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空賊よ、さばいばれ

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空賊よ、さばいばれ

リアクション


chapter .3 22時〜1時 


 時刻は22時を回っていた。
 まだ船内では脱落者がほとんど出ておらず、ある意味平和に船旅は進んでいたと言って良い。がしかし、それは長くは続かなかった。外部からの侵入者が、ヨサークの船に降り立ったのだ。
 そう、ここは最初の十二星華接触ポイントだったのである。
 すとっ、と夜の闇に紛れ甲板に降り立ったのは、魚座(アルエーシャ)のエメネアだった。あるA社に勤務中の彼女は、度重なるサービス残業と割に合わない薄給でストレスが溜まっていた。
「この船のお宝をいただいて、バーゲンに行くんですーっ!」
 手にはお馴染みの鞭を携え、エメネアが船内へ入り込もうとする。その前に立ち塞がったのは、スウェル・アルト(すうぇる・あると)だった。
「エメネア、会えた。これで、探し物も、見つかるかも」
 右手におもちゃの虫眼鏡、左手によく分からない謎の人形を持ち、スウェルは真っ直ぐエメネアを見つめている。日の光を避けるためいつも傘を差している彼女だったが、夜ということでその手に傘は握られていない。そもそも日中であれば、彼女は甲板になど出てこなかったであろう。それはスウェルを追って走ってきた彼女のパートナー、作曲者不明 『名もなき独奏曲』(さっきょくしゃふめい・なもなきどくそうきょく)――通称ムメイの言葉が証明していた。
「嬢ちゃん! ふらふらっとどこ行ったかと思ったらまさか甲板に出てるなんて……一体何探してんの、譲ちゃん?」
 後ろに立つムメイに振り返ることもなく、スウェルはぽつりと呟く。
「……ライオリン」
「はい?」
「ライオリンに、会いたい」
「うんいや嬢ちゃん、ここにいないよライオリン? あれ、聞いてる嬢ちゃん? もしもし、もしもーし!」
 念のため補足しておくと、ライオリンとは要塞マ・メール・ロア内にいたライオンとキリンの遺伝子を持つキメラのことである。そしてスウェルは、全生徒の中で唯一ライオリンの背中に乗るというレアな体験をした少女だった。そのあたりも含め、詳しくは無料版グランドシナリオ【十二星華SP】決戦! マ・メール・ロア!! を見てほしい、とマスターハギなる地球人が言っていたとか言っていなかったとか。
そのスウェルはというと、ムメイの言葉を聞き流すかのようにとてとてとエメネアに向かって歩き出していた。
「あれから、ライオリン、見かけない。あの素晴らしいふさふさを、もう一度」
 エメネアの前まで来ると、スウェルはじっとエメネアを見上げ「ライオリン、どこ?」と尋ねた。おそらくあの時キメラを統率していたエメネアなら、何か手がかりをつかめると思ったのだろう。それほどまでに、彼女のライオリンに対する愛情は強かった。よく見れば、左手にある人形もライオリンをかたどったもののようにも見える。
「ライオリン、ライオリン」
 ゆっさゆっさとエメネアの服を引っ張り、スウェルが連呼する。ただでさえストレスが溜まっている上、チンパンコの体臭で絶賛ラリラリ中のエメネアはスウェルを叱った。
「ライオリンライオリンうるさいですー! ミスドとかでいっぱい商品買えば、それっぽい動物が当たるんじゃないですかー!?」
 誤解のないよう説明すると、彼女が口走ったのはあくまで空京にあるミス・スウェッソンのドーナツ屋さんのことである。スウェルは大声に一瞬びくつくが、ふるふると首を振り「ライオリン、乗りたい」と駄々をこねる。一歩も引く気はないようだ。
「じょ、嬢ちゃん、ほら、あの鞭の嬢ちゃんも困ってるから……」
「鞭の嬢ちゃんって何ですかー! アレですか、私は会社に鞭打たれて馬車馬のように働くしがない派遣社員ですかー!! どうせ残業多いのに薄給ですよ、私なんてー!」
 びゅん、と鞭をしならせスウェルとムメイに襲いかかろうとするエメネア。その時、ひとりの男の声がエメネアの手を止めた。
「薄給が何だ!」
「!?」
 声の方を振り向くエメネア。そこに立っていたのは、こちらもチンパンコにより相当ラリっている如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)だった。佑也はつかつかと大きな歩幅でエメネアに近付くと、がしっと肩をつかみ熱く語りかけた。
「薄給だから何だっていうんだ、エメネア! むしろセレブな巫女さんなんて俺が認めん!! いいか、巫女さんってのはだな、清楚で、おしとやかで、倹約家で……それが本来あるべき巫女さんの姿ってもんだろう!!」
 チンパンコの体臭でラリっている佑也は、普段間違っても言わないような巫女さんへの熱い思いを吐露し始めた。
「そもそも、もっと巫女としての自覚を持ってもらわなきゃ困る! とりあえずこのゲーム機でも持って通路に立ってなさい! ここに来る途中おもちゃ屋さんで買ってきたから!」
 そう言うと佑也はゲーム機をエメネアに押し付けた。なぜかゲーム機を渡されたエメネアは、付属のコントローラーを見ると再び血相を変え佑也に食ってかかった。
「なんですか、私は会社にコントロールされてる操り人形ですかー!」
 直後、エメネアの鞭が佑也に襲いかかる。ギリギリのところでそれをかわすと、佑也は軽く舌打ちをしてからエメネアに向かって走り出した。
「まったく……需要はあるんだから、もっと巫女さんらしくすればいいんだよ」
 距離を詰めた裕也は、そのままエメネアの真正面まで来ると「本当の巫女さんってのはな」と演説を始めた。そのそばではスウェルは相変わらずライオリンライオリン言ってまとわりついている。
「……あなたたち、うるさいですー! いい加減にしてください!!」
 とうとう堪忍袋の緒が切れたエメネアが、全力で鞭を振り回した。それを見ていたムメイが、咄嗟にスウェルをかばう。
「危ない嬢ちゃんっ!」
 スウェルの盾となったムメイ、そして至近距離でもろに鞭を食らった佑也が弾き飛ばされ、甲板からその体を放り出す。
「じょ、嬢ちゃん、危険なまねはもう……っ!」
 最後までスウェルの身を案じ、落ちていったムメイ。佑也は観念したのか、目をつむり遠い地にいる両親のことを思い浮かべていた。

 拝啓母上。元気にしていますか?
 相変わらず剣術バカですか?
 父上。三途の川はちゃんと渡れましたか?
 渡り賃ちょろまかして、閻魔様に怒られてませんか?
 落ち込んだりもしたけれど、私は元気です。

 ムメイ、佑也、共に脱落。
「まったく何なんですかー……」
 辟易しつつエメネアが言葉を漏らす。しかし、エメネアにとって本当の災難はここからであった。
「っ!?」
 不意に、背後から邪悪な気配。慌てて振り向こうとするエメネアだったが、もう手遅れだった。
「ひゃうっ」
 後ろから突然回された手が、エメネアの胸に触れた。否、正確にはその手に握られたメジャーが触れたのだ。突如エメネアを襲ったメジャーの持ち主は、橘 カオル(たちばな・かおる)だった。彼は隠れ身で姿を隠し、この機会を待っていたのだ。そう、十二星華のバストサイズを測るこの時を。
「なっ、何ですかいきなりー!?」
「ちょっと黙っててくれ、正確なサイズが測れないじゃないか!」
 なぜか怒られるエメネア。測定作業を行うカオルの表情は、真剣そのものだった。
「よし、計測完了だ。なるほど、エメネアのバストは80……と」
 勝手にバストサイズを公表された上、セクハラまがいのことをされたエメネアの顔は見る見るうちに憤怒に満ちていった。
「あなた、そんなに落とされた……っ!?」
 鞭を振るおうとしたエメネアはしかし、その動きを止められた。止めたのは、おとなのおもちゃ屋さんで売っていそうなセクシーな下着を携えた南 鮪(みなみ・まぐろ)とそのパートナー、土器土器 はにわ茸(どきどき・はにわたけ)だった。はにわ茸の手には何やら紙とペンが収められている。
「ヒャッハァアーッ、ついに俺の出番だな!!」
 鮪はエメネアがカオルにバストを測られている隙を突き、猛然とエメネアに向かって突っ込んでいったのだった。そしてそのまま真正面からエメネアの懐に潜り込むと、持っていたブラジャーを神業としか言いようのない速さと正確さでエメネアに装着させた。
「なっ、なっ……?」
 いきなりブラをつけさせられてすっかり動きが固まるエメネア。しかし鮪の暴走はここからさらに加速する。
「つけたな? ブラをつけたな!? よおし、外してやるぜ!!」
 なんと鮪は、つい今しがた自らの手でつけたブラを、強引に剥ぎ取り始めた。
「きゃっ、なっ、何するんですかっ……!!」
「うるせぇっ! ただの下着でも、十二星華がつければその瞬間からそれは十二星華の下着だろうが!! ならその下着は俺のもんだ!!」
 しまいに鮪は、脱がしたてのブラジャーを頭に被りながら暴言を吐き出した。
「いいかぁ!? おまえのものは俺のもの、俺のものは俺のものだ!!」
 目の前にいるとんでもない暴漢に、エメネアは泣きそうになっていた。そこに追い打ちをかけるようにはにわ茸が無理矢理ペンをエメネアに持たせ、その手を勝手に動かしてさらさらと紙に何かを書かせていく。それは、エメネアの署名だった。よく見るとその紙には、汚い字で「婚姻届」と書かれていた。どうやらわざわざ自作してきたらしい。
「うへへへ、これでもう姉ちゃんはわしの嫁じゃあ!!」
 興奮し、うにょうにょ体をくねらせるはにわ茸。その姿は絶妙に気持ち悪かった。パラミタの女性100人にアンケートをとったら、10割が「生理的に無理」と回答すること請け合いだ。
 そんな気色悪い生物に無理矢理署名させられ嫁扱いされ、勝手にブラをつけては外され、あまつさえバストサイズまで測定され、エメネアは心身ともにボロボロだった。もうこのへんで勘弁してやってほしいところだが、ここからさらにエメネアの悲劇は加速する。
 ビシャッ、と何かの液体が弾けた音が辺りに響く。鮪やはにわ茸、カオルが音のした方を見ると、水風船が割れて中から液体が弾け飛んでいた。
「うわっ……」
「くせっ……」
 そして、その液体はなぜだかやたら臭かった。心なしか白く濁っていたような気もする。まあ液体の正体について深くは触れないが、ともかくその異臭は場を一瞬凍りつかせた。そこに、静寂を破るようにバイクのエンジン音を轟かせながらロア・ワイルドマン(ろあ・わいるどまん)が登場した。
「どうだあ? 俺のつくったワイルドマン特製の漢玉(おとこだま)は!? がはははっ、お前らだけ可愛い子とキャッキャなんてさせねえぜ!」
 そのままバイクでエメネアたちの輪の中に突っ込むと、ロアは無理矢理エメネアを後ろに乗せた。
「さあ、ここからは俺と一緒にランデブーしようぜ! このハネウマのように乱暴なバイクでな!!」
「あ、あうっ……」
 もうすっかり生きる気力をなくしかけているエメネアは、完全にされるがまま状態だった。そんなエメネアの精神状態などお構いなしに、ロアはご機嫌でバイクを飛ばす。
「俺とお前で、空の結婚式だぜ!! ヒャッホーッ!!」
 ぶおん、と雑な運転でバイクを走らせるロア。調子に乗ってスピードを出しすぎたのか、ターンしようとした時に彼はハンドルを切りきれなかった。
「おわっ、おっ、落ちるっ!?」
 タイヤがぎゅりり、と歪な音を立て、甲板を滑っていく。そのままロアは、エメネアを乗せて甲板から飛び出した。
「うおああっ!」
 一瞬焦りを浮かべ声を上げたロアだったが、まあ後ろに女の子乗ってるしこれはこれでいい思いが出来たぜ、と開き直った。
「がははは、まあ落ちちまったもんはしょうがねえか! 巻き込んですまんな!」
「……もう、何でもいいですー……」
 ロア、エメネアを乗せたまま脱落。
 そして甲板では、目的が似ているということで行動を共にすることにしたカオルと鮪が肩をがっしり組みながら次の獲物を求め去っていくところだった。
「……ライオリン、手がかり、なくなった」
 ひとり残されたスウェルは、残念そうに呟いていたのだった。



 2階、大広間と厨房を繋ぐ通路。
 小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は目を血走らせてそこを歩いていた。彼女は「豪華な食事が食べられる」と聞き、前の晩からご飯を抜いてきたらしく、食事にありつけない現状に相当気が立っているようだった。言うなれば飢えた獣状態である。
「あのおじさん、ほんっとムカつくー! 何が豪華な食事よ! 見てなさい、こうなったら全員蹴り落として、意地でも料理を食べてやるんだからっ……!」
 水鉄砲を手に、ターゲットを探し回る美羽。と、美羽は前方に何か人影のようなものを見つけた。
「ん……? 参加者かな? よーっし、ひとり目の犠牲者はそこのあんたよ……って、あれ?」
 目標物に近付いた美羽だが、彼女はそこで一瞬固まった。なぜなら、そこに立っていた風祭 隼人(かざまつり・はやと)が全身灰色に染まり石像のように動く気配を見せないからだった。
「え、これ、人だよね……? 参加者だよね?」
 戸惑いつつも、水鉄砲を隼人に向ける美羽。彼女がこういう反応を示すのも無理はなかった。驚くべきことに隼人は、自らの体におもちゃの絵の具で色を塗り、あたかも自分がどこかの美術品であるかのように見せかけていたのだ。隼人自身が美形ということも上手く作用したのか、はたから見ればどこかの美術館に飾られている彫像に見えなくもない出来栄えであった。おそらく彼は、このまま彫像のふりをしてバトルをやり過ごそうとしていたのだろう。しかし、彼の誤算は美羽の持っていた武器である。そう、今彼女が構えているのは、水鉄砲なのだ。
「どっちか分かんないから、とりあえず撃っちゃえ。えーい」
 びしゃっ、と美羽の水鉄砲から、勢い良く液体が発射された。当然それは隼人の体に塗られていた絵の具を溶かし、本来の服の色を露出させてしまう。
 しまった。隼人が予想外の事態に内心焦り、戦うしかないか、と腹をくくった時だった。
「せっ、石像が蘇ったーーっ!!!」
 大声をあげ、美羽が一目散に逃げていった。絵の具だとは夢にも思わなかった彼女は、突然人間の色身が出始めた隼人に驚きダッシュでその場を去ったのだ。彼女のお茶目な勘違いで生き延びた隼人は、ふうと一息つき本来の目的へ向かってゆっくりと動き始めた。

 同2階、厨房。
 隼人は通路を抜け、この厨房に忍び込んでいた。
「真面目に戦い続けるなんて、馬鹿らしいこと出来るかよ」
 美羽同様、昨晩からご飯抜きで腹が減っていた隼人は乗船時からある作戦を思いついていた。それは、端的に言うと料理のつまみ食いである。
 豪華な食事を最後のひとりが食べられるということは、その料理の準備を移動中にするはず。そればかりか、もう既に料理をつくり始めているかもしれない。そう考えた隼人は、本来景品であるはずの料理を盗み食いしようとしていたのだ。
「メシさえ食べちまえばこっちのもんだ。さて、料理は……と。おっ、やっぱり今つくってる最中みたいだ。このチャンスを逃す手はない!」
 厨房から聞こえる包丁とまな板の音を聞き、隼人のテンションが上がる。が、物陰からこっそり厨房の奥を覗き込んだ彼がそこで見たものは、最初から乗り込んでいた船員の姿だけではなかった。
「いやあ、嬢ちゃんたちがまさか手伝ってくれるとは。助かるよ」
「人手が足りないかなって思ったからさ。それより、この野菜切り終わったよ! 次は何をすればいいかな?」
「料理長さん、ドレッシングの配合はこれでよろしかったですか?」
料理担当の船員と共に野菜を丁寧に切ったり、調味料を混ぜたりしていたのはセシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)であった。
「な、なんで参加者が料理の手伝いを……?」
 計算外の状況に、戸惑いの表情を見せる隼人。そんな隼人の存在にまだ気づいていないセシリアとフィリッパは、楽しそうに会話しながらせっせと料理の手伝いをしていた。
「それにしても、ヨサーク様も困ったお方ですわね。これでは参加者の方々ばかりか、せっかく出来たたいせつなひとにも呆れられてしまいそうですわ」
「まあ、そのたいせつなひとも今回船には乗ってないみたいだからいいんじゃない? 僕は料理をつくりに来ただけだから何でもいいけどね」
 そうそう、とセシリアが言葉を付け足す。
「あとは、メイベルに何かしようとしてる人がいたら何回か撲殺もしないといけないけど」
 ちら、とセシリアが厨房の隅を見る。そこには彼女らの契約者、メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)がピコピコハンマーを握りしめ、ぶるぶると震えていた。
「なんだか皆さん、殺気だっていて怖いですぅ……」
「大丈夫ですメイベル、何があっても、何をしてでも私が守ります」
 メイベルのもうひとりのパートナー、ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)はメイベルのそばで優しくメイベルの背中をさすっている。
「こんなか弱い少女には、到底生き残る力はありません〜」
 本当にか弱い少女はあまり自分でそういうことを言わないものだが、メイベルは割とノリノリで怖がっていた。
「4人もいるんじゃ、うかつにつまみ食い出来ないな……」
 隼人がどうしたものかと物陰で機を伺っていると、ぐう、と間の抜けた音が厨房に響き渡った。前日から食事を抜いてきたせいで、隼人の空腹は限界に達していたのだ。お腹の音に慌てる隼人だったが、時既に遅し。音を聞きつけたセシリア、フィリッパ、ステラに隼人は囲まれてしまった。
「くそっ、こうなったら強行突破だっ!」
 隼人はがむしゃらに突っ走り、3人の囲みを突破するとメイベルのところへと走っていく。
「うおおっ、一口、一口でいいから食べさせろっ!」
 血相を変えて向かってくる隼人を見て、メイベルは本気でびびった。それもそのはず、隼人の全身は溶けた絵の具でどろどろになっており、灰色のまだら模様が出来ていたのだ。絵の具人間の襲来に、メイベルは無我夢中でピコピコハンマーを振り回した。
「南無阿弥陀仏、南無阿弥陀仏……!」
 どこで習ったのか、念仏を唱えながらメイベルのハンマーが隼人を襲う。
「うおっ、ちょっと待ってくれっ、誰が悪霊だっ……!」
 思わず後ずさる隼人だったが、その時背後に3つの殺気を感じた。
「メイベルに何しようとしてたのかなー?」
「これは、お仕置きが必要ですわね」
「メイベルを襲う妖怪絵の具人間、好き勝手出来るのもここまでです」
 言うまでもなくそれは、セシリア、フィリッパ、ステラのものだった。
「いやっ、待てっ、妖怪でも悪霊でもないんだっ……俺はただメシを……!」
 セシリアの腕とフィリッパのひざから繰り出されたラリアットをダブルで食らい、とどめとばかりにステラがタックルを隼人にぶちかます。プロレスラー顔負けのコンビネーション攻撃に、隼人は窓を突き破って落ちていった。が、勢い余って3人も一緒にそのまま落ちてしまった。
「あらぁ〜、皆さん落ちちゃったのですぅ」
 隼人、セシリア、フィリッパ、ステラ脱落。
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