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空賊よ、さばいばれ

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空賊よ、さばいばれ

リアクション


chapter .8 13時〜16時 


 2階、大広間。
 瓦礫が散らばり、悲惨な光景となっていたこの場所で黒崎 天音(くろさき・あまね)はパートナーのブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)、そして途中から彼らと合流し、協力の姿勢を見せた友人の呼雪、ヌウと4人で「人の一生ゲーム」をしていた。学校や会社に入ったりしながら、ルーレットでコマを進めていくボードゲームだ。
「人生とは、それすなわち砂の城……ふっ、また子どもがひとり増えたか」
「ブルーズ、随分と子沢山だね」
「かぞくがいっぱいなのは、いいことだ」
「黒崎、ボーナスのコマだ。10万Gの紙を3枚くれ」
 4人はサバイバル生活の真っ最中とは思えぬほど、和気藹々と楽しんでいた。そんな彼らを、高崎 悠司(たかさき・ゆうじ)は心なしか、切ない表情で見ていた。
「何だよ……友情か? これが友情ってやつか? いいや信じない、俺は信じないぜ」
 悠司はマジックハンドをカシャカシャ鳴らしながら、体をうまく瓦礫で隠して4人のそばへと近付いた。そして射程範囲までの接近に成功すると、持っていたマジックハンドでブルーズの背中をちょんちょん、と突付く。
「ん……我の背中を突付いたのは誰だ? 天音か?」
「いや、僕じゃないよ。それよりブルーズ、君の番だよ。早くルーレットを回さないと」
「何っ、もう我の番だと? お前らちゃんとやったのか? 適当にしていては、家族が泣くぞ家族が! お前らに家族の重みは分かるまい!」
 よく分からないセリフを漏らしながら、ボードに置いてあった駒を3人に投げ始めるブルーズ。
「ブルーズ……さては、船に乗る前蜜楽酒家で一杯やってきたね?」
 天音の推理通り、ブルーズは昨晩たらふく蜂蜜酒を飲み、ぐでんぐでんに酔っていた。
 悠司がそこまで見抜いていたとは思えないが、集団でいるところを突っついて仲違いさせようという彼の計画において、標的をブルーズに定めたのはこの上ない正解だった。ブルーズは悪酔いしたまま、ヌウに絡み始めた。
「お前か? お前か?」
 ピタピタとお札が書かれた紙の束で、ぺしぺしとヌウの頬を叩くブルーズ。濡れ衣を着せられたヌウは、すっかり困り顔だ。
「ヌウ、やってない。ヌウ、うそつかない」
「いいや、お前に決まっているっ!」
 ブルーズは目を真っ赤にして、ルーレットをドラゴンアーツでヌウに向かって投げつけた。鈍い音がして、ヌウは船外へ飛び出てしまった。
「ヌウ!」
 呼雪の驚く声を聞き、悠司はほれ見ろ、と言わんばかりの顔で小さく呟いた。
「人間なんて、極限状態になれば親友と思ってた相手でも簡単に疑っちまうもんなのさ……」
 まあ、獣人とドラゴニュートのいざこざだったわけだが。しかも友情がどうとかいう問題ではなく、単純にドラゴニュートの一方的な悪酔いのせいである。
「ん……そこに誰かいるね」
 思わず漏れてしまった悠司の殺気に、天音の殺気看破が反応した。天音は気配の方に向かって、ヨーヨーを投げつける。ばきっ、と音がしてヨーヨーは壊れた。ドラゴンアーツを使ったせいか、よほどヨーヨーに負担がかかったのだろう。当然、それを食らった悠司もただでは済まなかった。悠司は鼻血を出しながら、今わの際の言葉を残しぐらりと背中から落ちていった。
「誰かのために120パーセントの力を出せる……それがお前たちの強さか……」
 犯人を倒したことを確認すると、天音は呼雪に謝った。
「すまなかったね、うちののんべえがここまで酔っていなければ……」
 呼雪は首を軽く横に振ると、すっと天音に何かを手渡した。それは、「あんたが大将」と書かれたタスキだった。
「これはヌウが持っていたものだ」
「それを僕に渡すということは……そういうことなのかい?」
「きっと俺とヌウが逆の立場でも、こうしただろうからな」
 ここまで生き残れただけで充分だ。後は友人に全てを託そう。そんな思いをタスキに込め、呼雪はヌウの後を追って飛び降りた。天音はブルーズにタスキをかけると、厳しい口調で言った。
「これは、責任という罰だよ。もうあんなことはしないようにね」
 何という美しい友情劇であろうか。悲しいかな、ブルーズがべろんべろんなためろくに言葉が頭に入っていなかったが。
気を取り直し、ボードゲームを片付け始めた天音は再び何者かの気配を察知した。気配は、ものすごい速さでこちらに向かってきている。
「あれは……」
 天音が見たのは、ボードで突っ込んでくる椿の姿だった。天音というイケメンを発見し、椿は前回の教訓も頭からすっぽり抜けまたもや突進していたのだった。
「そこのイケメン! 番号とアドレスを……って、くせえっ! 酒くせえ!!」
 椿が天音とブルーズに近付いた瞬間、椿は顔をしかめて鼻をつまんだ。言うまでもなく、ブルーズのアルコール臭である。椿はあまりの酒臭さに眩暈を覚えた。目の前がぐらついた彼女は、ボードの操縦が疎かになり、くねくねと蛇行しながらやがて落ちていった。
「イケメンか、我もそろそろ雑誌の表紙になる日が近いな」
「ブルーズ……」
 ヌウ、悠司、呼雪、椿、脱落。



 1階、機関室と医務室、ゴミ置き場を繋ぐ連絡通路。
 ヨサークを閉じ込めた後船内を徘徊していた風天は、段ボール男こと邦彦のパートナー、ネル・マイヤーズ(ねる・まいやーず)と出くわしていた。風天はなぜかホッケーマスクを被っているネルを見て思わずびくっと肩が動いた。そしてネルも、同様の反応を示していた。どういう経緯があったかは知らないが、ケチャップを切ったらしい風天の体は、返り血のごとく赤い液体で濡れていた。
「な、何ですかその恐怖映画に出てきそうな仮面は……」
「そ、そっちこそ何よその百人斬りでもしてきたみたいな格好……」
 互いに引いているふたり。しかしこの直後、さらにふたりはドン引きすることとなる。この背筋も凍るような場面にそぐわない、軽いノリで現れたのは春夏秋冬 真都里(ひととせ・まつり)とパートナーの小豆沢 もなか(あずさわ・もなか)だった。
「なっ、なんだこの危険な空間……!」
真都里はラリっているのか、彼らと出会うなり奇妙な発言ばかりを口にする。
「君は床に伏せていたまえ」
 言われたもなかは、ぽかんと口を開け「何言ってんのこの人」という顔で真都里を見ていた。風天とネルも、似たような目で彼を見ている。しかし真都里はそんなことではめげなかった。
「見ろ! 人を見る目がゴミのようだ!」
 さらに彼は、調子に乗ったのか長ったらしいカタカナの名前を自称し始め、呆れ顔の風天とネルに向かって言い放った。
「私をあまり怒らせない方がいいぞ」
 あ、この子たぶん駄目だ、暑さでやられちゃってるわ。
 そう判断した風天とネルは、真都里を無視することにした。さんざん自己アピールしたにも関わらず最終的に無視されるという仕打ちを受けた真都里を見て、もなかはニヤニヤと薄笑いを浮かべていた。「痛いヤツー」とでも思っているのだろうか。その後もよく分からない言葉を喋り続ける真都里だったが、風天とネルはとっくに相手にしていない。さすがに不憫に思えてきたもなかは、真都里ワールドに付き合ってあげた。
「バル……」
 きいん、と風天とネルが剣を交える音に混ざって最後の方は聞き取れなかったが、もなかが口にしたのは滅びの呪文と称される類のものらしい。
「目が、目があああっ!!!」
 もなかは、言葉と同時に持っていたマヨネーズを真都里の顔面に噴射していた。顔を手で覆いながら真都里は、あっけなく落ちていった。
「……!」
 もなかは予想以上にその行為が気持ちよかったのか、先ほど口にした言葉を連呼しながらマヨネーズをぶんぶん振り回し、走り去っていった。
「……何だったの?」
「何だったんでしょうね」
 残された風天とネルは互いに顔を見合わせ、首を傾げた。一瞬雰囲気が和らいだが、いつまでもそんなどうでもいいことを考えている場合ではないと察したのかふたりは再び武器を交わらせた。
 ここからふたりの真剣な戦いが始まったのだが、あまりに真剣なため笑いどころがなくカットされてしまった。
 後にオンエアーを見たら、風天、ネル、引き分けで共に脱落、とダイジェストで流されていたという。

 通路から走り去っていたもなかは、相変わらず楽しそうにマヨネーズを振り回していた。
 それを目撃し、ギラリと目を光らせたのは桐生 ひな(きりゅう・ひな)だった。ひなは遠当てで自分の持っていたマヨネーズをびゅっと飛ばすと、もなかの顔面にヒットさせた。
「むぐっ!?」
 拍子に、振り回していたマヨネーズが宙に放り出される。それをひなのパートナー、ナリュキ・オジョカン(なりゅき・おじょかん)がジャンピングキャッチした。
「おおー、ナイスキャッチなのですっ」
 すたっ、と着地したナリュキは、もなかのマヨネーズをひなの元へと届ける。もなかのマヨネーズって何だよ、とつっこみたいところではあるが。
「これで満足度もあっぷしたじゃろう? まったく、ひなのマヨネーズに対する執着心はちょっぴり怖いにゃぁ」
「だってだって、この船はこんなにマヨネーズに満ちているのですよっ? このチャンス、逃すわけにはいかないのです!」
 ナリュキからマヨネーズを受け取ったひなは、匂いを嗅ぐとうっとりとした表情を見せた。
「それだけ好きなのに、飲んだりはしないんじゃな……」
「今飲むなんてもったいないことは出来ませんっ! マヨネーズは醤油と合わさってこそ最強なのです! マヨ醤油のため、船内をマヨ尽くしにするのですっ」
 手始めに、とひなはもなかの体にマヨネーズを塗りたくった。そこを、偶然通りかかった七枷 陣(ななかせ・じん)が目撃した。
「な、何やこの白濁……っ! 圧倒的っ……! 圧倒的白濁っ……!」
 陣はテンションが上がり、もなかとひなの間に割って入った。一応陣とひなは知人同士だったのだが、ひなはマヨネーズに、陣はマヨネーズにまみれた女の子に夢中だったためそれどころではなかった。
 奇跡的に陣もマヨネーズを所持していたため、彼は既にべたべたになっているもなかの上からさらにマヨネーズをにゅるにゅるとかけた。
「アンタ……覚悟して来てる人ですよね? 人にマヨネーズをかけるってことは、逆にかけられるかもしれないという危険を常に覚悟して来てる人ってことですよね?」
 すっかり全身マヨネーズとなったもなかは、「もなちゃんはヨサークの正当な耕作者、ヨサークファーマーなのに……」と謎の遺言を遺して空から落ちていった。
「ふう……こんなもんやな」
 陣が額を拭い、立ち上がろうとした時だった。ひなの遠当てが、陣の持っていたマヨネーズを弾き飛ばす。
「っ!?」
 慌てて自分の前方に転がっていったマヨネーズを拾い直し、振り返る陣。ひなは、悠然とマヨネーズを構えそのキャップを外し銃口を陣に向けていた。
「マヨネーズ、持ってるじゃないですかー。私のマヨネーズと、どっちが速いですかね」
 陣は自分のマヨネーズボトルをちらりと見る。内容量を示すメモリがついているマヨネーズ入れの水位――もといマヨ位は、100ミリリットルのところにあった。
「やっぱりか……さっき弾き飛ばされた時はマヨ位が400のとこにあった。4って数はいつも最悪なんや……けどなあ、それ以外はいい数ってことや! 残り100ミリになってしまったけど、最悪の事態は乗り切ったってことや! 数は100だッ、ちくしょうッ!」
 陣が発砲すると同時に、ひなもマヨネーズを撃っていた。互いに連射し合うことで、大量のマヨネーズがふたりの間に飛び散る。そして、案の定というか当然というべきか、中身が少なかった陣の方が終盤押され、マヨネーズに埋まった。
「ふうっ、私のマヨネードランチャーには勝てないのですっ!」
 ひなは散乱したり陣を塗り固めているマヨネーズを回収した後、呼吸困難に陥りかけた陣を窓から放り出した。
 もなか、陣、マヨネーズで窒息という不名誉なニュースと共に脱落。
 なお、知らない方のために説明するとマヨネーズとはサラダや揚げ物などに用いる調味料の一種であり、決して遊び道具ではない。ゆえに、良い子の皆はこのように粗末に扱ってはいけません。
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