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最後の恋だから……

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最後の恋だから……

リアクション

★1章



「全く……。休暇というものは有意義に使わなくてはな」
 ソルジャーのジェイコブ・バウアー(じぇいこぶ・ばうあー)は、頭を掻きながら溜息混じりに言った。
 この冬のバカンスに自分がいるのは不自然だという思いと、ついつい冷やかしたばかりにせっかくの休みが潰れてしまった喪失感からだ。
「あら。孤島でのバカンスは有意義ですわ」
 ジェイコブのパートナーである剣の花嫁、フィリシア・レイスリー(ふぃりしあ・れいすりー)は、降り積もった雪の感触を足で確かめながら言った。
 フィリシアの顔は、十分に満足気なもので、雪原に反射したスポットライトを浴びる彼女を見れば、ジェイコブはやはり、冷やかさずにはいられなかった。
「そうだな。有意義に、恋人作りでもしてこい。休暇は人を解放的にする――ブホッ!」
 ジェイコブが言い終える前に、フィリシアが雪を固めて投げつけた。
「そうですわね。なら、開放的に童心に戻って雪合戦でも――キャッ!」
 一直線に向かってきた雪玉をフィリシアが寸での所で避けると、2個目の雪玉を弄びながら、ジェイコブは口角を上げた。

「楽しそうに遊んで。ここは俺達も子供に戻って……!」
 ジェイコブ達を見てそう呟いたバトラーの城 紅月(じょう・こうげつ)は、一掻きで雪を掬うと、くるりと後ろを振り返り、パートナーである剣の花嫁のレオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)に、崩れながらの雪玉を投げつけた。
「紅月!? いきなり何です!?」
 身構えずにもろに顔面に直撃を受けたレオンは、顔にパックする雪を払いながら雪の冷たさに渋った。
「だから、子供の頃に戻って遊ぶんだよ!」
 そうやって何度も何度も雪玉を作っては投げつける紅月に、次第にレオンもその気になり、手にした荷物を置いて一心不乱に雪合戦に興じ始めた。
 そのレオンの笑顔を見て、紅月は少しばかり安堵するのだ。
 こうやって友達以上の関係で遊べるのならば、それがいいのだ、と雪玉を固めながら一方的に言葉を込めて投げ込んだ。

「お、雪合戦か。リース、オレ達もやるか?」
「ちゃ、ちゃんと手加減してくれます……ええ!? 悠さんが自発的に」
 荷物をホテルに置き、外に出たアーティフィサーの篠宮 悠(しのみや・ゆう)は、ジェイコブ達の様子を見て、恋人である魔法少女のリース・アルフィン(りーす・あるふぃん)に聞いた。
 が、面倒臭がりの悠が自ら提案するものだから、リースは驚いてしまった。
 機、逸す。
「オレが言うのがそんなおかしいか。これでもな……」
「……これでも?」
 悠は言いかけた言葉を頭の中で反芻すればするほどに、恥ずかしさが増して口を噤んだ。
 いくらリースに上目遣いでその先を促されても、言うわけにはいかなかった。
「ま、散策でもしようぜ。それもバカンスだろ」
 明らかに誤魔化されたが、それでもリースは嬉しかった。
「はい! 悠さんと一緒なら何でもいいです」
 冷えた顔を一瞬で赤く染めるは、リースが悠の腕を掴むという恋人ならではの業だからだった。

「はぁ……」
 白銀の世界とは反対側の、冬の寒さに枯れた大地を誰よりも早く、誰よりも先に歩き、ホテルを後にしていたのは魔法少女の秋葉 つかさ(あきば・つかさ)だった。
 どこを目指すわけでもないつかさだったが、海でも一望できるような場所が理想的だった。
 ホテルから下っては再び登り、ほどなく見晴らしのいい丘に辿り着いた。
 木々もなく、乾いた冷たい風が吹く、見晴らしのいい場所だった。
「打って付けの場所でございますね……」
 白い吐息と共に思いを吐き出した。
 その行く末を自然と目で追うと、1人寝そべる人を見つけた。
 地面を堅いベッドにして、頭の後ろで手を組んで枕としながら寝るのは、ビーストマスターのアキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)だった。
「……俺は邪魔かな?」
 少し腰を持ち上げてブリッジに移行するかのような体勢を作り、つかさに声を掛けた。
「いえ。私の方が後に来たのですから」
 誰よりも早く動いたのは、つかさではなかった。
「1人か? 1人なら一緒にここで一息つけるか?」
 アキラの周りには皿に盛られたビスケットやクッキーの類に、紅茶ポッドまであった。
 つかさの視線がそれらに移ったのをアキラは頭の上で感じていた。
「俺は1人だしな。なら食っちゃ寝、食っちゃ寝するしかないだろ」
 ビスケットをひとつまみ口に放ると、アキラは租借しながらまた空を見上げた。
 冬の風とは違う、暖かさ風が頬を撫でた。
 つかさがアキラの横にちょこっと座ったからだ。

 各々が行動をバカンスのために動き出した頃、ネクロマンサーの北郷 鬱姫(きたごう・うつき)は、気になっていたメモを見るために、カウンターへ足を向けていた。
「鬱姫、どうしたの?」
 鬱姫のパートナーである魔女のパルフェリア・シオット(ぱるふぇりあ・しおっと)が後ろから抱き付きながら聞いた。
「あの案内人さん……どうしてああも私達にペラペラ喋るの」
「それはいろいろ荒らされたくないからじゃないの?」
 鬱姫はどうしてもそれに納得できなかった。
 涼華ほどの人間が、ただ意味もなくあのような言葉を吐くとは思えなかった。
「それはあたいも引っかかってる」
 鬱姫達の元に来たのはソルジャーの狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)だ。
「こんにちは。僕はグレアム。こっちはパートナーの乱世。確かにあの案内人の御婦人はおかしなことを口にしていたね」
 乱世のパートナーである強化人間のグレアム・ギャラガー(ぐれあむ・ぎゃらがー)が、挨拶と一緒に鬱姫と同じ疑問を口にした。
「ええ、おかしい……おかしいの」
 鬱姫はグレアムの言葉に頷きながらメモが書かれているノートを捲った。
 そのノートを他の3人も同時に覗いた。
 が、至って普通のインフォメーションノートだった。
「あ、あれは?」
 カウンターに乗り上げたパルフェリアが見つけたのは、カウンターの裏側の床に無造作に置かれた古ぼけた手記だった。
 それを拾い上げて見るに、どうやら従業員の手記のようだ。
 くたびれた表紙に、赤い染みがついていた。
「ビンゴだ。それに違いないぜ」
 乱世がそう言って手記を手渡すよう促すと、パルフェリアは黙って渡した。
「――ッ!」
「こ、これは……」
 従業員の手記を見た乱世とグレアムの顔が一瞬にして強張ると、手記を閉じて駆け出した。
「ちょ、ちょっと!?」
「読めばわかる! いいか、早くこの事実を知らせるんだ! あたい達は脱出ルートを探してくる」
 鬱姫が止めるのも聞かずに、乱世とグレアムはホテルの外へ駆け出していった。
「何だったの?」
 血相を変えた手記を、続いて鬱姫とパルフェリアが覗き込んだ。
 そこに書かれていたのは、闘病記よりも苦痛の叫びを色濃くした断末と怨念の手記だった。

 ホテルのエントランスに、雪合戦を終えた4人が戻ってきた。
 ジェイコブ達はそのまま部屋に戻るように階上に行き、紅月達は青ざめた顔で手記を落とした鬱姫の元に行き、その手記を拾い上げ見た。
 紅月達もまた顔が青ざめ、階段を一気に駆け上がってその場を後にした。
 ――指に掛かったトリガーを引いてしまった。