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未踏の遺跡探索記

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未踏の遺跡探索記
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終章 自称天才歴史学者であるということ

 幸いだったのは……倒壊したのが地下階層に限られていたということであった。
 神殿から脱出したシェミーたちだが、もちろん、そのときにはすでに六黒たちの姿はない。車輪の跡があったところを見ると、スパイクバイクか何かで撤退したのだろうか。
「しかし……派手にやりましたぁね」
 土埃と疲労にまみれて、クド・ストレイフは憔悴の声をあげた。無論――それは誰しもに共通することであり、いまはただ、倒壊から脱出できたことを噛みしめるのみだ。
「迷わず成仏して、もう二度とアンデッドになんてならないでね」
 レナとともに、フリンガーは神殿へと残されたであろう死体たちに祈りを捧げる。土を盛り上げただけの簡易な墓だが、きっとそれでも、死者たちにはせめてもの手向けになるだろう。
「コニレット……」
 コニレットは神殿を見つめながら、地下に押しつぶされたままであろう、もう一人の自分を思う。正悟もいまは、彼女に直接声をかけることははばかられた。
 と、思ったのだが――
「ん?」
 ウィングは、とある少年がにやにやと笑いながら陰で眺めていたものに目をとめた。
「な、なに、何か用?」
「いや……いま、後ろに隠した物は……」
 ビクッと、少年が身体を硬直させた。顔も、どこかやましいことを隠しているかのように強張っており、いかにも怪しさ全開である。
 少年――ニコ・オールドワンド(にこ・おーるどわんど)に、ウィングの手が伸びた。
「あっ、な、なにすんだよ〜」
「これは……っ!」
 いかんせん、いかにももやしっ子といったニコが体力的にウィングに敵うはずもなく、あっけなく彼は背後に隠していた物を奪われてしまった。
 それは、まさしくそれまで自分たちが対峙していた人物の本体――『死者蘇生教典エクターの書』の書面であった。
「どさくさまぎれで持ち帰ろうとするなんて、なんで裏切るような真似をするんですか!」
「は、裏切り? ……くふふ、頭脳プレイって言ってよね」
 なぜか得意げに笑うニコ。
「その本だって、僕と一緒にいたほうが幸せだよ」
「なんて勝手な理論なんですか……」
「ふふん、親切なだけなのにな〜。僕のほうが絶対有効活用できるのに」
 本を奪われて拗ねたように文句を言うニコに、呆れかえるウィングであったが、とにもかくにも本はどうやら無事のようだ。文字を守るかのように周りを包む骨の強化骨格は、どのような理由で装着されているのか分からぬが、少なくとも害のあるものではないらしい。
 軽く力を入れると、すぐにはずれてしまった。もちろん、ウィングはすぐにコニレットに声をかける。
「コニレット、大丈夫です。中身は……シグネットは、ちゃんと無事ですよ」
「…………!」
 驚いた顔で振り返ったコニレットは、すぐにウィングのもとに駆け寄った。コニレットだけでない。もうシグネットは取り残されてしまったと思っていたシェミーたちは、みなウィングのもとに駆け寄ってくる。
「良かった……本当に良かったです……!」
 書面を抱いて、コニレットは力が抜けたように泣き崩れた。
 かけがえのない存在……家族であり、兄弟であり、そしてなにより自分自身であったシグネットが無事だった。その事実が、コニレットに初めて涙というものを与えてくれた。
「でも……あれですね」
「ん、どうした?」
 ふと疑問に思ったウィングが、首をひねった。
「こうして書面だけということは、シグネット自身はどうなったんでしょうか?」
「……そうだな……まあ、多分、神殿にはいないだろう」
 そう切り出したシェミーに、皆の視線が集まった。
「書面はいまコニレットの手元にあるわけだ。破れてしまってはいるが、魔道書としては一体だろう?」
「あー、なるほどね」
 納得いったように、ルカルカがぽんと拳を叩いた。しかし、同時に、アリアが哀しそうな声で呟く。
「でも……すこしだけ、寂しいですね」
 そう――その思いは皆が抱く思いだった。本当の形の戻ったとはいえ、つまりもうシグネットという少女は、この世にいないということに他ならない。あのとき、確かにそこに存在していた彼女は、もういない。
「まあ、だが……きっと彼女は、そこにいるはずだ」
 シェミーが指を指したのは、コニレットだった。いや、正確には……その、胸の中である。
「確かに彼女は存在した。そしていまは、コニレットとともにいる。そう信じようじゃないか。消えたんじゃなく、一緒になったんだとな」
 コニレットは、自分の胸を見つめて、そこに書面とともにそっと触れた。暖かな心の中でシグネットが息づいている。
 そう、思えた。
「ふむ……シェミーも、たまには素敵なことを言うんだな」
 ジークフリートがからかうように笑うと、シェミーは憮然として答えた。
「たまにはは余計だ、たまにはは。歴史はロマンと夢と幻想だぞ。あたしの頭の中は、いつも素敵なことでいっぱいだ」
 シェミーの言葉に、あまりに似合っていなかったせいなのか、笑う仲間たち。その中には、もちろん、コニレットもいる。
「ったく、尊敬の心がない連中だな、まったく……。おおっと、そうだ、コニレット」
「はい?」
「お前の装丁カバーとその書面、あたしのところで預かろう。せっかくだから、きっちり復元してやる」
 シェミーの提案に、真人はすこし不安げな顔になった。勝手な偏見だが……いかんせん、不器用そうな子供――ああ、いや、歴史学者に見えたのだろう。
 恐る恐る、アリアは彼女に尋ねる。
「シェ、シェミーさん、出来るんですか?」
「もちろんだ。あたしを誰だと思ってる? ――“天才”歴史学者シェミー・バズアリーだぞ」
「それとこれとは別問題じゃ……」
「……うるさいわっ!」
 こうして、自称天才歴史学者の護衛は幕を閉じた。
 シグネットはもういないが、きっと、彼女がいなくともコニレットは強く生きていけるはずである。
 かけがえのない友達と、そして――未来を創れる意思も、持っているのだから。

担当マスターより

▼担当マスター

夜光ヤナギ

▼マスターコメント

シナリオにご参加くださった皆さま、お疲れ様でした。夜光ヤナギです。
魔道書と遺跡の謎を巡る冒険劇、いかがだったでしょうか?

当初は色々と別の予定であった魔道書も、表裏一体で二人いますよという結果に。
これもまた、皆さまのアクションの力なのかと、驚いている次第です。

これからコニレット……ならびにシグネットがどうなるのか。
ひとまずはあのちびっ子天才歴史学者のところで復元される予定のようです。
皆さんが見知らぬ魔道書のためにあれだけ親切にしてくれることは、生みの親としてもとても嬉しいことでした。
どうもありがとうございました。

それでは、またお会いできるときを楽しみにしております。
ご参加ありがとうございました。

※12月08日 一部修正を加え、リアクションを再提出しました。