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第5章 暴力は耐えず暴言には耐え・・・

「(はぁ・・・昔はこんなことはなかったのに・・・)」
 グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は冷静さを保てず、ロスタイムしてしまったことに猛省する。
「(これから先は・・・、厳しくなっていくだろうしな。それに・・・・・・)」
 幻影が再び襲ってくるかもと思った彼は、また余計なことを思い出し、顔を少し赤らめてしまった。
 襲撃されてしまい隙を狙われでもしたら、パートナーたちも危険な目に遭ってしまう。
「(いろいろとありすぎて、少し気が緩んでしまったかもしれませんね)」
 気を引き締めてソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)は辺りを警戒する。
「くそっ、あの魔女め・・・。ムカツクことをよくもベラベラと・・・っ」
「やっぱり気にしているんですね・・・」
 苛立つ李 ナタをチラリと見て、戯言を気にすることでもないのにと、彼に聞こえないくらいの声音で小さく呟く。
「俺のどこが・・・ガキで、変態の痴漢だっ。最低野朗だとか、散々言いたい放題いいやがって!だいたい誰があんなヤツに手を出すもんか」
「きっと逃げるために、わざと怒らせたんですよ」
「そんなの世界で1人しか・・・」
「1人ってそれは・・・」
「えっ、いや・・・その」
 ソニアに問われナタクは急にごにょごにょした口調になってしまう。
「董天君さんにですか?そんなことをしたら・・・・・・」
「いきなり手出すとかはっ」
「たとえ好きな相手だとしても、嫌われてしまうかもしれませんよ?」
「だよな・・・。って、好きって言われたこともないし。いつもぶん殴られてるけど、嫌いとも・・・いや、そもそも聞いたことねぇし。俺ってもしかして・・・」
 聞くまでもなく嫌われている?と想像し、1人でどんよりと沈む。
「(それとなく・・・好きなタイプとか、董天君さんに聞いてみたほうがよさそうですね。ナタクさんの聞き方次第ですけど、怒ってしまいそうですし)」
 乙女心を理解出来ず失敗するのではと、彼の代わりにそれとなく聞いてみることにした。
「研究所は・・・あの建物のようだな。何だか血の匂いがするが・・・」
 噎せ返るような血の匂いにグレンは顔を顰める。
「この辺りで、見張りの数を調べるか・・・」
 研究所の周りを守っている者の数を知ろうと、人の心、草の心で植物たちに聞く。
「あの建物の周りをうろついている魔女や、十天君を見かけなかったか?」
「いっぱいいたけど〜、いまは見かけてないよぉ。で・・・その後のじゅってんくんって、何かのしゅぞく?」
「聞き方が悪かったな・・・妖怪の女たちのことだ・・・」
「そこに入ったきり、出てきてないみたいだけどぉ〜」
「―・・・ずっと中にいるようだな・・・」
「そんな・・・魔女たちが!」
 ソニアが草陰から建物を見ると、惨殺された死骸が草むらに転がっている。
「誰がこんなことをっ」
「ここからじゃ分からないが・・・」
「まだどこかにいるかもしれねぇし。気をつけて行こうぜ」
 ナタクは屈みながら草陰の中を通り、入り口を目指す。
「透乃ちゃん、そこの草のところ・・・。何か妙じゃない?」
「えぇ・・・誰かいるんでしょうか」
「あっ、あいつら!廃工場で十天君を逃がしたやつらだよっ」
 風に揺られている草木の様子と違う、不自然にガサガサと動くそこを指を指す。
「気配を殺しても、さすがに隠しきれねぇか」
 ナタクは舌打ちをしパートナーたちと研究所へ駆け込んでいく。
「早く追いかけましょう、透乃ちゃん。―・・・・・・っ」
「まだ技の反動で動けないみたいだね。無理しないで少し休んでよ」
「でも・・・」
「中に他の生徒だっているんだから、そっちは任せようよ」
 無茶しようとする陽子を止め、入り口の近くにぺたんっと座る。



「ラスコットさんとヘルドさんって、どんな関係だったのかしら・・・・・・」
 研究所の前に戻ってきた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は似た雰囲気の2人が、どういう関係なのか気になり考え込む。
「彼が言ってたプレゼントって・・・・・・何なの?」
 残してきたという置き土産が、いったい何なのか・・・。
「でもベアトリーチェには、まだ言わないほうがいいわよね」
 気になるあまり魔女たちの反撃をくらってしまうかもと黙っておくことにした。
「とりあえず合流しなきゃね」
 携帯でベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)に連絡する。
「ねぇ、どの辺りにいるの?」
「美羽さんですね。魔道具を製造しているラボの中にいます!」
「今から行くね。―・・・って、プレートの破損が酷くって、分かりづらいわね・・・」
 すでに侵入している者たちが破壊を始めているため、研究所内を走り回り3人の居場所を探す。
「(あの人でもお酉になってもらいましょうか)」
 王天君がいる場所へ行こうと高月 玄秀(たかつき・げんしゅう)は、研究所内を守る魔女たちにサンダーブラストを放ち、彼女の傍を通り過ぎていく。
「私たちに攻撃してくるなんて、あのガキいい度胸してんじゃん。きっとあの小娘もクソガキの仲間に違いないわ!」
 逃げた彼ではなく美羽に怒りを向けてターゲットにする。
「えっ、どうして私が!?」
 魔女たちに囲まれ、ぎょっとした顔をする。
「お願いベアトリーチェ、こっちに来て!」
 さすがに1人じゃ捕縛出来ないと思い、慌ててパートナーに連絡した。
「そんな・・・美羽さんっ。場所を言ってくれませんと・・・」
「う〜ん、ドアのとこにかかっているプレートが壊れちゃっているし。これといって特徴ないから分からないのよ。私1人じゃ何人も相手しきれないわ、早く来て!!」
「―・・・あ、電話が切れちゃいましたね。ずいぶんと切羽詰まった状況みたいですし、探したほうがよさそうですね」
「リボンのお嬢はんにしては、ずいぶんとあっさり囲まれた感じやなぁ」
「そうですね・・・何か妙な感じがしますが。今は考えている暇はありません、急ぎましょう!」
 魔道具開発室から出たベアトリーチェたちは真っ暗な廊下を走り美羽を探す。
「何だか騒ぎ声が聞こえますね、こっちでしょうか?」
 彼女は通路の角を曲がり、柱の傍から覗き見ると迫る焔のフラワシをパートナーが必死にかわしている。
 反撃の隙がなく避けるだけで精一杯な状況だ。
「美羽さん、今助けます!」
 炎の聖霊を呼び出しパートナーをフラワシから守り、彼女の傍へ駆け寄る。
「ありがとう、ベアトリーチェ!」
「これだけ頭に血が登ってしまうと、捕縛しづらいでしょうけど。―・・・殺さないでくださいね?」
「不殺で捕縛なんか。うちはかまいまへんけど・・・雪吾はん、ちゃんと話聞きなはった?」
「さぁな?」
「あの・・・魔法学校に連れ帰って、反省してもらいたいので。お願いします・・・」
 ツンとした態度で言う少年に、殺してしまわないようにベアトリーチェが丁寧にお願いする。
「―・・・期待はしないでくださいね」
「どつくくらいはしゃーないしなぁ〜」
 礼青はヘラッと笑い嵐のフラワシをかわし、魔女の懐に飛び込み鞘で腹部を殴りつける。
「げは・・・ごほっ」
 コンジュラーはたまらず噎せ返り床へ転ぶ。
「吹雪に飛ばされて、柱にでも頭をぶつけちゃいなっ」
 眉を吊り上げて怒った魔女が美羽たちにブリザードを放つ。
「ロッドを奪っちゃえば、威力が落ちちゃいそうね?」
 バーストダッシュの加速で向かい風の中を突っ込み、ロッドをカァンッと蹴り飛ばす。
「フンッ、なくても術は使えるわよ」
「動ければ・・・ですけどね」
 魔法さえ使えれば負けないと思っている魔女に、雪吾はルガータイプの黒い銃を向け片腕を撃ち抜く。
「やれやれ、外してしまいましたか。次ぎは暴言しか吐けない頭の風通しでもよくしてあげましょうか。ただの空洞でしょうし、死にはしないでしょう?」
「ひぎゃあぁ、熱い!!―・・・・・・ひっ、やめて・・・っ」
 銃口を頭部に突きつけられた彼女は、焼け付くような痛みだけではすまされないと悲鳴を上げる。
「んのガキッ、魔女を侮辱するなんてギタギタにしてやるっ」
「動いたら撃ちますよ?オレに仕掛ける前に、確実に誰かの胴体が吹っ飛びますが。それでもよろしければどうぞ」
「(こいつ・・・ただの脅しじゃないわっ。本気で私たちを!!)」
 美羽たちと違い1ミリでも動けば殺すという殺気に、彼女たちは動けなくなってしまう。
「なっ、何で・・・このガキが何もしてないのにっ」
 いつの間にか謎の傷を負った魔女が床に突っ伏す。
「ちょっとだけ眠ってくださいね」
 ベアトリーチェは美羽と一緒にヒプノシスで彼女たちを眠らせる。
「怯ませてくれたおかげで、エンドゲームを仕掛けやすかったわ」
「このタイプで胴体なんて簡単に吹っ飛ばないんですが。騙されやすいんでしょうかね」
「44口径って結構危ないんちゃう?」
「当たりたくなければ避ければいい」
「鬼やなぁ・・・」
「殺さないようにお願いしましたから、致命傷になる背骨とか狙わないと思いますし」
 眠っている魔女をロープで縛りながら、たぶん・・・とベアトリーチェは心の中で付け足した。