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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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■逃走経路を確保せよ
 いまだ逃げ続けている翼は、少しでも休息を取るべくショッピングモール付近へとやってきていた。ここにはまだツタの化け物の姿はないようで、街ゆく人が街頭ビジョンの緊急速報を見てそれぞれの反応を示している。
『現在、空京の一部地域に謎のモンスターが出てきております。こちらから攻撃や妨害の意思を示さなければ襲ってくる様子はありませんが、下手に攻撃を加えると種らしきものを周囲に撒き散らし分身体を作るとのことなので、一般人の方はこのツタの化け物には近づかず、安全区域まで一時避難をお願いします。また、このツタの化け物は何かを探しているようで――』
(うわぁ……なんか大ごとになっちゃってるなぁ)
 空京の一部とはいえ、騒動を広範囲に広げてしまったとしょんぼりしてしまう翼。近くにあった自販機で飲み物を買い、喉を潤していくのだが……長い休憩を化け物は与えてくれそうになかった。
「やば、見つかった! ショッピングモールは危ないから――あっちのほうに逃げないと!」
 自分が狙いな以上、人の多い所は避けるべきではあるのだが、一刻も早く教導団の人間と合流して保護してもらわないといけない。そのためには人のいない方向はやはりまずいとは思うが……翼は、他の人の安全を取ることにした。
(こっちなら……!)
 翼は走り、入り組んだ路地へと入ろうとする。が、その時……翼は何者かによってその腕を掴まれてしまった。
「――そっちはまずい。狭く入り組んでるから、囲まれたらすぐに捕まってしまう」
「わ、わわっ!?」
 誰かと思いながら翼が振り向くと、そこにいたのは氷室 カイ(ひむろ・かい)だった。どうやら彼も、この騒動と追われている翼を見て救援に来たようだ。そしてその横には化け物へ攻撃を仕掛けて牽制中の水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)と、『フォースフィールド』を張って追っ手の侵入を食い止めているマリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)の姿もあるようだ。
「公務で空京に来たと思ったらこんな事になってるなんてね。まずは突破口を開くところから、かしら」
「そうなるわね。あたしは後衛型だから……突破、お願いできる?」
「いいだろう、まずは追っ手を片付ける。ある程度片付けたらその突破口から一緒に逃げるか。……たあぁっ!!」
 言うが早いか、カイは《双龍刀【一閃爪】》を抜き、追ってきた数体の化け物へ一閃を仕掛け、応戦する。翼はその様を息を呑んで見守っていた。
 種によって数を増やそうとする化け物だったが、カイはそれに対して『歴戦の魔術』を使って種状態のまま一掃。数が少なくなったのを見越して、すぐに翼の手を引き、ゆかりたちと共にその場から離脱していった。
「ありがとう……助けてくれて」
「――状況が全く掴めないが、助かったなら何よりだ。ここで逃がしてまた襲われてもすぐに助けが入るかどうかはわからない、しばらくは俺たちが傍で護ろう」
 カイからの言葉に再びお礼を述べる翼。しかし、本人としてもなぜ追われなければならないのか……その理由はさっぱりであり、同じく状況を飲みこめていない様子だった。
「えっと……教導団の人に保護してもらえ、ってさっき他の契約者の人に言われたんだけど……それって国軍の制服、だよね?」
「ええ、そうだけど。……保護してもらうにしても、私たちだけじゃどうにもならないから、ひとまずショッピングモールのほうまで戻りましょう。その間に、私が連絡を入れて保護に来てもらうよう連絡を出すわ」
 ゆかりの言葉に翼は頷き、四人は入り組んだ路地を離れていったのであった――。


 ――のだが、敵は全く容赦するつもりはないらしい。ショッピングモール付近へ戻ってきたところでまたしてもツタの化け物たちに取り囲まれてしまった。
「何なのよ……ここに戻ってくるまでに数回は化け物と接触してるし、今度は多数で取り囲んで――まるでビデオストリートの三流SF映画みたいじゃないの」
「だとしたら、脚本も演出も……ついでに、センスも最低ね。それに逃げ回る女の子が泣き叫ぶなんてのがあれば完全にホラー映画なんだけど」
「今時、女の子が泣き叫ぶなんて流行らないわよ。実際、翼は泣き叫んでないし」
「いいから早く検索を終わらせろ! いい加減、少人数じゃ持たなくなってきてる!」
 多数の化け物を相手に、カイが『歴戦の魔術』で応戦し、軽口を叩くマリエッタが『カタクリズム』『サイコキネシス』でツタの化け物に攻撃しているものの、その数を減らすことはままなっていない。ゆかりは別の作業をおこなっており、攻撃には参加できていない。そのため、実質の攻撃要員は二人だけであり、種の処理までに手が回りきらないのか化け物の数が緩やかに増えていっていた。
「――『変身!』! 騎士として魔法少女として、これ以上その店員さんに手出しは許しません!」
「手助けの即決か……歌菜らしいな。こうなったら、助けないわけにもいかないだろう」
 と、そこへ『変身!』を使い魔法少女の姿へとチェンジした遠野 歌菜(とおの・かな)が、月崎 羽純(つきざき・はすみ)と一緒に翼の救援へ入る。どうやらショッピングモールで買い物をしていたところにこの騒動を見かけ、襲われているのが贔屓にしているクレープ店の店員と知ればいてもたってもいられなくなったらしい。そして羽純の同意をすぐに得て、救援にはせ参じた――といったところである。
 同様に清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)の二人も買い物の途中でこの騒動を見て救援に参加。敵の攻撃に対応するべく、北都は『禁猟区』と『超感覚』で危険察知と足裏からの奇襲に備え、『行動予測』でツタの動きを注視する。
「まだこの周辺の避難は済んでないから、そっちにも注意をしておかないと……!」
 北都はクナイ、歌菜、羽純たちと共に翼のほうへ駆け寄っていく。化け物は翼にしか興味がないようではあるが、邪魔をしようとする者に対しても容赦なくツタの攻撃を繰り出す。
「来たれ、凍てつく光よ!――『ブリザード』!!」
「分身体は作らせませんよ!」
 ツタ攻撃を北都の指示で回避しつつ、歌菜が『ブリザード』、クナイが《ブレスオブアイシクル》を噛みながら放つ吐息で群れる化け物たちを足止め、凍らせていく。そして、凍った化け物を歌菜の二槍による攻撃や北都の『サイドワインダー』、羽純の『真空波』でそれぞれ破壊、戦闘不能に持ち込む。さすがに種放出前に一気に凍らされては成す術もないようだった。

 さらに、別方向からも新たな救援の姿があった。シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)リーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)の三人であり、彼女らもまた『天使の羽』の店員である翼が化け物に襲われているのを見かけ、助太刀に来たのだ。
「まったく、買い出しついでに『天使の羽』に寄って帰るはずがこんなことに巻き込まれてるんだろうな!? しかも襲われてるのがその『天使の羽』の店員ときたもんだ!」
「なんでよく顔を覚えてるんだよシリウス。まぁそんなことは今はどうでもいいけど――この敵の様子、おそらくは下っ端とその分身体……大ボスが控えてるかもしれないから、注意したほうがいいと思う」
「気を付けろ――ってわけか。わかってる! 今は店員を助けるのが先だ、リーブラ、サビク!」
 二人へそれぞれ声をかけると、シリウスは《魔法携帯【SIRIUSγ】》に“ストライクC”コードを選択し、「ストライク・『変身!』!」という掛け声と共に、その姿を“魔法少女シリウス・ストライクコスチューム”へと変えていく。そして、そのまま化け物たちへ『さーちあんどですとろい』を撃ちこみ、次々とツタの化け物を燃やし尽くし道を開くと、迷うことなくそこへ突入。翼たちの元へ駆け寄る。
 そのまま二組が翼たちと合流すると、クナイが『歴戦の防御術』と『風術』で翼を護衛。羽純もまた『ホークアイ』『殺気看破』『行動予測』で化け物たちの動きを完全に捉え、攻撃に備える。シリウス側も主にリーブラが光条兵器である大剣を手に、翼の護衛に付いているようだ。
「大丈夫だった? すぐにこいつらを片付けちゃうから!」
 翼へ笑みを投げかけながら、防衛に加わっていく歌菜。やっとこれで逃げる必要性が薄くなったと思ってか、翼はようやく安堵の表情を浮かべていった。
「そっちも魔法少女か……悪くないな」
「親近感湧いちゃうわね……同じ魔法少女同士、頑張りましょう!」
 同じ魔法少女同士である歌菜とシリウスが、同調し合ってか互いに笑みを返して協力体制を取る。……だが、問題がないわけでもなかった。
「でも、あまりここで戦うのは得策じゃないかなぁ。まだこの周辺は一般人の避難が終わってないから、被害を広げるわけにも……」
 北斗の言うことももっともである。一時避難の勧告は出されているものの、このショッピングモール付近にはまだ買い物客などの一般人が多くひしめいている。化け物の目的が翼である以上、そちらへの攻撃はあまりないと思われるが、それでも戦闘を続けることで発生する被害までは抑えきることは難しいだろう。
「……よし、検索終った! ここからそう遠くないところに廃棄された工場の跡地があって、そこまでいけば被害を気にせずに戦える!」
 その時、ゆかりが別におこなっていた作業……タッチ型携帯による地理情報の検索が完了した。“現在地から最も近い、人気が少なく、かつそこで戦っても被害を最小限に抑えることのできる区画”の場所、およびそこへ行くための最も人通りの少ないルートを割り出し、それを全員へと伝えていった。そして――。

「……増援も来たわよ!」
 マリエッタの示す方向――上空を見ると、そこには相沢 洋(あいざわ・ひろし)の操縦する《小型飛空艇オイレ》を始めとした四艇の小型飛空艇がこちらへと近づきつつあった。さらに、地上側からも葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)イングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)の三人(内、一人は人間の形とはとても言い難いが)もサイドカー付きの《軍用バイク》に乗って増援に加わっていく。
「対象を襲おうとする敵発見。撃つでありますっ!」
 《軍用バイク》を操縦するコルセアの後ろに乗っている吹雪が、条件反射で《機晶ロケットランチャー》を構え、トリガーに指をかける。だが、コルセアはそれに反応してすぐにそれを制止した。
「待って吹雪、さすがに街中でロケットランチャーを撃つのはまずいわ。まずは様子を見て、それから行動したほうがいいと思う」
「む、了解であります」
 コルセアからの指示に従い、敵の様子を観察する吹雪。すると、どうやら化け物は攻撃や妨害を受けない限りは翼のみを狙って行動することが判明した。そうなると、《軍用バイク》に翼を乗せ、どこか開けた場所へと移動するべきと考えるが……。
「あっちの小隊もあの子の保護をしようと動いてるみたいでありますね……」
「バイクよりは安全よね。空飛べるし、あのタイプなら護衛も乗ることできるし」
 上空からの増援である、洋が指揮する小隊を見る吹雪とコルセア。……少しの逡巡の結果、翼の保護は彼らに任せることにしたようだ。

「――ふむ、あれが中尉から連絡のあった保護対象か……総員、緊急発艦! 保護対象である女子・天翔 翼を守り、市街地への被害を最小限に食い止めろ!」
 洋の号令に合わせ、相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)の操縦する《小型飛空艇アルバトロス》を中心にフォーメーションが組まれていく。乃木坂 みと(のぎさか・みと)の《小型飛空艇ヘリファルテ》と、エリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)の《小型飛空艇ヴォルケーノ》が位置に付くと、アルバトロスは降下を開始し始めた。
「洋考、降下して保護対象の早期確保! エリス、ミサイルによる空対地攻撃使用許可! みとは『火術』で砲撃支援! さぁ作戦開始だ! ツタの化け物どもを早期に撃滅し、保護対象を守るぞ!」
 洋のテキパキとした指揮に従い、それぞれ動き出す小型飛空艇小隊。エリスの乗るヴォルケーノのミサイルポッドがツタの化け物たちを捉えると、エリスは発射トリガーに指をかける。
「作戦は了解です。問題としては火器管制能力に慣れていないため、ミサイルの命中精度が問題ですが……気にしないでおきましょう、以上」
 ……不穏な雰囲気を残したまま、淡々と引かれるトリガー。空対地ミサイルが化け物に向かって発射されるが、その精度はボロボロと言ってもいいかもしれなかった。誘導弾のはずなのに、うまい具合に化け物をかすめる形で地面や建物に着弾していく……。
「……ミサイルの精度が悪い気がしますが。……周辺の建物に被害が及んでませんか? このミサイル、空対空、空対地両方使える汎用型多目的ミサイルのはずなのですが、地面を耕してばかりのように見えます。……気に食わないです。以上」
「――あー、エリス。今、地上の中尉から『あまり周囲に被害を出さないで! まだ一般人の一時避難が完全に完了してないうえに、化け物にもあまり当たってないから!』と連絡があった。ひとまず、被害を出さない程度にミサイルを撃ってくれ。あと、弾は温存しておくように」
 ゆかり側からの連絡を受け、さすがに洋もそう言わざるを得なかった。その命令を受けてか、エリスは頻度を落としながら相変わらず淡々とミサイルを撃っていく。
「本来なら『ファイアストーム』で焼き尽くすのですが、今は『火術』クラスですか……悔しいですが、命令ですしね」
 一方のみとも『火術』による空対地爆撃の命令をしっかりと受け、ヘリファルテの突撃能力を活かしたヒット&アウェイでツタの化け物へ炎の洗礼を食らわせる。こちらはエリスとは違い、命中率はそこそこ高いようだ。
「支援砲撃程度ですが、今はこの程度で十分ですね。将来は英雄、魂の簒奪者になってみせますが。……さて、あとは無事に保護できればいいのですが」
 物騒な英雄像を頭の中で描きつつ、にっこりとほほ笑みながら支援砲撃を続けるみと。そして、その視線は洋考が操縦しているアルバトロスへと向けられていた。保護対象である翼の安全確保……これが済ませることが一番重要な任務なのだ。
 しかし……事態はそう簡単に終わりそうになかった。
「――え、今なんと言いました?」
 地上では翼のすぐ近くにアルバトロスを着陸させ、それに乗ってもらうよう声をかけていた洋考。だが、その翼からは「私を囮にして、工場跡地まで移動してほしい」というものだった。
「あの化け物は私だけを狙っている……そしてどこからでも出てくる神出鬼没な化け物なら、どこへ逃げてもすぐに追いつかれちゃう。それならいっそのこと、ゆかりさんが言っていた工場跡地まで私を乗せていってもらいたいの。そうすれば、化け物たちは釣られてやってくるはず……!」
「うーん、僕らの目的は君の保護なんだけどねぇ……どういう心変わり?」
「……みんなの戦いを見てて、逃げるばかりじゃどうにもならない、って思ったの。だから、少しでも町の被害を抑えるためにも……私が頑張れることをしたい」
 そう言葉にしていく翼の真剣な眼差しを見て、洋考は少しだけ考える。……なんにせよ、対象の保護ができるのは変わりないだろう。
「――ほらほら早く! このままアルバトロスを砲台代わりにしてても時間稼ぎしかできないから、乗った乗った!」
 洋考がアルバトロスの扉を開けると、翼が急いで乗り込む。それに一緒になる形でゆかりとマリエッタも乗り込んでいった。
「工場跡地までの道案内は私がやるわ。落とされないように気を付けて――ねっ!」
 アルバトロスに乗り込もうとするツタの化け物に対し、ゆかりは『ライトニングウェポン』で帯電させた銃弾を放ち、撃ち抜く。マリエッタも『ミラージュ』で複数の幻影を作り、こちらへの攻撃を一瞬躊躇させた隙を狙って、二丁の《ハンドガン》で牽制する。
 さらに洋考が《フューチャー・アーティファクト》や『放電実験』で種の処理を速やかにおこない、全員が乗り込んだのを確認すると大急ぎで扉を閉め、洋考は操縦桿をしっかりと握りしめた。
「保護対象を確保したよ! 今から出るから護衛よろしく〜!」
 他の契約者たちに合わせたスピードを出して、ゆかりのナビを頼りに移動を開始する翼たち。吹雪たちの乗る《軍用バイク》も動き出し、アルバトロスと共にツタの化け物たちを工場跡地まで誘導していく動きを取る。
「あまり近づかないでもらおうか――!」
 イングラハムは他の契約者数人と協力し、殿として翼たちとツタの化け物との距離を適度に離すべく、《パラサイトブレード》で敵のツタをばっさばっさと斬り捨てまくって足止めをする。ある程度距離を離すと後退し、付かず離れずの距離を保たせる役割を果たしていく。
 そんなこんなでうまく化け物を引きつけ、誘導を繰り返しながら……一行が目指すは、廃棄された工場の跡地――!