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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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     ◆

 あぁ、成る程。と、狐樹廊は誰にともなく頷いた。どうやら彼は一人、廊下に出てきているらしい。そして違和感を覚える屋上に、自らの式神を向かわせ状況を探っていた。
そして理解する。「これは恐らくまずい物だ」と。だからふらふらと数回頭を揺らし、病室内に残っているリカインを呼んだ。
「何? 何か変な物でもあったの?」
「えぇ。変な物ではありませんが、気になる物が少々。手前は確認へ向かおうと思います故、リカイン。あなたはこの建物内の皆に退避勧告を」
 別段、焦りの様子はない。が、そう言い残すと彼女に背を向け、彼は淡々とその場を後にする。
「ちょ、ちょっと! まだ危険だって決まった訳じゃないんでしょ!?」
「さぁ、それは手前にはわかりませぬ故――ご自身で判断をば」
 薄らと笑みを溢し、彼はそう言い残して完全にリカインの前から姿を消す。
「どうしたの? リカインさん」
「何やら大声をあげていた様でしたが……」
 狐樹廊に向けた声を聞き、心配したさゆみとアデリーヌが病室から出てくると、彼女に声を掛けた。
「いや、なのね。なんかその……私のパートナーがさぁ、なんていうか、不吉な事を言ってどっか行っちゃったもんだからさ」
「不吉な事?」
「もしもの時の為に、病院内の人に避難する様誘導しといたらどうだ、ってね……でも、そんな事あるはずないと思うんだよね。それに、なんの根拠もないのにそんな事言えないし……」
 考え込むリカインを前に、二人も共に考え始めた。これからどうすべきなのか。何か確認するための手段はないのか、それを考える。
「どっちにしても、此処にいるのは不自然な気がするの。病室で話しましょう。皆もいるから、意見聞けると思うし」
「ですわね、まずは戻りましょう? リカインさん」
「うん、そうする……」
 二人に連れられ、彼女は病室の中へと戻って行く。

 時を同じくして、病院内で退路を確認している面々。三階を見回っていた昴、天地は、エヴァルトに声を掛けられる。
「すまないが……この病院の中で何か怪しい物を見てはいなかったか?」
「……いえ、まだ特に」
 昴が簡潔に返事をすると、エヴァルトは「そうか」と呟いて踵を返した。と――。
「貴方も何かをお探しなので御座いましょうか?」
「え? あぁ。そうだな……何かこう、心配なんだ。ある人の見舞いに来たんだけど、どうにも胸騒ぎがしてならない」
「胸騒ぎ……ですか」
「あぁ。まぁ実際のところ、ちょっとその人とあってな、居づらいから出て来たってのの方が、多いかもしれん。それに、その人とはそこまで長々と話す間柄でもないしな。だから安全を確かめる程度、だが見回っているんだ」
 エヴァルトの返事に、二人は顔を見合わせた。
「あの……一応気になるところはあるので御座いますよ。貴方がご所望の物かは存じ上げませんが、怪しい所が一箇所――」
「怪しい、所?」
「屋上…。屋上に何かがある事は、間違えない、はずです……」
「屋上か、ありがとう!」
 二人に礼を述べ、彼は屋上に向かう為に踵を返す。
「あっ! お待ちください! 一人で行っては……っ!」
「此処の階の避難経路……わかったから、彼の後を、追いましょう……。一人では、危ない……!」
 昴の言葉に頷いた天地は、エヴァルトの後を追って走り始める。三人が向かう先は、狐樹廊と同じく屋上。

「よし、これで確認は終わったな。なんだ、一人一階を担当すればこんなに早く終わるのか。この病院、もっと広いかと思ってたけど案外そうでもねぇな」
 静麻が一人呟くのに対し、武尊は入念に確認作業を繰り返している。
「静麻殿。我ら、案外ナイスなコンビに成れるかもしれんな」
「あぁ、確か一か月前も一緒だったよな。どうやら、お互い考える事は似てるらしい」
 言葉の途中から静麻が笑う。
「そうだな。と、そうだ……これは静麻殿に話しても仕方がないのだが、我は昨晩、夜食を買いに来たのだ。なのに、何故それが何処かに消えているのやら……」
「夜食? あぁ、すまんな。それは俺にもわからんよ。っと、なんだ? 向こうの方からでけぇ声がするが……」
 静麻、武尊が耳にしたのは、遠く、ウォウルの病室前から叫んでいたリカインの声。首を傾げ、そちらの方へと歩いて行ってみる二人は、そこで狐樹廊の姿を見つける。
「あれ、あいつも確かこの前いた……」
「どこに行くのだろうか……階段を上っている様だが……」
「はぁ……何だかきな臭くなってきたぜ? よし、ついて行ってみようぜ」
「承知した」
 二人は狐樹廊の後を追う。既に昨晩の事は聞いている静麻と、昨晩の出来事を体験している武尊は、屋上に何かがある事を知っているのだ。狐樹廊がそこへ向かうと言う事は何らかの関わりがあるか、そうでないとするならば彼の身が危ないのである。二人は狐樹廊に気付かれない様、彼の後ろをついていくのだ。