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惑う幻影の蜘蛛館

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惑う幻影の蜘蛛館

リアクション

 一気に乱戦となった広間で、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は慌てて周囲の生徒たちを止めていた。
「い、いかんのだ! 皆、落ち着きたまえ! 殺し合いなんて、馬鹿げているぞ!」
 必死に戦いを止めようとする。しかし、一度、火がついてしまった生徒たちは、そう簡単に落ち着いたりしない。
「ああ、もう! やめるのだ! お、おい、馬超! 君も、早く皆を止めてくれ!」
 そう叫び、コアは馬 超(ば・ちょう)を呼ぶ。しかし、当の馬超は、無言で仁王立ちしていた。両目をつぶり、固く口を結んでジッとしている。
「ば、馬超? どうかしたのか?」
「……ハーティオン、ここは私たちの居場所では無い」
「は?」
 突然の馬超の言葉に、コアは首をかしげた。一体何を言っているのだと、馬超を見つめる。
「この世界は全て偽物だ。剣戟も、怒号も、流れる血も、敵さえ偽物で、何ひとつ私を滾らせるものが存在していない」
「む? それはつまり、この世界が幻だということか?」
「左様。この世界はまやかしだ。人々の甘い欲望が作り出した偽の世界に過ぎない。こんな場所での戦いなどで、私の心が躍るはずがない」
 そう断言すると、馬超は目蓋を見開き、決意のこもった視線をコアに向けた。
「帰るぞ、ハーティオン。我々の戦場へ。戦場にのみ、我らの生はあるのだ」

 □□□

 ――ギュァアアアアアアッ!!
 森の中に、巨大な毒蜘蛛の雄叫びが響く。
 四方から、集結した生徒たちの攻撃を受けてなお、抵抗しようと暴れていた。
「――ふ、ふふっ……逃がしません。絶対に、生かして帰しませんっ!」
 そう叫びながら、昴は高笑いする。気が狂ったような雄たけびを上げながら、刃を振り続け、蜘蛛の身体を嬉々として切り裂いていく。
「ははっ! あははははっ!」
「す、昴! お、落ち着いてくださいまし!」
 そんな昴を心配するように、天地が付き添う。しかし、完全に敵のことしか見えていない昴は、天地の制止の声も聞かず、敵の蜘蛛に復讐相手の影を重ね、狂ったように刀を振り回していた。
 その間に、氷藍は手頃な木々の枝に腰をすえ、弓を構えていた。
「まったく、幸村のヤツ。無茶な起こし方して……後で文句、言ってやらないと!」
 そんなことを呟きながら、矢を放つ。弱点である目や、足の関節などを、的確に打ち抜いていった。
 そんな蜘蛛の足元には、火炎をまとった薙刀を構えた幸村が立っていた。
「――はぁあああああああああああっ!」
 怒号のような気迫と共に、蜘蛛の足を両断する。そんな幸村のすぐ横に、玉藻は現れ、くすくすと笑った。
「ふふっ、氷藍を斬ったことは、だいぶこたえたみたいだね?」
 そんな軽口を告げる玉藻を、幸村は殺意のこもった視線でにらみつけた。『おお、怖い』といいながら、玉藻は幸村から離れていった。
「ほ、ほら、フィリス! 今は逃げるのが先だよ! 蜘蛛の相手は、他の人たちに任せて逃げよ!」
「うるせえ! あんな後味の悪い物見せられて、このまま黙っていられるか! あのクソムシ野郎!」
「やれやれ……」
 全員を連れて、早くその場を去ろうとする陽に、フィリスが食って掛かる。そんな様子をアイスはあきれた様子で見つめていた。
「――こい、広目天王。あのムシケラを殺すんだ」
「御意。玄秀様」
 玄秀はブリザードを放ち、蜘蛛の動きを阻害する。その隙に、広目天王は背後へ回りこみ、蜘蛛を玄秀と挟撃した。
「はぁあああっ!」
 蜘蛛の攻撃をギリギリで避けつつ、馬超は蜘蛛の懐へもぐりこむ。そして、勢いをつけたまま、飛竜の槍を突き刺した。
「これだ……これこそが、私の望むものだ!」
 そうひとり、馬超は歓喜する。
「ぬぅおおおおおっ! 【フレイムブースター】フルパワーッ!」
 そんな馬超とは離れた上空で、コアが叫ぶ。
「全員、巻き込まれたくなければ、離れよ! この一撃で、仕留めるっ!」
 そう叫ぶと、ブースターに点火し、コアは全身をまとった。
「行くぞ! 必殺――『バーニングドラゴン』!!」
 その声と共に、巨大な火炎の竜となったコアが、正面から蜘蛛とぶつかった。

 ――ギ、ギギ、ギュゥウウァアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーッ!!

 すさまじい衝撃と共に、蜘蛛の口から断末魔の叫びが響く。
 そして、その声が消えると同時に、巨大な蜘蛛はゆっくりと崩れ落ちた。
 瞬間、森の中は、物音ひとつしない静寂に包まれた。
 だがやがて、誰からともなく、勝利を確信する言葉が漏れる。

『や、やったぁーーーーーっ!』

 わああああっと、いっせいに静まり返っていた森に歓声が上がった。

 そんな歓喜に包まれながら、その場にいた者たちは皆、心の中で自らに問いかけた。
『あの願望の叶う幸せな世界に、未練はないのか?』
 おそらくその答えは、人それぞれ違ってくるだろう。
 だがしかし、生き残った者たちの中に、この結末を後悔している者は、誰ひとりとしていなかった。

【完】

担当マスターより

▼担当マスター

海原三吾

▼マスターコメント

 どうも、皆様。最後まで、お付き合いいただきありがとうございました。
 今回のシナリオ「惑う幻影の蜘蛛館」はいかがだったでしょうか?
 今回のシナリオは、皆様のキャラクターが抱えている欲望や悩みが直に出てくるシナリオでしたので、書いている身としても「しっかり書かなきゃ!」と妙な緊張感の中、執筆していました。
 参加者の中には、ハッピーエンドなのかどうなのかわからないような結末の方もいましたが、それはそれだけ抱えている悩みが重大という解釈をしていただけると幸いです。
 それでは皆様、またの機会にお会いしましょう。