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戦え!守れ!海の家

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第2章

 次々に沖へと漕ぎだしたボートの一隻に乗り込んだ大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)は、モンスターに襲われそうになっている少女に、見覚えのあることに気付いた。
「あれは、こないだの、男風呂覗きのやらしい女の子やな?」
 泰輔は、風船屋という名門温泉旅館で清盛に出会って以来、彼女のことを「覗き」と思い込んでいる。男湯に枝を伸ばした木から、昔なじみの讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)に呼びかけた清盛にも非はあるので、誤解されても仕方ないのだが……。
「なんや、あの子が近づこうとすると、魚介類、暴れよるな。なんでや??」
「さあ……なぜであろうな……」
 同じボートに乗った顕仁が、不快そうに眉をひそめる。顕仁にとって、清盛は、はるか昔の保元の乱で敵対して以来、深い恨みをしつこく抱き続けてきた敵のひとりなのだ。
「あ、もしかしたら、あの子が、化けモン魚介類にとっては、弱点というか致命傷になるから、近づくと嫌がって暴れるんとちゃうか?」
「……なるほど」
「よし、あの子でアタックや!」
 とんでもないことを思いついた泰輔は、ボートからボートへと飛び移り、清盛を捕まえて布でぐるぐると巻きにしてしまった。
「な……なにをする! おい、讃岐院! こいつを止めろ!」
 しかし、復讐の機会を狙っていた顕仁が、清盛を助けるはずもない。
「ふふふ、千載一遇の好機とは、まさにこのような時!」
 と、嬉しそうに笑うばかりだ。
「むぐぐぐ」
「こら、暴れるな、自分かて、あのうさちゃんらの為に、魚介類退治したいんやろ? 海の家のうさちゃんたちかわいいよなー。なんとかしてあげたいやん」
 そんなことを言いつつ、泰輔は、ついに、清盛ボールを完成させてしまった。
「よっしゃ!まずは……、『いいわね、いくわよ?』っと、サーブ!」
 パラミタ大タコとパラミタ大王イカの間に投げ込まれた清盛ボールが……、
ドカッ!
 どちらのものかわからないほど絡み合った触手の束に、打ち返される。
「英霊やったら、根性みせてぇやーっ!! そぉーっれっ! もう一回!!」
「え、何するの、泰輔、そんないたいけない女の子を……」
 もう一隻のボートに乗ったフランツ・シューベルト(ふらんつ・しゅーべると)が動揺しまくっているが、泰輔にとって、これは決して、虐待などではない。「清盛は英霊だし、武士の世を作った英雄でもあるから、このくらいのことでは壊れたりしないだろう」と確信しているのだ。
「もう投げるな〜〜って、また、打ち返されてきた〜! 思わず、両腕構えて、レシーブ!」
 泰輔の無茶を止めようとしたフランツだったが、飛んできた清盛ボールを前に、つい、「落としたら負けだ」と思ってしまった。
「もうやめましょうよ!! 清盛ちゃんのライフはゼロよ!!」
 仲間たちの「清盛ちゃんでバレーボール」を止めようと、割り込んできたレイチェル・ロートランド(れいちぇる・ろーとらんと)も……、
「あ、バウンドしてそっち飛んで行っちゃったよ、レイチェル〜〜〜! なんとかしてー!」
 と、いきなり呼びかけられて、大慌て。
「え、え、なんですの? わ、何、フランツさんっっ! 急になんだか飛んできましたが……この高さって……思わず、トス!」
 なんだかんだ言いながら、セッターの役割をきちんと果たしてしまった。
 苦しくったって、悲しくったって、ボールがうなると、それがたとえ清盛でも、胸が弾まずにはいられないのが、年頃の女の子の性……なのかもしれない。
「水面には、絶対に落としません!」
 よくわからない使命感を持っているようだが、やってしまった結果から見れば、泰輔と同類というか同罪である。
「顕仁さん、あとはお願い――−」
「心得た!」
 と、身構える顕仁の全身に、恨みパワーらしきものが漲る。
「清盛! 何故、雅仁に与したかーっ!? 我が無念、思い知り、その身に宿して……飛んで行け、アターーーック!」
 渾身の恨みを込めて海産物たちの真ん中に叩き込んだ清盛が、パラミタ大タコにぶつかって跳ね返る。
ボヨーン!
 飛んできた清盛をキャッチしたのは、御神楽 舞花(みかぐら・まいか)だった。
「英霊とはいえ、小さな女の子に、なんてことを……」
 布を切り裂き、ぐるぐる巻きのボール状態から、清盛を解放する。
「……ぷはあ」
 助け出された清盛は、乱暴に投げられたり打たれたり跳ね返ったりした割には、怪我ひとつなかったが、目を回していた。
「ぐるぐる……うずまき……ぐるぐる……」
 舞花は、エリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)が、「適者生存」でパラミタ大王イカを屈服させた隙に、清盛を庇いながら、岸へと向かった。
 追いすがるパラミタ大タコには、「スナイプ」で命中精度を、「追加射撃」で反応速度を極限まで高めたていたセレンフィリティが、「ライトニングウェポン」で電気を帯電させた上に破壊力を上昇させた弾を、巨獣撃ちライフルで撃ち込む。
「巨大な食材は、あの女の子が離れた途端に、少し元気がなくなったみたいだけど、ホントにあの女の子が弱点だったのかな? もし、あの子が近づくと暴れる……だったら、バレーボールは逆効果だったんじゃ……」
 首を傾げるフランツだったが、今更、そんなことに気付いても仕方ないので、忘れることにした。