天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

ラビリンス・オブ・スティール~鋼魔宮

リアクション公開中!

ラビリンス・オブ・スティール~鋼魔宮

リアクション



SCENE 02

 正門付近では全軍が一体となっていたものの、工場突入後は各メンバーがそれぞれの行動を開始して散らばっており、ためにか苦境の色は濃い。
「情報部、聞こえるか? ヒューマノイドマシンは頭部を完全に破壊すれば停止するようだ。刀を有する者なら、首を刎ね飛ばすのも有効みたいだぜ」
 されど湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)の部隊は味方を励ましつつ、さらには夜住彩蓮に連絡を入れながら前進を続けていた。行く手にはなお数体のマシンがいる。
「待って、味方と分断されてしまったようですわ」
 高嶋 梓(たかしま・あずさ)が長い髪を乱して振り返る。彼女は回復役、かつ司令塔役として戦況を見極め、適度な進言を行っていた。
「右通路からも敵の一隊が急迫してくるようです。事態は急を要します」
 凜とした口調、いくらか古風な言葉使いながら整然と話すのは、若き騎士アルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)だ。彼は右側面の警戒を行っている。大きな盾を構えて敵弾を弾き返した。口径の大きな銃弾らしい、手に伝わる反動が激しい。
「どうしますの? 前進? 後退? それとも右折という選択もありますわ」
 左側面を守るソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)が告げた。かくて四人、前後左右を完璧に守る布陣なのである。
 一年前の、教導団に加わったばかりの頃の亮一であれば、さらなる前進を求めたかもしれなかった。しかし彼はこの一年で様々な作戦に参加し、有機と無謀の違いを学んでいる。
「一旦後退するとしようか。なに、まだ戦いははじまったばかりだ。無茶して退場となったら、面白いものを見逃すかもしれないからな」
 余裕があるうちの後退なのでスムーズだ。功を焦って死地を招くより、作戦全体を見て行動する……これが将たるものの資格である。
 この戦いでは冷静さが求められるであろう。戦いの中己を見失えば、それは味方全体の敗北につながりかねない。水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)もそのことを理解している一人だ。
(「ヒューマノイドマシン……機晶姫とはまた別の技術によるものなのでしょうか。近いものはあるんだろうけど……」)
 武者人形を囮に立てて、睡蓮は距離を取って雷光弾を発射する。雷は激しく明滅を繰り返しながらヒューマノイドマシンの頭部を打ち据え、少なからぬダメージを与えているようだ。また、睡蓮の守護者として鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が盾役を務め、寡黙ながら頼もしき戦士として前線で戦う。
 一度考えたことが思考の水車となり、睡蓮の頭の中で何度も回転を繰り返した。
(「寺院に限らず、シャンバラ地方って、高度な機械化や自動化を進めようとしている節が色んな所にありますね。なんだか、良い意味でも悪い意味でも地球みたい……」)
 そのとき、九頭切丸のソニックブレードが空気を切り裂いた。
「…………」
 一言も言の葉を発さぬものの、九頭切丸は淡々とその使命を全うしている。使命すなわち、前線の維持と睡蓮の護衛である。
「……っと、だめだめ、考え事はあと! 敵は一杯いるんだもの」
 まるで九頭切丸が、我に返れと諭してくれたかのようだ。睡蓮は首を振って自らの迷いをを振り払って戦う。まずはこの戦いを乗り切ろう。思索はそれからだ。

 戦いに見出すものはそれぞれ。戦いに求めるものもまた、それぞれ。
 戦いを修練の場とみなし、求道者の如く一途な戦いぶりを示すのは鬼崎 朔(きざき・さく)らのグループ、その名も『イルミンスール武術部』だ。
 味方の勢いは増し、ついにヒューマノイドマシンを奥部に追いやった。やがて、先だって亮一がたどり着いた三叉路に行き着く。大多数のメンバーはそのまま直進したが、あえて朔は右折を選んだ。
(「武術部として、後輩の稽古にはちょうどいいだろう……それに、塵殺寺院の所行なれば破壊に躊躇はない」)
 寡黙な朔ゆえあからさまに怒気をあらわにすることはないものの、胸の奥にくすぶる炎が静かに熱を帯びていくのが判る。その炎は、復讐の刃となって眼前の敵を貫いた。
 早速現れた一体を突き破り、新手の敵を一瞥して朔は相田 なぶら(あいだ・なぶら)に問う。
「行く手に五体……この戦い、なぶらが単身ならばならどう捌く」
「え? あ、えと……」
 そんな後輩を叱咤するように、さらに一体を破壊して朔は述ぶ。
「この状況、迷いは死を招くぞ。私がすべて討ち果たしてもいいのか」
 温かくも厳しい朔の言葉だ。
「なぶら、どうするんですか。このままじゃ」
 心配になったかフィアナ・コルト(ふぃあな・こると)が声をかけるも、なぶらとて勇者を目指す者、いつまでも迷ってはいない。
「僕なら……足を活かして足を殺す、かな」
 その意味は彼自身が行動で示した。まずは自身の『足を活かす』すなわち中距離から一息で距離を詰め、ヒューマノイドマシンが反応するより速く剣を振り上げ、そして『足を殺す』すなわち、マシンの足部、足回りのローラー部分に一太刀する。しかもそれを繰り返した。たちまち四体の敵は移動困難に陥った。
「さすがであります! ならばスカサハはこれを援護するであります!」
 スカサハ・オイフェウス(すかさは・おいふぇうす)は加速ブースターで追い、戦闘用ドリルにてマシンを鉄屑に変えていくのだった。
「なぶらさん、機転が利きますね。実戦こそ最高の訓練とはよく言ったものです! それでは私も私なりの考えを示しましょう」
 快活なる巨漢、ルイ・フリード(るい・ふりーど)は磊落な気性をその笑みに表しながら、自らも槍にてマシンを貫くのである。
「小回りが利かないヒューマノイドマシンゆえ、近接攻撃には弱いと見ました」
 槍を握る腕は鍛え上げられ、鋼の如く引き締まっており、その技量もまた変幻自在、天下に鳴り響くほどののものであろう。
「このように!」
 ずん、と腹に響く音がした。彼の槍がマシンを貫通したのだ。胴を貫かれたマシンは狂ったように腕を振り回すも、そのまま投げ棄てられ爆発する。