First Previous |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
Next Last
リアクション
第4章 エンドロールは早すぎる
無事に外へライル兄妹をアリアが連れ出した頃、ギロンゾは観念したように膝を突いた。しびれ粉が全身に回り思うように動けないだろうが、念のために詩穂の持っていた十手で拘束した。まだ力の残っている蛮族はボスを奪還しようと襲い掛かっては来た。しかし力の差は歴然だった。ギロンゾが捕まり士気が緩んだのもある。
「ライル! 無事なの? どこも怪我してない!?」
「俺は大丈夫だよ。それより姉貴こそ」
「私は大丈夫よ。皆さんが付いていてくれたし」
「全く。お兄ちゃんってば無茶するんだから」
「なんだと!」
大荒野の空の下、ようやく姉妹と再会を果たしたライルは、妹を追い回し笑いあう。
「やっぱり兄弟姉妹は一緒が一番だよ」
そんなライル達を見ながら、嬉しそうにアリアがつぶやく。
「そうだな」
涼介は大きくうなずいた。先ほど姉妹の健康状態を見てみたが、多少の疲れは見えるものの、ケガなどは見当たらなかった。自分にも妹が居るし、やはり漢として捕らわれの少女を放って置く訳には行かない。そんな思いから協力した訳だが、麗しい兄弟愛を見られて、またその一端を担えたことをとても誇りに思う。
少し離れたところで、歩は捕らえられた蛮族や首領たちに声を掛けていた。ふと表情を引き締め、ライルは拳を握り、近寄っていく。エウレカは不安げに弟の名をつぶやいたがライルは足を止めない。
「どうしてあんな事をしたんですか?」
「何度も言わせんな。ここは強さが全てなんだよ。一番平等な生き方だろ? 生き残りたいなら強くなる、奪ってでも生き残る。それだけだ」
「でも――」
「騙されるほうが悪い。何もしらねえで、のこのこやってくる方が馬鹿なんだよ」
「お嬢ちゃんみたいな金持ちには一生わかんねえよ」
誰からも似た答えが返ってくるばかりだった。こちらが歩み寄ろうとしても相手がそれを拒絶している。分かり合いたくても、難しい。歩はそれを“出来ない”とは思いたくなかった。
「お前らっ!」
「確かにな。護衛がグルであることを見抜けなかったのは落ち度であろうね」
殴りかかりそうなライルを遮り、菜織は口を開いた。
「君たちの法でいけば、奪われたのなら奪い返すと言ったところか。奪ったものはいつか奪われる。怯え生き続けるのはさぞ辛いだろう。全てを絶ってしまえば、もう奪われる心配は無いわけだが……それがいいかね?」
「分かった風な口を聞くんじゃねえよ、小娘が」
用心棒の1人が唾を吐いた。話を聞く気は無いようだ。
菜織は刀を構え、思い切り振りかぶる。
「なら、ここで死ねばいい」
「菜織さん!」
彩蓮の制止の声に、振り下ろした刀は鼻先でピタリと止まった。
「どうぞ使って下さい。セイフティは外してあります。敵討ちをしたいと言ってましたよね」
「え……」
彩蓮がAT-47を差し出した。驚いてライルは彩蓮の顔を見詰める。
「あなたが言っていたのは、こういう事ではないんですか?」
「はっ、出来るワケねえだろそんなクソボウズが」
蛮族の一人が吐き捨てた言葉に、燻っていた怒りが燃え上がった。銃へ手を伸ばそうとしたライルを止めたのは他でもない姉妹だった。
「やめて! ライル!」
「お兄ちゃん!」
「でも、こいつら……」
手が震えている。銃を見せられた時に背筋を走ったのは紛れもない恐怖だった。理子たちの戦う姿を見て、真っ先に感じたのは恐れだった。足が竦んだ。
「姉貴とランを……それなのに、オレ、何もできなくって……」
悔しさと安堵にライルは泣き崩れた。こいつらを許せない。でも自分には人を殺せない。そんな勇気は無かった。ちくしょう、と地面を殴るライルを眺めながら、菜織は息を吐いた。
「本当に引き金を引いてたら、どうするつもりだったんです?」
「大丈夫です。あれ、壊れてますから」
美幸の問いに、彩蓮は晴れやかな笑み返した。
「ライル。これ、良かったら持っていきな」
「――これは?」
佐野が折りたたまれた紙をライルへ差し出した。慌てて涙を拭いながら、ライルは咄嗟に受け取る。開いてみるといくつかの名前と数字が並んでいるものと、荒野の地図だった。地図には何本か色分けされた線が引いてある。
「俺が信頼できると思ってる紹介所。で、そっちの地図は比較的安全なルート。ここの護衛なら安心できるはずだぜ。これからは親切にされたり値段が安いからって、すぐに飛びつくなよ」
「あ、ありがとう……」
「帰りが不安なら俺がついてってやるから、安心し――」
「あらー、亮司ってばずいぶん優しいのねー」
「……またこんなことになったら面倒だからってだけだぞ」
「そんなあ、言い訳なんかしなくって良いんだよー? 亮司ちゃん☆」
理子と詩穂にいじられ「もうやめろよ!」と逃げる亮司の表情はサングラスで隠されていたが、耳が僅かに赤くなっている。ライルはそれを見逃さなかった。
離れた所で一抹を見届けていたエッツェルは静かにきびすを返そうとしたところだった。
「あ、あの……!」
エウレカがそれに気付き駆け寄った。エッツェルは僅かに目を丸くした。引き止めたものの、何を言えば良いのだろう。何か言わなければ、と迷っているエウレカの様子に気付き、エッツェルはふっと目を細め慈愛に満ちた笑みを浮かべた。
「あなた達の未来に、光輝(ひかり)多からんことを……」
「え――」
すると背中から翼が生え、エウレカが驚きに目を見開くと瞬く間に飛び去ってしまった。
「お姉ちゃん? どうしたの?」
立ち尽くす姉に気付いて、ランがやってきた。
黒い陰が鳥の様に空の向こうへ、だんだんと小さくなっていく。
「ううん。なんでもないわ――」
天使のような翼ではなかった。異形の翼だ。
それでも恐れなど少しも感じなかった自分に、エウレカは小さな驚きを見つける事になる。
「この砦、何かに使えないかな」
「そうねー……」
忍の提案は理子も考えるところだった。半壊はしているが、直せばまだ砦としての機能は果たせるはずだ。掘りや塀、地下には牢屋もあり捨て置いたり潰してしまうのはおしい。このまま野ざらしにして置けばまた別の蛮族が不法占拠するかも知れない。
「ちょっとイカついけどさ、交番とかに出来たら良いんじゃないかな」
「え〜! 私、ぶっ飛ばそうと思って爆弾いっぱい仕掛けたのに〜!」
手にしているスイッチを見せながら、アスカは残念そうな顔をした。
どか〜んってやりたいのよ〜う理子ピ〜ン!とせがむアスカを忍へ押し付け、理子はある人物を探していた。きょろきょろと辺りを見渡し、目的の人物を見つけると軽く手を降って駆け寄っていく。借りていた剣を衿栖へと差し出す。
「これ、ありがとう。助かったわ。ええっと……」
そこまで来て、理子は彼女の名前を知らないことを思い出した。
「リーズ、ブリストル、クローリー、エディンバラ」
人形が一体ずつ理子に向かってお辞儀をする。もちろん操っているのは彼女だ。
「最後は私。蒼空学園の茅野瀬 衿栖。これからもヨロシクね! 『友達』として」
衿栖は手を出しだす。理子は目を瞬いてから、「こちらこそ!」と笑顔で手を握った。
ライルは理子の背中を前に中々声を掛けられずに居た。姉のエウリカはそんな弟の背中を押し、ランは肘でせかすように突いている。2人を軽く睨み、思い切って息を吸い込んだ。
「あ、あの! 理子――さん、その」
「ん?」
振り返るとライルが俯き気味に口をもごもごさせている。
「あの……ごめん、その、オレのせいで……いろいろ……」
「ああ、あんなの平気平気! 大丈夫よ、気にしないで」
ね? とフェンリルに同意を求める。頷きたくは無いところだが、ここは仕方が無い。渋い顔でフェンリルは首を縦に振った。
「私たちからもお礼を言わせてください。お陰で妹もライルも、積み荷も無事でした」
「ありがとうございました」
「良いんだってば、そんな……ほら、顔上げなって!」
姉妹から深々と頭を下げられ、理子は焦ってしまう。
「それに、私の責務でもあるしね」
「せきむ?」
「シャンバラに住むもの同士、助け合って当然でしょ」
首を傾げたライルへ理子はとびきりの笑顔を向けた。ライルは赤くなった顔を隠すように視線を落とし、頬をかく。
「オレ、分かったよ。何も知らない、世間知ずのガキだったんだって」
「それが分かっただけでも成長した証拠だ。白竜もそう思うだろう?」
ライルの背を叩た朔は近くに居た白竜へ問いかける。また何か刺々しい事を言われるに違いない。ライルは無意識に身構えた。白竜は何も言わなかった。しかしその瞳や口元はどこか優しげだ。
思わぬ朔の台詞と白竜の態度にぱちぱちと瞬きをして、ライルは「そうかな」と呟く。そして照れくさそうに笑って見せたのだった。
First Previous |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
13 |
14 |
15 |
16 |
17 |
18 |
Next Last