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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 1

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 1

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第11章 2時間目・質問&回答@説明タイム

「小鳥遊 美羽とパートナー、ルカルカのパートナーたち、前の方へ集まってくれ」
 ラルクたちが席に戻ると、実技を行う者たちをラスコットが指名する。
「機械系の魔性を祓うの?」
「今回はそうだね」
「纏めて呼ばれてきたわ♪」
 呼ぶのが大変になってきたため、そう読んだのだろう。
「哀切の章はルカたちに任せようか」
「女の子のほうがいいの?」
「いや、手を緩めやすいようにな。俺たちはそれを見本にするとしよう」
「そっか♪ダリルたちは裁きの章よろしくね。でも、本当にお裁きしちゃわないでね」
「どこの奉行だそれは…」
 いつものお嬢さんジョークに、ダリルがツッコミを入れた。
「私たちが祓う魔性はどれでしょうか?」
「アレだよ」
 今にも大暴れしてその辺を破壊しそうな、ミキサーがケージの中に拘束されている。
「とても危険そうですけど…大丈夫なんですか?」
「スパルタ教育ね♪」
「ルカルカさん、楽しそうですね」
 割とピンチな気がしないでもないのに、にこにこと笑顔を絶やさない彼女に、ベアトリーチェが言う。
「えっ?いつもそんなもんだったじゃない♪」
「まぁ…確かにそうでしたけどね」
「ピンチをチャンスに変えるということだな」
 前の2組よりも厳しい気がするが、これも修練の内だと言い、淵は本を開く。
「実戦はこれよりもっと厳しいと思うの」
「なんとも初っ端、恐怖を与える授業だな」
「生易しい状況ばかりじゃないからな、カルキノス」
「まっ、そりゃーそうだけどな」
「じゃあ魔性を解放するよ」
 更生しきっていない低級の魔性を閉じ込めているケースの扉のロックを解除し、実技用に解放する。
 4枚の刃をグラインダーのように変質させ、金属を削るような音を響かせる。
「コレを壊したらまた他のモンにつくってことだよな?ダリル」
「器部分だけを破壊しても、他のものに憑く危険性があるだろうな」
「ぶっ壊すのがNGだしな。まずはいつを大人しくさせないと…うぉっ!?」
 詠唱しようしたカルキノスに敵の刃が放たれる。
 刃は回転しながら機体に戻り、今度は淵を狙おうと、ドンドンと弾みながら迫る。
「(避けながら詠唱しなければいけないとは…。弓などと違ってなかなかハードだ…っ)」
「敵は1体のようだな」
 ダリルは教室の角に親指を向け、カルキノスにそこへ追い込むように指示する。
 2人の術による酸性雨が魔性を角へ追い詰める。
 淵は先に実技を終えた者の言葉を使用し、詠唱を始めた。
「ルカルカ、魔性が弱ったらタイミングをずらして、術を使おう!」
「うん、最初はお仕置きとして、ルカがちょっとだけ強めにね♪」
 美羽の方をちらりと見たルカルカは、祓うべきものへ視線を戻す。
、裁きの章による雨を降らせた淵が、魔性を弱らせる。
「(イタズラしたらお仕置きなのよ♪)」
「(また暴れたら本当に滅されてしまうわ。お願いだから、いい子になって)」
「(もう、人々を困らせるようなことはしないでください…っ)」
 必要以上に苦しませないよう、3人は光の嵐をだんだん弱めていく。
 憑かれたミキサーは動きを止め、変質させられた形から元の形へと戻る。
「他のやつらの時にみたいに、なんか言わねぇのか?」
「まさか消滅させたのでは…」
「そ、そんなはずないもん!ちゃんと加減したわよ、淵」
「ラスコットさん、魔性はいったいどうなったんですか?」
「まだその辺にいるよ」
「えぇ!?」
 また悪さするのではと、ベアトリーチェたちが身構える。
「わりと反省してるみたいだし、大丈夫なんじゃないかな」
「そ…そうですか。無事でよかったです」
「キミたちの実技は成功だよ。次の人を呼ばなきゃいけないから、いったん席に戻ってね」
「はい!」
 ぺこりとお辞儀をしたベアトリーチェは、美羽と席に戻る。
 ルカルカたちも3列目の座席へ戻っていった。
「機械に憑く魔性かー…。器を変質させて凶暴化するなんてびっくりだよ」
 魔性の力で調理道具が恐ろしいものに変貌するなんてミミにも想像出来ない。
「こちらの常識などは通じないんでしょうね」
「うぅん…。一般的なエクソシストのイメージと、結構違うところがあるんだよね、伊礼さん」
「ところで聖水は不要なんでしょうか?」
「現時点で話に出てこないということは、不要なのかもな」
 聖水も武器に入るとは、ディートハルトも耳にしたことがない。
「滅するわけじゃないし、生かす道に反するからかも…」
 3種類の魔道具のことを考えると、銃や剣といった武器を考える確立は低いだろう。



「ではぁ〜3組目の方を呼びますぅ〜。七枷 陣さんとパートナーの方、緋柱 陽子さん。前の方へどうぞ〜♪」
「オレらも他の人と組むんやね」
 実技の流れからして予想はしていたため、パートナー同士のみということはないだろうと納得する。
「ランダムに指名するって、そういうことじゃない?」
「まぁな」
「七枷さん、実技頑張って!」
 爆睡している壮太の傍らで、ミミが陣たちを応援する。
「んじゃ、さくっといってくるっ。つーか、なんでここに置かれてるんや?」
 リビングアーマーにツッコミをいれつつ、教壇の傍へ向かう。
 無害なため、教室の壁際に佇み、大人しく陽子を見守っている。
「アシッドミスと事態は不得手ではありませんが。実技の様子からして、決め手とはならないでしょうから。最後の対処は頼みますね」
「それにても機械系で統一したんか」
「2つの効果を生かした手段を学ぶだめじゃない?」
「実技のための魔性は全て低級なんじゃろうが。危険物も混ざっていそうじゃな」
 低級とはいえ、凶器を飛ばす者がいきなり相手なのだろうか?とジュディが想像する。
「邪悪な魔性…ですか」
 ふと葛葉の存在を思い出し、陽子がちらりと見る。
「なぜこっちを見ているんでしょうね?」
「葛葉ちゃん、退屈……。何か壊していい…?」
「清明がいるんですから我慢しましょう」
「むぅ…」
「章がないと効力が弱いのでしょうか…」
 まだ祓うための力は得られていないのだろうかと、清明はしょんぼりとする。
「祓ってもらうのはこれですぅ♪」
 エリザベートがケースの扉を開けたとたん、手回し敷きのオルゴールが奇声を上げる。
「うーむ、それも機械部分はあるじゃろうけど…。なぜオルゴールなのじゃ?」
「細かいことは気にしたらいけないんだよ、きっと」
「―…つーか、キシャァアアって言われたんやけど」
「陣くん、いきなり威嚇されちゃったんだね♪」
「(今日のオレは冷静でいなきゃいけないんや。一々反応しないようにしないとな)」
「ほーらほら、おいでー♪」
 トライウィングス・Riesを羽ばたかせ、噛み付こうとするオルゴールを挑発する。
「(隣に立つ事が出来なくて、ゴメンね…)」
 囮になったりするしか手助けが出来ず、寂しさの心を奥底へ押し込める。
「(祈る事しか出来んのがもどかしい。…けれど、祈るしかない)」
 対処が遅れたら彼女が魔性の餌食になってしまうが、焦りは自らの精神力を揺らがせてしまう。
 耐えるのも修練の内だと、哀切の章の祈りを捧げるタイミングを見計らう。
「アレはアンデットに見向きもしなさそうじゃな」
「闇属性の耐性があるとしたら効果も期待出来ないかと思います…」
「むー…。リーズに頑張ってもらうしかないのじゃな」
「そのためにも裁きの章の祈りで、相手の動きを鈍らせましょう」
「うむ、そうじゃな!」
 陽子とジュディは祈りの言葉を捧げ、ぶどう酒のような鮮やかな色合いの赤紫色の雨を降らせる。
 リーズの足に掴みつこうと飛び跳ねていた魔性の動きが鈍り、ドンッと床に落ちる。
「―…汝、闇の道へ歩むなかれ。心疚しきこの者を光へ誘え!」
 祈りの言葉により、オルゴールの中に潜む魔性を祓う。
「―…オルゴールが普通の形にもどったよ!やったね、陣くんっ」
「オレだけだと祈りに集中したりするのは難しかったと思うんや、3人のおかげやね」
「魔性はどこかへいっちゃったの?」
「まだこの教室にいますよぉ〜」
「悪いことしたらまたお仕置きしちゃうからね!」
 リーズが見えない相手に向かって大きな声で言うと、天井の明かりがチカチカと点滅する。
 悪さはもうしない…と、魔性からの返事なのだろう。
「うぅん、上から目線で叱りつけるのはよくなさそうだね。かといって優しすぎる感じなのも、再犯率をあげちゃいそうだし…」
 参考にしようとミミは気になったところをメモする。
「言葉も魔法のように、癒したりも傷つけたることもあるから。言葉選びって大事なんだねー…」
 生かすために祓うのも難しいが、説得するのもなかなか困難そうだ。



 2時間目の実技のラストのチームは、リリィ、月夜、玉藻、由乃羽、明日香、魅音の6人が呼ばれた。
「(章の言葉を、他のものに書いても効果はないのよね…)」
 巫女の力は対応しないと分かり、由乃羽は残念そうに俯く。
「どうしたの?暗い顔をしていると祈りの力が弱くなっちゃうわよ」
「ぇ…うん、平気。(今あるもので対応しなきゃね)」
「決め手は月夜たちに任せてよいな?」
「えぇ頑張るね、玉ちゃん」
「さて…。人数も多いことだし、どこへ追いやろうか…」
 ケースから放たれたラジカセに憑いた魔性を見据えながら考える。
「うわぁあぁっ、耳が!!」
 ジジジッザザザァァアッとけたたましく鳴り響く音に、魅音は耳を塞ごうとするが、両手を使うと本が持てなくなってしまうため耐える。
「音で相談会話を消したり、思考を止めようとしているんでしょうね」
 エリザベートが見てる前で無様に散らないよう、明日香は祈りの言葉を告げ、雨を降らせ裁きを下す。
「くっ、雷術か!?」
 玉藻は足元を狙われ、ステップを踏むようにかわす。
「魔性は時に、皆さんが普段使うようなスキルも使ったりしますからぁ〜。気をつけてくださいねぇ♪」
「そういうことには先に…。くぅ、祈りの邪魔をされて集中できんっ」
「場合によっては、予想外なこともありますからねぇ」
「さすがエリザベートちゃん、生徒のことを思って言わなかったんですね♪」
「下級を相手してるとはいえ、厄介な相手だ」
「6人いる場合は〜、これくらい対処できるはずですよぉ〜」
「(ちゃんと協力しているところを、エリザベートちゃんに見せましょう!)」
 普段はエリザベートを中心に、明日香の世界が回っているのだが、今回は生徒と協力しなければならない。
「相手も1人しか狙えてないみたいだよ」
「もう一度、祈ってみましょう」
 逃さないよう2人がかりで酸の雨を降らし、魔性の動きを鈍らせる。
 ラジカセはジ…ジジジッと壊れたような音を鳴らす。
「(きっと、誰かが持っていたものなのよね…)」
「(私も祈らなきゃっ!)」
 月夜に続けて由乃羽も祈り始める。
「対象に、人の道からはずれし悲しき悪霊に哀れみを…」
 リリィは精神を落ち着かせ、哀切の祈りを告げる。
「神は人の心のなかに。心無き悪霊に神の眼差しは降りぬ。神の眼差し無き悪霊は人にも目を向けられず。注目されたいならば、神はあなたの心の中に」
 “ウゥウゥウ…オォオ……ッ”
 魔性が低く呻くような声を上げる。
「今ならまだ赦されます。さぁ、こちら側へおいでなさい」
 正しき道へ導こうと、リリィが片手を差し伸べる。
 指先に何かがそっと触れた感覚がしたかと思うと、ラジオは元の形に戻り、傷も見当たらない。
「まるで囮のようだったな…」
「でもちゃんと祓えたよ、玉ちゃん」
「むー…」
 術を使うタイミングを逃し、少し不満げな顔をする。
 彼女たちが実技を終えた頃、タイミングよく授業の終了を告げるベルが鳴った。
「あれで下級なのか?」
 エクソシストとは凶器マシーンも祓うのかと、ディートハルトが首を傾げる。
「教師の手を借りずに祓い、生徒たちだけで解決してますし。手ごたえや適度な緊張感のない簡単なものは、実戦に挑んだ時に生かせるか分からないのでは?」
「ふむ、特に怪我もないようだが…」
「ディートさん、恐れの感情を持つなら、エクソシストに向いてないですよ」
「皆、承知の上でということなのだろうか…?」
 深夜のカリキュラムで夜の任務もある、と校長が言っていたのを思い出し、理解しているものばかりなら中身がずいぶんと勇ましいそうだと呟いた。



「今日は色々とタメになったぜ。ありがとうな」
 ラルクはエリザベートたちに礼を言い、ガイと教室から退室する。
「今後も何かと協力しなくちゃいけないし、知り合いがいれば心強いデス」
 授業終了後、近くにいた学生たちに名刺を配り終えたディンスも去っていく。
「家に帰ったら覚えなおしましょうね」
「ぅっ、…分かってるヨ」
「エリザベートちゃん!」
「明日香〜っ」
 2時間目の授業が終了したことで、明日香とエリザベートはほんの一時、引き裂かれる。
「リオン、魔道具の説明とか覚えられた?」
「ちゃんとノートにとりましたり、後で読み直しますよ」
「約束通り、もふもふさせてあげるね」
「ふかふかですねっ」
「ん…少しくすぐったいかも…っ」
 ご褒美に獣耳を触らせてやり、北都は目をぎゅっと瞑る。