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《4・足は引っ張ることもできれば、二人三脚もできる》

「ふぅ……やっと一体やな」
 大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は、籠手型HCでオートマッピングしながら、狙いの虹色ゴーレムを求めて迷路内をしばらく走り回っていたのだが。
 発見できるのは、コピーの危険性を含んだ他のゴーレムばかりで。
 さきほどようやく虹ゴーレムを発見し、倒すに至っていた。飛び出してきた核は、みっつともすぐにその場で破壊してカウントを一気に稼いだが。泰輔の表情はすぐれない。
「やっぱこの調子やと、一番になるんは無理やろうな」
 各所に設けられているモニターに表示されている制限時間によると、既に開始から30分も経過していた。
 あと4時間半を、競争確率の高い虹色狙い一本でいくのはあまりに愚作すぎた。
(そうなると、なんとしてもあの博士か助手さんを見つけなあかんわけやけど)
 なのでなんとか殺気看破を駆使して、ふたりの気配を探ってはいるのだが。
「あのふたりはべつに殺気とか出してるわけやないやろし、簡単にはいかんか」
 と、そこへ。
「あの。壊れたゴーレム掃除したいんやけど」
 メイド服が印象的な機晶姫が目の前に現れた。
「って、意外と簡単に会えるんかい!」
「ほら邪魔やからちょぉどいてや」
 泰輔のツッコミは軽く流しつつ助手メイドは淡々と破片を背中の麻袋に詰めて、細かいものは掃除機で吸い取っている。
「あの! コピーゴーレム識別用のメガネを、僕にくれへんやろか!」
 時間がもったいなので問答は抜きにして、いきなり土下座して頼み込む泰輔。
「ええよ」
 対する助手は簡単に、瓶底メガネに似たデザインのメガネを渡してくれて。なんだか拍子抜けの泰輔だった。
 そもそも、このゲームのキーパーソンである以上てっきり隠れたり攻撃してきたりするのではと思っていた部分もあったが。どうやら純粋にメイドとしての職務を果たすだけのようだった。
 とまあ、そんな彼女の仕事熱心さはいいとして。
「よし。これでここからは思う存分戦えるな」
 メガネを装着し、準備を万端にする泰輔。
「さあ、どんなゴーレムでもかかってこい!」

 茶色ゴーレム が あらわれた!

「…………………」
 よりにもよって、前方から近づいてきたのは2人以上の同時攻撃でないと倒せない相手であった。

 泰輔 は にげだした!

 ひとりではどうしようもないし、助手サンは戦闘を手伝ってくれない立ち位置なのでここは撤退しかなく。
 思わず自分の運の悪さを嘆きたくなった。が、その嘆きはすぐさま反転し。おもわず笑みすら浮かんできた。
 なぜなら同様に茶色ゴーレムに追われているらしい氷室 カイ(ひむろ・かい)が、逆方向からこっちに走ってきたからである。

 ここで一度、カイのほうに視点を移し時間を巻き戻してみる。
 カイはゲーム開始後すぐ、話し声や気配のない場所を探し。十字路のちょうど中央地点へと辿りついていた。そこは他チームもおらず、学校の教室程度の広さがあり、カイにとって絶好の場所なだった。
「さて、はじめるとするか」
 単独で動くカイの目的も、もちろんコピーの可能性がなく数を稼げる虹色のゴーレム。
 しかしいちいち探して迷路を進むんでいては、体力も精神力も浪費しかねない。
 そこでゴーレムが生体反応に呼び寄せられることを考慮し、カイは持ってきた破壊のプリズムに、光術の光を当てて生命力を放出させていく。これでゴーレムをおびき寄せようという作戦なのだった。
「これであとは待つだけだな」
 プリズムをそこに置いて、自分は通路の陰に隠れておく。
 そうして待つこと五分。まずやってきたのは、青色のゴーレム。
 カイは魔法攻撃もできるので、倒せないことはないのだが。コピーの危険もあるのでまだ身を潜めておく。
 ゴーレムはカイには気づかず、プリズムの近くでウロウロしている。やはり多少の改良をされていても、脳味噌のほうはたいしたことないらしい。
 そうして更に五分が経過し、のしのしといった足取りで現れたのは茶色ゴーレム。
 カイは舌打ちしたくなった。相手がこの色では、単独で行動しているカイにとっては負担にしかならない。加えて言えば、
(思った以上に、引き寄せられるゴーレムが少ないな。この迷路が予想以上に入り組んでるせいか、それとも他の参加者のほうに行ってしまってるのか)
 モニターの時間表示を見れば開始からすでに二十五分。
 そろそろゴーレムの色が変化するので、場合によっては青色がコピーでなければさっさと倒して博士助手探しに切り替えるか。と考えたところで、ついに待望の虹色ゴーレムがやってきた。
「来たな。よし、いくか!」
 これ以上は待つのも面倒なので、カイは妖刀村雨丸を手に歴戦の武術を駆使して虹色ゴーレムを横薙ぎで斬りつける。
 そのままゴーレムが横倒しになったところで攻撃を続け、反撃をされないうちに機能停止に追い込んで、一気に核を三個取り出すことに成功する。が、喜んでばかりはいられない。
 青と茶色のゴーレムがこちらに気づき、揃って近づいてきたのである。
 けれどカイはむしろ好都合とばかりに、相手の二体が5mの距離まで来たところで核のひとつを叩き壊す。どちらにも色の変化はない。つまり、両方がコピーではないということだ。
「それなら、次はこっちのやつだな」
 カイは二体の攻撃をかわしながら、歴戦の魔術を放って青色にダメージを蓄積させていき。数発くらわせたところで機能を停止させ、核を体から飛び出させた。
 その核を掴み、カイは急いでその場から遁走をはじめた。
 こうして茶色ゴーレムに追われることになったわけで、すこし走ったところで同様に茶色ゴーレムに追われている大久保泰輔に遭遇したということなのだ。
「おい、そこの人!」「ああ!」
 お互いの状況を察したふたりの判断は早かった。
 カイは振り返りざまに歴戦の武術を駆使した拳を、
 泰輔はそのタイミングに合わせて光術をぶちかました。
 即興にしてはタイミングのあった同時攻撃をくらい、ゴーレムはぐらりと倒れ伏した。そのまま反対側の茶色ゴーレムも、息を合わせて攻撃を繰り出してやった。
 こうしてひとりでは苦労させられた茶色ゴーレムをあっさり倒すことができ、それぞれ一個づつ核を破壊し。カイはさっきの青色のぶんも核を破壊したところで、ほっとひと息。
「助かったわ。ありがとうな」
「なに。お互いさまだから気にしなくていい」
 泰輔とカイは軽く握手を交わし、
 その際にカイは泰輔がかけている、ファッションとしてどこか不釣合いなメガネを指差して。
「それ、もしかして例のメガネなのか? どこで手に入れたんだ?」
「ああ。僕が来た通路を戻れば、メイド助手がおる筈やで」
「そうか。教えてくれた助かった」
「なあに、気にせんでええよ」
 こうして泰輔とカイは互いの健闘を祈り、その場は別れた。
 しかしこのとき、ふたりは知る由もなかった。
 わずか数分後。どちらか一方がゲーム終了となるなんてことは。

 エヴァルトは、赤色と青色のゴーレムと戦っていた。
 最初は青色のゴーレムを運良く30分経過時に発見しており、色が変わっていないところを見るとコピーである心配はないとして叩いてしまおうとしたのだが。
 彼の魔法系の攻撃は『歴戦の魔術』オンリーで、それのみを攻撃の重点にして戦うというのは少々勝手が違い、倒すのに手間取っているところへ後ろから赤のゴーレムが現れたのだった。
「二対一は面倒だな……いや、待てよ」
 なにかを思いついた様子で、エヴァルトはおもむろに超人的肉体とドラゴンアーツを発揮し、青色ゴーレムを押して赤色にぶつけてやった。二体がぶつかりあってまごついている隙に、全力で歴戦の魔術を叩き込む。
 こうすれば物理攻撃しか効かない赤色を倒さず、青色のみ倒すことができる。
 作戦はうまくいき、青ゴーレムは核もろともにバラバラに破壊された。
「おっ」
 直後。赤色だった筈のゴーレムが、紫色に変化していく。
「こいつはコピーだったか。危ない危ない」
 コピーゴーレムに対しては、超人的肉体のパワーを使いつつも、かつダメージを与えすぎないように叩きのめしていく。なんだか矛盾した面倒なやり方ながら、どうにか体から核だけを取り出すことには成功した。
「これでやっとひとつ破壊、コピーのぶんひとつ確保か。こんな調子だと優勝は厳しいな」
 思った以上にルールの鎖は参加者を苦しめる結果になっているようだと、エヴァルトはぼさぼさの頭を軽くかく。
 そのとき、
『アナタはコピーの核を破壊してしまいました。残念ながらゲーム終了です。手持ちの核とメガネはその場に置いて、こちらの案内に従い一旦ここから退席をお願いします』
 突然響いてきた声に、まさか自分のことかと肝を冷やしたが、コピーの核はまだちゃんと持っている。
 どうやらこの付近で誰かがコピーの核を壊して、それを知らせる放送がここまで届いてきたらしい。
「音声の距離からすると、あっちの曲がり角か?」
 エヴァルトはブラックコートと光学迷彩を使って身を隠し、ひっそりと近づいていった。