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ラビリンス・オブ・スティール~鋼魔宮

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ラビリンス・オブ・スティール~鋼魔宮

リアクション



SCENE 03

 工場を駆け巡るジェイコブ・ヴォルティ(じぇいこぶ・う゛ぉるてぃ)であったが、セキュリティ設備の多さに少々閉口していた。
「予想を遙かに超えた警戒ぶりだ」
 うかつに足を踏み出すと警報機が鳴る。床が反転して落とし穴の黒い口を開け、天井から催涙ガスが吹きだす。設計者の意地の悪さばかり感じる構造である。だが超感覚を発動している彼は、それらすべてを間一髪のところで感知していた。今も、レーザー射出孔を発見して拳で叩き潰したところである。
「ちっ、なかなか金目のモンがねぇなあ、おい」
 彼の相棒、ユウガ・ミネギシ(ゆうが・みねぎし)は、ジャンクパーツを拾い上げて検分するも、価値がないと判って投げ棄てている。
 ジェイコブとユウガは二人おみで先行調査に赴いていたのである。目標は概略地図の作製と報告だ。
「ある程度地図もできたことだし一旦本隊と合流するか、こうも罠だらけでは進退窮まる」
「でもよう、皆とお行儀良く進んでたんじゃ金にならねえぜ」
「……呆れるほど欲望に正直だな、お前は」
「そう褒めるな」
 半人半獣、それも、雪のように白い虎のユウガは、鋭い牙を剥いてゲラゲラと笑った。まったく褒めたつもりではないのだが、ユウガの底抜けの明るさに、ついジェイコブも釣られ笑いする。
 それにしても、見上げるような大男が二人、こうして並んで笑いあっているというのはどうにも迫力ある光景であろう。味方で良かった、と思う参加者もあるかもしれない。
「俺は金儲けには興味がない。悪いが、戻るぜ」
「おいおいマジかよ。ほら、あの扉くらい越えておこうぜ、お宝があるかもしれねぇし」
 というそばから、もうユウガは正面の鋼鉄扉をビスケットのように粉砕していた。
「おい、また罠かもしれんんぞ!」
「よっしゃあ! お宝発見!」
 ユウガがうれしそうに舌なめずりした。そこには、震えながら短銃を構えている痩せぎすの中年男性がいたのだ。身につけている白衣からして、まず所員とみて相違あるまい。所員は絶叫した。それもそのはずだ。虎の姿をしたユウガが、彼の襟首を捕まえて高く持ちあげたからだ。手にした短銃はポロリと落ちた。
「こらてめぇ、命が惜しかったらなんか金目のもの……」
 というユウガをジェイコブがじろりと見たので、彼は言葉を付け足して続ける。
「金目のもの……か、なにか有力な情報を寄越しやがれ!」

 やはり罠に苦しめられているのが 戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)ら一行である。
 まず、隠密行動を図るという移動方針が上手く行かない。
「迷彩塗装で偽装しても、サーモグラフや匂い感知等、視覚に頼らない認識システムには意味がないようですわね」
 一行の先頭を進んでいたリース・バーロット(りーす・ばーろっと)は、いくらか口惜しそうだった。事実、工場内の警備システムは、警備会社の見本市のごとく多種多様な監視装置に守られていたのである。床にしたところで、体重を感知して落とし穴を開く罠が多数、そればかりではなく、CO2の発生を知見するそ装置もありそうだ。
 このときも彼らは、警報に従って押し寄せてきたヒューマノイドマシンの一隊に包囲されている。
「さて……先に行かせた連中が、こういう障害にひっかかってくれるものと思ったが……優秀な連中だったようだ。随分残していったものだな」
 小次郎は顎に手を当て、冷たい目を四方に巡らせた。
(「また、あのような腹黒いことを……」)
 リースは唇を噛む。小次郎……かつての小次郎は、ずっと素直で真っ正直だった。器用に立ち回ることなどできず損ばかりしていたけれど、愛さずにはいられない魅力があった。ところが数限りない修羅場をくぐり抜け、小次郎が自身に眠っていた将才を飛躍的に伸ばすにつれ、彼に隠されていた冷血なまでに合理的な部分が頭をもたげるようになったのである。ちょうど、シャンバラ教導団団長の金鋭峰がそうであるように。
 今も小次郎は、味方を手駒として利用してなんら恥じることのない発言をしている。
(「あの頃に戻って、とは言いません。でも、あなたが道を踏み外さないよう支えて見せますわ。だって」)
 リースは率先して構えをとり、ヘキサポッド・ウォーカーのギアを前進に入れた。
(「だってあなたは、私の愛する人ですもの。今だって、いつだって、永遠に」)
 そんなリーズの心を知ってか知らずか、小次郎は即座に指揮を行った。
「ヒューマノイドマシン、たかが八機か。この人数ならば敗れることはない。迎撃するぞ! 増援を呼ばれても厄介だ」
「おお! ならば我輩が先鋒をつとめよう!」
 槍を手に大股で前に出るは、頼もしき守護神グスタフ・アドルフ(ぐすたふ・あどるふ)だ。リースを守って最前線の敵を討ち、もしもの場合は即座に逃げなされ、と伝える。
「それにしても不細工な人形ね。援護射撃は任せて! まずは混乱をプレゼント!」
 アンジェラ・クリューガー(あんじぇら・くりゅーがー)が後方から、煙幕ファンデーションを展開する。
「頼むぞ! では殲滅開始だ。遂行までの目標時間、一分!」
 小次郎の号令が轟いた。