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リアクション
chapter.1 鉄板三大修行をマスターして、かわいさアップを狙っちゃえ!
得てして、世の中とは何が流行るか分からないものである。
かつて、地球でも森ガールや山ガールなど、不可解なものが流行したことがある。そしてここ空京では今、寺ガールが一部でブームとなっていた。
「あ、あそこが受付かな」
女性に人気と評判の尼寺、Can閣寺(きゃんかくじ)が開く一日お寺体験にやってきた英霊、紫 式部(むらさき・しきぶ)は寺の近くに人だかりを見つけ、足を止めた。
そこはCan閣寺が男女誰でも参加できるよう、寺の敷地外に設置した庵々(あんあん)という庵だった。
草木や竹を素材として作られたその建物は小さく、おそらく中には十人ほどしか入らないであろうことが見て取れた。しかし並んでいる人の数は、明らかにそれを越している。
「……こんなに、モテたい人っているんだ」
自分も今からその列に加わろうとしていることなど棚に上げ、式部は目を細めながら呟く。
時間帯で区切り、何回かに分けて行うのか、それとも先着順で締めきるのか。
あるいは、希望する修行内容によってはここからさらに場所を移すのか。
そのどれなのかは分からないが、式部はひとまず最後尾へと歩を進めることにした。
受付を済ませた式部が、他の参加希望者と共に詳しい説明が行われるのを待っていると、庵々の中からひとりの女性が現れた。
年の頃は二十半ばほどだろうか。ゆるやかに巻かれたブラウンの髪は大人らしさを演出しており、やや垂れ下がった目は男性の保護欲をいかにも掻き立てそうだ。
その女性が、式部たちへと声をかけた。
「わー、こんなに集まってくれたんだ! やばい、あたし今超嬉しいんだけど!」
「……え」
式部は思わず声を漏らした。
「ここ、お寺だよね。聞き間違えじゃないよね」
耳をすませる式部。女性が、次の言葉を放った。
「えっとー、今から一日体験について説明するんだけど、あっ、その前に名前言わないとだよね。なんかこういうの慣れてなくて、緊張してんのかなあ。ていうかみんな暑いよね? ごめんね日陰じゃないとこで。日焼けとかほんと最悪だよねー」
「……」
どうやら、聞き間違えではないらしい。考えてみればこのイベントの告知に書かれた文章もおかしかった。つまりこのお寺が、そういう雰囲気なのだろう。
式部は、あまり深く考えないことにした。
「えっとね、あたしの名前は苦愛(くあい)っていうの。一応副住職やってるんだけど、呼びやすいように呼んでくれちゃっていいからね! で、早速体験の内容なんだけど……」
苦愛、と名乗ったその女性は、一日尼寺体験について軽く説明を始めた。
どうやら体験の中身は、坐禅、滝行、托鉢の三つの中から好きなものを選択するようだ。
「そっか、滝行と托鉢はまた別の場所でやるのね……」
自分はどれにしようか。式部は迷っていたが、よく考えるとどれもあんまりモテに直結しなさそうだなと思い、適当に選ぶことにした。
「これ、意味あるのかなあ……」
式部が溜め息と共に呟く。しかしせっかくここまで来たのだから、やらないのも勿体無い。と、式部のそんな様子をたまたま見かけたのか、苦愛が近寄ってきた。
「あれ、なんだか気分が上がってない感じかな? 女の子だもん、そういう日もあるよね」
ポンと優しく式部の肩を叩いた苦愛は、式部の前にあった申し込み用紙にこっそり何かを書き足した。
「え?」
「おまけおまけ! ほら、細かいこと気にしてると、お肌にもよくないよ!」
そこに加えられた文字は、「フルコース希望」というものだった。
「あ、あの私はただどんなものかなって軽い感じで……」
言いかけた式部の言葉はしかし、苦愛が口元に人差し指を置いて止めたのだった。
「なんか、シボラでもこんなことあったような……」
そこまでやる気がなかったにも関わらず、がっつり授業をやらされた過去を思い返し、式部は目を伏せた。どうも自分は、こういう性質らしい。
「ま、いっか……」
諦めにも似た気持ちで、式部はその用紙を提出した。
どんな修行になるのか。そしてモテ度が本当にアップするのか。
式部の心中は、疑問や不安でいっぱいだった。
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