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【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ(前編)

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【重層世界のフェアリーテイル】オベリスクを奪取せよ(前編)

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オベリスクを奪還せよ! 前編

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 その昔、大いなる災い来たりて、破却をばらまく。
 
 巨大な傀儡を操り、天地を蹂躙する。

 人、巨人に乗り、屍を積む。

 人、彼の者とその鉾を彼の地に封じる。


 しかし、大いなる災い、再び黄泉返るなり。

 それを阻止するは、外世界より来る来訪者なり。

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1. 不可視領域


 その世界は戦争をしていた。
 ティル・ナ・ノーグのハイ・ブラゼル地方、花妖精の村において見つかった3つ目の異世界の扉――ゲート――の向こう、【第三世界】において、未知の侵略ロボット、ドールズは未来都市オリュンズへの奇襲攻撃をしかけていた。
 それに対抗するミネルヴァ軍は、敵出現地付近に防衛基地を設けて、空軍による都市防衛線を敷くも、ドールズの完全撃退は叶わず、数年の月日を進展のない紛争に費やしていた。
 その間、危ういながらもオリュンズの平和は保たれていたが、すでに都市は大半を焼失しており、累積する問題に都市中央機関『ユピテル』は頭を悩ませ、中央議会場『ウェスタ』での紛糾も絶えない有様だった。
 一刻も早く、ドールズの沈黙を実現すべく、ミネルヴァ軍は新兵器、可変型機動兵器バーデュナミスを開発。
 その試作機BD―01P「フィーニクス試作型」を完成させた頃、ゲートより『外世界かの来訪者』が現れる。
 彼らはサロゲート・エイコーンというバーデュナミスに酷似した機動兵器を操り、ドールズと攻防。後に、ミネルヴァ軍との協力関係を約束した。
 来訪者の協力により、今、この第三世界に置ける紛争は激変の時を迎えようとしていた。


 オリュンズ西方空域、アクティブソナーに反応なし。熱源探知も反応なし。
「こちら、アイテール。探査空域にて目標を発見できず」
 アイテール 飛行形態より御凪 真人(みなぎ・まこと)はミネルヴァ軍貸出の量子通信機に報告する。
「あてが外れたみたいね……」
 嘆息。セルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)は安堵のそれを吐いた。
 彼らがは探しているのは、オリュンズを狙うドールズと、その本拠地。神出鬼没に虚空から現れるドールズは未だ何処から飛来しているのか分からない。
 ただ、出現地域だけは一定で、オリュンズの東方から4km地点、ゲートの北側にのみから出現する。
 ドールズは出現の際に黒い靄に巻かれて現れる。突如として、その場に現れることから見て、《テレポート》のような原理で移動していると思われる。なら、ドールズの拠点は出現地点とは別の場所にあると考えられる。
「外れたらそれはこちらにとって幸いです」
 真人が思うに、ドールズの拠点が出現地と別の場所にあった場合、ドールズの拠点が都市西方に有るのが最悪だと考える。
 敵本拠地は捜索されなかったとはいえ、その姿を軍の目から数年欺いてきたのだ、何らかの被探査対策をしているに違いない。
 例えば、本拠地がステルスタイプの移動要塞なら、ということもあり得る。もしそうならば、出現地をわざと固定して、軍の防衛を定位置に釘つけにしたのちに、防衛の薄いオリュンズ西方から本部隊を攻め込こんでくるはずだ。そうなれば、オリュンズはたやすく壊滅的打撃を受ける事となる。
 もとより、この世界の技術の推移から言って、単なるレドーム探査では発見は困難かもしれないが、一応なりとこの西方においては安心してよいかもしれない。
〈こちら、フィーニクス。アイテールの報告と同じく、目標と思しき反応なし〉
 同じ空域を偵察飛行するフィーニクス試作型より通信。マシュー・アーノルド中将が報告を繰り返した。
〈中将。基地より飛行哨戒から戻るよう要請です。司令を交えての食事会に出席するように、と〉
 フィーニクス試作型の専用フライトオフィサー、サポートアンドロイドのアセトが通信内容を伝える。食事会とは言っても唯の会議だ。せいぜい出てコーヒー一杯の食事会への呼び出しである。
〈了解。アセト、出席にチェックをして返してやれ。直ぐに向かう。アイテールは燃料残量に気をつけて、アイランド・イーリの部隊と合流せよ〉
 探索の本部隊はそっちだ。オリュンズ東方、トロイア基地よりも東側の探索が重点的になされている。ドールズの出現が固定なのが距離的な問題ならば、東に何かが有る可能性が高い。
「了解です。セルファ、本部隊に合流。燃料の補給はアイランド・イーリにて行おう」
「分かったわ。補給するなら少し出力を上げても構わないよね?」
 スロットルを上げ、アイテールは一足早く空域を抜ける。フィーニクス試作型も続くが、途中で加速を落としてトロイア基地の滑走路へと降りた。
 それをアクティブレーダー表示上で見送り、真人は次の目標地点へ向かって飛んだ。

 アイテールがオリュンズ西方を探索していた頃。ヘイリー・ウェイク(へいりー・うぇいく)、アイランド・イーリ艦長と佐伯 梓(さえき・あずさ)ツーク・ツワンクの二隻大型飛空艇が率いる探索部隊は要探索地域にて、ドールズの拠点地を虱潰しにイコンを飛ばしていた。
アイオーン、オリュンズ周辺探査より合流。こちらの高高度探査へと移ります〉
 シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)より連絡。
「こちら、イーリ。了解。引き続き探索をお願い」とリネン・エルフト(りねん・えるふと)が応える。
 アイオーンは高度を上げ、再度探索を開始する。
「あーあ、どうせなら基地でバーデュナミスだっけ? こっちのイコンをみたかったなぁ……」
 ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)が呟く。別空域の哨戒にてフィーニクス試作型は基地の外だったので、間近で見る機会を逃していた。
「どんな戦い方するのかな……、そうだ! 模擬戦とかしてもらえないかな!?」
 ミネシアが思いついたことを言う。
「帰ったら、提案だけでもしてみましょうか」とシフ。
「ん、わかっているよ。“帰ったら”だから、チャンとデータ持って帰らないとね」
 アイオーンは低速探査を続ける。
 オープン通信から《幸せの歌》が聞こえてくる。
 歌声はツーク・ツワンクの厨房から。弁天屋 菊(べんてんや・きく)の鼻歌だ。料理中の暇を余して歌を流す。
〈弁天屋さん、ごきげんですね。今日の料理はなんですか?〉
 神野 永太(じんの・えいた)が尋ねる。オグドアスでツーク・ツワンクの護衛中。
「肉料理メインにパスタとデザートだよ。今作ってるのはローストビーフだよ。丁度タレができたから嗅いでみるか? 量子通信てのは匂いも送れるらしいじゃん」
 と嗅覚センサーをオンにする。どういう原理かは説明を省くが、甘辛いソースの匂いが永太の鼻腔と食欲を刺激する。
「うわー、良い匂いだー! 早く喰いてぇ」
「永太、食欲に過負けてないで捜索に身を入れてください」
 アグドアスに同乗する燦式鎮護機 ザイエンデ(さんしきちんごき・ざいえんで)が言う。
「わかってるってザイン」
〈カレーも用意しているぞ〉と菊から情報が入る。
「永太、直ぐに捜索を終わらせるのです!」
 ザイエンデは妙にヤル気になった様子。
〈直ぐに終わらすったて、どこのにも敵の本拠地みたいなところないじゃん〉
 ガガ・ギギ(がが・ぎぎ)の言うとおり、周りには建造物どころか、イコンを数十体も隠せそうな森もない。ドールズの本拠地となりそうな場所は一帯何処にあるのやら。
「目に付くような物はないな」
 ツーク・ツワンクの舷窓から外界を覗き、ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)は写真を取った。写真は真実を移すというが、何も見えてこない。
〈上空からの探査結果はどうだ?〉
 梓より、グレイゴーストに通信。佐野 和輝(さの・かずき)が応える。
「《ホークアイ》による目視では何も。アニス、計器での情報は?」
「パルスレーダーには何の反応も……、あれ?」
 アニス・パラス(あにす・ぱらす)の眼に小さな変化が移る。
 それは、電磁波、熱源感知、エコーでもなく、温度。一瞬だが0.2度の温度変化があった。湿度のデータログも確認する。温度変化と同じタイミングで湿度変化も見られた。小さないながらも、一瞬にして温度湿度が変化するのはおかしな話だ。
「どうした?」
「和輝、和輝、指定座標のところの温度データ、少しおかしいよ? もう一回飛んでみて」
「温度がか? 気流と高度のせいじゃないのか?」
 そう言いつつも、和輝はグレイゴーストをアニス指定のポイントへ飛ばし、通過させる。
 今度は0.3度の温度変化。
「やっぱりおかしいよ!」
 しかし、些細な変化とも言える。和輝は通信をバイヴ・カハに入れる。
〈真司、指定のポイントをBMIによる《サイコメトリー》をしながら通過してくれ〉
「《サイコメトリー》ならヴェルリアができるが、《サイコメトリー》は対象物体に触れない限り意味が無いぞ?」
 と柊 真司(ひいらぎ・しんじ)は返す。
〈構わない。他の計器類にも注意してくれ。アニスがおかしいと言っているんだよ。念のため俺も旋回後に同じ所を通過する〉
「わかった。ヴェルリア、《サイコメトリー》を頼む。対象はバイヴ・カハに触れたモノでいい」
「やってみます。BMIのシンクロ率は40%でいいかな」
 ヴェルリア・アルカトル(う゛ぇるりあ・あるかとる)はBMIを起動。自身の脳波を解析させ、《サイコメトリー》を機体に発生させる。
 アニスの見つけたポイントをグレイゴーストとバイヴ・カハが通過する。
 高度差をつけてクロスするように2機のイコンが飛ぶ。
 そして、2機のイコンは空間の裂け目に消失し、捜索部隊のレーダーからもロストした。