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古代の悪遺

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 scene3 Concentrated fire  



「何とか無事みたいね」
 
 通路の奥へと、英虎が消えていったのを見届けて、リオはふうっとため息を吐き出した。
「……安心はまだ早いです」
 こちらはまだ戦闘の真っ最中なのだから、と軽く咎めるようなフェルクレールトの声に「わかってるわ」と苦笑を返しながら、リオは未だにエネルギーの底を見せない、黒い脅威を見やった。

 白竜たちの連携によって、既にその足は八本から五本にまで減っている。
 だがそれで機動力が落ちるかといえば、移動能力こそ鈍ってはいるようだが、最大の武器であるレーザーの稼動範囲を考えれば、認識速度の落ちないセンサーが残っている状態では、脅威はまだ減っているとはいいがたい。
「やはり、そろそろセンサーを潰していった方がいいだろうな」
 そう提案したのは、ジェファルコンに乗る閃崎 静麻(せんざき・しずま)だ。リオ達と互いに交代するように、メインコントロールを担当するレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が、付かず離れずといった距離で守護者の周りを旋回し、和輝達からのデータも加味しながら、その反応速度を量っている。
「脚部を損傷したことで、攻撃のパターンが更に絞られてきてる」
 これなら、と静麻は言うが、その巨体の上部に設置されたセンサーを狙うのは、地上型の機体にはやや荷が重いだろう。
「ここは私たちの出番でしょ」 
 天学生の面目躍如といきましょう、とリオの呼びかける声に、同回線を通じて返って来たのは、「当然」という短くも心強い、仲間たちからの声だった。
「的を絞って、ひとつずつ落とした方がいいぜ。ばらばらに動くとパターンが複雑化しちまうからな」
「それはいいが」
 既に敬一達と狙撃行動を行っていた乱世が言うと、歯切れが悪い声で言ったのは静麻だ。
「センサーへ直接攻撃するとなると、最悪正面から真っ向勝負になるぞ」
 一撃で破壊できれば良いが、そう易々とはいくまい。そうなると、攻撃を与えた時点で優先の切り替わったセンサーとガトリングが正面を向くだろう。機動力の高いジェファルコンであっても、無傷とはいかないのは明らかだ。
「まあ、シールドを張りながらならいけなくはないだろうが」
 四つあるセンサーに応対するのに、一度の破損が大きくなるのは避けたい。その言葉に「それはこっちで何とかしよう」と名乗りを上げたのは真司だ。続いて{ICN0003887#シュヴァルツ}の操縦席からグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)も参戦を表明する。
「タイミングを合わせて、一気に屠るぞ」
「足止めでは満足なさいませんか」
 らしいことです、とエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)がその横で薄く笑う。本来のメモリーカードの姿で機体に繋がったロア・キープセイク(ろあ・きーぷせいく)が「問題ありません」と機体の状態を見て答えた。
「勝算は十分にありますよ」
「サポートは私とロアにお任せを。ご存分に食い散らかされませ」
 そんなそれぞれのやり取りのあと、細かい通信と共に散開する。

 まず、動いたのは真司だ。
 突入時と同じく、高速機動で一気に守護者との距離を詰めると、センサークラッシャーでセンサーの一つに障害を起こさせると、続けて丁度真逆の位置にシュバルツがワープで移動すると同時、20ミリレーザーバルカンでセンサーを狙い撃つ。
「今よ、フェル!」
「いくぞ、レイナ」
 ターゲットがシュバルツに移ったタイミングを見計らって、リオと静麻が声を上げると同時、二機のジェファルコンが、左右から守護者に向かって急降下した。
「……ね、狙い撃つぜ?」
 初撃はリオのメイクリヒカイト‐Bst。
 降下と同時に、障害を起こしているセンサーに向けて、フェルクレールトが狙いを定めるスナイパーライフルが火を噴いた。違わずセンサーのど真ん中にヒットしたが、破壊には至らない。
「次!」
 だがそれにも怯まず、追加攻撃で2撃目。全く同じポイントへ弾丸を叩き込むと同時に、ターゲットを向けさせたまま通り抜けざま急上昇すると、今度は逆方向からレイナがジェファルコンを急降下させて、守護者との距離を縮める。互いがクロスして機体を交錯させたつ魏の瞬間。静麻がその引き金を引くスナイパーライフルもまた、同じポイントに見事に命中する。
 三撃を集中的に食らったセンサーは、流石にその衝撃に耐え切れなかったのか、バキン、とその表面に大きな亀裂が走った。
「内部の露出確認、エンド、今です」
 それを見逃さず、ロアが瞬時に弾き出した座標へと、エルデネストが機体を転送させる。
 障害を修復し終えた守護者のアイセンサーが最後に見たのは、自身の破損部分へと真っ直ぐ突き立てられるシュバルツの新式ビームサーベルの光だった。
 

 バヂバヂッと不快な破壊音と共に煙を上げるセンサーに、一同が確かな手ごたえを感じ、次へと目標を定めようとした、その時。
「認識がアイセンサー頼りなら、下手に全部壊してしまうのは危険な気がする」
 そう危険性を指摘したのは、ヴェルトラウムの操縦席でエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)だった。
「敵が認識不能になった時の対応ぐらいありそうだしな。最悪、自爆でもされたらことだ」
 その指摘には、確かに、と同調する声が上がる。
 守護者との名前が、安全を守る者という意味であれば、施設を破壊しかねないような行動はしないだろうが、その多脚砲台、という形状から考えるに、守っているのは「兵器」の方だろうと推測できる。となれば、その守護者が最後に行うことといえば、兵器を「敵」に奪われないための行動である。
「そうだよ、なんだか変形しそうだしさ」
 ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)が言葉を添えるように言ったが、こちらはそっと横に置いておかれる。
「兎も角、武装にしろセンサーにしろ、全部を潰すのは止めておいた方がいいだろうな」
 自爆や、暴走の類を起こされれば、制御室や通路側等にも影響が及ばないとも限らない。それなら、最低限センサーと武器は一つずつは残しておいた方が良いだろう、と結論付け、エヴァルトは「だがまあ」とほんの少し口の端を笑みの形にした。
「まだセンサーもガトリングも、レーザーも残ってるんだ。壊し足りないってことはないだろ?」
 通信の先で、不敵に笑う声がいくつか重なる。
 エヴァルト自身もまた同じように笑みを深めると、操縦桿を握りなおした。

「行くぞ、ロートラウト!」
「うんっ」
 



 激しく入り混じるイコンの攻撃によって、じわりじわりと守護者の戦力が削がれている、そんな戦場の只中。
 やや引いた位置で行動する者達の姿があった。

 そのうちの一人。
 上空にて、アイオーンを駆り、巧みに回避しているのはシフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)だ。レーザーの配備位置から、上空なら届かないだろう、というミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)の読みは正鵠を射ていたようで、上空を飛翔している限り、ガトリングの射程から外れれば、そのまま次の攻撃目標へとターゲットが変更されるらしい。今も、天井近くを旋回しているアイオーンに、銃口が向けられる様子は無い。
 だが、そうやって避けるばかりで、肝心の攻撃に参加出来ていないことに、シフは僅かに唇を噛んだ。
 勿論それは技量の問題ではなく、自分たちの役割を考えた上での行動だが、仲間たちが果敢に戦う姿を目の前に、エネルギーを温存し続ける、というのは、なかなかに辛いものがあった。
「私たちの出番はまだ先よ」
 もどかしげな様子のシフの心情を察するように話しかけてきたのは、魔鎧の状態をした四瑞 霊亀(しずい・れいき)だ。
「エネルギーを消費しすぎないように注意して。最後の最後で動けないんじゃ、意味が無いわ」
「わかってるわ」
 そうは言うが、やはり心がはやるのは抑え難い。
「唯斗が動くまで、待たないと……」
 殆ど自分に言い聞かせるようにして呟き、シフはぎゅう、と掌を握り締めた。
 


 そして、もう一方。
 響く幾種類もの激しい戦闘音からやや離れ、守護者ではなく、ロビーと動力室とを貫く大きな六本の柱の周りを旋回する機影ひとつ。
 騎沙良 詩穂(きさら・しほ)セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)の乗るイコン、Space Sonicは、比較的ゆっくりと、何かを探すような動きで、柱すれすれを舐めるように飛びながらその表面を観察していた。
「随分と頑丈そうだけど、何とかいけるかな」
 呟くような誌穂の声に「恐らくは」とセルフィーナが答える。
「全推力を空裂刀へ注げば、守護者と同程度の強度とは言え、破壊は不可能ではないはずです」
 二人が目を付けたのは、ロビーを支える六本の柱の位置だ。
 巨大な柱は地上から地下へ、動力室へと続いている。その柱を、動力室に向ってボタンを押すように沈めようというのだ。
「フレイム・オブ・ゴモラ……空京を破壊させはしません」
 誌穂は空裂刀を構えると、柱に向かって突撃体制をとる。
 空京には、シャンバラ宮殿――誌穂にとっての大切な存在がある。何があっても、破壊させるわけには行かないのだ。そんな決意を込めて、全推力でもって、空裂刀を柱の頂上部へと叩き付けた。
 大きな激突音を立てる。強固な柱の表面が、簡単には破壊されずにミシリと音を立てながらも抵抗する。だが、それしきのことでは、誌穂の意思は止まらない。

「アイシャちゃんの願う平和なパラミタのために5000年前の因果をここで絶たせて頂きます!」

 


 彼女らのこの行動が、後に何をもたらすのか。
 まだこの時は、誰も知る由は無かった。