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惑う幻影の蜘蛛館

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惑う幻影の蜘蛛館

リアクション

 雅羅が集団セクハラに苦しんでいる頃、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)はひとり、携帯を片手に顔をしかめていた。
「うーん、おかしいわね? 何で繋がらないんだろ?」
 ルカルカは何度も携帯のコールボタンを押す。想い人の携帯番号がディスプレイに表示されるも、その電話は繋がることはなかった。
「……こんなに繋がらないなんて、いくらなんでもおかしいよね」
 そう呟き、ルカルカは口元を拭く。さっきまで食べていたチョコの汚れを落とすと、その場から駆け出した。
「まったく、ダリルったら、どこにいるのよ?」
 ルカルカは手当たりしだい、あちこちの部屋をまわり、相棒のダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)を探す。
 館中を駆け回ること数十分後、やっとのことでダリルを見つけた。
「はぁ、はぁ……」
「……ZZZ」
 息を切らすルカルカの前では、機晶羊たちに埋まるようにしてダリルが眠っていた。ダリルの表情は、これ以上の幸せなどないと言わんばかりに穏やかなものだった。
「……なんでだろ。すごくムカつく」
 想い人と連絡が取れない上、館中を走り回ってきたルカルカは、ムッと顔をしかめる。
 だがなんとか自分を抑え、ダリルの肩を揺らした。
「ねえ、ダリル起きて」
「……ZZZ」
「起きてよ、ダリル! 大変なんだから」
「……ZZZ」
「…………」
「……う、うーん…………ZZZ」
 ブチンッと何かがルカルカの中でキレた。
「起きろって……言ってんでしょっ!!」
 瞬間、――バチチチチチッ――目にも留まらない速さでルカルカの往復ビンタが炸裂した。しかし、それでもダリルは起きなかった。
「あー、もう! 起きてってば!」
 それからしばらくの間、この部屋からは肉をひっぱたく生々しい音が響いていた。
 ちなみに、ルカルカは気づいていない。彼女の容赦ないビンタのせいで、ダリルが意識を失っていたことに。


 豪勢な料理が数多く並んでいる。
 その料理を前にして、獅子神 玲(ししがみ・あきら)は暗い顔をしていた。
(……なんだろう、この料理。こんなに食べてるのに、全然満たされない)
 玲は人一倍、強力な鬼神力を持っている。それによる暴走本能を、彼女は食事という形で押さえ込んでいるのだ。
 しかし現在、これだけの料理を食べているというのに、彼女の状態は不安定だった。危険な力があふれ、彼女の精神を蝕む。何かをブチ壊したい衝動が、彼女の内側からこみ上げてきた。
(……これじゃあ、正気が保てないよ……暴走したくない……。嫌だ、助けて……助けてよ、沙織)
 そう心の中で呟く。もうこの世にいない親友に助けを求めた……その時だ。
『――玲』
「え?」
 玲の耳に確かな声が聞こえた。懐かしい声……もう二度と聞くことがないと思っていた親友の声だ。
 玲は顔を上げた。すると周囲の風景が変わっていた。何もない空間に、うっすらとひとりの少女の姿が映っていた。
「さ、沙織……沙織っ!」
 玲が名を呼ぶと、親友の幽霊はニッコリと笑みを浮かべた。
 幽霊はしゃべらない。ただジッと優しい視線を玲へと向けていた。言葉など不要だといわんばかりに、真っ直ぐな視線を玲に向け続ける。
 そんな親友の視線の意味を、玲はしっかりと受け取った。
「……ごめんね、沙織。心配かけちゃったみたいだね」
 顔を上げる。いつまでも親友の前で暗い顔をしているわけにはいかなかった。
「うん。もう大丈夫だよ。私は、私を支えてくれる皆のところにいくね」
 そう玲が告げると、親友の霊は嬉しそうに笑った。もう心配要らないとばかりに、ゆっくりと消えていく。そんな親友へ、玲は、
「沙織。あの時はごめんなさい。それと……助けに来てくれて、ありがとう」
 静かにそう告げた。
 そして、彼女自身もこの幻想の世界から姿を消す。彼女を支える仲間たちのもとへと帰っていった。

 □□□

「うらぁぁああああっ!」
 山本 ミナギ(やまもと・みなぎ)の叫び声が響く。両手に構えた銃を連射し、迫り来る蜘蛛に銃弾を撃ち込む。
「ったく! せっかく、館のみんなにあたしの主人公としての偉大さを語ってたのにぃー!」
 文句を言いながら、ミナギは銃を乱射する。そんなミナギの言葉に、獅子神 ささら(ししがみ・ささら)もハァーとため息をついた。
「それなら私もですよ。もう少しで、執事とメイドの撃墜数更新できましたのに……あ、もちろん性的な意味ですよ?」
 キメ顔でそう告げるささら。そんなささらに「うっさい変態!」とミナギは銃を乱射しながら叫んでいた。
「まぁ、冗談はこのぐらいにして……玲さん。そろそろ起きないと、危ないことになりますよ?」
「……う、うーん」
「あ! ささら! 玲、起きたぞ!」
 ミナギたちが玲の目覚めに喜んでいる間にも、幻覚から覚めた生徒たちはいっせいに蜘蛛へと攻撃を仕掛けていった。
「くっ! 気持ち悪いんだよ!」
「ははっ、北都の言うとおりだな!」
 虫嫌いな北都は遠くから『ヴォルテックファイア』で、ソーマは『奈落の鉄鎖』で、それぞれ蜘蛛に攻撃を仕掛ける。
「よーし! 私も頑張っちゃうんだから!」
「そうだね。生徒会の仕事もあるし、さっさとやっちゃおう!」
 北都を援護するように美羽も『ヴォルテックファイア』を放ち、その隙にコハクが『真空波』で蜘蛛の足を断つ。
「まったく、ただ学校に行こうとしただけだってのに、面倒かけさせんじゃねえっての!」
 そう愚痴りながら、唯斗は光条兵器で蜘蛛の身体を切り裂いていく。
「っ! ガラン! そっちの二人は頼んだぞ」
「了解した。……まったく、貴殿らは」
「ふ、ふふ……つぐむ様ぁ〜、もっと強く縛って……ふ、ふふふっ」
「んふふ……つぐむちゃ〜ん……私、可愛い奥様だってぇ〜……えへへっ」
 蜘蛛の退治につぐむは向かい、未だ幻覚から抜け出せないミゼと真珠の二人を、ガランが抱えて、戦線を離脱していった。
「セレアナ! 連携で一気にいくわよ!」
「ええ。貴方には、指一本、触れさせたりしないわ!」
 お互いの動きを知っているようにセレンとセレアナのコンビは動き、蜘蛛の攻撃をかく乱した。
「ああ、もう! 本当に皆、世話が焼けるなぁ、もう!」
「……うへへっ、雅羅ちゃぁん」
「むにゃむにゃ……ハグハグ、うーん、やわらかーい」
「んー……この指に吸い付くような感触が、気持ちぃ」
 ひとり何とか幻覚から抜け出した夢悠に引きずられ、瑠兎子とアスカ、祥子の三人はそれぞれが雅羅へのセクハラ的寝言を呟いていた。
「ほら、ダリル! 早く、蜘蛛退治よ!」
「……なぁ、ルカ? 気のせいか、ものすごく頬が痛い気がするんだが?」
 心なしかヒリヒリする頬をさすりながら、ダリルはルカルカに言われるがまま、蜘蛛のもとへと向かっていく。
 生徒たちの攻撃を受け、蜘蛛もそれなりのダメージを受けていた。
 このままなら勝てる。誰もがそう思ったその時だった。
「――その討伐、ちょっと待ったぁあああああああっ!」
 突然、そんな声が響く。
 何だと皆が視線をそちらへ向けると、そこにはドクター・ハデス(どくたー・はです)が立っていた。傍らには、アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)の姿もある。
「その蜘蛛は我々『秘密結社オリュンポス』がいただく!」
 そう告げると、決まったとばかりにハデスは白い歯を輝かせる。あまりの突然の登場に、周囲にいた生徒たちも、あの巨大な蜘蛛まで硬直していた。
「ククク、パラミタ大蜘蛛(仮)よ! 貴様を元にして、この天才科学者、ハデス様が、怪人蜘蛛男を作り出してみせ……ぎゃああっ! な、何をする、パラミタ大蜘蛛(仮)よ!」
 そう告げた次の瞬間、ハデスの周囲に攻撃が殺到した。
 蜘蛛からの攻撃はもちろんのこと、何故か先ほどまで蜘蛛を攻撃していた者たちからまで攻撃を受ける。
「ぐ、ぐぐっ、おのれぇ! こうなれば、……暗黒騎士アルテミスよ! 蜘蛛を生け捕りにするのだっ!」
「わかりました。ご主人は下がっていてください」
 そう告げ、アルテミスが前に出る。剣を構え、コホンと咳払いし、生徒と蜘蛛の両方を見る。
「双方、ここは剣を引いてください。この争い、このアルテミスが騎士の名にかけて預からせていただき……きゃああっ! な、なんで、両方私を襲ってくるんですかっ?!」
 そう告げた次の瞬間、アルテミスの周囲にも攻撃が殺到した。
 当然、蜘蛛も生徒たちも攻撃してきている。
 一瞬にして敵が誰だかわからなくなり、森の中は騒然となった。