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第7章 貸し借りも情の内

「うぇえん、迷子になっちゃったぞ・・・」
 ミナ・インバース(みな・いんばーす)はイナのところへ行こうと、イルミンスールの森に入ったが・・・。
「匂いをたどろうにも、変な匂いのせいで嗅ぎ分けられないし」
 森に漂う迷い人の心を惑わす香りのせいで、パートナーの匂いも分からない。
「ていうかどんだけ歩けばつくわけ?」
 超感覚でも気配を感じられず、非常食を齧りながらとぼとぼと歩く。
 広大な森相手にそれだけでたどりつけるほど、甘くはないのだ。
「彷徨ったままだと、ああゆうふうになるってことだよな」
 生き物の死骸に集るカラスの群れを見て、ぶるぶるっと身震いをする。
「ふぎゃぁああ!?」
 レリウスに尻尾を踏まれ大声を上げる。
「あぁ、すみません。ただの毛の塊だと思っていたので・・・。あなたも十天君の研究所に行くんですか?」
「そうだけど・・・」
「何かデカイのがいると思ったら、獣人かー。入れるほど入り口が広いとは思えないが・・・」
 通りがかったマーリンがミナを見上げて言う。
「イナの匂いも気配もしないから。こっちの方が探しやすいかな、と思ったんだけど仕方ないか」
 ミナは狼の形体から人型になる。
「この森は慣れているヤツでも、けっこう厳しいからな。それにどこも同じように見えるだろ?他校生ならなおさらキツイんだぜ」
「むむ・・・。そうだな・・・」
 迷わないように彼の後をてくてくとついていく。
「歩きづらいし、徒歩って結構かかるんだねぇ」
 縁は袖で額の汗を拭いため息をつく。
「うっ、何か凄く嫌な匂いがするぞ!うぇっ」
 鼻をツンと刺激するような硫黄の匂いにミナが噎せ返る。
「ゴーストかな・・・」
 声を潜めグリントライフルを構えた縁がスコープを覗く。
「―・・・何・・・この白い霧・・・」
「皐月、吸わないように鼻と口を塞いで!」
「それじゃ息が出来ないよ、縁っ」
「つべこべ言わずに我慢して!」
「目印は・・・あれか。こっちだ、急げっ」
「皆も、この白い霧を吸わないでよ」
 そう言うと縁は袖で口と鼻を塞ぎ、マーリンの案内で走る。
「これも森特有のものですか?」
「ううん、これはゴーストの心臓から噴出す酸なんだよ」
 レリウスの問いに縁が答える。
「(息を我慢しながら走っていると、こっちが先にダウンしてやられちゃうね・・・)」
 彼女は足を止めてライフルを構える。
「皆、先に行って!皐月はディクトエビルでやつらの居場所を探知して」
「すまないな、縁・・・」
 マーリンたちは2人を残して研究所へ向かって走る。
「茂みの中に数体いるよ」
「りょーかいっ」
 彼女が指差す方向に照準を合わせ、クロスファイアの十字砲火で頭部を撃ち抜く。
 頭蓋骨を吹っ飛ばされたヒューマノイド・ドールは、破片だけでズズズ・・・と蠢きべちゃりとひっつき再生を始める。
「げっ、最悪・・・。あまり何発も撃つわけにもいかないからねぇ」
 ファイアヒールの銃弾でゴーストの身体を蜂の巣にする。
「まだ再生するよ、縁。バニッシュでも、すぐに細胞同士がくっついて治っちゃう・・・」
「厄介だね、何とか引き離さなきゃ・・・。うっ、げほっ」
 心臓の裂け目から亡者たちが強酸を噴出し吸ってしまう。
 焼けつくほどにはならなかったが、喉の奥がピリピリと痛む。
「軽症だから清浄化で治せたけど、あまり無理しないでね」
「分かっているって、皐月。こんなやつら、長時間相手にしてられないからね」
「うん・・・SPを消耗し続けるだけだし・・・」
 ブリザードで酸ごとゴーストを吹き飛ばし、縁と共に仲間の元へ走っていく。



「はぁ〜、やっとついたな」
 研究所にたどり着いたマーリンは中へ駆け込んでいく。
「それにしても・・・あの死体。真言が見たらぶっ倒れそうだぜ」
 無残に惨殺された外の亡骸を見た彼は、彼女には絶対見せられないな・・・というふうに言う。
「ていうか、どこにいるんだ?ヘタに携帯鳴らすと、音で魔女に気づかれちまうし」
 ディクトエビルで魔女の敵意に気をつけながら進む。
「どうしてこんな殺伐したところにいるんだ、イナ姉〜っ」
 外の死体を見たミナはイナ・インバース(いな・いんばーす)が心配になり、必死に探し歩く。
 彼女の心配を他所にイナは研究所の中の一室を改造している。
「少し静かになってきましたね。何人か生徒が外に出て行ったんでしょうか?」
 道具を片付けて床をモップで拭いていると、だんだんと建物内が静かになっていく。
「むぅ〜このままじゃ、火薬の匂いとかで鼻が麻痺してきちゃうぞ」
「その声はミナ?」
「イナ姉〜っ、やっと会えたーっ!!」
 ミナは大泣きして、ぐわしっとイナに抱きつく。
「ねぇ、ミナ。怪我人がいたら救護室に連れきてくれない?」
「あぁー・・・うん。分かった」
 負傷者どころか死体が転がっているとは、イナには言わないでおこうと部屋から出る。



 研究所を破壊しようとレリウスは、グラキエスと相談する。
「まだ、何人か人がいそうですね。皆さんが出てきてから、外側から破壊しますか?」
「データを持ち出そうとする者たちがいそうだ。俺たちは裏側で待機しておこう」
 壁でも破壊して無理やり裏から出て来ないか、低く屈み建物の裏側へ回る。
「ハイラルと俺は表の方ですね。生徒さんが2人待機していますし、何とかなるでしょう」
 派手に破壊しすぎて生き埋めにしないように、生徒たちが出てくるのを待つ。
「私たちは十天君と戦う方を選ぼうかしら。行くるまで時間かかってしまったから、いるかどうかわからないけど」
 刹那はパートナーと共に建物内へ入っていく。
 先に侵入した歌菜たちの方は・・・。
「どうしたのかしら、人の数が減ってきたわね・・・」
「カティヤ、傷を見せろ」
「ありがとう、羽純」
「完全に痛みがひいたわけじゃないし、傷口も塞ぎきれたわけじゃないから。あまり派手に動くなよ」
 彼女が崩落する空で受けた傷をヒールで治してやる。
「そういう羽純も怪我しているじゃないの」
 天使の救急箱で彼の傷の手当てをしてやる。
「これで貸し借りなしだな」
「貸し借りなし?羽純、忘れてないかしら」
「何を・・・」
「私は幻影から貴方を助けてあげてるんだから、貸し1よ。ウフフ」
「―・・・性格悪いな、お前」
 ムッとしてそう言いながらも、借りは直ぐに返すさ・・・と、床から立ち上がる。