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【十二の星の華】黒の月姫(第3回/全3回)

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【十二の星の華】黒の月姫(第3回/全3回)

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 赫夜はみなに、思い出したことを話し出した。
 蒼空学園に転校する前、いつもは引きこもり気味の真珠がふらり、と出かけ、直ぐに帰宅したが、その時はすでに指輪をして帰ってきたこと。
 指輪のことを聞いても、真珠自身が記憶がなかったこと。
 …そして赫夜はミケロットから『蟹座の十二星華、セルバトイラ』だということを明かされたこと。
 真珠の魂を人質に取られ、ミルザム暗殺を要請されたこと。
 そのためにパラミタへやってきたこと。
「私は剣の花嫁として、封印される前、女王の外戚の地位にいた。そして、私にはルクレツィア様、そして、真珠そっくりの姉…私は『ひい様』と呼んでいたが…いた。そして、姉を守るべく、剣士としての修業に明け暮れた。ひい様はとても優しい姉様で、いつも私に笑いかけてくれた。私はひい様が大好きだった。ひい様は私が剣を持つのをとても嫌がった。自分は親族の政権争いに巻き込まれ、命を狙われていたのに、いつも『人を傷つけてはいけないのよ』なんて…」
 くすっと赫夜は笑うと、ぽろり、と涙を流した。
「…だが、ひい様は私の力が足りないために、私の目の前で殺されてしまった。…ひい様の白いドレスが真っ赤な血に染まった…そして私は封印されてしまった…」
「そうなのか。…その赫夜さんを封印から救い出したのが、真一さんとルクレツィアさんなんだね?」
 佑也の言葉に赫夜はうなずく。
「…最初に私に触れたのは、ルクレツィア様だ。だから、私は真珠ではなく、今は亡きルクレツィア様のパートナーなんだ…だけれど、ルクレツィア様と過ごした時間より、真珠と過ごした時間の方が長い。そして、私は血は繋がっていなくとも、真珠の姉だ。…もう姉妹を亡くすような思いはしたくないんだ…誰も、ひい様やルクレツィア様のように、真珠をなくしたくない…」
 赫夜の言葉に皆、声を失う。
「私の最初の記憶の中にある真珠は、母ルクレツィア様と私をのぞき込んでいた幼子のままだ。真珠も事故の影響で覚えていまい。だが私は思い出せる。冷たい封印をルクレツィア様によって解かれ、そして小さな手でにぎってくれた真珠の手を」
 朗はしん、となったその場で最初に声を上げる。
「さあ、行こう赫夜。真珠ちゃんの本当の笑顔を取り戻しに。…言っただろ? ”俺達”で助けるってさ」
 その言葉に、生徒達、そして赫夜も立ち上がった。


☆   ☆   ☆   ☆   ☆    ☆   ☆   ☆   ☆   ☆

 屋上に次々と真珠を心配した面々が到着しはじめる。
 リリィ・ブレイブ(りりぃ・ぶれいぶ)は、
「今までの真珠と確実に違う。何かおかしかったのよ。今の真珠は…『お人形さん』みたいなのよ。誰かに操られているんだわ…たとえそうだとしても、絶対に真珠を諦めない! ちゃんと『こっち側』に連れ戻す!」
「俺も同じだ…」
 と、虎鶫 涼(とらつぐみ・りょう)は真珠を説得しようとするが、丁度、ミュリエルたちが指輪に吹き飛ばされかけた現場に立ち会ってしまう。
 そして真珠の変貌ぶり、かつ、「ごめんなさい」の言葉を聞くこととなったのだ。
(別人格が出てきたみたいだが、まだ真珠の心は死んではいない…説得するには十分だ!)
「…真珠、正直に言う。今までのお前はそんな性格じゃなかったはずだ。お前はもっと物静かで優しかったはずだ…! 真珠、俺がお前の事を案内した時、お前が俺に何て言ったか覚えてるか?」
 リリィも心配そうに真珠を見つめている。
 首を片側に傾けたまま、うつろな瞳でズタズタになった制服の真珠はぼんやりと二人の前に立ち尽くしている。
「『友達ですよね』と、お前は言ったんだ。その友達がお前の異変に気づかないわけないだろう!」
「ト・モ・ダ・チ」
 真珠の瞳に力が戻る。
「リリィ、さん、涼さん、みんな、逃げて、ここにいちゃ、ダメ…」
「何を言っているの、真珠!」
「私、もう、心を無くす…指輪、離れない…私の心が、キタナカッタカラ…」
「真珠さん…!! 戻ってきてください!」
 一度は真珠に吹き飛ばされたミュリエルだったが、それでも諦めない。
 ぽろぽろと涙する真珠だが、次の瞬間、指輪がまた青く光り
「早くどこかへ行け。小僧に小娘。…殺されたくなければな…」
 真珠の口からはっきりとそう、断言する声は男のものだった。
「真珠!」
 にゃん丸やイーオンたちも現れるが、この惨状に正直、驚きを隠せない。
「あの指輪が真珠を操ってるのよ!」
 リリィが叫ぶが、イーオンは
「指輪を急に外してどうにかなれば取り返しがつかないかもしれない…それに、魂を指輪に封じられ意識を押し込められている可能性がある…」
「あの指輪には、真珠の母ちゃんの魂が宿ってるんじゃないのか!」
 にゃん丸は、指輪にルクレツィアが乗り移っているのでは、と考えたが
「それはたぶん違う。真珠の口から出た言葉は男のものだった…」
 涼がつぶやくとアルゲオが
「誰かがあの指輪を使って、真珠の魂を人質にしている、そう、今、佑也さんから連絡があったわ、イオ」
 と、伝える。
「…黒魔術の一つかもしれんな」
 フィーネもそう、つぶやいた。
「…どっちにしろ、俺は真珠を救う…!! 指輪を奪っても、既に真珠の心は無いかもしれない…それでも! …真珠!」
 最後の希望を持って呼びかける…。
 瞬間、体に熱い痛みが走る!
 無表情の真珠はいつの間にか、短剣を手にしており、それがにゃん丸の体を貫いていた。血を吐き崩れ落ちるにゃん丸。短剣から伝わった血がぽたぽたっと、床に落ち、真珠のシャツに、そして手に血がべったりと付く。
「許せ、真珠…」