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第4章 魔女の破壊の楽しみ

「ふぅ・・・肩の傷も少し癒えたし。そろそろ合流しなきゃね」
 コンジュラーとの戦いで力を使いすぎ、少し休んでいた佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)が仲間を探す。
 その時・・・。
「弥十郎」
 傍らで囁くような少年の声音が聞こえてきた。
「だ、だれ?」
 ビクッと驚きキョロキョロと辺りを見るが、目の前に倒れている魔女の他に誰もいない。
「ふふ。お前の右肩で供に生きてきたのに・・・切ないねぇ」
 正体を知られたくない伊勢 敦(いせ・あつし)は、森の植物の影響で聞こえていると思わせようとする。
「な、なんだと・・・」
 謎の声に思わず右肩の鱗に触れる。
 小さい頃に蛇霊に憑かれた名残で、ずっと消えることはない・・・。
「ふふ」
「でも、あれは爺が・・・は、幻覚だな」
 まるで相手を弄ぶように笑う声音に、あの香りのせいで幻覚に襲われているのだと思ってしまう。
 熊谷 直実(くまがや・なおざね)たちが幻影の餌食になったのを思い出し、簡単に信じてしまった。
「ふふふ。その女の服を使え。きっと何かの役に立つ。それと・・・蓮生によろしく」
 声の主は答えず彼に助言をする。
「全く意味がわからないよ。蓮生ってだれ?」
 誰に・・・とも言わない声に聞くが、謎の声はまったく返事を返さなくなってしまった。
「この子の服・・・何かに使えるかもね」
 その女の服を使えという言葉が気になり、魔女と自分の着ている服と取り替えて変装する。
「騒がれると厄介だからね」
 手近な植物の蔓でぐるぐるに巻き、猿轡と両手を縛り樹に繋ぐ。



「まさかこんな事態になってしまうとは・・・」
 表情には出さないものの、直実は紫煙 葛葉(しえん・くずは)を人質に捕らえられ焦っている。
「(ふむ。1人、2人・・・少なくとも3人はいるな)」
 彼を捕らえた魔女以外にも、どこかに隠れているかもしれないと想定する。
「(弥十郎がこの場にいなくて良かった。あいつなら何かしでかす。ともあれ、へたに動くわけにもな)」
 そう心の中で思い救出する機会を待つことにした。
「(―・・・葛葉が人質にっ)」
 今、彼が攻撃されたら傷口が開いてしまう・・・。
 一刻も早く助けなければと天 黒龍(てぃえん・へいろん)は、何かいい交渉方法がないか考える。
「さっさと帰るって言いなさいよ、マヌケでドジなロンゲのマドロンくん」
「な・・・っ。好きに言いたいだけ言えばいい・・・」
 苛立たせるために、毒舌を吐かれたのだとすぐに分かり、表情を崩さずパートナーを助けることだけに集中する。
「そんな言葉はいらないわ。帰るって言え、マドロン」
「・・・わかった。葛葉の命の方が大事だからな。これ以上お前たちの邪魔はしない。私は葦原島に戻ることにする。代わりに葛葉を返せ」
「ウソついても無駄無駄〜♪ディテクトエビルの反応で分かるんだからね」
 ぷはっと可笑しそうに笑い、別の魔女が彼の敵意を察知する。
「パートナーがそちらの手中にあるのだ。害意が消える方が不自然だろう」
「う〜んそれもそうね」
「(よし・・・そのまま騙されていろ)」
 後もう少しで黒龍を魔女の手から取り戻せると、考え込む相手と交渉を続ける。
「葛葉を返してもらえれば葦原島に戻るが、念のため対策を講じさせてもらう」
「(直実たちを放って・・・戻る・・・だと・・・・・・?)」
 彼の言葉とは思えないセリフだったが、葛葉は自分が交渉の材料にせれてしまったことに、自分の力のなさに苛立ち悔しげにギリリ・・・と歯を噛み締める。
「(いや・・・あの黒龍のことだ。何か・・・、考えがあるはず・・・)」
 何か策があるのだろうと彼を信じて待つ。
「そこのヤツ、何ニヤついてんの?きっもぉ〜」
 ニコニコと見つめる直実に対して魔女が不愉快そうに言う。
 毒舌に動じずゆっくりとトレンチコートを脱ぎ始める。
「何よ・・・何かさらにきもいし」
 いったいどう勘違いされたのか、警戒させるどころかドン引きされてしまう。
「(おっさん、ボロボロに言われているね。まぁいいや、とりあえず人質にされた彼を助けないとね)」
 弥十郎はザッピングスターを降霊し、実践的錯覚で周囲の背景を利用しながら、歴戦の立ち回りでササッと死角へ接近していく。
「敵が近くにいるわ!」
 ディテクトエビルの反応にウィザードが声を上げる。
「(あぁっ、やっぱり気づかれちゃったか)」
「演劇は終わりだ・・・・・・!」
 結果オーライということで、魔女が弥十郎を探して気を取られた隙に、黒龍は葛葉と視線を合わせ大声で鋭く叫ぶ。
「(―・・・黒龍を、・・・皆を守らなければ)」
 対電フィールドを展開する彼の後に続き、葛葉は祈りを捧げアイスプロテクトとファイアプロテクトを展開させる。
「こいつ、人質のくせにっ。―・・・この男の仲間でも来たわけ!?・・・何だコンジュラーか・・・って・・・・・・」
 ロッドで葛葉を殴ろうとしたその時、パキッと枝を踏む音が聞こえ、振り返ると背丈の高い魔女が黒龍の声に驚いている。
「何あいつ、激キモッ!!」
 弥十郎のミニスカ女装にぞっとし不快感マックスの声を上げた。
「えー、何か失礼な子だね。お仕置きしちゃおうかな!」
 ザッピングスターのピンク色の炎を、葛葉の傍にいる魔女の顔の近くギリギリに出現させる。
 彼のメンタルアサルトに驚き混乱した魔女が、地面に尻餅をつく。
「(こちらも少し驚いたが・・・。まったく・・・、予想を裏切らないヤツだ)」
 いつもの表情に戻った直実がトレンチコートを彼女に被せ、視界を奪い草むらの中へ投げ飛ばす。
「誰かこっちに来てーーっ!」
 騒ぎに気づいたコンジュラーが叫び仲間を呼んでしまう。
「まずな。ひとまずこの場を離れなければ」
「では返してもらおうか」
 黒龍がガーゴイルに大声を上げる魔女を石化させる。
「葛葉・・・!!」
「(―・・・・・・黒龍、・・・受け取れ)」
 彼の呼び声に葛葉はよろめきながら立ち上がり、手から光条兵器を出現させ、彼の方へ投げる。
「後で小言を言わせてもらうからな」
「吹っ飛ばしてやるわ!」
 駆けつけたウィザードが黒龍にブリザードを放つ。
 ヒュォオオッ。
「くっ・・・」
 アイスプロテクトでくらうパワーは軽減されているか、猛吹雪に押し戻されそうになってしまう。
「そのまま木にぶつけてあげるわ」
「(黒龍に・・・・・・手出しはさせない)」
 葛葉が魔女の裾を掴み術の妨害をする。
「ちょっとぉお、その手を離してよ!!」
「無理出来る体ではないというのにっ」
「手負いの分際でよくもっ」
 ドフッ。
 怒った魔女がロッドで葛葉の腹を殴りつける。
「(―・・・・・・っ)」
 傷口を殴られた彼は苦痛に顔を歪ませる。
「言う小言が増えたな・・・無茶はするなと言ったはずだ」
 忘却の槍で一瞬ウィザードの記憶を奪い術を封じ、彼女の手に光条兵器を突き立てる。
「きゃぁああっ!」
 相手は悲鳴を上げてロッドを落としてしまい痛む手を押さえる。
「手間のかかるヤツだ。・・・言いたいことは山ほどあるが、無事に逃げ切ったら言ってやるっ」
 足元をふらつかせる葛葉に肩を貸し、弥十郎たちと共に逃げる。
「手負いを連れて逃げられるとでも?」
 仲間の悲鳴を聞きやってきたドルイドが崩落する空を放ち追ってくる。
「このままでは追いつかれてしまう・・・。―・・・葛葉!?手負いのくせに、よさないかっ」
「(・・・それ、が・・・・・・“主”、・・・との・・・最期、の・・・約、束・・・!)」
 黒龍の背を守ろうと彼の命令を無視し、迫り来る光のレーザーの中へ飛び込みライトブレードでドルイドの得物を弾き、もう片方の手を傷つける。
「(せっかく、・・・手当てしてもらったが。傷口が・・・少し開いてしまったようだ・・・・・・っ)」
「どれだけ小言を言わせたいんだ、まったく・・・っ」
 傷の痛みでうずくまる彼を無理やり立たせ、葛葉の手を引き木々の中へ駆け込んでいった。



「魔法から逃げるのがやっとだなんて・・・!」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は崩落する空で傷を負ってしまったカティヤ・セラート(かてぃや・せらーと)を守ろうと、オートバリアとオートガードで防ぐ。
「気絶させようしても、フラワシに阻まれちゃうかもしれないし・・・」
「相手があまり早く動けないからって、油断しちゃったわね・・・。(歌菜、羽純・・・ごめんなさい)」
 2人の足を引っ張ってしまった自分を情けなく思い、カティヤは悔しげに拳を握り震わせる。
「あっははは♪魔法を使って攻撃するのが、こんなに楽しいなんてねっ」
 自分たちよりも格下だと思い込んだドルイドが高笑いをする。
「やばいわね。十天君たちの傍にいるせいか、魔女たちの性格が壊れてきてしまっているわ」
「正気に戻すには、やつらを倒すしかないな。建物に入ろうにも、魔法で邪魔されるし・・・」
 研究所に侵入しようにも魔女に阻まれ、月崎 羽純(つきざき・はすみ)はどう突破すればいいか考え込む。
「ふぅ、やっと研究所につけたね!」
 ティアン・メイ(てぃあん・めい)の案内でたどりつけた霧雨 透乃(きりさめ・とうの)は、早く暴れたそうに魔女たちを見る。
「道案内ありがとう。あ、そういえば中に行くのかな?私たちがあいつらの相手をするから行っていいよ」
「えぇ、じゃあ・・・気をつけてね」
「侵入しようとしているヤツがいるわ。叩きのめしちゃおう♪―・・・ひやぁあっ!?」
 透乃に得物ごと蹴り飛ばされて転んでしまう。
「歌菜ちゃんたちも早く行って」
「ありがとうございます、透乃さん!」
「私たちの研究をこれ以上、台無しにさせるもんですか!」
「追わせませんっ」
 研究所に入っていく4人を狙うウィザードの身体を、緋柱 陽子(ひばしら・ようこ)が凶刃の鎖で締めつける。
「いやぁああ、私こんな趣味ないのにぃいい」
 ギシギシと巻きつく鎖から逃れようとすればするほど、身体に刃がくいこんでいく。
「仲間をいじめるやつは、私たちが許さないわよっ」
「術なんて使わせないよ」
 ドガガガガッ
「(こいつ、本気で・・・)」
 等活地獄で頭部を叩き割ろうとする透乃の拳をロッドでガードする。
「ひっ!」
 行動予測してニコッと微笑む彼女の姿に、顔面を蒼白させ小さく悲鳴を上げる。
 烈火の戦気で頭蓋骨を破壊され、破片がパチパチと燃えながら飛び散る。
「よくも仲間を殺したわねっ」
「他の種族を奴隷のように扱おうとしているあなたたちに、言われたくありませんね・・・」
 眉を吊り上げ怒鳴り散らすウィザードに対して、縛る手を緩めず陽子は冷酷に言い放つ。
「それに・・・仲間の死に怒っている場合じゃないですよ?」
「体が凍っていく!?」
「冷気をかけ続けることで、倒しやすくなりますからね」
 バキィイインッ。
 アルティマ・トゥーレの冷気でターゲットの身体を凍てつかせ粉々に破壊する。
「透乃ちゃん、どこからか邪気が!」
 ディテクトエビルで彼女を狙う何者かの気配を察知する。
「(こいつら以外にも、草陰の中にいるのかな・・・。・・・そこだねっ)」
 不自然に蠢く草むさへ視線を移し、スッと飛び退きかわす。
「ちっ、外したか」
 嵐のフラワシに命令し襲わせようとしたが、簡単に避けられ掠りもしない。
「こんなやつ、ドッカーンってやっちゃえばいいのよ」
 殺す気でくるならこっちもやってやるとドルイドが崩落する空で2人を狙う。
 ガガガガガッ。
 雨のように降り注ぐ光の閃光の土煙のせいで視界が悪くなる。
「うわっ、これじゃあ何も見えないよ!」
「(その中でせいぜい踊っているといいわ♪)」
 ドルイドはじわじわと痛めつけて殺してやろうと口元を笑わせ、光のレーザーの餌食にしようとする。
「イヤな手を使ってくるなんてっ、・・・イッた!」
 魔法防御のおかげで致命傷にはならないものの、肌を刺されたような痛みに襲われる。
「よくも私の透乃ちゃんを・・・」
 恋人を傷つけられた怒りのあまり、膾に叩いてやるとアボミネーションのおぞましい気を発する。
「―・・・・・・っ」
 その恐ろしい殺意にドルイドは慄き、術をまともに使えなくなってしまう。
「ありがとう、陽子ちゃん!」
 土煙から出てきた透乃が相手を地面へ蹴り伏せる。
「フンッ、そんなもの。私たちには効かないわっ」
 マインドシールドで畏怖をガードしているコンジュラーは、灼熱の炎を帯びた焔のフラワシを透乃に纏わりつかせる。
「あつ・・・っ」
「ウフフ、いつまで耐え切れるかしら?」
「このままでは私が仕掛ける前に透乃ちゃんが・・・」
 フラワシを使役するコンジュラーを歴戦の魔術で足元を狙う。
「あらあら、そんなのバレバレよ?この女を助けるために、あんたが仕掛けてくるのを待っていたのよ!凍り付いて死んじゃいなさいよ!!」
 陽子の隙を狙い氷像のフラワシを放ちケタケタと笑う。
「朧さん、お願いします!」
 迫り来るフラワシの行く手をレイスに阻ませる。
「なっ!?」
「死ぬのはあなたたちの方ですっ」
 魔女を歴戦の魔術で転ばせ、草むらに隠れている者たちを神の目で暴き見つける。
 封印解凍した力でアルティマ・トゥーレの身体を貫きそうなほどの冷気を鎖の刃に纏わせ、悲鳴を上げさせる間もなく首を締め上げて引き千切る。
 断面から血が流れ出ず冷たく凍りついている。
「―・・・っ」
 技を使いすぎたのか、立っていられないほどの封印解凍の反動に、陽子は地面に膝をついてしまう。
「外のは一応、片付いたね陽子ちゃん。森の中を見回りしてるやつが来るかもしれないけど・・・」
「透乃ちゃんその火傷は!?」
「まぁ気にしないで、そんなに酷い火傷っていうわけじゃないし。リジェネレーションで少しずつだけど回復してきているから。はぁ〜でもちょっと動きすぎて疲れちゃったかな」
 透乃は彼女の隣に座り、少しだけ休憩する。