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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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■『天使の羽』を襲うモノ
 ――男が、一人いた。その男の名は佐野 和輝(さの・かずき)禁書 『ダンタリオンの書』(きしょ・だんたりおんのしょ)のための買い物をしにアニス・パラス(あにす・ぱらす)らと共に空京へやってきたのだが、樹菜に声をかけられて欠片探しを手伝うことになった。その時の心境を、和輝は思い出す。
(欠片探しの手伝い……本当ならば断わりたかったのが本音だったんだが、仙道院からは恐ろしく危なっかしい雰囲気を感じる。その雰囲気が放っとけなくてつい了承してしまったが……リオンに睨まれっぱなしなんだよな。すまん、後で埋め合わせはちゃんとするから、あんまり睨まないでくれ)
 そんなことを思い出しながら、ダメ元で『トレジャーセンス』を使って欠片を探そうとする和輝。しかし効果はまったくない様子だった。
 ――そんな和輝の背中には、《空飛ぶ箒ファルケ》で空を飛ぶことで知らない人との距離を離しつつ、一行を追いかけるアニスと共にいるダンタリオンの書のジト目視線がチクチクと突き刺さっている。アニスもアニスで、和輝が樹菜に対して優しく接している姿に少なからず嫉妬心を覚えているようでもあった。
「和輝、あの樹菜って子になんか優しすぎる気がする! さっきも高い所から一度感知してもらおうって話になった時に、樹菜をお姫様抱っこして建物の屋根にぴょーんって飛んでたし!」
「アニスと似ておるからの……なんかこう、雰囲気とか色々。それで世話を焼いておるのじゃろう。まったく、和輝は天然たらしというかなんというか……」
「……似てないもん! アニス、あの子みたいなポニーテールしてないもん!!」
「こっちはこっちで天然じゃの――アニス、そういう意味ではないんじゃが……まぁ、良いか」
 やれやれ、とため息をつくダンタリオンの書。そして、視線は和輝から樹菜のほうへと向けていく。
(封印等の話は事が済んでから聞かせてもらえることにはなっておるからのう……それはその時の楽しみにしておいて。しかし、気配の感じかたがずっとぶれていた……となると、対象は移動しておるのかもしれぬ。動物――いや、多分人間の可能性が高いか。もしかしたら、逃げておるのかもしれぬの)
 先ほど、和輝がお姫様抱っこをする形で樹菜が高い所から欠片の気配を感じ取ってもらったところ、その感じかたはぶれたものだった。ぶれている、ということは欠片は移動していることに繋がる。そこから先の可能性はダンタリオンの書の推測でしかないが、クランが言っていた騒動と関わりがあるのでは? という予測を立てていた。
 なんにせよ、ぶれが感じ取れるようになったということは地道に近づいてきてはいるらしい。欠片が無事に発見できることを願いつつ、一行は『天使の羽』へとその歩を急いでいく……。

 ――一行が『天使の羽』に到着すると、そこにはいつもとは違う光景が広がっていた。どういうわけか、数匹ほどのツタの化け物が『天使の羽』の店舗に襲撃をかけていたのだ。
「このお店とここのクレープのためにも――絶対に攻撃させません!」
 そして、その襲撃から店とクレープを守ろうとフレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)の二人が奮闘を重ねていた。フレンディスがツタを《忍刀・霞月》で切り払い、店に燃え移らないよう気を付けながら『火遁の術』で燃やす。さらには、《鉤爪・光牙》で化け物を捕縛するとベルクへ合図を送る。
「よっし、任せろ!」
 フレンディスの合図を受け、ベルクは『イヴィルアイ』で弱点を探る。……すると、弱点は化け物の体内にある核となる種であることが判明した。
「これで……燃えろ!」
 その核種に向けて『我は誘う炎雷の都』を放つ。ツタによって直撃は避けられたものの、活動を停止させるには十分至ったようだ。
 しかし種の処理までは間に合わなかったようで、そこからさらに数匹ほどの分身体が生まれてしまう。
「樹菜さんを危険に及ぼすわけにはいきませんからね。護衛に徹するならば、なおさら……!」
「そうね、このまま捜索もできないし……絶対に負けられない!」
 樹菜の護衛として一行に同行していた水無月 徹(みなづき・とおる)華月 魅夜(かづき・みや)、そして紫月 唯斗(しづき・ゆいと)を始めとした契約者たちも戦線に加わる。
「めっ、ですよ〜!!」
 化け物たちの攻撃をヴァーナーが『叫び』で相殺したり、『激励』『震える魂』で応援していく。これが後押しとなり、契約者たちは手持ちの力を存分に振るって分身体を確実に倒し、放出される種はフレンディスとベルクの二人や他の契約者たちで分担して処理していく。連携のとれたこの動きによって、なんとかすべて倒すことができた。
「あ、ありがとうございます……!」
 無事に守られた『天使の羽』。店の中から店長が出てくると、契約者たちにお礼を述べていく。
「ここは大事な所ですから、当然のことをしたまでです」
(クレープ守るのに必死で、『超感覚』をまた無意識に発動してたしな。さっきもクレープのため、とか口走ってた気もする)
 クレープを餌にデートに誘って本当によかった……と思っているベルクだったが、フレンディス本人はデートとは考えないようにし、なおかつ色々と誤解しているのだが……それはまた今度の話。
「そういえば……途中で、ここの店員さんを見かけました。先ほどのツタの化け物に追われていたので片付けたのですが……本人は気づかずにいってしまったようで。それで、こちらも危ないのではと思って駆けつけた次第でして」
 ここへ来る途中で『天使の羽』の店員を見たというフレンディス。それを聞いた店長は、すぐにフレンディスから特徴を聞き出していく。
「――間違いない。それは翼ちゃんだ。さっき緊急放送の映像でチラリと見えてはいたから、まさかとは思ったんだけど……」
 自分の店の店員が化け物に追われている事実に、困惑の表情を浮かべる店長。と、そこに由乃羽と手を繋いだままの樹菜が店長へ話しかけてきた。
「あの……ちょっとお願いがあるのですが、ここを少し調べさせてもらってもいいでしょうか?」
「え、はぁ……別にかまいませんけど」
 突然のお願いに不思議がる店長。小さくお礼を返すと、樹菜は周辺を歩いていく。由乃羽が手を繋いでいるため、迷う心配はなさそうだ。
「――欠片自体はありませんでしたが、気配は強く残っています。どうやら、ここで長時間滞在していたのかと思われます。多分、先ほどの化け物もこの気配に引き寄せられたのかもしれません」
 一通り回り終えた樹菜が契約者たちへそう告げる。そして、その強い気配と共鳴すればもう少し詳細な場所がわかるかもしれない、とも伝えていった。
「ちょっとやってみますね……」
 そう言って意識を集中させる樹菜。……少しして、気配のする方向が見えてきたのだろう。集中を解いて柔和な笑みを見せた。
「今までよりも強い気配を感じます。おそらく……あっちの方角だと思うのですが」
 指差した方角はショッピングモール……そして、廃棄された工場群のある区画がある。それを聞いた店長が、あることを契約者たちに伝えていく。
「……その方向って、確か放送で化け物が向かっているって言う工場跡地がある方向だよ。なんか、攻撃されていない化け物たちがそこへ向かっているみたいでね、一般人は立ち入らないよう国軍から注意を促す映像があったよ」
 その時だった。佑也の電話から連絡が入ってきたようで、佑也はすぐにそれに出る。――どうやら、佑也の友人である樹月 刀真(きづき・とうま)からのようだ。
「――わかった、できるだけ早くいく。……みんな、欠片の気配が強いっていうその工場跡地にいる刀真から救援要請だ。女の子――多分、翼さんだと思うけど……その子を守りながら化け物たちと交戦中だが人手が欲しい、ってことらしい」
 いいタイミングであった。気配が強いという区画へはちょうど行くつもりだったので、その救援要請を受けることにした。なにより、佑也の友人からの頼みを断るわけにもいかない。
 だが、距離が少し離れているため今からすぐに、というわけにもいかない。さらに樹菜の従者を連れて楓と隆元もこちらに向かっているので、うかつに動くわけにもいかない状況だった。
「……私、すぐに行きたいと思います。欠片が私を呼んでいるような気がしてならないんです」
 そう言葉にしたのは樹菜だった。確かに従者も大事ではあるが、樹菜本人としては“鍵の欠片”の回収こそ本懐。その意思はとても強く……契約者たちは樹菜の意思を尊重することにした。
「となると、なるべく急いで向かったほうが良さそうね。――ダリル、箒出せる?」
「ああ、いつでもいける」
 話し合いの結果、契約者のうち何組かは『天使の羽』に残って従者たちを待ち、残りのメンバーで工場跡地へ向かうこととなった。そして、さらに急行するためダリルの《空飛ぶ箒シーニュ》にルカルカと樹菜が乗って工場跡地へ向かうこととなる。
「よろしくお願いします……こういったのに乗るの、初めてなので」
「……二、三ほど聞きたいことあるんだけど、樹菜ってパートナーはいるの?」
「いえ、まだパートナーはいませんが……?」
 それを聞いたルカルカは、ダリルへ「スピード緩めで移動お願い」と伝える。契約者でない身ならば、箒の高速移動はかなり辛いため、それをルカルカは配慮したようだ。その後も、「欠片がツタを成長させる要素があるの?」「欠片は何かを引きつけるとかある?」と確認していくが、どちらもその答えはNOとのことだった。
 そして――箒は樹菜たちを乗せて工場跡地へと飛び立っていく。同時に、工場跡地へ向かう契約者たち。……その邂逅は、もうすぐだった。