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 2:Inrush 



「あれが情報にあった機晶ワームか……」

 現場へ到着した契約者たちは、調査団と共に入り口を覗き込んで呟いた。
 元々の遺跡が倒壊したらしい瓦礫の向こう、明らかに材質の違うその入り口の向こうでは、不気味な赤い光を目に宿したワーム達が、まるで水槽の中の魚のように動き回っているのが見て取れる。入り口からざっと見ただけでも、相当な数が配備されているのが判った。
 だが、だからといって立ち往生している場合ではない。こうしている間にも、中では最悪の事態が今も進行中なのである。
「先手必勝、こちらを感知される前に、外から道を開きましょう」
 そう言って、御凪 真人(みなぎ・まこと)名も無き 白き詩篇(なもなき・しろきしへん)が駆る、パラスアテナ・セカンドが皆の壁になるように入り口へと出ると、ワームの探知範囲外ぎりぎりに陣取ると、銃口を真っ直ぐに向けた。
「中央を薙ぎ払って道を作ります。タイミング合わせて、よろしくお願いします」
 その言葉に、皆が突入の大勢を取るのを確認した瞬間、真人の放ったミサイルポッドが通路に飲まれ、派手な爆発音を上げる。
「次、正面を確保します!」
 その音とも止まぬ間に、二撃目。レーザーマシンガンが、入り口付近にいたワームたちを屠っていく。マシンガンの轟音が響くたび、次々とワームが破壊され、一時的にはあるが正面のワーム達の戦線を押し下げていく。
「敵前衛部隊、後退を確認した。突入を開始する」
 その隙を見逃さずに、声を上げたのは相沢 洋(あいざわ・ひろし)だ。声と共に、洋の操縦するシュトルム・ブラウ・イェーガーが、破壊されたワームを押しのけて、真人の広げた道へと突入する。
「これより、こちらは機動砲台となり、突入経路を延長する」
 真人の作った突破口から、継続して集中砲火を浴びせることで、強引に奥まで押し広げようというのだ。
 その傍で「好きですよ。そういう派手な作戦」と鈴を鳴らすような声で言ったのは乃木坂 みと(のぎさか・みと)だ。
「隠密作戦も好きですが、派手にストレス発散できます」
 そんな無駄口も一瞬。すぐに表情を切り替えると「火器管制、武装制御機構、完全に問題なしです」と機体の状況をパートナーへと伝える。頷いて、洋はレーザーバルカンを構えた。
「目標、飛行ワーム!」
 洋の宣言と同時、バルカンが火を噴いて、真人の開いた道の更に先を開いていく。
「とにかく攻撃を当て続けるぞ。イコンを壊しても構わん。この作戦、内部突入部隊がシステムを管理下におけば勝利だ!」
 その意気込みを示すかのような激しい銃撃に、爆音が通路に木霊し、一瞬視界を白く染める程の火花が弾ける。だが、そんな砲火を受けても、頭部の残る機体はまだある程度動けるようで、前方を粗方早々し終えると、アサルトライフルで障害になるだろうワームを定めて攻撃を集中させる。


 そうやって、二組の派手な砲火によって押し開かれた突破口に、パワードスーツを着た大洞 剛太郎(おおほら・ごうたろう)は、待機していた他のメンバーを振り返った。
「今です、道が塞がらないうちに、一気に突破するであります!」
 皆はその言葉に頷くと、それぞれ突入のために剛太郎の後に続いて行動を開始した。
 制御室へ向かうチームは、ワーム達に対峙する者たちと違って殆どが生身だ。それを守るのが自分の任務と自負する剛太郎は、先を急ぎながらも、ルートを見誤らないように意識を研ぎ澄ます。
「出来るだけ固まってください。途中で距離が出来るのは危険です」
 そう言って、駆ける足は止めず、隊列を整えるたえに殿についているのはソフィア・クレメント(そふぃあ・くれめんと)だ。前後を固める形で、隊列から遅れるものがいないかどうか、こちらに向かってくるワームがいないかどうかと気を配りながら侵攻していたが、契約者たちにはそれぞれ、身体的な能力差がある。当然、付いてこれる者とそうでない者が、じわじわと分かれ始めつつあった。
(余り遅れが出るようなら、足がある者に同乗してもらった方がよさそうでありますね……)
 そう、剛太郎の意識がほんの一瞬逸れた、その時だ。
 格納庫から新たにずるりと這い出たワームが、上から襲い掛かろうとしていたのだ。
「剛太郎さん……!」
 ソフィアが青ざめた顔で叫ぶ、その声すらかき消すように、轟音が響いた。
「……っ」
 その、一秒後。
 咄嗟に頭を庇った剛太郎が、恐る恐る目線をあげると、ワームの胴体が、壁に張り付くようにしてのたうっている。
「危なかったあ」
 大きく安堵の声を漏らしながらの、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)の声がその頭上から降ってくる。見れば、彼女の乗る
ラーン・バディが、高速移動で体を割り込ませ、ウサ耳ブレードでワームを横合いから突き刺したのだ。
「え、援護感謝するであります」
 ひとまずの安堵に胸を撫で下ろした剛太郎だったが、その頭上では、体の中心にブレードを突き立てられながらも、まな板の上の魚のようにまだびちびちと動こうとしている。
「しつこいなぁ」
 レキはむう、と嫌そうな顔になる。
「確実に片付けるには、頭を潰すしかないようだのう」
 サブパイロットのミア・マハ(みあ・まは)が、そんなレキをよそに確認するように言うと、今度は眼下の剛太郎たちに向けて声をかけた。
「さ、早う離れい。ぐずぐずしておっては危険じゃ」
「ここはボク達にまかせて、早く先へ!」
 続くレキの言葉に背中を押される形で、剛太郎は「了解」と強く頷くと、制御室へ向かうメンバーを連れて先へと急ぐ。

 そんな剛太郎達の後に続き、機体を走らせたのは、猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)だ。剛太郎達を追うように、再び格納庫から姿を現そうとするワームの間にバルムングを滑り込ませると、ぐるりと機体を反転させて、立ち塞がるように機晶ワーム達に向き直る。
「ロールアウトしたばかりの機体で、何処までやれるかわからないが……」
 言いながら、操縦桿を握り締めると、両手のダブルビームサーベルで構えを取る。それとほぼ同時に、ワームが襲い掛かってきたが、機動力はバルムンクの方が上だ。泳ぐように動きの捉えづらいワームも、襲い掛かってくるときはその攻撃基点が定まるものだ。そのタイミングを見計らって振り下ろされたサーベルに、ワームはあっさり頭を潰されて地面へと崩れ落ちた。
「……テストには丁度良いぜ」
 その性能と操作の具合に、満足げににっと笑みを浮かべながら、強気な様子の勇平に、パートナーウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)も力強く頷く。
「機体の動作チェックは私が務めます。勇平君は全力で戦闘に集中してください」
「おう。頼んだ」
 頼もしいパートナーの言葉に頷きながら、勇平は次々と格納庫から姿を現すワーム達に切っ先を向ける。
「いくら出てこようが、全部ぶっ潰せば関係ないよな?」
 細めた目が、好戦的な色を宿す。
「こっから先は通さねえぜ!」