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クリスマス硝戦

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クリスマス硝戦

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 さて、本物の【愛のリース】は誰が持っているのかというと、未だイルミンスール魔法学校生徒が持っていた。彼らは、エリザベートに頼まれて、【愛のリース】の搬入を任されていたのだが、校内の廊下にてどうしたものかと思う程に、【愛のリース】確保に燃える【肯定派】と略奪に燃える【反対派】の猛攻に晒されていた。
「これこれ、蒼学生徒の諸君、感心しませんね……!」
 積み上げられた不要な机の上に立ち、クロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は悲しげにアイマスクに指を添えて、群がる両派の生徒たちに告げた。彼の後ろでキラキラと余計な魔法の演出効果が現れる。
「この【愛のリース】はエリザベート校長が諸君『貸す』ものですよ? 云わば、イルミン資産のリース品なのです!」
「そうですぅ! エリザベートちゃんのものは壊すのは許さないですぅ!」
 クロセルと共に【愛のリース】の運搬に着いてきた小さなメイドさん神代 明日香(かみしろ・あすか)も箒(マジカルステッキ)にまたがり浮いて、空中から大声で警告を発した。
「折角ここまで持ってきたのに、諸君がこのような醜い争いをするのであれば、これはイルミンスールに以て帰らなければならいです!」
 薔薇のエフェクトで華麗に決めて魅せるクロセル。ヒーロー気取りの今の彼には足元に群がる生徒たちがステージの観客か悪役の怪人にでも見えているに違いない。
「黙れ三枚目! そこから降りろ!」
「早く【愛のリース】を渡しなさいよ!」
クロセルの足場が揺らぐ。生徒たちが彼の立つ机の足場を崩し始めたからだ。
「おいっ! や、めろ!」
クロセルの注意も虚しく足場が崩れ去り、彼は床の下に落ちた。その拍子に【愛のリース】を手放してしまい、【肯定派】【反対派】の生徒が一斉に群がりも揉みくちゃになって、リースを奪い合い始めた。
「ああ!エリザベートちゃんのリースがぁ!」
 手を出そうとする明日香だが、どちらも人集りに埋もれて【愛のリース】が何処にあるのかわからない。下手に魔法を使えば、大事なリースを破壊しかねなくて困った。クロセルを助ける気はあるのかというと、そんなことは眼中に無い。
 明日香が手を拱いていると、群がる生徒たちが一瞬で八方に吹き飛んだ。
 クロセルがアイテム【闇の闘気】、スキル【龍の波動】と【遠当て】を同時に用いて、周りの生徒達を吹き飛ばした。アイマスクはズレ、ぼさぼさの髪を更にぼさぼさにして、その手には再び【愛のリース】を確保していた。
「誰がぁ! 三枚目だぁああ!」
 そう言われたのが気に入らなかったらしい。
 多くの生徒を吹き飛ばしたとは言え、また沢山の生徒が彼の持つ【愛のリース】を狙って近づいてくる。スキル【神速】を使って逃げようにも狭い廊下では上手くいかないだろう。
「仕方有りません。一旦リースの安全を確保しましょう」
 懐からアイテム【ロケットパンチ】を取り出し、【愛のリース】をその両手に握らせた。
「な、な、なにするですかぁ!」
 クロセルの行動に明日香が慌てる。【ロケットパンチ】で【愛のリース】をどこかに飛ばそうとしているのだから、不安になるのも仕方ない。
「明日香さん、飛んでいって回収してください」
 クロセルは空を飛べる明日香に回収役を任せればどうにかなるだろうと思い、窓に向かって【ロケットパンチ】を撃ち放った。
 鉄の腕に握られた【愛のリース】は窓を割って、そのまま星になるかと思われた。
 が――、校庭から発射された別の何かに撃ち落され、【ロケットパンチ】は空中爆破してしまった。
「ぁああ! リースが! あなたたちの仲間の仕業ですねぇ! 許さないですぅ!」
 リースへの攻撃を見て、明日香が怒髪天を衝くが如く、迫り来る生徒たちを【ブリザード】と【ファイヤーストーム】の嵐にかけた。
 対し、【ロケットパンチ】を壊されたクロセルは怒るでもなく、意外にも平然として明日香に告げた。
「明日香さん。リースなら無事ですよ」
「へぇ? どうしてですかぁ?」
 明日香は攻撃の手を止めて、訊き返す。
「どうやらエリザベート校長が何かしらの魔法を施していたようです。壊れずにどこかに落ちたみたいですよ」
「本当ですか! じゃあ早く回収するですぅ!」
 【愛のリース】の無事を信じ、明日香は急いで割れた窓から外へと飛び出した。
「やれやれ、また危ないことを。良い子の皆、おねーさんの真似したらダメですよッ!」
 誰かに明日香の行動の危険性を教えつつ、内心では【ロケットパンチ】を撃ち落されたことに、誰かの作意を感じていた。猛スピードで飛んでいく物体を撃ち落とすには並大抵の人間には出来ないはずだ。
 砲撃がなされた場所は校庭。ならば、【反対派】の中に高レベルの人物が居るに違いないと、彼の【超感覚】が訴えていた。


 その校庭では――、
「ヒットだ」
 銃剣の付いた大型拳銃の光条兵器を構えから下ろして、国頭 武尊(くにがみ・たける)が報告した。
「見事ね。流石は荒くれ者ぞろいの波羅蜜多実業の生徒かしら。で、破壊はできたの?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は武尊の銃の腕を褒めつつ、【愛のリース】の破壊が成功したのかを問う。それに対し武尊は頭を横に振るった。
「だめだ。ここからじゃ光条兵器の充分な火力を発揮できなかったようだ。【ロケットパンチ】は壊せたが、肝心の【愛のリース】は何かに守られて傷一つ付いてないぜ」
【ロケットパンチ】の弾道を見切った彼女は、リース破壊の失敗に一瞬悔しげな顔をした。
「はにゃ〜ん。恐らくエリザベートの【禁猟区】でしょうね。厄介なのがかかっているわ……。7時の方向に誰か向かって!」
 ルカルカは歴戦の記憶から、【愛のリース】の破壊が困難であることを悟った。しかし、武尊がリースを校内に撃ち落としてくれたお陰で、まだ【反対派】がリースを確保する算段も出てきた。早急に回収しなければならない。
 彼女は【反対派】に置いて司令塔の役割を果たしている。最初纏まりのなかった【反対派】の線に単身で突っ込み、派の一部をねじ伏せた後、ルカルカ自らが【反対派】の防衛の指揮を申し出た。彼女の指示により、人数では劣勢な【反対派】の防衛線は今では強固なものとなりつつある。【肯定派】の猛攻を受けてはいるが、未だにクリスマスツリーへと突破してくるものはいなかった。
 しかし、ルカルカにとってこれは唯の戦争”ごっこ”であり、本物の戦争ではない。シャンバラ教導団に所属し、過去に戦争への出兵を幾度と経験している。
 では、なぜ彼女がここに居るのか。それは彼女がこの戦いに参加する者たちに、『戦争や戦闘のなんたるかを』を教えるために居る。クリスマスイベントの有無はどうでも良く、たまたま【反対派】についただけだ。
「武尊、【隠れ身】での奇襲で防衛の維持を、」
「わかった、君は仲間に指示を頼んだぜ」
 武尊は【光学迷彩】と【隠れ身】を併用し、自らの姿をその場から視覚的に消した。
 ルカルカは更に近場で手の空いている屋良 黎明華(やら・れめか)に指示を下した。
「黎明華も後方から銃撃で応戦して」
「みゅー!!! イチャイチャするカップルは許さないのだ!」
 黎明華はアーミーショットガンを担いで雪壁の影に身を潜めた。
「さて、状況は劣勢だけど、そう簡単には倒されてあげないわよ」
 ルカルカは過去の本当の包囲防衛戦を思い出して、不敵に笑った。


 ところで、武尊に撃ち落とされた。本物の【愛のリース】はと言うと――、
「あら? これはなんでしょう」
 不思議に思い、彼女はそのリースを手にとった。
 【愛のリース】は【肯定派】でも【反対派】でもない中立の人間の手に渡っていた。