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カラーゴーレムゲーム

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《10・忙しい時に限って、やることが増えて不測の事態も発生する》

 いつの間にか制限時間も、残り1時間にまでなっていた。
 だというのにエールヴァント・フォルケン(えーるう゛ぁんと・ふぉるけん)アルフ・シュライア(あるふ・しゅらいあ)は核をひとつも壊しておらず。集めてもいなかった。
 その理由は、ふたりはべつにゲームの優勝が目的ではないからである。
 ではなにが目的かというのは、ふたりが手にしているデジカメとデジタルビデオカメラにこそあった。
 ふたりは一連の生徒達の動きを撮影し、今回のゲームのアーカイブを作ろうと考えているのである。攻略方法などを情報科所属として是非とも記録に残したい、という意思からはじめたことだった。
 そのためには壁をよじのぼったり、小型飛空艇に乗ったり、時にゴーレムに襲われたりしながらも参加者の邪魔にならない位置取りを心がけながら実況・解説を行いつづけていた。
 今も迷路の壁の上に陣取って、各戦闘を見守っている。
「そろそろこのゲームも追い込みだね。でもむしろここからが本番だ、気をひきしめていこう」
「ああ。りょーかいだぜ」
 そして、ふたりのカメラが捉えたのはレオンハルト、ルカルカ、ダリルたちの三名。
「おっとここでチーム『雪月花』。おもむろに黒のゴーレムに攻撃を加えていきました。まだ機能停止には時間があるというのに、一体どうするつもりなのでしょうか?」
 エールヴァントの実況が示すとおり、彼らは揃って黒ゴーレムに対し攻撃している。もちろん相手はケロリとして逆に攻撃してこようとするが、そこからは一転して逃げに走り出す。
 つかず離れずの距離を保ちつつ三人は、また別の黒ゴーレムへ攻撃を見つけては攻撃してまた逃げてを繰り返している。
「これはどうやら、いまのうちに黒のゴーレムを引きつけておく作戦のようです。他チームに先んじておくのは良いことですが。いまのうちから相手を続けて、体力が持つか否かが、非常に気にかかるところです」
 解説に熱くなるエールヴァントだが、ふと隣のアルフを見れば。
 カメラの方向が明らかにルカルカばっかり映しているような気がした。
 が、それを注意するより前に別の方角で爆音が轟き。ふたりのカメラはそちらを向く。
「おっと! あちらで戦闘が起こった模様です」
 ズームしていくと戦っているのはレキたちで、青色と黄色のゴーレムと対峙していた。
 そいつらはレキが殺気看破、チムチムとカムイがトレジャーセンスを根気良く使いつづけたすえに見つけ出した相手であり。逃がすまいとしているレキたち。
「レキ選手とチムチム選手が黄色、ミア選手とカムイ選手が青色と向かい合う格好になりました。互いの足りないところを補う。これこそ、チームワークの形と言えるでしょう」
 今更だが、エールヴァントたちは出場した生徒たちの名前を既に把握している。
 事前に博士へ事情を説明して許可を得たのである。もちろん個人情報にひっかからない名前程度の情報しか教えられてはいないのでご安心を。
「いくよ!」「了解アル! チムチム、役に立つアル」
「いきなりチムチム選手が前に出ました! いやしかしこれはフェイントです。本命はレキ選手。相手が拳を振り回してきたのを見て、黄昏の星輝銃を構えました。そこからサイドワインダーでの狙撃。黄色ゴーレムはあえなく崩れ落ちました!」
 そしてカメラはもう一方のふたりへと向く。
「わらわに逆らおうとは愚かな。身の程を知るのじゃな」「サポートは僕に任せてください」
「ミア選手、いきなり凍てつく炎による先制攻撃。おっとしかしここはゴーレムも後ろにさがって攻撃をかわした。しかしその間、カムイ選手がSPルージュでミア選手のSPを回復させます。完全回復したミア選手、今度は広範囲に及ぶファイアストーム! 隣で倒れていた青ゴーレムも巻き込んで、一気に敵を殲滅させました!」
 と、解説に熱が入るエールヴァントだったが。
 突然音声をOFFにして、アルフに近寄って。
「ゴーレム攻略が中心だって事、良く判っているかな、アルフ?」
 穏やかな表情だけど目が笑っていない注意。
 今回映していたレキたちは、特にかわいいところぞろいなので明らかに女の子ばかり映しているのがバレバレになっていたようだ。
「あ、いや、こっちがメインだってちゃんと解ってるぜ?」
 あせりながら、すぐにゴーレムのほうを映すが。
 もうとっくに核は破壊し終わって、レキたちももうどこかへ移動していた。
 が、代わりに近くの通路にいたべつの人物たちを見つけ出した。エールヴァントも気がついて、カメラをアップにさせる。
「おや? あれはチーム【カイゼレグ】の面々です。しかしどうしたのでしょう。レナ選手が、ヴァルナ選手や幻舟選手にグレーターヒールをかけています……これはどうやら、さきほどのファイアーストームの余波が、飛行していた彼女たちへ届いてしまったようですね。ここへきてこのタイムロスは、やや痛いか!?」

 そして。
 残り少ない時間を生徒達は残った気力で戦っていく。
「みんな! あっちに行ったほうが、きっといいことあるよ!」
 倒すゴーレムが見つからない【和輝と愉快な仲間たち】は、美羽の幸運を呼ぶと言われるおしゃべりティーカップパンダを先頭に探し回り。ようやく茶色のゴーレムを発見し。
 先手必勝とばかりに等活地獄を使う和と、美羽のハイキックが見事に同時にヒット。
 さらに追い討ちをかけるように鴉の罪と死、渚のスプレーショットの攻撃が命中。
 ゴーレムは動かなくなり、核も手に入れた一同だが。どことなく顔色が険しい。回復もこまめに行なっている彼らだが、やはりそろそろ疲れがどうしても見え隠れしているようだった。

 別の一角で、大久保泰輔もかなり息切れしながら追われていた。
 黒ゴーレムを三体、白を二体もひきつれて、どうにか15分前まで粘って核を回収しようと目論んでいるが。
 単身でここまで戦い抜いてきた疲労は、ピークに達しようとしていた。
「はぁ、はぁ……あと、5分……」
 モニターを確認すれば、開始から4時間と40分。
 彼にとってはとてつもなく長く感じられる5分間だと言えた。

 さきほどから同様に黒をおびきよせていたチーム『雪月花』は。
 敵の黒四体と、寄ってきた白一体を一箇所にまとめ。そこをダリルがヒプノシスと、サンダークラップを周囲に放ち。簡易性の壁をつくり他者が入れないようにしておく。
 さらに15分まであと30秒となったところで、
 レオンはランドセル、ウエストポートを放り投げ。ルカとタイミングを合わせ即天去私を使って全部纏めて一気に破壊しておいた。
「獅子に敗北の二文字は無い」
 彼のつぶやきを聞きながら、ダリルはダッシュローラーで敵集団へ近づき。
 確保しておいた核を光条剣で破壊させる。
 すると色が変化したゴーレムが一体だけいて、色は黄色に変わっていた。
 それを確認後。ルカルカがコピーだけを抱えて離脱し、その際に破壊してこぼれ出た核はレオンへと渡しておいた。
 そしてついに時間は残り15分となった。
 直後、黒ゴーレムから飛び出してきた核はダリルのサンダークラップ。そしてルカルカの光閃刃による連打で破壊する。もちろん白のゴーレムとの距離を計算して。

 騎沙良詩穂とセルフィーナは、
 ゲーム開始から銃型HCに、マップと遭遇したゴーレムの色の情報を記録しておいた。
 もちろん黒のも表示されており。
 倒れて動かなくなっている黒ゴーレムをわざわざ立ち上がらせた後。近くに飛び出している核をちょうだいしていく。これは、もしやまだ中に核があるのではと他の参加者に思わせて時間をロスさせる心理トラップだったりする。

 チーム【ワンコ隊】の橘カオル一行は、聴覚を研ぎ澄まし核の落ちる音を頼りに走り回っていた。
 とはいえ一気に動き出した生徒達の足音がうるさくて、あまり方向がわからないでいる。

 チーム【GUN・DOG】のレーゼマンたちもなにやら困っていた。
 じつはソフィアが囮になってうろついてた際に、黒のゴーレムには発信器をつけていたのだが……。
「せっかくつけた発信器がうまく起動してくれないんです。私に位置情報が伝わってくる筈ですのに……」
「なんだって? どうして」
「可能性としては、ゴーレムが動いてるうちに外れてしまったか、他の参加者が壊してしまったか。もしくは発信器に不備が生じたか」
「そういえば、そもそもあの発信器はどこで手に入れたんですか? ちゃんとした店で手に入れた正規のアイテムなんでしょうね?」
「……………………モ、モチロンデスヨ」
「即答できてない上にカタコトになってないかっ!?」

 右往左往している彼らを眺めるのは、帆村緑郎たち。
「あいつら、まだ生き残ってたんだな。あのときの俺の嘘は見破られてたのか?」
 そんな勘繰りをする緑郎だが。じつはただ単に、レーゼマンたちは緑郎が教えたゴーレムを発見できなかっただけの話なのだが。
 それはもういいかとばかりに、黒のゴーレムの核探しに戻っていく。

 中願寺綾瀬たちは、そろそろ残り時間も5分をきろうかというところで立ち止まっていた。
 目の前には虹色の核のあまりと、
 飛鳥が物質化させた核が揃っている。こちらにはコピーが混じっている危険があるのだが、
「それでは、いきますわよ」
 綾瀬はそう言うと、鬼神力を発揮させて全部まとめてブッ壊した。すると、
『アナタはコピーの核を破壊してしまいました。残念ながらゲーム終了です。手持ちの核とメガネはその場に置いて、こちらの案内に従い一旦ここから退席をお願いします』
 やはり流れたアナウンス。
 しかし残り時間はあとわずか。
 ここで脱落になろうとも、どのみち大差はない。
 コピーであろうと破壊数は加算されるのだから、ギリギリで壊すことこそ最適な道なのだった。

 同じくそのことに気がついている御神楽陽太は、
 ダッシュローラーと特技の捜索でしばらく黒の核集めに疾走していたが。
 もうあらかた取り尽くされたようで、立ちんぼうの黒ゴーレムの傍にはもう核は落ちていないようだった。
「よし。それじゃあ、はじめましょうか」
 終了までもう何分もない。
 陽太は早急に集めた全部の核を地面に並べ、機晶爆弾を設置して。

 やがて爆音と共に、退場を宣告するアナウンスが流れる。

 そのわずか三分後。
『これにてゲームは終了となります。皆様、お疲れさまでした』
 とうとうゲームの終わりを告げるアナウンスが一同の耳に届いたのだった。