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古代の悪遺

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scene3 Malicious arms 

 


「ソドムとゴモラを滅ぼした天の炎か……面白いね」

 一方で、皮肉混じりの言葉を面白げに呟き、唇を笑みの形に引き上げたのは、黒崎 天音(くろさき・あまね)だ。
「成熟した文化っていうのは、堕落の裏返し……とでも言いたいのかな」
 傲慢なことだよね、と言葉と裏腹に楽しんでいる節のあるパートナーに「よさないか」とブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)が小声で諌めたが、天音は構わず手近な制御装置の表面をなぞっていく。
 地球の機械とはその見た目や構造を異にしているが、どれが何か判る程度には共通点を感じさせるのが興味深い。
「探求や知識、利益に利便性……そういう欲求の先で、行き着く先は皆同じ、ってことかな」
 囁くような独り言は、毒を含んだような声色で、聞いた者の心をざわざわと粟立てるような響きがある。だが、同時につい耳を傾けてしまう、そんな声だ。
「なら、それを求め続けた繁栄の先に待つのは退廃。そして神の怒りに触れて滅亡――……と言うわけだ」
 そのために作られた兵器、というなら、なんだか納得してしまいそうだねえ、と続く言葉に込められたものに、気付かないブルーズではなかったが、諦めたようにため息をついて首を振った。
「すまない。没頭するとその……所構わなくなる性分なのだ」
 謝罪の先はクローディスだ。よほど不謹慎だ、と言いたかったろうところを飲み込んだらしいのに、クローディスは苦笑して「いや」と首を振った。
「退廃と堕落は悪徳だ。神の怒りに触れて滅びを迎えるのも、無理からぬ話だ」
 その言葉に、天音とブルーズは意外そうに目を瞬かせた。
 厳しいとも言える態度や言動から、正義感の強そうな印象のあるクローディスが、肯定的な意見を返すとは思っていなかったからだ。その表情からそれを悟って、クローディスは口の端を上げるようにして笑う。
「創造主たる神であれば、そういう権利もあるだろうというだけだ」
 その意思によって生み出されたものなら、その意思によって滅ぶのも致し方ない、と、妙に達観した意見を口にしつつ「だが」とも続ける。
「これは人が作った兵器だ。その意思は、神じゃない」
 人が自ら作ったものにつける名前としては、傲慢も良いところだ、と。
 吐き捨てるように言うクローディスの横顔に、ふうん、と天音は目を細める。そして、話題を変えるように「ところで」と口を開いた。
「君達は何を目的とした調査団なんだい?今時政府の許可も無く団体での遺跡調査は出来ないでしょ」
 その僅かな口調の変化に気付いてか、クローディスが片眉を軽く上げる。その表情の変化も見逃すまいと、天音もまた目を細めると、正面から視線をぶつけあった。
「最初から”兵器の危険性”を把握していたみたいだしね」
 都合が良すぎるのではないか、と。その視線の意味は疑念だ。それを受け止めながら、ふう、とクローディスが複雑な息を吐き出した。
「危険性を把握していたわけではないが、可能性はある、と認識してはいた」
 がしがし、と短い髪の毛をかく仕草は、少々面倒くさがっているようにも見える。
「依頼者から、一応注意するように、とは言われてたからな」
 その言葉に、天音が首を傾げた。
「依頼?」
 単語を捕らえての質問に、クローディスは簡単に頷き、それからごそごそと懐を探って、れっきとした名を持った調査団である証明を見せてから、「調査団というよりトレジャーハンターに近いかな?」と軽く笑った。
「所属を持たず、いわくつきの遺跡を調査して回ってる。これでもそれなりに、成果は上げているんでね、だからたまに、依頼を受けることもある。例えば――教導団からも」
 口にされた依頼の出所に、ん、と天音は一瞬考えるように口を閉ざした。
「どういう内容の依頼を?」
「大したことじゃない。いつも通り、記録にない遺跡が見つかったから調査して欲しい、って内容の依頼だ。ただ……」
 そこで、クローディスは何とも言えない顔で視線を制御室の外へと向けた。
「依頼主が先日の天災で発見されたここの入り口が、嫌な感じがする、と言うんでね。気にはしていた」
 元々良くある遺跡の内の一つに過ぎなかった遺跡だ。兵器がある、という可能性は限りなく低い、と思われていたのである。まさか「個人的な勘」で軍を動かすわけにもいかなかったために、無所属であるクローディスたちに依頼をしてきた、ということらしい。
「結果的にその勘は正しかった、というわけだ。まさか起動してしまうとは、流石に思ってはいなかっただろうが」
 その説明に、なんとも言えない表情の理由を悟って天音も思わず苦笑を浮かべる。
「本当に、それだけなのか?」
 それでもまだ疑いを晴らせていない様子で問いかけたのはブルーズだ。だが、それには答えず「これ以上は私の一存で話せることじゃない」とクローディスは苦笑した。
「それは、そうだろうね」
 これ以上は追求しても無意味そうだ、と天音は質問を打ち切って、視線を正面の巨大なガラス張りの窓の向こうを見やる。


 天よりの炎の名を持った兵器が木霊させる、低く重いその作動音は、まるで地の底から巨大な獣が唸り声を上げているかのように、不吉なものを孕んで制御室に響いていた。