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リアクション
■生身部門・個人戦 終盤戦
――CMも明け、生身個人戦再開となります。残り四組、それぞれどのような演技をするのか非常に楽しみです。
そんな思いの中迎える九番目のジャンパーはクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)選手となります。このクロセル選手、なんと競技開催前に変熊 仮面(へんくま・かめん)選手に対し、宣戦布告をおこなったとのこと。ある意味では熱い対決を見れることと相成りました。
「こちらヴィゼントだ。変熊選手に対抗心をボンバーなくらいに燃やしまくるクロセル選手に話を聞いてみようか。クロセル選手、今日が決戦の日だが意気込みを聞かせてくれ!」
「――こういった『空中で技を決める』という競技には絶対の自信があるんですよ。それはなぜかと言うと、普段から俺は地に足がつかないことばかりしていると噂されてまして、ああ知らぬ間にこういった競技の訓練をしていたんだな、と。それ故、俺がこの競技で負ける道理はありませんよ」
「……ちょっと意味をはき違えてる気がするが、まぁいいか。それじゃあ、変熊選手へ一言お願いしようか」
「彼には負けられません。俺が勝ちます、確実に!」
おお、自信あふれる言葉ですね。クロセル選手の闘志がミシミシと伝わってきます。さぁ、そろそろ滑走開始の時間となります!
「クロセル選手の自信は確かなものヨ。演技内容は不明だけど、こういったお祭りごとでどう魅せてくれるか、楽しみネ」
期待したいところです。さぁ、勢いをつけてクロセル選手が滑走! 滑走はいたって普通、果たしてどのようなジャンプを決めるのか!
クロセル選手、ジャンプ! 空中へ飛び出た瞬間、側方宙返りに横回転を加えたスピン、ロデオを決めると、なにやら爽やかなヒーローっぽい決めポーズをビシィッ! と決めたぁ!
さらに頂点付近で進行方向に対し体軸を真横に倒してのスピンであるバイオを難なく決めると、今度は奇抜なヒーローっぽいポーズ! トリックを決めたらポーズを決めるという、意外に難しいことをやってのけてるぞ! しかし、ポーズを言葉では表現できない感じなのが悲しいです!
さぁ下降を開始したクロセル選手、続けざまに今度は体軸を後ろに傾けた横回転スピン、コークスクリューを決めて――異彩を放つヒーローのようなポーズ! これまた言葉では表現不能な、極めてぶっ飛んだポーズだー!
そして着地は――あ、前方宙返りをしてそのまま着地しましたね。ちょっと期待してしまいました。……そして締めに珍妙なヒーロー的ポーズを決め、高笑いをあげております!
……クロセル選手の演技をご覧ただきましたが、いちいちとっていたポーズはともかく、トリック自体はかなりのものでした。こういうのを残念なイケメン、もしくは三枚目、というのかもしれません。しかし、見ごたえはありました!
さて得点のほうですが――60点のようですね。演技自体は評価がよかったので、高度がもう少しあれば得点は伸びていたのかもしれません。
さて次の選手は――おおっと、これは面白いことになった。十番目の選手は変熊 仮面選手! 先ほどのクロセル選手の宣戦布告を受け取った本人です!
これは競技開始地点が気になりますね! ヴィゼントさん、そちらの様子はどうなってるでしょうか?
「あー……こちらは競技開始地点。すでに変熊選手が準備を整え、すぐにでも滑走できる状態だ。なにやら、クロセル選手に言いたいことがあるようなので、マイクを渡すぜ」
「――あー、あー。マイクテスマイクテス……聞こえているか、クロセル! 同じ雰囲気を持った貴様だけには絶対に負けぬ! ゲレンデの注目は俺様が頂く、そのための秘策も用意してあるのだ! 観客たち、そしてクロセルよ! 美しき俺様のフライト、とくと見るがいい! ……あ、マイクどうぞ」
「――と、いうわけだ。二人の対決がどんな結末を迎えるか、ボンバーなくらい楽しみだ!」
――これはまた大胆なマイクパフォーマンスです。確かにクロセル選手と変熊選手は同じ雰囲気を感じますね。これが俗にいう……同族嫌悪、でしょうか。
「多分違うと思うワヨ。ともあれ、薔薇学のマントで全身を覆い隠してるケド、何が隠されてるのかしらネ。その辺りも注目ヨ!」
……なんか嫌な予感しかしないような気もしますが、いよいよ滑走開始です。変熊選手、どのような演技を見せてくれるのでしょうか。
滑走開始しましたが、特にこれといった仕掛けもせず普通に滑ってますね。そのまま踏み切り台に到達し……普通にジャンプ! これは高度も期待できそうにありませんが……?
「わははははは!! 見よ、これぞ――俺様のフライトォッ!」
おっと、空中へ飛んだ変熊選手、薔薇巾着のように体を丸めて――ああっと! ムササビだ! フィクションの忍者がよくやるムササビの術だ! しかも、その中身は全裸! 風にあおられ、裸体のいt――!
しばらく お待ちください――
――えー、大変失礼いたしました。生中継中にお見苦しい点がありましたことを心よりお詫び申し上げます。
現在、変熊選手は特設会場からかなり離れた所の雪原に頭から突き刺さった状態になっており、スタッフ数名と手の空いていた北都選手が救出に向かっております。
何がありましたかというと、御開帳ムササビ飛行を開始した変熊選手が「いでませい、イオマンテ!」と叫ぶと会場正面のほうにある森林から向かい風が起こり、変熊選手の高度を上げたまではよかったのですが、勢いが強すぎて飛ばされてしまった……といったところです。先ほど、ルシェイメアさんが向かい風の起こった森林まで行きましたら、巨大熊の足跡と無残に倒れていた巨大扇風機だけが残っていた……とのことです。
巨大熊の足跡、ということからおそらくは変熊選手のパートナーの一人、巨熊 イオマンテ(きょぐま・いおまんて)だと思いますが……まぁ、いない以上真相を追求する必要はなさそうです。むしろ闇に葬っておきたいところですが……ともあれ変熊選手、注目は集まったかと思います。
得点のほうですが……本来ならば失格もの、しかし審査員側が「クロセル選手との対決もあるし、まぁ特別に」と得点をつけてくださいました。その得点は25点です。こんな寒い中、裸体でいれたことへの恩情点……といったところでしょうか。
ひとまず、変熊選手の救助の様子は後ほど伝えるとしまして、競技は続行されます。ご安心ください。
――放送事故もありましたが、何とか競技続行です。十一番目の登場は月崎 羽純選手。ダリル選手に無理やり誘われての参加となっております。羽純選手は――
「きゃー!! 羽純くーーーん、がんばってーーーーっっ!!」
……えー、今ヴィゼントさんのマイク越しからどえらい応援声が聞こえてきたような気がするんですが。
「こちらヴィゼント。ああ、その通りだ。羽純選手は歌菜選手の旦那さんだから、一番気合入った応援をしているようだ。今もバァル氏やセテカ氏に打楽器を渡して、楽しく応援してもらおうとしてるところだな」
――というわけで、羽純選手の解説にはバァル氏の幼なじみであり側近のセテカ・タイフォン氏が担当いたします。セテカ氏、よろしくお願いします。
「ああ、よろしく頼む。それにしても、さっきはすごかったな」
……バァル氏にも謝っておいてください。さすがに東カナンの領主に見せれるようなものじゃなかったでしたし。
「大丈夫だ、ちょうどその時バァルは席を外してたから、問題ないよ」
はぁ、それならいいのですが……。それでは気を取り直しまして、セテカ氏は今までの演技を見てこられてどう感じられました?
「どれもこれも個性的で、楽しませてもらってるかな。せっかくの祭典なんだし、楽しまないと損だろう?」
ありがとうございます。羽純選手のほうは準備が整い、いつでも滑走可能な状態ですね。その羽純選手、和装にスノーモービルという結構ミスマッチな組み合わせで来てますね。これは何か意図があってのことでしょうか?
「どうだろうね。羽純は負けたくないって思ってるだろうから、たとえミスマッチな状態だとしても、そこから全力で演技をこなすと思う」
なるほど、となるとこれはかなり楽しみですね。さぁ、競技開始の時間となり羽純選手、スノーモービルのエンジンをフルスロットルだ!
さらに『フォースフィールド』で力場を作っての加速! 見れば『レビテート』も使っている様子だ! 加速と事故対応を両方行いながら、アクセル全開で――ジャンプッ!
上昇するスノーモービル、軌道がずれそうになると逐一『サイコキネシス』で軌道修正を行い、縦にぐるんと一回転! その回転途中で『放電実験』で演出する様は、雷神とも言えようか!
「高さも十分あるし、回転しながらの『放電実験』で電気の玉のようにも見えなくないな。なかなかに痺れる演技を見せてくれてるよ」
電気玉の演出をこなしつつ、着地シークエンスに入る羽純選手! ――あっと、着地の減点を恐れずに『サイコキネシス』『レビテート』で衝撃を緩和しながらの着地となったー!
「羽純くーーーーーーーんっ!!」
VIP観覧席にいるバァル氏やセテカ氏……いや、一番はやはり自分の嫁か歌菜さんに大きく拳を振りあげて応えている! これはいいおしどり夫婦! 観客の一部からはどこか「リア充、爆破せよ」という声が聞こえてきそうです!
セテカ氏、羽純選手の演技いかがでしたでしょうか?
「スノーモービルでああいったパフォーマンスができるというのは本当すごいと思う。俺も今度教えてもらいたいくらいだよ」
ありがとうございます。さて、肝心の得点ですが……あ、出た模様です。その得点は65点! スノーモービルでの参加という意外性と和装とのミスマッチ効果が効いたのでしょうか。しかし着地での減点もされており、伸ばそうと思えばまだ伸ばせた点数ですね。
セテカ氏も解説ありがとうございました。引き続き、お楽しみください!
いよいよ生身個人戦、最後のジャンパーとなりました。最後に登場するのは中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)選手! その身には魔鎧である漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)を纏っております!
綾瀬選手は幼少時の頃からあのように目隠しをされている、とのことですが演技などに影響は出ないのでしょうかね?
「目隠しをしていても全く不自由なく動けているカラ、大丈夫ヨ。個人戦大トリだけアッテ、どんな大技を出すのか、期待しちゃうワ!」
そうですね、期待したいと思います。ヴィゼントさん、そちらの様子はどうなってますか?
「こっちは思った以上に余裕ある空気だ。というのも、綾瀬選手本人が緊張している様子を見せていない、ってのがあるな。綾瀬選手、大トリということでプレッシャーも相当なものだと思うんだが……?」
「問題ありませんわ。東シャンバラ陣営が勝つためにも、緊張している暇などありませんもの。皆様にも、私の放つ“大技”できっと魅了させてあげますわよ」
「こいつぁ自信あるコメントをもらったぜ! それじゃカタリ、個人戦大トリの演技をばっちり期待してくれ!」
わかりました、綾瀬選手の自信を信じましょう! ちょうど滑走開始の時間となりました。いよいよ個人戦最後の滑走です!
フライングボードに乗って滑走を始めた綾瀬選手。体勢を低くしたまま『超感覚』を使うと、動物の耳と尻尾が生える! さらに可愛くなったところで『ヒロイックアサルト』を使った! この効果は――機敏性を上げる雷獣の躍動! 加速がついたところでいよいよジャンプだ! ――おおっと、ジャンプの瞬間に何か発動させたようです!
「アレは『ミラージュ』ヨ。自分の幻影を複数体作るのが主な目的なんだケド……アアアッ!?」
これはっ――! 思わずキャンディスさんが驚くほどの事態! 複数の幻影と共にジャンプし、綾瀬選手が大技とされるダブルマックツイストを披露する中――他の幻影はそれぞれ別々の大技を繰り出しています!!
幻影だからこそできる技! 主のコピーとしてではなく、あくまでも一個体だと主張するかのような別々な大技! そしてなによりも! ドレスのスカートは全くもっての鉄壁! 鉄壁!! 見せる隙を微塵も与えない!!
通常より鋭敏なバランス感覚を『超感覚』でさらに高め、主と幻影は様々な技を成功させる! そしてきっかりと四回トリックを決め、幻影含めて全員が綺麗な着地を決めてのフィニッシュです!
――演技は終わりましたが、審査員席のほうがざわついております。
しかし無理もありません。今は個人戦なので、“幻影を使った複数同時の連続トリック展開、しかもそれぞれが違う技”という今回のケースはどう審査するべきなのかと困惑している模様です。
あ、どうやら綾瀬選手本人にどういうことか尋ねるようですね。どのような返答を返すのでしょうか……?
「『私自身』はルール通りに四つの技しかおこなっておりませんわ。ただし皆様に楽しんでもらえるよう、少々『パフォーマンス』をさせていただきましたが」
――えー、お待たせしました。審議の結果が出たようです。今回の綾瀬選手の演技はあくまでもパフォーマンスの域であり、ルールの抵触や減点行為はしていないと判断されての審査を行うとのことです。
その結果を踏まえた得点ですが……なんと75点です! ルールの穴を突いた大胆戦術、そして『ミラージュ』を用いた様々な大技トリックの複数同時敢行という超大技で、高得点を獲得しました!
「これは驚かされたワネ。最後の最後でとんでもないものが見れテ、とても楽しかったワ〜♪」
観客の皆様もざわついておりますが、これで審査結果は確定となります。
さて、これで生身個人戦のプログラムはすべて終了となります。小休憩をはさんだ後、生身団体戦を行いますので、競技再開までしばらくお待ちください。それでは、テレビの前の皆様はCMをどうぞ。
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