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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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過去という名の鎖を断って ―愚ヵ歌―

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 4――『ルッキング・フォー・ユー 〜愚者ハ鳴(哭)ク〜』



     ◇

 私は何処の誰でもない。
 私は何処の誰でもない。

 私はあなたが決めるもの。
 私はあなたの決めるもの。
 私は多くの人から出来て 私は大勢の意志の上に生きる。

 ごめんね、ごめんね ごめんなさい。

 みんな仲良く――居れたら良いな。
 みんなで楽しく 笑えるかな。
 だから私は 生きている。

 どうぞ 忘れないで。
 例え私を 忘れても。
 私はみんなが、大好きだよ――。



     ◆

 琳 鳳明(りん・ほうめい)藤谷 天樹(ふじたに・あまぎ)。二人はとある洋館の前に立っていた。
開かれっぱなしの鉄格子。それを見上げながらに。
「うん、此処……だよね」
「……(海の話だと、ね)」
独り言にしか聞こえないそれは、しかし会話と言えば会話と言えるものだった。精神感応での会話は、大体においてこういう類の者になる。なってしまう。
「よし、行こう」
 鳳明の言葉に頷いた天樹。彼女に続いて彼は洋館の敷地内へと足を踏み入れた。
「でもさぁ……これで良かったのかなぁ」
「(何が?)………」
「だってさ、ラナさん。ボロボロだったよ? 冷静に考えればウォウルさんだって仕方なく、とは思うけど、でもさ……その……あんな事になっちゃって、パートナーにあんなにあっさりされちゃって、今回調査に協力して貰うのって、違う気がしてきたんだよね」
「(自分で言い出した事でしょ)……」
「そうなんだけどねぇ。でもさでもさ、やっぱり色々あるけど、結局のところは自分でそれを認めなきゃいけない訳じゃない? だからいい機会かなぁ、って、そう思ったんだけど。それにね、やっぱり封印されてた本人に聞くのが一番早い気がするし」
「(確かにそれはそうだね)」
「うん、早くこの事が終われば、ラナさんもウォウルさんと仲直り、出来そうな気がするし」
 離しながら歩く二人は、漸く見えてきた建物を前に足を止めた。
「……話には聞いてたけど、ラナさんってこんなに凄い御屋敷に住んでたんだねぇ……」
「(うん。門から玄関まで結構かかったよ?)」
「うん! 決めた! もしもラナさんが『いいよぉ』って言ってくれたら、この事解決したお祝いを兼ねてみんなでお泊りパーティなんて良いかもね!」
「(提案、してみるだけしてみれば?)」
「うん!」
 そんな会話をしながら、二人は扉の隙間から建物の中へと姿を消した。

 その建物の中。懸命に紙と睨めっこを続けていたカイナは、そこで表情を明るくして顔を上げた。
「リャック! 出来たぞ! なんだー、結構上手に描けたぞー! 今見せに行くからなー」
 どういう原理なのか、両手も両足も使わずに、彼女は自らの体全体でもって大きく宙へと跳ね上がると、大事そうに絵を抱えて着地した。含み笑いを浮かべながらにラナロックへと近づいていくカイナは、しかしそこで動きを止めた。
「誰だ?」
 誰も立っていない、姿さえ見えない何かに向かい、彼女は声を上げる。
「大丈夫、貴女に危害を加える人たちじゃないわ」
 ラナロックの言葉の後で、二人のいる部屋の扉がゆっくりと開け放たれる。
「ラナさーん、お邪魔しちゃったよー」
「…………」
 それは先程彼女の家にやってきた、鳳明と天樹。二人は徐々にカイナとラナロックに近付く。が、ラナロックの姿をはっきりと見た彼女は思わず足を止めた。
「え――。ラナさん、あれから一か月経ってるんだよ? 何でまだ、その恰好のままなの?」
 右腕はない。両足もない。特徴的な三つ編みは解かれたまま。そんな姿を見た鳳明は、何とも辛そうな声を放つ。
「……いらっしゃい。今日はどういった御用?」
「……その」
 自分の考えていた状態ではないラナロックの姿を目の当たりにし、自らの提案を述べるのに躊躇いを覚え顔を背ける鳳明。、
「いや、あのさ……ラナさんにちょっと、協力して貰いたい事が……あるんだ、けど」
「遺跡……よね」
「うん」
「あそこは嫌よ。あそこは嫌い、面倒事はもうたくさん。面倒は嫌」
 淡々と、特に感情もなく、彼女は言い放つ。
「で、でもさ! ラナさんがどういう過去を持っているか、私たちは入り込めないかもしれないけど、でもさ! 貴女が解決しなくちゃいけない事だと、私は思うんだよね」
「無理よ。向き合いたくないし、向き合う意味もない」
「それでもさ……早く解決させて、またみんなで笑いあおうよ……こんな状況、私だって嫌だよ。私だけじゃない、きっとみんなも望んでない」
 天樹とカイナは、二人の会話を静かに見守っていた。特に口を挟むでもなく、ひたすらに。
「……私に何をしろっていうの?」
「そんな――……しろ、だなんて言ってないよ。良かったら、その、道案内くらいしてくれれば……凄く助かるなって…」
「嫌」
「……だよね、嫌だった……よね。ごめんね、なんかその……うん。やっぱり帰るね。私たちだけで何とか、するよ――ごめんなさい」
 肩を落とし、鳳明は踵を返した。ラナロックに背を向けた。ラナロックはただただ黙って瞳を閉じ、カイナと天樹は、その場から動かない。何も言わず、ただじっと、動かない。
「リャック。確かに俺はお前と遊びたい。でもさ、リャックはリャックで、やらなきゃいけない事、あるんじゃないのか?」
「…………」
「お前もだぞ! 折角リャックの為にと思ったんなら、そんなところで引き下がっちゃ駄目だ! リャック、行くぞ!」
「嫌よ」
「駄目だ」
「嫌」
「リャック!」
「………何で、何で私なんかの為にそんなに気を回すの? 何故私の為に……」
 彼女の言葉に静まり返った部屋の中。微かに何かが聞こえた。スケッチブックに、マーカーが滑る音。そしてそれは、天樹のところから発生している音源。

『皆、君の事を友達だと思っているから』

 天樹の手にあるスケッチブックが、ラナロックの方へと向けられる。
『友達が悲しんでいるのに、それを黙って見過ごせる人なんか、いないでしょ?』
「友達……」
 彼女の言葉に、天樹は頷いた。
「(鳳明。連れて行くよ。此処で諦めちゃ駄目だ。ラナもきっと、心の何処かでそれを望んでいるんだよ)」
「天樹……」
 振り返った鳳明の視界には、磔にされているかの様なラナロックが、小さく体を震わせ、涙を溢している。
「ラナさん……行こうよ。私たち、友達じゃない」
 ラナロックは返事をしない。ただただ小さく、泣くだけだ。



     ◇

 むかしむかしの、ずっとむかし。

きらわれもののおとこのひとが、ひとりでくらしていました。

おとこのひとはいいました。

「独りは辛い。独りは悲しい」

けれども、おとこのひとはひとりぼっち。へんじはかえってきません。
おとこのひとはなきました。ずっとずっとなきました。そのときです。

「泣くのはおよし、泣くのはおよし」

きれいなおんなのひとがやってきて、そういいました。
おとこのひとはなきやんで、おんなのひとにいいました。

「独りは辛い。独りは悲しい」
「知っている、知っているとも。だからもう、泣くのはおよし」

そういって、おんなのひとはおとこのひととくらすようになりました。
おんなのひとがやってきてからは、ひとりぼっちではありません。
ちかくにすむひとたちがたくさんやってきました。おとこのひととおはなしをして、まいにちおまつりさわぎです。

おとこのひとはもう、ひとりぼっちではありません。



 なかよくくらしていたおとこのひととおんなのひとでしたが、あるひおんなのひとはいいます。

もう貴方は独りではない。だから  しは、   とにしよう

そういって、おんなのひとはおとこのひとのところからいなくなってしました。

  おとこのひとはひとりぼっちではありません。
  おとこのひとはひとぼっちではありまん。

けれど、おとこのひとはかなしくなって、またなきだしてしまいました。

ずっとなきつづけるおとこのひとをしんぱいしたひとたちは、おとこの  をはげましつづけます。

おとこのひとは たくさんの 「ありがとう」 を いいました 。
       とは     の 「   」を   ました 。
        ひとを しんぱいした     の ひとたちは   まし 。
         のひとは しんぱいした     の ひとた を     した


とこのひとは ―― おんなのひと に あいたかったのです。
お     は、そのきもち   て たく        うを    ました。
お     に  たお    うを  たくさ 、  さん     た。


   な、ま  、  いでできた   ンギ ウ。