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ラビリンス・オブ・スティール~鋼魔宮

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ラビリンス・オブ・スティール~鋼魔宮

リアクション

 SCENE 07

 メイベルを先頭に、四人は鋼鉄の通路をひた走る。
 アルツールをはじめとするメンバーが封じてくれているせいか、暫時、敵影をみることはなかった。
 どれほど走っただろうか。周囲から灯りが減じ始めた。一つの工場プラントとはいえ、このあたりは未完成であり、まだ稼働していないようだ。
(「……だんだん暗くなってきた」)
 シャーロットは不安だった。魔道書として生を受け、現在はメイベルと契約を結ぶ彼女であるが、これまでメイベルの冒険に同行したことはなかった。契約したのが最近という事情もあるものの、本当は暗い場所が苦手という理由が大きい。
(「暗くて冷たい鉄の城……」)
 封印されていたことを思い出し、暗所には潜在的な恐怖を感じてしまう。
 この日は、メイベルの知己(シルミット姉妹)に興味を持って同行したのだが、だんだんシャーロットはそのことを後悔しつつある。
 けれど――シャーロットは最後尾から、メイベルの背中を眺めた。セシリア、フィリッパにも視線を向ける。封印していた自分を救い、そして名前まで与えてくれたメイベル、今日までずっと友達としてわけへだてなく接してくれるセシリアとフィリッパ、彼女たちのために自分だって、何か貢献をしたい、三人を助けたい。その気持ちに偽りはない。だから個人的な恐怖心で怖じ気づくわけにはいかない、とシャーロット自らを奮い立たせた。
 そのとき、メイベルの声がシャーロットを我に返らせた。
「怖がらないで、私です」
 兎のように身を寄せ合っていた二人の少女が、その声に振り向いた。
(「まるで私たちが来るのを待っていたかのようですね」)
 フィリッパは思った。作製途上の工場、その一角に、シルミット姉妹が隠れていたのだ。
「僕もいるよ!」
 セシリアがVサインを作ると、二人とも吸い付くようにして彼女に飛びついた。
「セシリアお姉ちゃん!」
「メイベルお姉ちゃん! フィリッパお姉ちゃんも!」
「いやぁ、なんていうか、お久しぶり」
 やはり子どもに好かれる体質のセシリアだ。イースティア・シルミットとウェスタル・シルミット、その両者を両脇に抱えるような格好となっている。
 かつて、ゴブリン王の支配するダンジョンで彼女たちは出会った。
 そして今、この場所で再会を果たしたのである。
「無事で良かった……まずは脱出しましょう」
 メイベルが呼びかけるが、意外にも二人は首を横に振った。
「だめ、南ちゃんを助けないと!」
「でも……危ないですぅ」
 と制しようとするメイベルにうなずいて見せ、フィリッパが二人の前にしゃがみこんだのである。
「あらあら、二人とも立派ですわね。小山内さんのこと、どうして助けたいのか私に教えてもらえますか」
「だって、友達だもの」
「だもの」
 シルミット姉妹は上気している。メイベルとセシリアにも焦りがあるらしい。シャーロットは途上よりも元気に見えるとはいえ、無理は禁物だ。
(「ここでわたくしが冷静になりませんとね……」)
 もし強引に二人を連れ戻せば一悶着あるだろうし、逆に、二人の言うように小山内南の探索を強行するのも良い考えとは思えない。そこでフィリッパは申し出た。
「残念ながらこの位置は妨害電波が出ているようで、情報拠点の夜住彩蓮さんと連絡が取れません。イースティアさん、ウェスタルさん、一旦本部まで引き返して、お二人がここまでで入手した情報をお伝えしてもらうというのはいかがでしょう? きっと小山内さんの捜索にも効果がありますし、戦っている皆さんにも有益だと思いますわ」
 姉妹は顔を見合わせて、
「フィリッパお姉ちゃんの言う通りにする」
 と同意したのである。
「そうと決まれば話は早い。ほら、特製サンドイッチ、今日も作ってきたよ。コーヒーだってあるんだから。まずはこれを食べて体力を回復、その上で、速やかに本部へ帰還するとしようか」
 セシリアの提案は歓声を持って迎えられたのだった。
(「さすがですね、皆さん」)
 シャーロットは眼を細めた。
(「このような事実の積み重ねで、絆が深まっていくのでしょうね……})