天御柱学院へ

蒼空学園

校長室

イルミンスール魔法学校へ

少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

リアクション公開中!

少年探偵 CASE OF ISHIN KAWAI 2/3

リアクション


ソーマ・アルジェント(そーま・あるじぇんと)  ナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど) 

方法はどうあれ、俺の活躍があって俺と北都はコリィベルに入れたわけだが、また北都のやつが迷子になってしまった。
ストーンガーデンの時に、あれほど俺に迷惑をかけたというのに、まったく懲りないやつだな。
すぐに俺が見つけだしてやるから、危ないめに会わぬよう気をつけて行動していて欲しいものだ。
そうそう。9999で俺が世話をしてやった少年の名前は、…と言うらしいな。
彼の知り合いのここのスタッフからきいたんだ。
青少年の指導育成は俺のような良識ある年長者にとっては、義務的な行為だからな。
彼に限らず、これと思うやつには、今後も機会があれば、ていねいな指導を行ってゆきたいところだ。
善行は隠せ、との先人の教えに従って、北都や侘助には内緒で、こっそりとな。

ところで、ここはどこだ。

俺の数メートル前方に、奇怪なものがいるのだが、アレは、なんだ。
片手、片足がない人型。
帽子型のチョコレートを頭にかぶった、学ラン姿の、白塗メイクのやつが、うつぶせで床を這っている。
やつには、右の手足がない。

「返せだぜ。ピエロの車椅子を。
だな。もともとは、コリィベルのものにしても。
移動用に借りた車椅子だぜ。
あーちかれた。
出入り口でナガンは、危険物として義手と義足を奪われたんだぜ。
そのうえ、借りた車椅子まで、ワルどもにとられちまったら、どーちろというんですか。
ねぇ、そこのお兄さん。
聞いてくださいよ。哀れな、ピエロの身の上を」

チッ。
やばそうなやつなのでスルーしておこうと踵を返した俺をやつは目ざとく見つけ、声をかけてきやがった。
見捨てるべきか、振りむくべきか。

「見たことのあるピエロさんだけど、ほんとに変わり果てた姿になっちゃったね。
ここでは改造手術もやってるわけ?
そういえば、きみははじめから改造人間みたいな感じだったよね。
さらに強化しようとして、手術が失敗したとか」
少し先の角からでてきて、俺の隣で足をとめ、床のやつに話しかけたのは、薔薇の学舎の、いやパラミタ全土の有名人ヘル・ラージャ(へる・らーじゃ)だった。
ロングの金髪に、ヘテロクロミア(虹彩異色症)の青(右)と紫(左)の瞳を持つ青年。
俺と同じ貴種であり、パラミタの戦争犯罪者でもある。
かって鏖殺寺院の主要メンバーだったヘルは現在、早川呼雪(はやかわ・こゆき)のパートナーとなり、薔薇学で保護観察中だ。
「ヘル。おまえがコリィベルに収容されていたとは驚きだ。
ついに呼雪に愛想を尽かされたのか」
「まさか。僕が囚人になるなんて、呼雪が絶対に許してくれないよ。
呼雪と一緒に慰問というか、いろいろ調べにきたんだけどさ。僕、迷っちゃって。
ソーマも僕と同じ状況らしいね。
ピエロさんも、そうかな」
「床のやつは知らんが、迷子は俺ではなく、北都だ。
間違えるな」
俺たちが話していると、ピエロさんとやらが、足元に這いよってきた。
「あの、あの、あのー。
お美しいお二人様。
は、提案がある。ナガン。
旅は道連れ、世は情け、なんのこっちゃ。
手足と車椅子を奪われたナガンに影をかしてくださいまし。
つまり、狂血の黒影爪を使って、ナガンはどちらかの影に入りたいんだぜ」
「断る」
「ごめんね」
俺とヘルは、ほぼ同時にやつのお願いを拒否した。
「見たところ、おまえは女のようだ。
困った女に影をかしてくれる人間くらい、例えコリィベルでも、いくらでもいるだろう。
わざわざ、俺が助けてやるほどでもない」
「うん。
僕もソーマと同意見。
ピエロさん、いつの間に女になっちゃったの。君のことはキライじゃないけど、僕は、女の人を自分の影の中に入れるのは、イヤだな。
僕ら以外の他をあたりなよ」
無愛想な俺よりも、親しげに笑いながら拒絶するヘルの方が、やはり、タチが悪いのだろうな。
「と、思ったけれど、いいよ。僕の影に入って」
「ありがとさんだぜ」
ピエロは、ヘルの影の上に重なると溶け込むように消えていった。
「ずいぶんと優しいんだな。
困ったやつを見捨てておけないとは、過去の悪行の償いのつもりか」
「そうじゃないんだけどね。
ソーマも気配を感じるだろ。
聞こえるだろ。
こっちへくるたくさんの足音。
ピエロさんがのんびり這ってたら、平気で踏み潰しちゃいそうな連中がここへくるみたいだね」
ヘルは楽しそうに語る。
たしかに、禍々しいものがこちらへ近づいてくるのを感じる。
「せっかくだし、ご対面してみるかい。それとも、ソーマは逃げる?」
「逃げる? 誰に対して口を聞いているつもりだ。おまえこそ、実は怯えているのではないか」
俺とヘルはそれぞれ身構えて、むきだしの殺気の塊がその姿をあらわすのを待った。