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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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■探す片翼
 ――翼が契約者たちに助けられながら、壮絶な逃走劇を繰り広げていたちょうどその頃。空京大通りでは樹菜が声をかけて集まってもらった数組の契約者たちが“鍵の欠片”なるものを探すべく樹菜に色々と尋ねているところであった。
「ふむふむ、つまり“鍵の欠片”の位置は君の血筋に流れる力でしか感知できないんだねぇ」
「はい、そうなんです。……今現在は、ですけど」
 永井 託(ながい・たく)が主立って、“鍵の欠片”について聞いているようだ。それをまとめると、どうやら欠片は樹菜の血筋である仙道院家の女子にのみ発現する鍵の気配を感じ取る力によってしか感知ができないらしい。
「けど、それ以外の力でも引っかからないというわけでもないんだろ? だったら、検索をかけてみても問題ないな。探知すれば意外に簡単に引っかかるもんだ」
 しかし、スキルなどの感知でも感じ取れる可能性はあるかもしれない……とのことだったので、アリス・クリムローゼ(ありす・くりむろーぜ)と共にいるクラン・デヴァイス(くらん・でう゛ぁいす)が、早速“鍵の欠片”について調べてみた……のだが。
「全然引っかからなかったわね……」
 やはり、よほど難しいのだろうか。通常の方法による探知やアリスの『トレジャーセンス』による探知はものの見事に空振りを見せていた。だが、それ以外の情報は獲得できたらしく、どうやらショッピングモール付近のほうで騒ぎが起こっているらしいことを突き止めていた。
「……そういえば、欠片って言うくらいなんだから他にもそういった物はあるのかな? 全てを揃えると効果を発揮したりとか……」
 託が話を再開する。その内容は、欠片は複数あるのか? という意味合いの質問だった。
「はい、お父様は『欠片は三つあり、全てを揃えて初めて力を発揮することができる』と言っていました」
「三つ揃って初めて、か……そもそも、“鍵の欠片”ってなに?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)もまた質問に加わる。そしてその質問は単純明快、かつ最初に聞くべき内容である。
「ええと、ですね……“鍵の欠片”というのは、元々は仙道院家に伝わる大事な封印道具なんです。しかし、以前――と言っても、葦原島に人が住み始めてすぐの頃なんですが……に封印した時、三つの欠片が弾け飛んでいってしまったんです。おかげで、今日まで行方知れずだったんですが……」
 樹菜によれば、鍵の気配を感じ取る力が見せた夢で『この空京に欠片が集まりつつある……』といったものを見るようになり、空京へ欠片の捜索にきた……というわけらしい。
「それで迷ってたら世話ないよな……」
 後は声をかけられた時に聞いたように、従者とはぐれてしまい空京中をさ迷っていた……それを思い出してか、如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)は苦笑いを浮かべていた。
「それは本当に面目ありません……どうにも、私の方向音痴はお付きの人たちを簡単に振り切ってしまうほどらしくて……」
 反省しているのか、しょぼんとしてしまう樹菜。……そんな樹菜の手を、神威 由乃羽(かむい・ゆのは)がぎゅっと握る。
「まったく、アンタの方向音痴は相当なものらしいわね。――決めたわ、欠片を探してる間はずっと手を握っててあげる。これなら迷いようがないでしょ? はい決定、御祓いが終わってやっと帰れると思ったらこれだもの……佑也は人使いが荒いわ本当」
 後半のほうはやや愚痴り気味である。というのも、佑也は樹菜から話を聞いて手伝うことにしたのだが、由乃羽は別件の仕事帰りに佑也に捕まって手伝わされている状態だったりする。面倒くさがり屋にとって、これ以上にない面倒である。
「金額はいくらでもいいから、解決したらお賽銭入れなさいよね?」
「え、あ、はい……」
 思わぬ言葉にきょとんとする樹菜。――少しして、どうやら鞍馬 楓(くらま・かえで)桐条 隆元(きりじょう・たかもと)の準備が整ったようだ。楓と隆元の二人は、樹菜とはぐれてしまったという従者を探しに行くとのことだった。
「欠片の場所が樹菜さんにしかわからない以上、あっしにできることと言えば従者さんを探してくることくらい。樹菜さんの方向音痴が従者さんの考えを凌駕しているとはいえ、このまま良家のお嬢さんをほったらかさせるわけにもいきませんからね。樹菜さんのほうは旦那たちに任せますので」
「わしの小糸と共に上空から探せば、すぐに見つかるであろう。小娘共は他の者の邪魔にならないよう注意するのだぞ」
 隆元からの言葉に、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)は「わ、わかりましたっ」と返事し、マーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)はむーっ、とふくれっ面を見せるだけだった。それを返事と確認すると、楓と隆元は従者を探しに一行から離れていく。
「あの……そろそろ、欠片を探しに行きませんか?」
 樹菜の言うことももっともである。“鍵の欠片”を探しに行くべく、一行は移動を開始することになったのだが……。
「ねぇねぇ、欠片って何かとくちょうとかあるですか?」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)がそんな質問を。妙にそわそわしているのは、ハグなどの子供スキンシップをあえて我慢しているからかもしれない。
「形状まではわからないんです……すみません」
 だが、欠片の形状がどのようなものかまでは仙道院の者も知らないらしい。弾け飛んでいってしまった日から形が変わっている可能性もあるらしく、一概にこの形! とは断言できないようだ。
「そうなんですかぁ……あ、じゃあかわりにお話ししたいですよ! 樹菜おねえちゃんのこと、いろいろ聞いてみたいです〜」
「それはいいかもな。あ、でも欠片のことももうちょっと聞いてみたいような……」
 欠片探しの片手間、樹菜が道に迷わないよう案内をしつつも、樹菜のことに興味がわいている契約者たち。と、そこへリースとマーガレットからある提案がなされた。
「あ、あの……もしよかったら、なんですけど――まずは『天使の羽』周辺で聞き込みをしてみませんか? その、欠片探しも大事ですけれど、従者さんと合流するのも大切だと思うんです。それで、隆元さんたちとの合流地点として『天使の羽』を指定したので……まずはそこを目指しませんか?」
「あそこは人気のあるクレープ屋さんだから、人もたくさんいると思うんだ。だから、聞き込みもしやすいと思うよ?」
 樹菜は二人の提案を聞き、なるほど……と納得。現在地では欠片の気配もそう強く感じられないため、ひとまずは『天使の羽』で聞き込みをしてみようという流れになった。
「でね、でね! 『天使の羽』で一番美味しいのが『エンジェルクリーム』と『七色チョコチップ』ってのがあって――」
 人数がいるため、ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の操縦する《空飛ぶ箒シーニュ》はすぐに使うことはできず、徒歩で『天使の羽』を目指すことに。そして、その道中の間はマーガレットのクレープに対する熱い思いをしばらく拝聴することとなったのであった……。


 ――その頃、楓と隆元(の飼い鷹である《吉兆の鷹・小糸》)の二人(一人と一匹とも)は上空から樹菜の従者を探していた。そして、それは同時に今起こっている騒動を目視することにもなる。
「やや、さっきクランさんが言っていたショッピングモール付近の騒動ってのはあれのことでしょうかね。――なんにせよ、当主が動かずに未熟であるお嬢様にわざわざヤバげな代物を捜索させるわ、樹菜さんの方向音痴が相当ひどい……ってのもあるにせよ、それを知りながらも上回れなかった従者を付けたりと……なにかおかしな思惑があるような気がしてならないんですよねぇ……」
 蝙蝠の獣人としての勘だろうか、少しばかり不安な思いを過ぎらせながらも、当初の目的である樹菜の従者探しを続けていく。ほどなくして、樹菜から聞いた特徴と瓜二つの男性らしき姿を発見した。
「……おぬしが、仙道院の従者か?」
 さっそく従者の元へ近寄る二人。すぐに樹菜のことを説明していくと、従者がなぜすぐ合流できなかったのかを説明し始める。
「お恥ずかしい話ながら、空京に着いて早々に樹菜様が厠へ行きたいと申されまして……。厠の入り口までついていったのは良かったのでしたが、樹菜様……まさか厠に入って目を離した隙に樹菜様が迷子になられてしまい、見失ってしまって……いや、必死に探したんですよ!? そしたらツタに覆われた化け物が徘徊し始めたから一時避難してください、と緊急放送が入る始末で……」
 ……今の話が事実だとするならば、とんでもないイリュージョンともいえる。誰かが常に気を配っておかないと、すぐ迷子になるほどの方向音痴のようだ。
 それに加え、どうやら化け物騒動に巻き込まれていたようで思うように動けなかったとのこと。しかし、こうやって合流できたのであとは『天使の羽』にいるであろう樹菜の元へ合流するだけとなった。

「――ウルディカ、上空からあのツタの様子を見てくれ。これの害意が特定の方向に向かって移動しているようだ」
 と、その時近くでグラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)が別行動中のウルディカ・ウォークライ(うるでぃか・うぉーくらい)に連絡している声が聞こえてきた。ちょっと気になったのか、楓がそちらのほうへと視線を向けていく。……どうやら、ツタの化け物から発する害意を『ディテクトエビル』で読み、『行動予測』で移動先を調べてもらうよう指示を出しているようだ。そんなグラキエスの近くにはエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)の姿もある。
「移動している――ということは、おそらくこのツタたちの目的は“誰か”のはずだ。その“誰か”の位置を把握できたら、俺たちもそちらで戦う。……頼んだぞ」
 連絡を終わらせると、先ほど感知した大まかな移動方向に向かって移動を始めるグラキエス。その後ろに付いていくようにエルデネストも移動を開始するが、その表情はどこか複雑なものを帯びていた。
「グラキエス様、ウルディカを別行動させてよかったのですか? 貴方を攻撃しない――という保証はどこにもありませんが」
 その言葉には、わずかながらの苛立ちがこもっていた。……グラキエスとウルディカ。この二人の関係性が徐々に変わりつつあるのを見て、それに対しての鬱憤が木の葉が重なり合うかのようにうっすらと……しかし確実に積もっている。
「信頼しているからな」
「……信頼なさっているので?」
 はらり、またはらり。一枚一枚重なる苛立ち。
「ああ。――エルデネスト……何を怒っているんだ?」
 どうやら、グラキエスにもわかるほど声に感情が乗ってしまっていたらしい。すぐさまその感情を噛み殺すと、言葉を続ける。
「――いえ、過ぎたことを申しました。ツタの破壊は私にお任せを」
 エルデネストからの言葉に、グラキエスは「ああ、任せた」と短く返すと、再び害意の感じる方角へと移動し、その場を後にする。エルデネストもまた、複雑な思いを抱えたままその後ろをついていくのであった。

 ――遠目から二人の様子を見届けていた楓。その時間はわずかなものだったのだが、実に長くも感じ取れた。
(あの二人にも、色々とありそうですね。……なんだか、男の世界ってのを垣間見た気分です)
 と、感慨に耽るのもそこそこに、楓は隆元と共にすぐさま従者を連れて『天使の羽』へと踵を返すのであった……。