天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

どきどきっ、オータムパーティー!

リアクション公開中!

どきどきっ、オータムパーティー!

リアクション


2、ハッチャケステージ


 有志の学生は大きく分けて力仕事の裏方と、食事の準備をする給仕係に分かれている。その中の1人である樹は、ジーナ・フロイライン(じいな・ふろいらいん)から接客の手ほどきを受けているところだ。樹はジーナに渡された胸元が強調された給仕服を着こみ、手鏡を前に笑顔の練習をしている。
「そのお洋服、や〜〜っぱり似合うのです!! こんなに可愛い樹様が女の子を捨てているなんて、ワタシと致しましては見逃せないのです!!」
「樹ちゃん、かわいい〜」
 そう、今回は『女性を意識する訓練』なのだ。練習台に餅こと緒方 章(おがた・あきら)を準備して、お盆の上にジュースを乗せた。
「……お、おのみものはいかがでしょーか?」
「ねーたん、かわいーおー」
 ぱちぱち、と林田 コタロー(はやしだ・こたろう)は手を叩いている。なぜか樹の制服は足もとがスニーカーなのだが、これはヒールに慣れていないせいかもしれない。
「いやはや、緊張しないで、肩の力抜いて、ね。リラックス、リラックス」
「餅! 調子に乗るんじゃないですっ」
「イタァッ!!」
 樹の笑顔はまだひきつっている。リラックスついでに肩を抱き寄せようとした章はジーナに脛をけられて涙目を作った。コタローはなぜ樹がこのような格好をしているか分からないようだが、とりあえず樹を応援している。
「ねーたん、こた、せなかにひっつくお。こたいれば、ないじょーぶれすよ」
 わいわいと騒いでいると、クロスが樹の元に挨拶にきた。クロスは樹の服を見ると、何かを察したようである。
「樹さん。その姿からするとジーナさんに無理矢理着せられたんですね」
「……その通りだ」
「クロス様、どうですっ!?!?」
「カメラを持ってくれば良かったです。そしたら樹さんの可愛らしい姿を写真に収められたのに……残念です」
 すると、コタローはゴソゴソとデジカメを取り出した。章はそれを見て『グッジョブ! コタ君!』と握りこぶしを作る。
「よし、写真撮ろうよ! ねっ」
 今回、彼はジーナから鼻血を拭いて教導団の格を落とすなと念を押されていた。鼻血が出そうになるたびハートの機晶石ペンダントを血管が浮き出るまで握りしめることで惨状を回避している。
「よろしかったら撮影しましょうか?」
 ふらりと通りかかったエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)が気を利かせて申し出ると、コタローは『あい』と素直にデジカメを手渡した。
「うー? おにいたん、ありがとだおー。ねーたんねー、かわいくなるれんしゅうなんだお」
「こ、こら!! コタロー、よそ様に言うんでないっ」
「ねーたん、こわいおー……」
 エースはエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)クマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)を見張ってもらうように頼んだあと、樹・ジーナ・クロスに赤いバラを1輪ずつ手渡した。
「女性はだれしも可愛らしいもの。さ、笑ってください……」
 こういう対応をする人物は……少なくとも、教導団では少ないだろう。シャッターを押そうとすると、樹は真っ赤になって全力で逃げ出してしまった。
「……これは、『合コン』というものか?」
「メシエ、よくそんな単語を!!」
 樹を追いかけるジーナを避けながらメシエ・ヒューヴェリアル(めしえ・ひゅーう゛ぇりある)がぽつりと呟いた言葉に驚きを隠せないエース。彼はクロスと自己紹介をした後、『魔王軍』の説明に向かっていた。
「わーい、パーティパーティ♪ お菓子がどっさりうっれしぃな〜♪」
「クマラ、行方不明にならないで下さいよっ」
 エースはパートナーたちと合流すると、ステージ前に席を確保し転校先の蒼空学園の話をしていた。以前は薔薇の学舎にいたのだが、将来地球に帰ることを考えると東西分裂後は地球とのパイクが太い西側にいた方がいいという結論になったのだ。
「これからも平和な時間が続くといいのですが……少し心配ですね。建国して政治体制的には、より他国の影響下になったという気がするのですが」
「でも、人生に変化はつきものだしね。前向きにとらえて行こう」
 エオリアの表情は緩やかに波打った髪が顔にかかっているせいか……少し暗いものに見えた。エースはそんな彼を気遣ったのかわざと明るい声を出している。
「移り住んでみると蒼学はタシガンより地球文化が濃いね。文化を知るには良い機会だが、何かと試練を感じるよ……」
 メシエは佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)に挨拶をした後、彼からもらったカクテルを堪能していた。地球人に良い感情は持っていないが、全ての文化を否定してはいないようだ。
「ねーねー、オイラむずかしい話は分んないけど始まるみたいだよっ」
 私服がホーリーローブのエースは『魔王』というワードに興味があったらしく、エースは一体どんな奴がコミュニティを運営しているかを確認したい……現れたのはメガネをかけた真面目そうな青年だった。
「魔王軍は常に人材を求めている。優秀か有能かは問題ではない。やる気のある者を求めているのだ!!!」
 無駄に偉そうな態度の青年だが、彼の言う魔王とは『苦難や苦境が訪れても孤高且つ気高く生き抜きたいという』生きざまのことらしい。
「ヒトォォツ! パラミタ全土に響き渡るような活躍をしたい。フタアァッツ! 歴史に名を残す人物となりたい。ミィィッツ!! 新たな魔法理論を開発したい。これらを目指す者がいれば、魔王軍へはいる資格ありだ!!」
「……名前の割に、真面目な集団ですねぇ」
 メイド姿の神代 明日香(かみしろ・あすか)は空いたグラスを片づけながらさりげなく注意を払っていた。もし危険団体だったらスカートの中から魔道銃を取り出す準備もできていたのだが……。
「おねーさんっ、ジュースが欲しいなっ。ミックスで!!」
 ポップコーンを食べているクマラが明日香にドリンクを頼んだ。明日香は飲み物を給仕できなくて暇だったため、気軽に応じてドリンクバーで飲み物の調合をしてくる。
「お待たせいたしましたぁ」
 のんびりとした口調でグレープとオレンジを適当に混ぜたジュースを……色が若干淀んでいるが、至れり尽くせりでどうにかしたソレを渡した。クマラは美味しそうに喉を鳴らして飲んでいる。
「ありがとう、可愛らしいメイドさん。花をどうぞ」
「……このままでは仕事に差し支えるので、少し失礼しますね」
 エースに薔薇を渡された明日香は、その茎を少し折ってメイド服の胸元に飾ることにした。本当はイルミンスールのマントも羽織っていたのだが、会場に来てから脱いでしまった。ジークフリートの演説はまだ続いている。
「無論、これ以外にもあるから一例としてだがな。魔王軍の最終目的はいつか国をなし、自分達の手で安住の地を手に入れることだ!」
「蒼学は地球文化が強かった分、なんだか新鮮だね……」
 メシエは2杯目のカクテルを飲みながら、ジークフリートの演説を聞いているようだ。彼は吸血鬼で政治に詳しいため、東西分断に対し危機感を持っている。
「今なら好きな役職を名乗ることもできる! 我こそはと思うものは是非連絡するべし。以上!!」
「同じ学校でもいろんな人がいますねぇ」
 同学の明日香はエオリアにアイスティーを渡し、メイドと警備の仕事をこなしている。あとでジークフリートにもウーロン茶でも持って行こうか。
 補足するとジークフリートは勇者が相手でなければ負ける気はないという意志の表れで魔王という言葉を使っているようだ。誰かに敗北する時があるとすれば、その相手は心から敬意を払える勇者でありたいと考えているらしい。
「タンバリン借りてきたよ〜♪ シャンシャン♪」
「あっ。クマラ、あちこち行っちゃダメって言ったじゃありませんか」
 こっそりその場を離れたクマラは、カラオケボックスからタンバリンを拝借していた。ローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)のバンド演奏で合いの手を入れたがっている。
「しかしカラオケとは何かね?」
「カラオケっていうのは、歌を楽しむところかな」
「よろしかったらご案内しましょうか?」
 エースはメシエにカラオケの簡単な説明をしたが、彼にはピンと来ていないようだ。それなら、と明日香はボックスの空きを資料検索で確認すると見学だけでもしてみるかと尋ねた。
「んー、オイラ。このバンド終わってからがいいな〜」
 ステージ上では和服姿の上杉 菊(うえすぎ・きく)が楽器の確認を行っている。そうだな、女性のバンドは薔薇学では見る機会がなかったし……こちらを聞いてからカラオケボックスの見学に行こうか。


 ファーをはずして仕立て直した男性用制服を着たルカルカ・ルー(るかるか・るー)が、婚約者の鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)と共に会場へ続く地下への階段をゆっくりと下りている。少し離れて各々のパートナーが談笑しながらそれに続いていた。ただし、カルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)は小型飛空艇の番をするため……と言って会場には足を踏み入れない。
「おーい、ルカルカー!」
 ルカルカたちが会場に着くと、人の間から鈴木 周(すずき・しゅう)が手を振って呼び掛けるのが見えた。その隣には天御柱学院の蒼澄 雪香(あおすみ・せつか)が立っている。どうやらナンパに成功したらしい。
「相変わらず今日もかわいくて胸がでかいなー……と、あれ、真一郎、久しぶりだなー。なんでルカルカと一緒にいるんだ?」
 周はルカルカのほっぺをぷにっとつついたため、驚いた彼女は『ほえっ』と可愛い声を出してしまった。
「それはな……」
「ルカの彼なの。渋くて素敵でしょ?」
 周は2人の関係に驚いた後、雪香の紹介を始めた。彼女は知り合いを増やそうと色々な人に挨拶をしていたが、その緊張している様子が周のツボにはまったらしい。
「女の子の味方の俺としちゃーそういう子は放っておけねーよな。んで、ルカ達ならパートナー連れてそうだし皆でワイワイやろーって思ったのよ」
「蒼澄 雪香です……よろしくお願いします。他校の制服も可愛いですね」
「ありがとっ☆ こちらこそよよしくねっ。戦車も可愛いけど、イコンも可愛いね♪」
 雪香は夏侯 淵(かこう・えん)の袴姿を見てにっこりとほほ笑んでいる。淵は一瞬、彼女が自分に気があるのかと勘違いしかけたが、制服がなくルカのお下がりの袴を着ていたため性別を勘違いされていたことに気付いた。
「俺は男だ……まだ制服がない故」
「まあ、いいじゃねえか。男だって女だって!!」
「よくない!」
 そんな2人のやりとりを大人の表情で見守り、鷹村 弧狼丸(たかむら・ころうまる)を紹介したあと真一郎は会場内の静かな所に移動することにした。彼はにぎやかな場は、眺める方が好みなようだ。それに気づいたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も『失礼』と言って彼の後を追う。
「お、あっちにも可愛い子発見! おーいっ! こっち来いよ!」
 周は王様ゲームをやろうぜ! と張り切っている。大人数の方が楽しいだろうと、艶やかな黒髪を束ねた女子の後姿に声をかけた。振り向いたのは教導団の朝霧 垂(あさぎり・しづり)だ。おぼんに手製のおにぎりを乗せて、食べ物が少なくなっているテーブルに追加をしようとしていたようだ。
「俺か? ……ん、ルカルカもいるのか」
「シャンバラ教導団の方ですか?」
「ああ。朝霧 垂だ、よろしくな」
 赤く染めた男子教導団の上着を珍しそうに眺める雪香にウーロン茶を渡し、垂と雪香は簡単に自己紹介をしあった。ルカルカはジュース瓶をあけようと思ったがせん抜きがなかったため、右手の手刀でビンの上を切断している。
「さ、どーぞ。コロタン☆」
「ありがとう、ルカルカの姉貴」
 弧狼丸は料理目当てで付いてきたので、目についた海老フライやらハンバーグやらを手当たり次第に食い散らかしている。耳やしっぽは本来真一郎以外には触られたくはないのだが、ルカルカなら仕方ないと大人しくしていた。
「弧狼丸さんも、鈴木さんと一緒にゲームをしますか?」
「んー。ブリジット・パウエルに会いに行くから、悪いがゲームは後にしとくぞ」
 雪香がおっとりと尋ねると、弧狼丸は百合園ホワイトキャッツの仲間に挨拶に行くと答えた。彼は満腹になるとうとうとしてきたので、眠ってしまう前にとその場を去った。彼の右手には本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)のカナッペが盛られた皿がある。
「王様ゲ〜……」
「よし、俺が王様だ!!!」
「ええ!?」
 周はおでこにちゅーまではありではないか? 等と妄想しているようで、鼻の下をだらしなく伸ばしていた……のだが、ルールを知ってか知らずか王様は垂になってしまったようだ。ここに王が誕生した。
「王の命令。おまえにこの料理を与えよう……争いなどしてはならぬぞ」
「は、ははー!!」
 周は王の前にひれ伏し、膝をついた状態でノリのまかれたおにぎりを受け取り一気にほおばった。美少女、というよりはカッコイイがにあう垂だが女の子の手料理に飛びつかないわけがない。全部食えよ。
「あ☆」
 垂の料理の腕前を知っているルカルカはアハ☆ と笑ったが、何もせず見守っている。周は信号機のように顔色を変化させたが、最後は痙攣しながら泡を吹いて倒れた。雪香が慌てて駆け寄るが、博識な彼女でも何が原因でそうなっているのか分からない。とりあえず明日香に周を引き渡し、自分も疲れたので裕也に頼んで休むことにした。
「そ、そこ行くお姉さん、胸でかいなー……。タンバリン挟んでいい〜……?」
 柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)にそう声をかけているところをみると、命に別条はないようだった。垂はその後、淵に歌えと命令しステージ上にオラオラと送りこんでいる……淵はやけになってルカルカとデュエットを熱唱した。
 一方、壁際ではソファーに腰掛けた真一郎とダリルが垂にもらった飲み物を片手に何やら話しあっているようだ。ダリルの恋人はしばらく遠方駐在になったらしく、文通で愛を確かめる日々が続いているようだ。
「愛しい存在が近くにいながら、眺めるだけで満足というのは理解不能だな」
 真一郎相手に辛辣な言葉を投げつけるダリル。デジタルビデオカメラで時々会場内の様子を録画していたが、話しかけながら真一郎にピントを合わせた。真一郎は変熊 仮面(へんくま・かめん)が妙なことをしないかそれとなく観察しながら、ミネラルウォーターをのんびりと飲み干した。
「難しい内容ですね。でも、人と同じである必要はないんじゃありませんか?」
「……」
 記憶の中の恋人は鮮明であるが、隣にいない寂しさをそのデータで埋めることはできない。互いを確かめ合うには合えばいいだけなのにそれが出来ない状況が歯がゆくて仕方がなかった。
「写真も撮っていましたね。見せていただけますか」
 ダリルは先ほど、ルカルカに頼まれて雪香や周との写真を携帯電話で撮影していた。携帯を受け取り眺めている表情は穏やかであり、主張は控え目でも恋人への愛情を感じさせる。
「これ……」
「後で送ってやる」
 ありがとうございます。
 ふふ、とほほ笑み真一郎は席を立った。弧狼丸が自分の姿を探して会場内をオロオロとしているのが見えたからだった。
「コロマル」
「兄貴! あっちのカラオケ借りていいって。マイクってアイスクリームみたいな形だな!」
 弧狼丸は先ほどマイクをかじってレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)に怒られてしまったばかりだ。本来、真一郎はにぎやかな場所は眺める方が好みなのだが一応ルカルカ達に聞いてみることにした。
「あなたも行きましょう」
 軽いため息をついたのちダリルも重い腰をあげて真一郎の後ろをついて行った。この場に彼女がいれば……とも思うが、それを態度に出し過ぎても彼女は喜ばないだろう。