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リアクション
■イコン部門・個人戦 終盤戦
――着地点の整地が終わり、競技の再開が宣言されました。イコン個人戦は残り四組となり、どの選手も演技開始までの時間をどのように過ごしているのか、気になるところではあります。
さて、そんな実況席には特別ゲストに来ていただきました。天御柱学院の校長であるコリマ・ユカギール(こりま・ゆかぎーる)さんです。コリマ校長はテレパシーによる会話が主体になるため、その言葉は脳内に直接聞こえる感じですが、会場の皆様およびテレビの前の皆様は慌てないようお願いします。――というわけでコリマ校長、よろしくお願いします。
(うむ、よろしく頼む。こういった晴れの舞台に何らかの形で参加できるのは実に喜ばしいこと。少しの間しかいれないが、楽しませてもらうとしよう)
……かなり広範囲のテレパシーでしょうし、あまり無理はしないでくださいね? 一応、テレビ局側のほうで負担を軽減するための手回しはしているそうなので大丈夫だとは思いますが。
――さて、コリマ校長を迎えての十一番目に登場するのは、蜂須賀 イヴェット(はちすか・いう゛ぇっと)選手とマラク・アズラク(まらく・あずらく)選手が搭乗するアピス・レジーナです。アピス・レジーナはイーグリットのイヴェット選手専用機とのことですが。
(その通りだ。女王蜂の名を冠した彼女の専用機であり、外装を大幅に改修してあるようだな。そして、イーグリットは天御柱学院、そしてパラミタにおける第一世代のイコンだが、その機能性はいまだ健在。他の機体に引けを取るつもりは毛頭ない)
自身の学院で研究されたイコンだからこそ、それほどの太鼓判を押せるわけですね。では、競技開始地点のほうを呼んでみましょう。ヴィゼントさーん?
「ヴィゼントだ。こっちじゃイヴェット選手がやたら気合を入れてるようだ、ちょっとインタビューしてみようか。――イヴェット選手、かなり気合が入ってるようだが、意気込みを聞かせてくれ」
「ええ、いいわ。前回のろくりんピックじゃ東シャンバラが勝利したんだから、今度は私たち西シャンバラが絶対に勝利を掴むつもりよ。そのために、今回は二十年くらい前に地球で販売してたペアで飛ぶスキージャンプのDVDを見たりして、ばっちり予習してきたんだから!」
「はは、そいつはまたボンバーな内容の予習をしてきたんだな。しかし、アピス・レジーナの衣装も結構決まってるな。赤の特注レオタードに、赤いスキー板……とことん西シャンバラのシンボルカラーに合わせてきたようだ。さぁ、そろそろ競技開始だぜ、ボンバー!」
ありがとうございました。校長、何か応援の一言があればどうぞ。
(わかった。――イヴェットとマラクよ、天御柱学院の生徒として、そして西シャンバラの一員として恥ずかしくない演技を見せよ。期待しているぞ)
「ええ、もちろん!」
コリマ校長の激励も入り、より一層気合を高めたイヴェット選手とマラク選手。アピス・レジーナに乗り込みいよいよ滑走開始となります。黄と赤が交じり合った女王蜂は、どのような華麗な演技を見せるのか!?
滑走を始め、これといったテコ入れもなく踏切台まで滑り……危なげのないジャンプ! 高度は望めませんが、安定したジャンプだと思われます。勝負は空中での演技か。……お、これはムーンサルトでしょうか! 高度を落としていく最中、二回宙返り……いや、さらにもう一回宙返りを入れた三回宙返り一回ひねり! 全体的な動きを見ても、体操競技を意識した華麗な演技を披露しています!
(ふむ、どうやらあれはフルムーンサルトと呼称しているようだな。宙返りの時に発生する残像が丸い形に見える。機動性に優れたイーグリットならではの動きだが……何よりも、あの演技には執念にも近い勝利への渇望がひしひしと感じとれる)
勝利を掴みたいと願うその思いが、演技に華麗さと力強さを共存させていく! 最後はそのまま、綺麗な形で無事着地! まさに空中を舞台とした体操の床演技のようでした!
(全身からあふれ出す情熱がこちらにも伝わってきた。実にいいものを見させてもらった)
コリマ校長も満足の演技だったようですが……得点はどうなるのでしょうか。さぁ、得点が出ましたが――50点。思ったより伸びませんでしたね。おそらくは技が少なかった点で得点が引かれたと思われます。滞空時間が十分にあっただけに、少し残念です。
コリマ校長は学院のほうに戻られましたが、こちらはまだまだ競技続行です。続く十二番目のイコンは、エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)選手、ロートラウト・エッカート(ろーとらうと・えっかーと)選手、そして殺戮本能 エス(さつりくほんのう・えす)選手ら三人が動かす、ヴェルトラウムです。しかしキャンディスさん、見たところ機体に乗っているのはメインパイロットのエヴァルト選手とサブパイロットのロートラウト選手しかいないようですが……?
「エス選手は奈落人ナノヨ。彼らが本来棲んでいるナラカ以外だと誰かに憑依しなきゃ生きていくのが苦手らしくテ、今回必要な時になったらエヴァルト選手に憑依するようネ。その辺りが演技にどう盛り込まれてるノカ、楽しみダワ」
奈落人、ですか。となると、エス選手の動向も気になるところですね。さて、選手インタビューのほうはどうなったでしょうか?
「こちら競技開始地点だ。さっきエヴァルト選手にインタビューしたところ、『魅せる種目である以上、審査も大事だけど何より観客を大切にしたい。その辺りに注意して演技する』といった旨のコメントをもらえた。どうやらその辺りにも注目したいところだな!」
ありがとうございます。さぁ、競技開始の時間となりましたが――おっと、ヴェルトラウムが開始地点のところで一礼しています。これから競技に臨むための通過儀礼でしょうか。ところでこのヴェルトラウムですが、どういった機体なのでしょうか?
「エヴァルト選手が発見したというこのヴェルトラウムは、性能等を見るにS−01に一番近いワネ。S−01自体、異界から漂着した機体らしいシ、非常に未知数な部分が多いことには違いないワ」
異界の機体、ですか。それはなかなかに興味が惹かれますね。さて、ヴェルトラウムが滑走を開始しました。先ほど礼儀正しく一礼をし、丁寧な名乗りを述べてからの滑走となりましたが……ほどほどの加速を保ったまま、ジャンプ! スキー板を着けていないようですが、どうやら足の裏を似たような状態に加工してあるため、スキー板とほぼ変わらない状況。さぁ上昇を始めんとするヴェルトラウム、ジャンプの瞬間にアッパーポーズを決めながらのジャンプをし、上昇しつつキレと臨場感あふれるシャドーを繰り広げています!
そのまま最高高度に達しようとしていますが――おおっと、ここで変形! 機体サイズに似つかわしくないバックパックが変形し、全身に装着され赤くなった! あれは高熱によって発生した赤色か!?
――今入った情報によりますと、エス選手がエヴァルト選手に憑依することで、あのように変形するようです! 禍々しくも赤く熱い魂を持った機体、それがヴェルトラウムの真の姿であるヴェルトラウム・エスだ!
雪を解かさんとする荒ぶる熱い魂を解放したヴェルトラウム! 下降を開始するとともにそのシャドーも荒々しいものへと変わっている! パイロットがエス選手に変わったことで、そのスタイルも違うものへと変貌したようだ!
もうすぐ着地だが……これはぁっ! かのバイク乗りのヒーローがとどめの一撃としてよく使うあの飛び蹴りだ! その飛び蹴り姿勢のまま、滑り込む形で大胆着地成功! 放熱で周囲の雪が解けてる気がしないでもないが、気にしたら負けだ! そしてビシッとポーズを決めてフィニッシュ!
……おっと、どうやら憑依が解除されたのかヴェルトラウムの変形が解除されていく。そして、演技を終えたからか律儀な一礼をして演技の終了を伝えたようだ! ――あっと、メインスクリーンの様子がちょっとおかしいですね……って、ロートラウト選手が映りました!?
「みんな、見てくれてありがとー!」
……メインスクリーンは元に戻ったようですね。どうやら、直接コックピット内を映せるように細工でもされてたのでしょうか。さて、そんな中でも得点が出る模様です。得点は60点、高度がそれほど高くなかったという点を除けば、おおむね好評の演技でした。礼儀を忘れぬ心にも評価がついたようですね。
残すところあと二組。競技開始地点ではヴィゼントさんの選手インタビューが行われているところです。それでは呼んでみましょう、ヴィゼントさーん!
「こちらヴィゼントだ。ちょうど今、綺雲 菜織(あやくも・なおり)選手と有栖川 美幸(ありすがわ・みゆき)選手に演技のことを聞いていたところだ。それによると、どうやら今回応援席にいるっていう久我 浩一(くが・こういち)さんの助力を得て、今回乗るイコンを改造してもらったらしい。残念ながらどんな内容までかは聞けなかったが、でかい注目点ではあるようだ!」
なるほど、ありがとうございます。キャンディスさん、菜織選手たちが今回乗るイコンの形式不明移動販売型車両・牛丼号ですが、ようやく出たかという感じがしますね。
「輸送用トラックをジャンプに使う、というのもこの競技では普通にありダカラ、これは面白くなりそうヨ。どのような改造を施されたのか、そこも注目ネ」
ええ、非常に楽しみです。そしてどうやら、アキラさんたちが牛丼号を競技開始地点まで運んでいる途中、アリスさんがチラリと見えた情報によると、牛丼号の中に三つのスイッチが備え付けられていたらしいとのこと。これが改造の秘密なのでしょうか、まったくもって気になるところです。
さぁ、滑走開始。牛丼号、フルスロットルでエンジンをふかせて最大加速でジャンプ台を突っ切る! そしてその勢いのまま、高く高く飛んだ! 牛丼トラック、空を舞う!
助手席に乗る美幸選手、その表情は諦観のようにも見えなくない! そんな中、牛丼号は音響設備として搭載してあるソニックブラスターから音楽を流し始めながら、縦やらななめやらと無差別回転! 音楽乱舞を周囲に見せつけつつ、そのまま第二の技か牛丼号の機体がさらに無秩序に回転! あまりにも現実とかけ離れている無茶な演技! だがこのスキージャンプはそれを受け入れる!
そろそろ高度頂点まで到達しそうな牛丼号だが、ここで菜織選手が美幸選手に指示を出し、青いボタンを押させたようです。さぁ何が出てくるか――おおっと、ノイズ・グレネードが発射されました! そしてそれが破裂し……発生したパラミタ線の光が、虹色に輝くろくりんの輪を描くように連続して形になり、牛丼号の背景を際立たせる! これには観客の皆さんも驚きを隠せていない様子! 浩一さんはこの様子を見ながら、『こんなこともあろうかと!』と言いたくて仕方がないのかもしれません!
背景にはろくりんピックのシンボルマーク、それを背に菜織選手は扉を開けて箱乗り状態になっては片手を天向けて上げ、観客たちへアピール! そしてそのまま加工を開始すると、再び菜織選手は運転席へきちんと座り、空中でスピンを起こさせて勢いある横回転! 菜織選手は楽しそうだが美幸選手の顔がどんどん青くなっているように見えます!
そんな中でも美幸選手、緑のボタンを押してサポートするが……出てきたのは、ミサイルポッド! そこから大量のミサイル……ではなく、花火だ! 花火が発射され、輪を描くように大きめのろくりんピックシンボルマークが空に浮かぶ! スピンしながらの発射で、空中のいたるところにシンボルマークが浮かんでいます!
しかし……おそらくですが、美幸選手はボタンを押し間違えた感じがしますね? 今の花火が先ほどの演技に押されていれば、もっと綺麗に魅せれたと思えます。とはいえ、真実は闇の中かもしれません。
――さぁ、そうしているうちに水平安定を保ったまま、スピン状態からのドリフト着地! 雪を撥ね散らかしつつも綺麗な着地を決めた! そして、美幸選手は最後のサポートとばかりに赤いボタンを押したっ!
……おっと、トラックの後ろ側が開いてミサイルポッドが真上を向き出しましたね。そして、運転席のほうではなにやら慌てふためく美幸選手に引っ張られる形で、二人がトラックから出てきました。――よく見ると、運転席のモニターにカウントダウンが!? これはあれでしょうか、自爆スイッチと呼ばれるものでしょうか!? 危険かもしれません! 近くにいる観客の方は離れていただくようお願いします! ――ああ、カウントがゼロに!
…………。あ、あれ? 牛丼号、爆発せずに天に向かって花火ミサイルを発射しただけのようです。どうやら爆発はしない模様です、なんとはた迷惑な自爆スイッチなのでしょうか! おっと、どうやら菜織選手と美幸選手が観客席から去ろうとする浩一さんを見つけたようですね。……追いかけていきました。これは予想ですが、浩一さんはボコボコにされそうな気がします。
さて、そんな騒ぎの中でも得点は出た模様です。その得点は……55点! どうやら最後の自爆スイッチ騒ぎで少し減点された様子です。それに、キャンディスさんの指摘通り、ボタンの押し間違い疑惑が得点にも影響したものと思われます。……それにしても、浩一さんの安否が心配されます。
――さぁ、着地点の軽い整理が終わったところで、いよいよイコン個人戦最後のエントリー選手の登場となります。ヴィゼントさん、そちらの様子はどんな感じでしょうか?
「こっちは今までにない緊張感だ。イコン個人戦のトリを務めるだけあって、レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)選手とミア・マハ(みあ・まは)選手の準備も念入りだな。特にミア選手は他の選手のジャンプをモニタリングして、その計算データをレキ選手たちのイコンであるラーン・バディに入力しているところのようだ。演技内容は完全極秘、ただ『イコンは戦うだけが性能じゃないから、それを見せたいの』と言ってたぜ。トリを飾るだけにその気合は十分だ、どんな演技になるか、非常に楽しみだ!」
レキ選手の気合の入れようがわかりますね。ラーン・バディはキラー・ラビットとのことですが。人型よりは安定性がありそうですね。
「動物型は四足の安定性が強みネ。見た目の可愛さもあるシ、意外にスキージャンプに向いている機体かもしれないワネ」
なるほど、ということは高得点の機体も持てますね。さぁ、準備も整い滑走が開始されるようです。ニンジン型のスノーボードに乗り、機械ウサギが空へ飛び立とうとしております!
――おっと、スタートと同時にラーン・バディがミサイル発射! どうやらミア選手の判断で撃ったようですが……それを気にすることなく、ラーン・バディ滑走! 『加速』を使い、ぐんぐんスピードを上げてそのままテイクオフ! しかし、このままだと先ほど撃ったミサイルにぶつかってしまう!
……おおっと、ミサイルが割れた! ミサイルが上空で割れ、中から――セーラー服! セーラー服が飛び出した! そしてそれをラーン・バディが『高速機動』で回転しながら装着! これぞまさに早着替え! ――着替え終わり、見事にセーラー服を身に纏ったウサギの完成だ! 耳部分をツインテールのように垂らす、芸の細かさ!
『必殺ジャンピングうさうさからの――月に代わって、お仕置きよ!!』
スピーカーから声を張り上げ、頂点でビシッと美少女戦士のポーズを決めた! 四足だからか、ポーズはあまり決まってないように見えるが、そこはウサギ本来の可愛さや見た目でカバーだぁっ!
ビシッと決めたあとはとにかく安定性を求めた下降! その様子はまるでニンジン隕石! そのまま四足の安定性を見せつけつつ――綺麗なフィニッシュです! ……っと、勢いを殺し切れず壁にぶつかりそうになるがそこはキャロリーヌが確保して事なきを得たようです。勢いのあるぶつかりに、キャロリーヌも少しばかり心動かされたか。
なかなかいい結果を残せたのではないでしょうか。個人的には技が少なかったのが多少気になりますが……おっと、得点が出た模様です。得点は――これはすごい、75点だ! 可愛さアピールや空中早着替えなどが評価された模様、これは高得点です!
――さぁ、イコン個人戦はこれで全員飛んだことになります。この次はイコン団体戦。数が多い分、技のバリエーションも多くなると思われますが、キャンディスさんはどう見ますでしょうか?
「イコンの数が多いから、迫力ある演技を見れそうネ。まだまだ面白くなるカラ、ひと時も目を離さないようにしてネ!」
はい、ありがとうございました。このあとは、整地作業が終了次第イコン団体戦の模様をお送りします。それでは、CMをどうぞ。
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