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古代の悪遺

リアクション




 5:Hurry up 


scene1 Dances with Arms 
 


 制御室で厳しい状況が続いている中、中央ロビーでもまた、激戦が続いていた。
 ガガガガッ!と、ガトリングの重音が響き、四方八方の壁面で弾けて赤く火花を散らし、それが鳴り止まぬ間もなく、レーザーが床を這うようにして光線を描いていく。
 もう何度それが繰り返されたのか、壁面が頑丈で崩れる心配がないのが幸いとさえ言って良いほどだ。
「あの出し惜しみの無さじゃ、エネルギー切れを待つ間にこっちのエネルギーが切れそうだな」
 攻撃を巧みにかわしながら言ったのは敬一だ。連携を取る和輝が「全くだ」と相槌を打つ。
「かと言って、無視するわけにもいかないしな」
「ううー」
 唸ったのは和輝のパートナー、アニス・パラス(あにす・ぱらす)だ。
「さっきからやってみてるけど、ハッキングは上手くいかないよぉ」
「腐っても軍用か」
 独立しているシステムは、ハッキング防止の意味もあるのだろう。外部からのアクセスは無理なようだ。

「しかし、嫌な形だねえ」
「ああ。全く、厄介なものを蘇らせてくれたものだ」
 パートナーの世 羅儀(せい・らぎ)に、苦い声で言ったのは、叶 白竜(よう・ぱいろん)だ。
「安易に動力源を入れるとは、どこのどういう調査員だ。一体何を考えている」
『まあまあ。どこの調査団かはもうわかってるし、一概に彼らだけ非難も出来ないよ』
 通信の先で、天音が苦笑する気配があった。宥めるような口調に、更に「だが」と愚痴が続こうとした、その時だ。
『その「どういう調査員」の所属する調査団リーダー、クローディスだ。それに関しては、少し言い訳をさせてもらいたいな』
 クローディスの苦笑する声が混じった。
『我々も素人じゃない。兵器の危険性は承知していたが、だからこそ、まさか電源を入れただけで稼動するとは予想外だったんだ』
 本来兵器は厳重な安全管理がなされている、という前提がある。重ねて、制御装置を調べるにも電源を必要としていた背景がある。
『起動させるまでに手順を必要とするのが、こういう大型兵器の鉄則だが、これは”あえて”手順を極端に省く設定になっていたようだ』
 緊急性の必要な兵器だったのか、他に別の理由があるのかは、定かではないが。
『他の理由、というのは少し気になってるところだよ』
 クローディスから天音に通信が戻り、面白がるようだった声が僅かに冷たいものが混ざりこむ。
『確かに制御装置に異常はあるみたいなんだけど、これ程しっかりした施設で、肝心の制御だけがおかしい、ていうのは不思議だろう?』
 ふむ、と白竜も一瞬考えるように眉を寄せた。確かに気になるところではあるが、推論以外は今のところしようが無い。天音ならその手のことは何か情報を掴んでくるだろう、と白竜は思考を放棄して操縦へ意識を戻した。
「そちらは任せる。こちらはこちらの仕事をしなくては」
『任せるよ』
 短い通信を終えるのを待って、羅儀が「そうそう、あのデカブツの相手が先だよな」と、先の白竜の言葉に同意するように言った。
「で、どうする?」
 方針を求めるように尋ねるパートナーの言葉に、白竜は一瞬黙る。目的、目標、優先事項。それらは明確だが、単身で攻めるのには何処が有効か。そんな一瞬の諮詢の隙間で、教導団の通信回線が音を立てた。
「火力を削ぐ必要がある」
 会話に割り込むようにして通信を寄越したのは敬一だ。
「このままじゃ、回避にばっかりエネルギーを取られちまう。攻撃手段を減らせば、それだけ楽になるはずだ」
 それに、と、後を受けて白竜も口を開く。
「万が一、ということもある。制御装置が故障していた事から見て、この守護者が暴走する可能性も否定できないでしょうね」
 今は、恐らく内蔵されている防衛システムの通りに動いているが、それがもしも暴走したら。ロビーの範囲を越え、制御室、あるいは施設外までその攻撃目標を変えたら。ゼロではない可能性に、白竜は自分で口にしながらも眉を顰めた。
「ですが、ガトリングは兎も角、あのレーザーの破壊は厄介ですよ」
 上部に備わっているガトリングは、装甲は兎も角としていくらか露出しているが、下腹部のレーザーは多脚が邪魔になって狙い辛いのだ。その指摘は敬一も同感といった様子で「ああ」と短い同意と共に、白竜とほぼ同時に結論を口にした。
「「先ず、足だ」」



「行くぞ、佐野!」
「ああ」
 敬一の通信に応えて、和輝がスカイファントムで守護者に接近する。スラスターユニットによって機動力の増した機体は、接近と同時に攻撃を加え、ガトリングが向くや否や一気に離脱する。その間に、カタクロフトの一人、白河 淋(しらかわ・りん)が、接近と同時に守護者に向けてワイヤクローを射出した。それを足に引っ掛けて守護者に張り付き、至近距離から武装を破壊しようというのである。だが。
「……くっ!」
 足に引っ掛けるところまでは成功したが、巨体を支える足は、サイズの小さなパワードスーツの体を容易く振り払ってしまう程のパワーがあった。多脚という利点を生かし、絡みついた足だけを振り回すその勢いに、何とか淋がワイヤーを外すと、コンスタンティヌス・ドラガセス(こんすたんてぃぬす・どらがせす)がその投げ出された体を抱え込んで支えた。
「大丈夫か?」
「ええ、何とか」
 短い応答をしながら、守護者からの攻撃を受けないうちに、すぐに散開して攻撃範囲内から離れると「張り付いて破壊というのは難しそうですね」とレギーナ・エアハルト(れぎーな・えあはると)から通信が入ってきた。
「解析、完了です」
 他のカタクロフトの面々とは違い、レギーナはあえて前線へ出ず、柱の陰に隠れるようにして守護者を観察し、和輝の上空からのデータも合わせてパターンの分析を行っていたのだ。
「思考は単純で、行動のパターンは少ないです。ですが、その分パターンへのシフトが早いですね」
 パターンを見誤れば危険だ、とレギーナは続ける。
「それから、あの多脚は、速度や本体の支えのため、というより行動の柔軟性の獲得のためのもののようで、一つ一つにかかる負担は、実際のところあまり大きくはなさそうです」
 最悪、バランスさえ取れれば三本でも立つだろう。その推測に「ということは」と会話に割り込む者があった。
 レギーナと同じように、隠れるように自らの機体、バイラヴァを潜ませていた乱世だ。グレアム・ギャラガー(ぐれあむ・ぎゃらがー)が事前に施した迷彩のおかげで、殆ど影と一体化して見える。
「一本一本の強度は、余り無いかもな」
 特に、あれだけ自由に動かせているのなら、関節の装甲は甘いはずだ。乱世の口元が引きあがり、にいっと好戦的な笑みが浮かぶ。
「どうせなら、削ぎ落としちまおうぜ」
 そんな勇ましい言葉を合図に、ドンッとスナイパーライフルが火を噴いた。
 途端にターゲットがバイラヴァに移ろうとするが、そのタイミングで今度は敬一がワイヤクローを守護者の足へと引っ掛けた。もちろん、先と同じく守護者は足を振り回して敬一を振り払おうとしたが、その動きを逆に利用するように、勢いに逆らわずに機体の離脱と共にワイヤーを伸ばし、柱に引っ掛けるようにして旋回する。そのまま柱の周りを、遠心力でぐるぐると回ると、ワイヤーの引っ掛けられたままの守護者の足が、引っ張られるようにして数秒鈍る。
 その、数秒で十分だった。
「今だ」
 グレアムの言葉を引き金とするように、バイラヴァがスナイパーライフルの引き金を引く。
 一発、二発、三発。
 伸びた関節、装甲の継ぎ目の僅かなその隙間にそれは違わず吸い込まれ、バヂィッ! と嫌な音を立てたのと同時、白い煙があがって、明らかに守護者の足が沈黙した。
 そして、更にその瞬間には――
「もらった……!」
 動きを乱され、行動を次の基準へ移行させる、パターンの一瞬の隙間。それを縫うように、高速で接近した白竜の黄山が、そのアックスを振り下ろしていた。
 ガギンッ! と鈍い音が鳴り響く。乱世の狙撃によって弱くなっていた関節の接合部に食い込んだ刃は、そのまま内部を食い破り、爆発音を伴いながら、その黒い足を切り落とした。
 ズズン、と音を立てて床に落ちた足が、ロビーを震わせる。
 だがそれは同時に、契約者たちの心も、奮い立たせる音だった。

「よし、次ッ」