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戦え!守れ!海の家

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戦え!守れ!海の家
戦え!守れ!海の家 戦え!守れ!海の家

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 カレー作りが一段落したキッチンでは、桐条 隆元(きりじょう・たかもと)が、イカ、タコ、魚の形に、フルーツを飾り切りしていた。
「わあ、かわいい!」
 のぞき込んだネージュたちが、歓声をあげるが、隆元は澄ました顔のままだ。
「色のついたサイダーが用意してある、ってことは、フルーツポンチを作るのね?」
「さあな、小娘共は、『丸く繰り抜いたり、イカやタコ、魚の形に飾り切りした果物を、色のついたサイダーに入れたフルーツポンチ』のことを、あれやこれやと相談しておったが、マホロバにある宿の仕事でここに来たわしには、関係のないこと」
 そんな見え透いた嘘をつく隆元を手伝っているのは、「野良英霊:赤川元保」。隆元を毛利隆元の生まれ変わりと思い込んでいる彼は、フルーツポンチの材料を用意したことを褒めてほしそうにしているが、隆元の方は、いつものように、無視を決め込んでいる。
 そんなツンデレ地祇の隆元に「小娘」と呼ばれるマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)は、海の見える席に座った舞花に、お手製のメニューを見せようとしていた。
 海の家でよくあるように、オーダー聞いて、会計をして、それから料理を作りはじめると、かなり客を待たせることになってしまう。
 だから、食事をしたい客には、席で「うさうさ」で売ってる食べ物を箇条書きにしたメニューを見せ、さりげなくフルーツポンチをオススメしながら、オーダーだけ先に取ろう、という作戦だ。
「こっちのフルーツポンチとかさっぱりしてて、オススメだよ!」
「フルーツポンチ? めずらしいですね」
「色も、とってもきれいなんだよ」
 モンスターとの戦闘の顛末を御神楽 陽太(みかぐら・ようた)と環菜の夫妻に報告しようとしていた舞花は、メールの最後に、フルーツポンチを注文したことを書き加えた。
 もうひとりの「小娘」、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は、困っていた。
 オーダーを取る時に、自分たちが考えた海の家「うさうさ」の新メニュー、フルーツポンチをオススメしたい……が、引っ込み思案のリースは、知らない人と話をしようとすると、緊張して声が小さくなる癖がある。
「そうだ、自己暗示しておけば、大丈夫かも……『私は、今、マーガレットのボディーガードさんで、マーガレットの命を狙ってる悪い人に、私がボディーガードさんだってバレないように、店員さんのフリをしている』……」
 繰り返し、呟いてから、「うさうさ」の屋内席に座った客に向かう。

 清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)は、ギンガムチェックのテーブルクロスの上で、マーガレットのお手製メニューをのぞき込んでいた。
「メニューに海鮮のカレーと海鮮バーベキューが載っている……ということは、パラミタ大王イカとパラミタ大タコとの戦闘には、間に合わなかったようですね」
「はじめから参加するつもりはなかったから、ちょうどいいよ。戦闘は誰かがやってくれるだろうしねぇ。お客として参加するのも、海の家「うさうさ」には役立つだろう」
「そうですね、イカとタコがすでに食材となっていてよかった。モンスターが居たのでは海に入れませんし、倒すにしても触手プレイが目の前で展開されたら北都の目に毒ですし」
「触手プレイ?」
「あ、いえ、何でも……」
「それにしても、このカレーの匂い、食欲をそそられるね。定番のまずいカレーを堪能しようと思っていたんだけど……『海鮮檄辛うささんカレー』って、おいしいかな?」
「注文してみましょう。私は味音痴なので、チャレンジャー的な物を選ぶつもりでしたし、名前だけでは、分からない物もありますからね」
「じゃあ、僕は定番の焼きそばで。お互い別々のを注文して分け合おう。その方が色々食べられていいからね」
 兄と違ってワガママを言える立場ではなかった北都は、嫌いな物でも、残さず食べる習慣が身についてる。
 例えマズかったとしても、出された物は食べるから、お腹を壊さない程度の物がいいな、などと考えていると、リースが、オーダーをとりにきた。
「『私は、今、マーガレットのボディーガードさんで……』失礼しました、あの、ご注文は?」
 精一杯の笑顔で尋ねるリースに、北都が、にっこりと笑いかける。
「あれ? ここのお店はうさぎさんがやってるって聞いたんだけど。君、アルバイト? 温泉宿でも会ったよね? もし、よければ、一緒しない? 僕が奢るからさ」
「え? ええ? で、でも、その……私は、ボディーガード……じゃなくて、アルバイトで……」
 意外な展開に、リースは、大混乱。
「あ、あの、えっと……ま、まずは、オーダーを……フルーツポンチが、おすすめ……です」
「デザートは、カキ氷を注文するつもりだったけど……フルーツポンチ?」
 北都に聞き返されたリースは、一生懸命に、円を描くように両手を動かし、ジェスチャーで伝えようとした。
「えと、こ、こーゆー丸い器に入ってて…ひ、冷やしてるから、冷たくて美味しいんです!」
「じゃあ、それもオーダーするから、一緒に食べよう。友達も連れてきて。いいよね、クナイ。色んな人と楽しむのも海の醍醐味ってやつでしょ?」
「海で二人きり……とはならないですね。そうですね」
 不満は抱きつつも、北都の頼みを断れないクナイだった。