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どきどきっ、オータムパーティー!

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どきどきっ、オータムパーティー!

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3、カラオケボックス 〜ほんわか編〜


 パーティー会場には複数のカラオケボックスが解放されており、そのうちの1つは九条 風天(くじょう・ふうてん)の名で使用されていた。『名も無き道場』で師匠と慕っている宮本 武蔵(みやもと・むさし)がいると聞いた大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は扉の前で身なりを整えコンコンと軽くノックをすると、中からは耳馴染みのある豪快な笑い声がした。
「師匠、こちらでありますか!」
 思わず敬礼をした剛太郎。真面目な性格のため、パーティー会場でもつい規律を気にしているようだ。
「おう、よく来たな! 剛太郎、達者にしてたか?」
「はい! 皆様もお元気そうでなによりであります!」
 剛太郎は風天と白絹 セレナ(しらきぬ・せれな)とは同じ道場に出入りしているため面識はある。大洞 藤右衛門(おおほら・とうえもん)も同じく名も無き道場の面々に声をかけた。……顔見しりに挨拶を済ませたあと改めてボックス内を見回すと、可愛い女の子が多いことに気づいて顔を赤らめる。こ、こんな狭い個室で若いお嬢さんといでいいものだろうか。
「ふぅ、武蔵さんを見張っていなくて良いと気が楽です。剛太郎様、武藤さんが迷惑をかけていませんか?」
「い、いえっ! とんでもないであります!!」
 坂崎 今宵(さかざき・こよい)は丁寧な口調で剛太郎に話しかけたのだが……おへその出ている露出の高い服装のため、剛太郎はどこを見てしゃべればいいものか分らずしきりに照れている。
「もし宜しければ、皆さんも歌っていきません? 大勢で歌った方が楽しいですわ」
 義剣連盟に加入している水心子 緋雨(すいしんし・ひさめ)も風天に挨拶をした後、彼に誘われてパートナーも交えてカラオケを楽しんでいるところだった。
「ふん、こんな騒がしいとこに連れて来んでもいいんじゃがな」
 天津 麻羅(あまつ・まら)は憎まれ口をたたきながらも、演歌をリクエストするなどして楽しんでいる。コーディリア・ブラウン(こーでぃりあ・ぶらうん)は普段目立つことをしない性格なのだが、ここなら女性も多いし素敵な友達ができるかも……と考えていた。自分から声をかける勇気はまだ出ないが、きっかけさえあれば……。
「わたくしも違う学校の方とお話ししてみたいですわ? 剛太郎さん、よろしいでしょ」
 ソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)は緋雨が作ったスペースにすとん、と腰を下ろして武蔵や今宵と自己紹介をしあった。こういうのはやったもん勝ちである! ソフィアはコーディリアを隣に誘い、さっさとその場の空気に溶け込んでいた。
「ソフィアですわ。趣味は武術、よろしくお願いしますわね」
「水心子 緋雨です。素敵な御趣味ね。私は……武器作りの修行をしていますわ。あそこに座っている方が一応師匠ですけど、放任主義ですわね」
「ほほう、それはそれは」
 英霊の藤右衛門は生前は野武士として生きていたこともあり、刀鍛冶と話す機会……しかも可憐なお嬢さんと話す機会を得てうきうきと相槌を打っている。
 ん。
 どうやら、熟練のにおいがするのう。
「そなた、一見年若いが常人とは違った風格。よろしければ話し相手になってもらえんじゃろうか。現世によみがえってから日が浅くてのう。茶飲み友達を探しておったのじゃ」
「わしか……? なんじゃ、こんな場所にじいさんがおるとは」
 麻羅は藤右衛門に話しかけられ、内心それも悪くないかな。と考えている。
 元々はパートナーの知り合いづくりの場についていくのも一興と考えていただけ。緋雨に若い友達ができそうなら放っておこうと思っていたところだ。

 このボックス内のメンバーは、いずれも武芸にある程度の知識経験があるものばかり。一見、武芸とは縁がなさそうなコーディリアも剣の花嫁。刀の知識はそれなりにあるはずだった。
「そうだ姉さま、デュエットしましょうよ!」
「へ? ち、ちょっと待て今宵……」
 場が和んできたころ。今宵がセレナに提案し、珍しくはしゃいだ様子でリモコンで番号を打ち込んでいる。最近の歌など知らないぞ。と、慌てふためき風天に救いを求める。
「ノリで頑張ってください!」
 風天は剛太郎、緋雨と日本刀についての論議で盛り上がっているようだ。アルコールの類は摂取していないのに、顔がほんのり上気している。
 味方がいないではないか!!
「クソ! 見捨てられたか……!」
 くっ、ならば道連れを作るまでよ。
 狐の尻尾をふわりと揺らしてボックス内を見回す……。武蔵はソフィアと会話をしているな。ならばあの大人しそうなおさげの娘か!!
「姉さま、カラオケ初めてですか?」
「ば、馬鹿にするな! 私とて昔のことしか知らないわけではないっ。『でゅえっと』とは多人数で歌う歌謡曲だろう! おい、おぬしも歌うのだ!!」
 ソフィア達の会話を聞きながら静かにジュースを飲んでいたコーディリアは、セレナにビシリと指をさされて硬直している。ストローをくわえたまま固まってしまったのを見て、今宵は気遣うような視線を向けた。
「え、えっと……」
「コ、コーディリア様。姉さまはああ言っていますが……」
 同性の知り合いの少ないコーディリアは、嬉しい反面どうふるまえばいいのかが分からないようだ。おどおどと剛太郎とセリナを交互に見て、三つ編みの先をいじっている。
「ええい、こうなったらヤケよ! ほらほらっ」
「……武藤さんがいないから楽だと思ったのですが。大丈夫ですよ。みんなで歌いますから♪」
「は、はい……ごめんなさい」
 つい癖で謝りながらもボックス内のスタンドマイク前に3人で並ぶと、『友達同士で遊びにきた』という感じがして内心嬉しかった。

〜♪

 流行曲のためコーディリアもサビの部分は歌うことができたが、小さな歌声だったのでマイクを通してもそれほど響きはしなかった。セレナが音程を……本人は大幅に外していないと言い張るが……音程を保つのが苦手だったのは、ある意味コーディリアには良いことだっただろう。
「あー。……そこはかとなくしんどいぞ風天」
「白姉は普段こういう事しませんからねぇ」
「つーかーれーたー」
「もー! 背中に乗っからないでくださいよー」
 どさりと風天近くに腰を下ろし、全体重をかけてもたれかかるセレナ。ちょうど風天は武蔵と緋雨の武器造りへの情熱を聞いているところだった。
「私の目標は、使い手がいて初めて真価を発揮するような武器を作ることですわ。歴史に名を刻む英雄の武器を作ってみたいものです……。武蔵さん、お気持ちが向いたらぜひお声をかけてくださいね」
「あー。美味い飯次第だなぁ。そいつぁ」
 彼女自身は現在銃の使い手なのだが、製作の点ではどんな武器でも、たとえばイコンでも興味があるらしい。緋雨はここに来て間もないため、葦原明倫館以外の学校の話も新鮮に聞いていた。
「自分は銃器の扱いと白兵武器が得意であります。教導団に所属しておりますので!」
「ボクは制服の通り、蒼空学園です。……まあ、袖を通すのは1年ぶりくらいですけどね」
 風天はコーディリアと今宵が仲良さそうに話しているのを見て、普段頑張りすぎている彼女のいい話相手になってくれればと思った。
「よっしゃ、大将。腹も膨れたことだし、俺もいっちょ歌いますぜ!」
「ほどほどにしておいて下さいよ、センセー」
 武蔵は食べカスが激しい浴衣を豪快に叩くと、藤右衛門を誘って何か歌えるものはないかとリクエスト本をめくり始める。まあ、この際だ。童謡でも構わないだろうと適当にのどかな曲を歌っていた。気が向いた麻羅も、2人と一緒に歌声を披露していた。


 カラオケボックスで盛り上がりたいね。と、久世 沙幸(くぜ・さゆき)椎堂 紗月(しどう・さつき)は意気投合し、新入生らしき人を何人か誘ってみることにした。
「わぁ! オルフェ初めてカラオケボックスに入りましたー♪」
 そのうちの1人であるオルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)はボックス内に入ると珍しそうにマイクを手に取り、あ・あ・あ、と声を出してテストをしている。
「この機械は面白い。音声の拡張と記録されている音楽に合わせて歌うことができるのか」
 彼女のパートナーである『ブラックボックス』 アンノーン(ぶらっくぼっくす・あんのーん)はテレビにくっついた機会を調べ、モノクルを持ち上げながら説明書きを注意深く読んでいる。
「……! と、っとと」
 アンノーンが立ちあがった時、彼のだぶだぶとした服の裾を踏んでしまったラスティ・フィリクス(らすてぃ・ふぃりくす)が少しよろめいてしまった。アンノーンはステーンと前にすっ転び、壁にしたたかに頭を打った。
「すまない、よそ見をしていたようだ。……こういう場所に来るのは初めてなのか?」
「いや、すまない。自分も調べるのに夢中になっていた。お察しの通り初心者だ。自分は魔道書のアンノーン、よろしく」
 後ろから沙幸が西尾 桜子(にしお・さくらこ)と皆のドリンクを持って来てくれた。両手がふさがっている彼女たちに礼を言いながらミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)がボックスのドアを抑えている。
「えーっと、まずは自己紹介だな。俺は椎堂 紗月、所属はイルミンスールだ。イルミンマジカルミュージックってのに入っているんで歌は好きだぜ。よろしくな!」
 紗月は明るい声を出して喋りやすい流れを作っている。順番に自己紹介をしていき、桜子の番になると彼女は鞄から菓子パンの入った袋を取り出した。
「……趣味が、パン作りで。……い、1個だけ変なものが入っているんですけど」
「あ、ロシアンルーレットみたいになってるんですね♪」
「オルフェリア様……、桜の花びらが混ざっているようです」
 オルフェリアが尋ねると、コクコクッと桜子がうなずいている。内向的な性格の彼女は喋ることが苦手で無口になりがちだったが、今日は友達を作りたかったのできっかけ作りを頑張っていた。ミリオンはパンの1つを手に取り、パクリと味わいながら食べているようだ。
「んっ! もしかして私のが当たりかなっ。中にマシュマロが入っているよ?」
 どうやら沙幸の菓子パンが当たりだったようだ。桜子がそっと確認すると、パンの中にふわふわした白いものが混ざっている。間違いない。
「……あの、よかったらお友達になって……ほしいの」
 桜子は当たりを引いた人には勇気を持って、友達になって欲しいと話しかけるルールを作っていた。俯きがちにポソポソと喋っていたが、沙幸の耳にはちゃんと届いている。
「勿論だよ! そだ、よかったら一緒にデュエットしよっ♪ アニソンとかどうかな〜、あの魔法少女のアニメ見たことある?」
「え……うん」
「よーっし、盛りあがって行こうぜ!」
 紗月がピュー♪ と指笛を拭くと、歌い始める前にオルフェリア達が拍手を始めた。それを見てアンノーンはやや首をかしげ、手拍子をしているラスティを見て反対側に首をかしげた。
「普通は歌っている時は盛り上げるもの……なのか?」
 テーブルに置いてあったタンバリンを掴み、ラスティの手拍子のタイミングを分析しつつ定期的にシャン、シャン、とタンバリンを叩いている。
「ミリオンもどうですか?」
 オルフェリアは先ほど『もろびとこぞりて』を、桜子と一緒にのびのびとうたっていた。桜子は歌っている時は噛まずに喋れるため、誰かと一緒に歌っている時はリラックスした表情を見せている。
「リクエストして頂ければどんな曲も歌って見せましょう……」
「えーとですねー……」
「……オルフェリア様、……何故敢えての演歌をチョイスするのですか?」
「演歌か。即興で簡単な振り付けをつけても楽しいかもしれんなぁ」
 ラスティの発言にぎょっとしたミリオン。演歌で振りつけって……。しかしあの精霊は実際に沙幸たちの魔法少女とやらの曲に合わせて、何やら揃いの振り付けを披露していた……。
「……変、ですか?」
「わ、判りました。やってみましょう……」
 間違っちゃったでしょうか? という顔を、オルフェリア様にさせる訳には……。ミリオンは腹をくくると歌詞を見ながらたどたどしく歌い、時々ジャンプや手の動きで振り付けらしきものを即興で行った。
 ……冗談だったのだが。
 と、ラスティは思ったのだが面白かったので口に出すのはやめた。いい奴そうじゃないか。
「ま、目立つのはいいことだし、楽しむのもいいことだな。よし、次は……エレーネの驚愕の歌はあるだろうか」
 エレーネの驚愕は同人CDのため、カラオケの中には収録されていなかった。しかしアカペラで歌うこともできるだろう。曲を知っている紗月がタンバリンで、ラスティの歌声に合わせることにした。

〜♪

「……お上手、です」
 桜子は控えめに拍手を送っている。ラスティは桜子に『ありがとう』と礼を言いながら、自身も軽く振り付けを混ぜて踊った。アンノーンは相変わらず一定のリズムでシャン、シャン、とタンバリンを鳴らしていた。
「やっぱラスティは歌うめーな! じゃ次、俺! ノリのいい奴かけるから、知ってる奴いたら一緒に歌おうぜっ」
「あ、この曲しってるよ。ダンスもできるんだもん!」
 紗月の歌に合わせて短いスカートで激しいダンスを披露する沙幸だが、そこは魔法少女。見えそうで見えない鉄壁スカートで問題ナッシング☆
「私も踊るですよ♪」
「オルフェリア様!?」
「……え? 私、も……?」
 オルフェリアは驚愕するミリオンの心中には気づかず、桜子の手を取って沙幸の隣に並んで見よう見まねで踊りはじめた。ラスティはそんなにぎやかな場の空気にふっと表情を緩ませると、自分も参加しようと思い輪の中に飛び込んでいく……。
「盛り上がってるかー!?」
「「「イエーイ!!」」」
 ボックス内は明るい笑い声であふれていた。