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リアクション
プロローグ〜1限目〜
既に人声のする家庭科室に、支倉 遥(はせくら・はるか)は何食わぬ顔で入っていった。生徒達は準備とおしゃべりに意識を向けていて、遥には全く目を止めない。そんな中、遥は冷蔵庫に近付いた。レストランとかによくある、業務用の冷蔵庫である。その蓋の部分に1.5リットルのダイエットペプシを2本入れると、遥は極自然に家庭科室を立ち去った。廊下を歩きながら笑みを零し、ひとりごちる。
「復讐するは我にあり! メガネよ! 小ババ様の恨み、今こそ晴らしますよ……!」
この企みが成功すれば……日頃の憂さも晴れて一石二鳥というものだ。
「ヤマハ……」
「ヤマハ……」
自習といっても特にやることもなく、久世 沙幸(くぜ・さゆき)は教室でボーっとしていた。不真面目極まりない態度である。聞くともなく聞こえてくる、プリントを持って廊下を行く生徒達の台詞。そこには、高確率でこの単語が混ざっていた。
「ヤ……ヤ……ヤマハ? うちの学校にそんな人いたっけ?」
沙幸は本気で、ハテナマークと青坊主を脳裏に浮かべた。だがそれも束の間。
「ま、私には関係ないんだもん!」
そう結論付けて机に突っ伏す。今日も暑い。
ぴしっ!
その瞬間、沙幸は全身を凍らせて動かなくなった。藍玉 美海(あいだま・みうみ)が氷術で氷漬けにしたのだ。
「空京へはわたくし達を放って置いて、お二人で楽しんでいたなんて……お仕置きをして差し上げなくてはなりませんわね」
沙幸は、そのままの格好で美海に運ばれていった。
「ふむふむ、元気付ける為に調理実習ですか〜」
事務所で受け取った紙に目を通すと、桐生 ひな(きりゅう・ひな)は顎に人差し指を当ててほわんほわんと赤いキャップの容器をイメージした。
「此処は渾身のマヨ料理を見せてやるので……」
がぼっ!
頭から大きなゴミ袋を被せられる。紙がひらりと廊下に落ちた。
「な、なんですか〜!?」
袋の中でがさがさきょろきょろとするひなに、袋の上から大きなリボンが巻きついた。身動きもままならぬまま、箱に入れられて持ち上げられる。
「美味しい所を二人だけで頂くなんぞ言語道断っ。お仕置きにひなとさゆを美味しく頂くとするのじゃー」
丈夫な段ボールを運びながら、ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)が言う。
「なんのことですか〜!」
ひなのくぐもった声を聞いて、ナリュキはくひひ、と笑った。
「ここで紙を貰えば良いんですね! でもルミーナさんったら、あたしは取りに行かなくてもいいなんて、どういうことでしょう。しかも、涼司さんを是非誘ってくださいね、なんて……あれ? この紙……」
花音・アームルート(かのん・あーむるーと)はひなが落とした紙を拾って、内容を読んだ。
「ふぅん……」
冷めた顔でそれだけ言うと、花音は紙を丸めてその辺のゴミ箱に丁寧に捨てた。
「校舎は丁寧に使わないといけませんからね!」
「家庭科の教科書は持ったし、ケヴィンとウォレスにも今日のコトちゃんと説明したしっ。や、やれば出来る、やれば……多分」
廊下を行く茅薙 絢乃(かやなぎ・あやの)は、家庭科の教科書をしっかりと持ち、自分を説得するようにそう言った。ケヴィン・シンドラー(けびん・しんどらー)は、それを遠くを見るような目で聞いていた。
「家庭科の教科書持ったくらいで調理実習が成功するなら……この世に神も仏も警察も要らないよな……」
「絢乃の料理は致死レベルだからなーっ」
「なっ……! そんなことないよ!」
絢乃は慌ててウォレス・クーンツ(うぉれす・くーんつ)に抗弁した。確かに、普段の料理はケヴィンに任せっぱなしだけど……
「授業初参加だし、がんばるよ!」
1限目に聞いた『メガネ君』に関する嘘八百や流言飛語を信じている絢乃は、完成したものはぜひ涼司に、そしてパートナーズに食べてもらおうと意気込んでいた。
とびきりの笑顔を浮かべ、絢乃は言う。
「美味しいもの食べて元気になるのは良いコトだよね? 友達100人計画も合わせて発動だよ!」
かくして、調理実習は始まった。
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