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クリスマス硝戦

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クリスマス硝戦

リアクション

 
 一人の青年が祥子の前に割って入り、無光剣の剣圧で振り払った。
 炎を薙ぎ払った剣の切先をゲドーに向けて武神 牙竜(たけがみ・がりゅう)が叫ぶ。
「てめー! 人様の恋路を邪魔するようなことをしやがって! まして、戦いに関係がない者まで攻撃するとは……。颯爽と登場した、パラミタ美少年、田中太郎! こと俺が許しはしねぇぜ!」
 牙竜は後ろで「公開処刑ソング」を熱唱する龍ヶ崎 灯(りゅうがさき・あかり)の演出に合わせて、決め台詞を放った。
「カッコ付けやがって……! テメェェェェみたいな無駄にモテそうな奴が、俺様はイィィィッッッッチバンッ! 嫌いなんだよ!」
 ゲドーは牙竜のヒーロー気取りなところが鼻について仕方ない。しかも女を連れての登場だからなお頭に来た。【愛のリース】の破壊よりも目の前の牙竜を先にブチのめしたくなってきた。
「牙竜がモテる? まあそうね〜、この前だって4人ほど女性を押し倒してるし」
「おっおい、灯! アレは事故だ!」
「脈アリの女の子なんて何人居るんだか」
 牙竜を茶化す灯だが、そんな彼女だって牙竜が気になってストーキングしていたりする。
「俺様はモテた試しがネェェェっていうのに……」
 ゲドーはワナワナと方を震わせ、対峙する牙竜と己の生い立ちの違いに嫉妬の炎を滾らせる。
「オマエだっていつかは出会いがあるかもしれないじゃないか! 俺だって女難で苦労してるんだよ!」
 牙竜は嫉妬で身を焦がしそうなゲドーを宥めにかかるが、かけた言葉は逆効果にしかならなかった。何故なら、女に難があるのは、女性とお近づきになれる男にしか訪れない悩みだからだ。モテないゲドーにとってその悩みは――、
「女難ってのはモテる奴の自慢ダロォオォオオオオオ!」
そうでしかない。
「わ、やぶへび……!」
 灯の言うように正しく藪蛇だった。負のオーラを纏い、ゲドーは別の力に目覚めようとしているようだ。
「今だけでいい、神でも悪魔でも、サンタでもいい、俺に幸福なカップルを不幸にする力をぉぉぉぉ! そして、コイツを倒す力おぉぉぉぉ!!!」
 ゲドーの負のオーラは瘴気へと変わり、強い嫉妬は無数の怨念を呼んだ。
「げっ! ネクロマンサー化しましたよアイツ!」
「説得とは行きそうにもないな。行くぞ灯! 変身だ!」
 牙竜の呼びかけに、魔鎧たる灯が頷き、自らの姿を本来のものへと変える。
「カードインストール、セットアップ!」
「変身!」
 魔鎧が牙竜の体を覆い、彼に正義の力を与える。
「正義のヒーロー、ケンリュウガー! 剛臨! オマエの望むその悪夢の未来を否定する。オマエの望みに明日は来ない!」
 牙竜改めケンリュウガーは鋼鉄の体に光を反射させ、かっこ良くポーズを決めた。
「すごい。ヒーローショウ見たいね」
 ゲドーに狙われているハズの祥子が後方から感嘆した。
「あんた! 突っ立てないで【愛のリース】を持ってどこかに逃げろ! こいつは俺がここで食い止める!」
「そうは行くか! 俺様たちはテメェェェみたいなご当地ヒーローになんざ負けねぇェェンダヨ!」
 祥子はケンリュウガーの言葉に従い、この場から一時離脱しようとした。彼女としてはこの【愛のリース】がどうなるかは別によいのだが、この場に自分がいてはテントにいる人まで被害が及ぶのは避けたい。校庭から離れることにした。
「白熱しそうですし、私は下がります。終わったらお汁粉でも食べに来てください」
 そう言って、祥子は一目散に逃げようとした。
「だから、行かせねェェェっつてんだろォ!」
 翔子に襲いかかろうとするゲドー。それを阻むケンリュウガー。
「オマエの相手は俺だ! オマエ一人が俺を突破することはない!」
 魔鎧を装着したケンリュウガーにゲドーが太刀打ちできるかと言えば、難しいだろう。
 しかし、ゲドーの狙いは一貫していた。それはケンリュウガーに勝つことではない、ケンリュウガーとなった牙竜や灯を含めて、【肯定派】に属するカップルを不幸にする事だ。
「誰が一人と言った……。俺様”たち”をナメんジャネェェェェ!!!」
 ゲドーを取り巻く怨念が呼応し、雪の積もる地中よりアンデットを黄泉がえらせた。狙うは、祥子の持つ【愛のリース】。
「しまった! 避けろ!」
「え?!」
 祥子を後ろから一斉に襲いかかるアンデットたち、骨の腕が腐った口が振り向く彼女に迫り来る。突然過ぎる襲撃に回避行動が間に合わない。
「きゃぁぁぁっ!」
 翔子は咄嗟に【愛のリース】を盾にした。【愛のリース】に内包されていた魔力が発現し、彼女と【愛のリース】を襲う者たちを聖域が阻む。
「【禁猟区】か! 術が掛かっているってことはやっぱりそれが本物か! 【反対派】ァァァ! 教導団軍服を着ているソイツの持っているのを狙えぇぇぇ! ソイツのがホンモノだ!」
 ゲドーは周りに聞こえるように、大声で叫んだ。間も置かずに【反対派】の生徒たちが祥子を目がけて走ってくる。多勢に無勢では彼女も逃げられはしない。
 さあ、どうする?
「それ渡してください!」
 バイクに乗った女の子が片手を出して疾走してくる。祥子はこの子にならと思い、【愛のリース】を彼女に渡した。
 ライダーガール寿 司(ことぶき・つかさ)はリースを受け取ると、祥子に群がるアンデットを【爆炎波】で薙ぎ払った。
「あとは任せて! ほらなつのん!」
 司は機晶バイクに跨る貴宮 夏野(きみや・なつの)にリースを投げ渡した。
「あたしのバイクじゃなつのんの機晶バイクには劣るから、リースをツリーに掛けるのは任せたよ」
 戦友に大役を任せる司。本当は自分もその役割を果たしたいのだが、背の低さにコンプレックスがあり、自分では失敗するのを恐れて渋々諦めた。
 代わりに大役を任された夏野は司よりも背が高く、機晶バイクを操る分適任と思って任せたのだ。
「わかった! 司は援護を頼んだよ!」
 二人はハンドルを絞り、アクセル全開にしてツリーへと駆け抜けた。