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《3・十体十色》

 ワンコ隊は、橘カオルが先頭に立って殺気看破と超感覚で警戒をしながら進み、麻上翼が魔法をいつでも使えるように続き、最後尾は月島悠がつとめ超感覚で特に背後の警戒をするという陣形を組んでいた。
「翼、来るぞ……」
 ふいに、カオルが立ち止まり警告する。
 殺気看破の網にひっかかったとなれば、相手はそういう特性がある青ゴーレムに違いない。となれば、
「来た!」
 曲がり角からドスドスと重たげな走り方で突っ込んできたのは、予想通り青色の敵。
 前衛のカオルはすかさず木刀による疾風突きを繰り出し、わずかに押し返す。その間に詠唱を終えた翼のヘルファイアが文字通り火を吹き、青ゴーレムを黒の炎で染め上げる。
 人であれば呻き声のひとつでもあげそうなほど苦しげに膝をつきながらも、青ゴーレムはまだ立ち上がりこちらへ近づいてこようとする。
「光輝属性の攻撃も、魔法系の攻撃で良いんですよね?」
 翼は今度はレーザーガトリングを構えて発射する。
 この武器なら、物理属性を持たない光輝属性攻撃ができると踏んでのことだったが。
 多数のレーザーをくらったにも関わらず、相手はすこし後ろによろめいただけで。さきほどのヘルファイアに比べてさほどダメージを負ったようには見えなかった。
「あれ。こっちはあんまり効いてないみたいですね」
「もしかしたら、光条兵器も含めてなにか道具を使った攻撃は物理攻撃としてみなされるのか?」
「おい。そのへんどうなんだ」
 首をかしげる翼と悠に、代表してカオルが近くのモニターを小突いて質問をぶつけてみると、すぐにそこに博士が映し出される。
『はい。じゃあお答えしましょう。基本的に、青ゴーレムは白の剣や、星のメイスといった魔力が篭った武器では倒すことはできません。光条兵器も同様です』
「ふんふん」
『麻上翼さんの使ったレーザーガトリングなどは、たしかに物理攻撃とは違いますが。厳密に言うと魔法系とも言いがたいので、ギリギリアウトの部類に入ります。同じ光輝属性の攻撃でも、光術とかであればだいじょうぶなんだけどね』
「なるほど。すこし判定が厳しくないか?」
『まあそのへんは堪忍してよ。なお、このモニターは自動的に爆発……したりはしないので安心してね』
 そのまま普通に映像は切れた。
「つまりは、やるならちゃんと詠唱して魔法を使えってことか。おそらくウィザード系のクラスを不利にしないための処置なんだろうな」
「じゃあ、ヘルファイアの攻撃でやるしかないってことね」
 翼は改めて詠唱を開始し、かなりの近さまで相手が接近してきたところを狙い。もう一発ヘルファイアを叩き込んでやった。
「あ、いけない」
 が。今度はかなり強めに炎を繰り出したせいで、ゴーレムはドサリと地面に伏して動かなくなったものの。体内から転がり出てきた肝心の核も、一緒に砕けてしまっていた。
「おいおい気をつけろよ。失格になってないってことは、コピーじゃなかったんだろうけどさ」
「ごめんなさい。ちょっと加減を間違えてしまって」
「んん……相手を倒すにしても、一応その辺りにも気を使う必要があるんだな。意外と難易度は高そうだ」
 そうなると、やはり翼頼みになる青色よりは全員で戦える相手を優先して探すべきかと判断したカオルは。ここからはトレジャーセンスを使っての捜索を主にすることにして。
 しばらく進むとさっそく、廃材が積まれているガラクタ置き場のような一角で反応があった。
「このあたりだな。ふたりとも気をぬかないように」
「ああ、任せろ」「だいじょうぶです」
 カオルは、武器を海神の刀(名称:獅子咬)に持ち替えて。廃材を刀でかきわけていく。
 するとわずかに不自然に廃材が傾いている位置があり、そこを狙って刀で突いてやると。発見されたのを察した迷彩塗装つきの黄色ゴーレムが、廃材の中から腕を振り上げながら突進してくる。
「白兵戦はオレに任せな!」
 カオルは慌てず、むしろ望むところとばかりに抜刀術で迎え撃ち。飛び込んできたゴーレムの右腕をひといきに切り飛ばした。
 さらにその腕が地面に落ちきる前に、カオルはもう一度刀を鞘に収め。再びの抜刀術で今度は踏み込んでいた右足を膝関節のあたりから両断する。
 これで一気にバランスがとれなくなった黄ゴーレムは、床に倒れてじたばたともがくばかり。もはや形勢逆転はあり得なくなった。
「改めて目の当たりにすると、サムライの抜刀術は圧倒されるな」
「さすがカオルくんですね」
 破壊するのは容易いが、コピーかどうかの確認が必要なのでカオルはきっちり左腕左足も切り飛ばして完全に戦闘不能にして。しばらく持ち歩くことにする。じつはこのために最初に質問をしていたのだ。
「悠ちゃんコレもてる?」
 自分は迎撃する役目なので、代わりに悠に頼むカオル。
 悠は頷くと、手足がなくなって丸っこい頭部が右に左に動くだけの人型こけしと化したゴーレムを抱え。そしてわずかに目を見開いた。
「あれ、意外と軽いんだな。材質はなんだ? 石のような、鉄のような……」
 興味がわいて、しばらくいじくっていたが。
 ふいに超感覚で研ぎ澄ませていた耳が、ぴくりと反応して手を止める悠。
「どうかした? 敵か?」
「ああ。いや、どうやらここの壁の向こうで誰かが戦っているみたいだな」
 迷路の構造からして、すぐにそちら側へは行けそうにないので。どこの誰が戦っているのかはわからなかったが。同じ参加者ががんばっていることに触発され、三人も再びゴーレムを求めて歩き出していった。

 その壁の向こうでは、
「はあああっ!」
 ランツェレットたちが桃色のゴーレムと戦っていた。
 特に獣人の血が騒ぐらしいティーレは、目を輝かせてこのゲームに挑むつもりのようで。流れるような動きと俊敏さで敵を粉砕し、ひとつ目の核をゲット。
 ランツェレットにさして出番もないまま最初の戦闘は終了した。
「核はまだ壊さないつもりですか?」
「あ、うん。核の総数は151個、参加者数からして約10個手に入れたら同時に全部壊して進むわよ」
「同時に?」
 意図がわからず首をかしげるランツェレット。
「コピー対策よ、壊したら終了だからリスク管理よ」
「ということは……」
「出会ったゴーレムは片っ端から全部破棄して核を取っていくって事」
「5時間もあるのに?」
「ルールには対人はふれてないの、つまり最大の敵は何でもありの他のプレイヤーよ」
 言われれば確かにそのとおりなので、核の争奪戦が激化する前に破壊数を増やしておくに越したことはない。
 参加者のほとんどは、最初のうちはコピーゴーレムにどう対応するかの策を元に行動を起こすはず。いまのうちならゴーレムの数も多いし、邪魔もされにくい。だからこその短期決戦覚悟の作戦なのだと言えた。
 とはいえせめて警戒はしておこうと、ランツェレットが超感覚を発動し。猫耳としっぽを生やしたところで、
「ティーレ」
「うん。あたしも気づいたよ」
 近くで誰かが戦っている気配があり。
 ふたりは頷きあうと迅速に、かつ慎重に近づいていった。

「いきなり虹色のゴーレムと戦えるとは、ついてますね」
 戦闘を行なっているのは御神楽 陽太(みかぐら・ようた)
 彼のやり方としては、銃型HCのマッピングで内部構造を把握して。無駄に動きまわらずに効率よくゴーレムを探しはじめて。
 主に黄色と虹色狙いでトレジャーセンスと特技の捜索を駆使して探し回り、ある三叉路にさしかかったところで。右通路の奥でうろうろと参加者を探している様子の虹色ゴーレムを発見したのだった。
 すかさず壁に身を隠して構えたのは曙光銃エルドリッジ。さらにシャープシューターと、とどめの一撃を併用した銃撃を放つ陽太。
 一直線に飛んだ光の弾丸がゴーレムの後頭部で爆音をあげた。
「やりましたか。いえ、さすがに一発で仕留めるのは無理だったようですね」
 頭から煙をあげながらも、ゴーレムはいまだ動き続け。陽太を確認すると、ドスドスとまるで怒りを込めているかのような足取りで駆け寄ってくる。
 といっても、しょせんはゴーレムの鈍足。しかも対する陽太は背につけた宮殿用飛行翼のおかげで軽やかに後退できており、容赦なく次弾を胴体めがけて発射する。
 装備しているたいむちゃんの時計のおかげで、行動順が早くなっているのも後押しして、ほぼ一方的に攻撃しつづけることが可能となり。やがて銃撃をくらいつづけた虹ゴーレムはその動きを完全に止め。
 胴体からコンコロコン、と小気味良い音を立ててみっつの核を吐き出した。
「ふぅ。幸先のいいスタートですね、では早速」
 陽太は核に銃の照準を合わせ、破壊しようと引きがねを引――
 こうとしたところで。なにか茶色い風のようなものが飛び込んできた。
「!」
 陽太は、行動予測で他の参加者に対して警戒をしていたので。とっさにそちらに照準を切り替えて銃撃を放つ。
「痛っ!」
 すると誰かの声と共に、そいつは転がって壁にぶつかった。
 見ればその風の正体はアクセルギアで体内時間を変化させ、ダッシュローラーを装備した騎沙良 詩穂(きさら・しほ)であった。茶色く見えたのは彼女の髪の色だったらしい。
「詩穂様! だいじょうぶですか!?」
 さらに詩穂を追ってきたのは彼女のパートナーのセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)
「へいきだよ、左手にちょっとかすっただけ。おかげで一個しか壊せなかったけど」
 詩穂が言うように、みっつの核のうちひとつが真っぷたつになっており。
 陽太は歯噛みする。さほど油断があったわけではないが、幸運と勝利でわずかでも気が緩んでいた自分を怒りたくなった。
「やってくれるじゃないですか。せっかくの俺の成果を」
 これ以上横取りされないうちに、残りのふたつに銃を撃ち破壊する陽太。
 そのうえで改めて相対する両者。
 ただ。実際、言葉では威圧したものの。陽太は地が臆病なので、他参加者と真っ向から争う気はなかった。しかも改めて見れば相手は友人関係にある間柄の詩穂。ひとつ核を取られたのは悔しいが、済んだことを言ってもしかたがない。
 といってこのまま見逃すというのも、なんだか悔しいものがあった。
 詩穂とセルフィーナの方も、本当なら即破壊、即離脱でいくつもりだったのに。こうしてわずかながら怪我をさせられてしまったのは計算外のこと。相手が見知った顔の陽太であると気がついた今なら、素直に謝罪するという手もあるが。
 不意をついたこちらから和解を持ちかけるというのは、正直どうなのだろうか。
 という具合に、互いにこのままやり合ってもプラスにならないと理解しつつも。
 なんだか退くに退けない空気ができてしまった。
 そこへ、通路の奥からもう一体ゴーレムがよたよたと歩いてきた。色は紫。セルフィーナは無理だが、地球人である陽太と詩穂、どちらも倒すことができる色。
 不毛な争いよりも、こっちを先に仕留めようと両者は動こうとした。
 が、
「えっと。どういう状況かは知りませんけど。とりあえずそのゴーレムはわたくしたちが戦っていたんですけど」
「だから邪魔しないでよね!」
 そのさらに後ろから、ランツェレットとティーレのふたりが顔を見せる。
 彼女達はここへ辿り着くまでに、この紫ゴーレムと遭遇して。こうしてここまで追い込んできたのだった。
「すみません。俺も、このゲームで上位にいきたいところですから。譲りたくないですね」
「詩穂も同じだよ! 核は一個でも多いほうがいいからね」
 妙に好戦的なふたりに、眉をひそめるランツェレット。
 なんだか心のモヤモヤの矛先をこっちに向けられた感じがしてならない。
「やれやれ。どうも貧乏くじをひかされた感じですね」
「どうする? なんならあたしが相手しとくけど。どうせ紫色のとは戦えないんだし」
 ティーレの言うように、さっさとゴーレムだけ倒して逃げるという手もあるが、ヘタをするとセルフィーナも混じって全員で乱闘になりかねない。
「いいえ、だいじょうぶ。ここはわたくしがなんとか治めてみます」
 そう言うと、ランツェレットは紫ゴーレムめがけて走り出した。陽太と詩穂も、我先にとばかりに駆ける。
 ランツェレットはまず、ブリザードをゴーレムにぶつけて動きをとめておく。これなら広範囲に寒波を展開することで、他のふたりを牽制できる。
 しかし陽太は歴戦の立ち回りによって臆することなく、銃撃をゴーレムめがけて放ってきて。
「すみませんけど、倒させるわけにはいきませんから」
 とっさにランツェレットは両手をかざしてアイスフィールドを発生させる。しかもすこし斜めになるような角度で構えたことにより。光の弾丸は見事に受け流されて軌道をあさっての方向に逸らし、壁にめりこんだ。
 さらにランツェレットはそこから、サンダーハンマーを構えて駆け寄ってきた詩穂のほうを向き。右腕にフリーズブレイドをまとわせる。
 氷と雷では相性は悪い。が、相手がゴーレムを攻撃しようとしているところに、つけ入る隙はあった。
 詩穂はゴーレムめがけてハンマーを振り下ろそうとしている。ランツェレットとは距離があるので、あの氷の刃では届かないだろうと踏んだのだろうが。
「とりあえずどちらもすこし、頭を冷やしてください」
 ランツェレットは腕の氷を、氷術を駆使して槍くらいの長さにまで成長させたところで振り回し。その勢いのまま詩穂の頭を思い切りひっぱたいた。
「きゃあ!」「詩穂様!」
 とどめに、倒れた詩穂と近づいてきたセルフィーナに対しヒプノシスをかけて眠らせてやった。
 再び陽太のほうを振り返ると、彼は距離をとってどうするか悩んでいるようだった。
 先にランツェレットを動けなくするか、あくまでゴーレム撃破に臨むか、それとももうこの戦闘はやめにするか。選択肢をあれこれ検討しているようだったが。
 それなら強制的に選択肢を限定してあげようと、ブリザードを陽太めがけて放った。
 陽太は身構えるが、彼女の狙いはべつのところにあった。
「あっ」
 陽太は気がついた。
 自分とランツェレットの間に、かなり厚い氷の壁ができあがっていることに。これでは、簡単には向こう側に行くことができない――とか思っている間に。
「うふふ♪ はい、核ゲットです」
「へぇ。けっこうやるものね」
 悠々と彼女はゴーレムを破壊して核を取り出し、パートナーと一緒にそそくさと元来た通路を戻っていってしまった。
 残されたのは、すっかりしてやられた陽太と、眠らされた詩穂とセルフィーナ。
「あ、いけない。はやく俺も次の敵を探さないと」
 しかしゲームはまだ終わってはいない。
 陽太は急いで通路を戻り、ゴーレムの捜索に戻るのだった。