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リアクション
第3章 迷子のちびっ子と空白の子 5
セーラー服の鬼のような顔をした男を縛り上げて石像に吊るした後、シェミーたちはようやく魔道書の噂のもとになったであろう少女と目を合わせることができた。わずかに正悟寄りに位置しているのは、見知らぬ人たちに人見知りしているせいか。
それもまあ、仕方のないことだろう。
なにせ、少女でなくとも、その場にいる冒険者たちはそれぞれにお互いを認識するので精いっぱいだったからだ。どうやら、魔道書娘を探していたのはシェミーだけではなかったらしい。いくつかのグループがはち合わせをくらったというわけだ。
幸いなのは……彼らは決して全てが初対面というわけではなかったということだ。それに、少なくとも目的は合致している。無論――その中心が噂の少女であることは言わずもがな。
「うーん、これが噂の娘か。……で、魔道書はどこだ?」
「シェミー、それはいきなりすぎるでしょう……」
いきなり少女に向かって核心を突く質問をするシェミーに、ウィングが呆れかえった。そこからは、ここに来るまでにも繰り返されたように、二人で良い争いが勃発する。もちろん、ウィングは軽くあしらうだけにとどまるのだが。
そんな二人のやりとりに苦笑して、アリアが優しくほほ笑んで少女に話しかけた。
「ねえ、あなたの名前は?」
「……コニレット」
アリアのほほ笑みに警戒心は薄れたのか、コニレットは口を開いた。
「そこまでは俺も聞いたんだ。そんで、なんでここにいるのか聞こうと思ったら……アレだよ」
かわいそうなものでも見るような目で、正悟は石像に吊るされる鬼羅を見上げた。
「おーろーせー、おろせおろせおろせー!」
いまだにごちゃごちゃと何か言っているが、しばらく放置プレイは確定である。
で、それはともかく、だ――名前だけしか分かっていないとあれば、魔道書の少女=コニレットかどうかは分からないのでは……? そんなことを正悟たちは思い始めたが、すぐに、それは杞憂であったと分かった。
なぜなら――
「……持ってるな」
「持って、ますねぇ」
コニレットの着る民族衣装の懐からは、噂の魔道書としか思えない古びた本が顔を見せていた。お互いに顔を見合わせる正悟とアリア。
声を発したのは、どのどちらでもなかった。
「なあ、おまえ、どうしてこんなトコにいたんだ?」
金髪の獣人――楓が、まるで親戚の子供を相手にするかのように、優しげかつ親しみやすく聞いた。しかし、コニレットは口を開こうとするものの、それをすぐに諦めて顔を俯ける。まるで、話して良いものかどうかを探っているようだった。
「……ねえ……えっと、コニレット、ちゃん」
コニレットに、アリアが優しく声をかけた。どこかその様子は、姉妹のそれにも似ていて、アリアの目は柔らかい色を湛えていた。
「私たちみんな、あなたを探してここまで来たんだ」
「あたしは違うけどな」
「黙ってください、シェミー」
余計なことを言うシェミーはウィングがそうそうに取り押さえて、アリアは苦笑いを浮かべながらも先を続けた。
「だからね……頼りになるかどうか分からないけど、何か心配なことがあるなら、話してほしいんだ。大丈夫……みんな、お人よしさんばっかりなんだもの。きっと、あなたの力になれることがあると思う」
最後の言葉は、まるでここにいる全員を信頼しているかのような力強い意志が含まれていた。
「そーいうことっ! 俺たちにできることがあれば、協力するぜ!」
紫音が、ぐっと親指を立てて進言した。それを合図にするかのように、仲間たちはコニレットに頷いて見せる。
「しゃーない……な」
如もぽりぽりと頭をかきながら、呟いた。
こんなにも、多くの人たちが自分のためにここまで来てくれた。その事実の示す意思は、きっとコニレットの心にも届いているはずである。
「さて、じゃあ……よろしく頼むぞ」
シェミーは、コニレットを促した。
一つ頷いて、彼女は自身のことを語り始めた。魔道書――『死者蘇生教典エクターの書』のことを。
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