。しかし、力を振り絞って、男として、赫夜の瞳を見て力強く叫んだ。
「俺が助けたいのは、他の誰でもない…赫夜さん、あんたなんだよ! 本当はこんな事、望んでないんだろ。だからあの時、泣いていたんだろ!? だったら…本音で、話してくれ…! 言ってくれよ…『助けて』って…! 真珠さんは俺たちが守る! にゃん丸たちが向かっている! 頼ってくれ! 独りじゃないんだ! 赫夜さん!」
「…た、」
 赫夜の唇がぶるぶると震え、そして咳き込む。恐らく、赫夜は人に「助け」を求めたことがほとんど無かったのだろう。
「…た、すけ、…おねがい、…た、たすけ、て…」
 しかし勇気をふるい、赫夜ははじめてその言葉を口にした。
 そして、そのまま、佑也は強く赫夜を抱き締めた。
「ごめんなさい、みんな」と泣きわめく赫夜。わあわあ、と声をあげ、髪を振り乱し、赫夜は泣き続けた。
「泣かないで下さい、赫夜さん」
 天華がもらい泣きをしつつ、赫夜の肩や髪を撫でてやると、アシャンテの使う動物たちも、赫夜を慰めるような仕草をする。
「赫夜さん、大丈夫、絶対、助けるから!」
 佑也の言葉に泣きわめいていた赫夜は一気に様々な感情の糸がぷつん、ときれたのか、ふっと意識を失い、がくりと体をくの字に追って倒れ込む。
 それを佑也がしっかりと抱き留めた。
 赫夜の意識は深いところへまで、落ちていく。
 佑也の周りに天華やアシャンテも駆け寄ってくる。
「かわいそうに…こんなに疲れて…」
 天華がハンカチで涙で汚れた赫夜の顔をそっと撫でてやる。

☆   ☆   ☆   ☆   ☆    ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

「…気がついたかい?」
 朗が気付け薬を保健室から持ってきてくれ、赫夜ははっと目を醒ます。
「あ、…つうう!」
「どうしたの、どこかいたい?」
 佑也が気を遣う。
「…違うんだ…思い出したことが、たくさん、あって」
「…どういうことだ」
 アシャンテが問う。
「私には幼少期の記憶がない…いや、『なかった』…それが断片的ではあるけれど、脳裏によみがえってきたんだ…」
「俺が追い込みすぎちゃったのかな」
 佑也の言葉に赫夜は頭を振る。
「佑也殿の言葉、嬉しかった。…私は、誰にも頼ったことがない。それを素晴らしいことだと、自分の強さだと勘違いしていた。…独りよがりの強さをきどっていただけだ。そして、佑也殿のおかげで記憶を取り戻すことができた…ありがとう…」
 そっと佑也の手を握る赫夜。
 佑也はその瞬間、真っ赤になってしまう。