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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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桜封比翼・ツバサとジュナ 第一話~これが私の出会い~

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■これが私の契約
 ――歌菜やルカルカたちが工場跡地に戻ってきた頃には、契約者たちによるツタの化け物の掃討は完了していた。かなりの労を負ったようだが、疲れはまだ見せずにいる。これだけ早く終わったのも、途中で増援として加わった樹菜側の契約者も化け物一掃に協力してくれたためだろう。
 だが、それはそれとして一つ事態が進展していた。地上に降り、ようやく落ち着いた翼たちであったが、樹菜によると翼が“鍵の欠片”という物を持っているとのことらしく、樹菜たちは翼から話を聞いていた。
「翼さん、欠片らしい物とかはお持ちでないでしょうか?」
「欠片? ……うーん、そんなのは持ってな――あ、加工した奴だけどこれのことかな?」
 そう言って翼は、首にかけている小さな水晶を加工したような石が付いているペンダントを樹菜たちに見せる。樹菜はまっすぐとそれを見つめ……一つ頷く。
「――間違いありません。そのペンダントに付いている石が、“鍵の欠片”の一つです」
 ついに見つかった“鍵の欠片”……樹菜側の契約者たちも、雲を掴むような探し物の発見に安堵の表情を見せていく。
「この石は私たち仙道院家にとって重要な物。翼さん、よろしければそのペンダントをお譲りできませんか?」
 真剣な表情の樹菜からの懇願。しかし……翼はそれに対し、首を横に振った。
「……ごめんなさい。これは両親からもらった大事なプレゼントなの。数年前、両親と一緒に空京観光に来た際に市場で買ってもらった物なんだけど……私にとって、これは両親との大切な絆なんだ」
 よほど大事な物なのだろう、ぎゅっと手の中にペンダントを握り、譲りたくないという明確な意思を示す翼。しかし、樹菜もおずおずと引き下がるわけにもいかなかった。
「そうなのですか……しかし、私としても“鍵の欠片”はとても重要な物なのです。一時的にでもいいので――っ!?」
 二人の話し合いを遮るかのような、雄叫び。一度話を中断し、契約者たちは何事かと周囲を見渡すと……なんと、放置されていたツタの化け物の残骸たちが一ヶ所に集まり、巨大なツタの化け物へとその姿を変えていった!

「これはまた……でかい奴が現れたな」
 エースも思わずそう呟いてしまう。それほどまでに巨大な化け物は、身体の正面を翼――否、翼の持つペンダントへと向けていく。
「ははっ――どうやらきなすったみたいだぜ。多分こいつが大ボスってところか……面白すぎる冒険の始まりだな、こりゃ」
「シリウス、声が引きつっていますわよ。――どうやら、化け物たちが狙っていたのは翼さんではなく、“鍵の欠片”と呼ばれている物のほう。一応、目につく限りでの黒幕……と見て問題なさそうですわ」
 思わずシリウスの声が引きつるほどの迫力を持つ化け物のボス。だが、契約者たちはそれに臆することなく、翼たちを守るためにボスへ攻撃を開始する。
「これだけ大きいと、ツタの攻撃だけでも雑魚以上の強さを持ってそうだね。――ツタのほうはリーブラたちに任せた! ボクは本陣のほうを潰してくる……いくよ、ウルフアヴァターラ!」
 シリウスとリーブラへそう伝えると、サビクは《ウルフアヴァターラ・ソード》と《ウルフアヴァターラ・アーマー》を身に纏い、『女王の剣』を振るいながら先陣を切っていく。シリウスとリーブラもまた、それぞれ《妖精鳴弦ライラプス》と《対星剣・オルタナティヴ7》を構えると、サビクのサポートをするために立ち回る。
「一宿一クレープの縁による助太刀はまだ有効――これを切り口に、でかい事件になる予感がするぜ!」
「シリウスの勘は妙に当たりやすいですから、きっとそうなるのでしょうね……サビクさん、飛び込んでください! ツタは私たちが薙ぎ払いますわ!」
 機敏な立ち振る舞いでツタを斬ってサビクへの道を作る二人。サビクも一気に接近戦に持ち込むと、ボスに対し『正義の鉄槌』を繰り出して早期決着を目指す――のだが。
「硬いっ……!!」
 先ほどまでのツタの化け物たちとは違い、斬りこんでも致命的なダメージを与えられていない。しかも、再生力が高まっているのかツタもすぐに回復していっていた。
「これほどのデカブツ、速攻で片付けようと思ったけど――これは一気に仕掛ける必要がありそうだ!」
 唯斗も樹菜たちを守るため、ツタの攻撃を『スウェー』で避けつつ、『風術』で自分に対して追い風と上昇気流を起こし、高速接近と高高度跳躍でボスに接敵、飛び越してすれ違う。そのすれ違いざまに《白狗の刀》で横薙ぎ三連斬でボスを斬り裂き、落下時の勢いを利用して『朱の飛沫』を込めた縦一文字の一刀両断。着地と共に、一文字の斬線から炎が爆ぜていく!
「こんなもんでどーよ……うえぇ!?」
 アクロバティックな一撃を魅せたまでは良かったが、炎によるダメージより再生力が上回っているらしく、託の攻撃による援護ダメージを加えても、そこまで大きなダメージを与えることはできなかったようだ。
「このまま街に出られるようなことがあったらまずい。戦力を削って、動きを鈍らせる!」
 一行とは途中合流する形で戦線に参加しているグラキエスとエルデネスト、そして上空に構えるウルディカもボス化け物に対しての攻撃を行う。目的としてはツタを破壊してその戦力を削ぎ落とし、動きを鈍らせることにあった。
 最初に動いたのはグラキエス。《大帝の目》と『行動予測』で死角をカバーしながらボスのツタの動きを読み、他の人に被害が出ないよう銃や刀による『グレイシャルハザード』で攻撃を相殺。隙を見て『奈落の鉄鎖』で重力干渉をおこない、徐々にボス化け物の動きを鈍らせ、『ブリザード』で部分部分を凍結させていく。
 そこをエルデネストが《聖なる手榴弾》《機晶爆弾》を『サイコキネシス』で操り、勢いよく動きを鈍らせたツタや凍結させた部分へぶつけて爆破による破壊の連携を繰り出す。次々と手際よく、しかもどこか深々しい念で爆破物が動き回る様は、エルデネストの苛立ちを発散させるかのように活発であった。
「――そろそろグラキエス様の活力を補給しませんと。……戦闘中ですので」
 自ら動くグラキエスの様子を確認すると、エルデネストはグラキエスの力の消耗を回復させるべく、《悪魔の妙薬》を口に含むと――《SPルージュ》を塗ったその唇でグラキエスの唇を合わせ、琥珀の液体を口移しで移していく。それを飲みこむことによって、自身の力の回復を感じたグラキエスは、再びエルデネストたちのサポートに回っていった。
 ……そして上空では、先ほどまで翼とツタの化け物の観測をおこない、その様子をグラキエスへ逐次連絡していたウルディカが《小型飛空艇ヴォルケーノ》に乗ったまま《機晶スナイパーライフル》を構え、ツタに向けて『弾幕援護』『破壊工作』をおこなって攻撃し、グラキエスの援護をしていく。だが、ウルディカの心境はこの戦いとは別のところにあった。
(――あれが何を考えているのかわからない。俺が己を殺すために未来からやってきたと知っているだろうに。それに……エンドロア。俺が今、この銃口をお前に向けないと思っているのか。何故、そう無防備でいられる……)
 逡巡する、ウルディカの思考。行く末を見届ける立場となっている今でも、グラキエスやそのパートナーへの敵対心が消えたわけではない。狭間に揺れるその想いは、ウルディカ本人をどう突き動かそうとしているのか――。
(……今はツタの攻撃、および殲滅に集中しよう)
 狙撃に余計な思考はいらない。今はただ、自分がやれるべきことをやるだけであった……。

 ――先ほどのツタの化け物戦以上に、工場跡地の戦闘は激化していた。
 戦闘のあった区域の後処理を終えて再合流した洋の小隊もボスとの戦闘に参加。洋本人が主立って切り込みをかけていっている。
「あの再生力、あの力……なるほど、確かに厄介だな。私も前線に出る! みととエリスは支援を頼む! ――行くぞ、『アンボーンテクニック』! そしてイナンナよ、我に加護を!」
 《小型飛空艇オイレ》で突撃を仕掛け、《銃剣銃》と装着したパワードスーツパーツの装甲を信じ、『アンボーンテクニック』『イナンナの加護』を併用した『勇士の剣技』の一撃を繰り出し、そのままオイレを乗り捨てる形で地上に着地する。オイレは勢いをつけたまま洋考のほうまで吹き飛び、結構危ない状態ではあったが無事回収されたようだ。
「私はガンナータイプの兵士なんでな。本来はこういった剣技などは専門外で苦手なのだが……こういう技くらいは使える!」
 「的が大きくて当てやすいです、以上」と上空よりミサイルの雨で援護するエリスと、『火術』による支援砲撃をするみとのサポートを受けながら、洋はボス化け物の足元を思い切り《パワードアーム》に包まれた拳でぶん殴り――『怒りの煙火』を放出させていった!
 噴き出た溶岩がボスに直撃し、ツタを次々と焼き尽くす。だが状況は、外装甲までを剥がせたといった感じであり、ツタの下にはまたしてもツタが化け物を覆っていた。
「残骸の落下にも気を付けないと――!」
 『禁猟区』による危険察知で、焼き千切られたツタと廃棄された工場の天井が落ちてくることを感知した北都。翼たちを『歴戦の防御術』で守るクナイと一緒に、落下残骸を『サイドワインダー』『ファイナルレジェンド』『風術』で細かく砕き、仲間たちや翼たちへの被害をとにかく最小限に抑えようとしていた。戦いの最中である歌菜や羽純たちも北都たちと協力して行動を起こしていく。


 ――守るべきもののために、契約者たちは戦っている。


 そんな契約者たちの戦いの様子をじっと見守っていた翼は、次第にそう感じていた。そしてそれは、自分にもできるんじゃないか……とも。
「……樹菜さん、だっけ。この“鍵の欠片”って、あなたたちにとって重要な物……なんだよね」
「はい。それがないと、葦原島を始めとして……シャンバラが危険な事態に陥ります。そしてそれは――」
「それ以上は言わないで。多分それは私にもわかる……」
 少しの沈黙。そして――意を決したように翼は言葉を紡いでいく。
「さっきも言ったけど、この“鍵の欠片”……ペンダントは私の家族の絆。そして、それはパラミタが繋げてくれたもの。これがあったから、今の私がいる。それが私の守りたいもの――」

「だからさ、もしこれを樹菜さんが使うって言うんなら……私も一緒に行く。一緒に、私の大事な絆を生んでくれたこの地を守りたいの」

 それは確かな決意の表れ。このまま何もせずにいるのは嫌だ、守るべきもののために戦えるというのなら、自分がそれを守り戦う。そんな固い意思を持ち合わせていた。
「……樹菜さん、もし未契約だったら私と契約してほしい。私に、絆を守れる力を――!」
 瞬間、二人の間に淡い光がともり……消える。互いの合意の元、今ここに――新たな契約が結ばれた。
「樹菜、でいいですよ。翼さんの絆を守りたいというその気持ち……私も大事にしたいです」
 契約を結んだことにより、二人の間に力がみなぎってくるのを感じる。……契約者としての力。守るものを守る力を得た二人が、まず最初にやるべきことは一つ。それは……。
「目の前にいるあの化け物を倒す――!」


 契約者たちがボス化け物にダメージを与える中、ダリルの操縦する箒の貨物席にはルカルカと刀真、そしてエヴァルトの三人が乗っていた。これより三人は上空から一気に一点集中で攻撃を仕掛け、倒してしまおうというつもりらしい。
「あれはここで倒さなきゃ。……みんなの攻撃のおかげで、あと少しであの化け物を倒せるはず。あれを戦闘不能にして、放出されるであろう分身体の種を全部片付けたらこっちの勝ち。――それじゃ、いくわよ!」
「ああ。俺が奴の死神になる……樹月 刀真、参る」
「迷惑な植物は、焼き尽くさせてもらう――!!」
 先陣を切ったのはルカルカ。続けて、今まで様子見をしていたエヴァルトが化け物の攻撃の手が緩んだ瞬間を狙って降下。そして最後に、《神降ろし》で能力を増加させた刀真が箒から高く降下していく。
 ダリルの『ゴッドスピード』で加速を増した三人。その加速の恩恵を利用しながら、ルカルカは《ダークヴァルキリーの羽》を広げ更なる加速を得ていく。援護として撃たれるダリルの『機晶ビーム』が化け物の頭部を焼く中、《アルティマレガース》に『火術』を纏わせ、『我は射す光の閃刃』を下方へ放ちながら落下速度をさらに高めての炎の彗星キックをお見舞いしていった!
 それを初撃とし、蹴りの『七曜拳』からの《ブライドオブブレイド》による連撃へ切り替えながら、次のエヴァルトの攻撃へバトンタッチするようにその場から離れる。
 ルカルカがその場から離れた瞬間、攻撃していた場所へ『爆炎波』と『ドラゴンアーツ』を伴った《レプリカデュエ・スパデ》が勢いよく投げつけられ、根深く突き刺さる。
「高い位置とこの加速で一気に刺さった――こっからだっ!!」
 そしてエヴァルトは《ワイヤークロー》を突き刺さった双頭剣へ投げつけて巻きつけると、加速を利用してワイヤーを巻き戻し化け物へ急接近。零距離までその間合いを縮めていき、化け物へ着地と同時に広範囲に『ファイアストーム』を叩きこむ!
「これが食べ物の恨みだ、覚えておきな……!」
 強く燃え盛る炎を背に、エヴァルトは自身の武器を回収してその場を離脱。間髪入れずに、刀真が化け物の頭部へと着地する。
「街中ではないとは言っても、炎はあまりよろしくないような……」
 思った以上にエヴァルトの置き土産が激しく延焼しているのを見て、そう言葉にする刀真。これ以上は攻撃されるまいと頭部からもツタを伸ばして妨害者を排除しようとするボス化け物であったが、刀真は『百戦錬磨』の経験を以てツタの動きを見据え、動きかたや重心移動などから攻撃を見切っていく。
 そしてその見切った攻撃に合わせてツタへ強く踏み込んでタイミングとポイントをずらして、その攻撃の威力を殺していき――左手に持つ《白の剣》でツタを切断して追撃を防ごうとする。そのまま『軽身功』によって身軽さを得た刀真は化け物頭部の死角に回り込みつつ、繰り出されていく敵の攻撃を『体術回避』で避け、翻弄する。
「炎だけじゃない、こっちも一緒に喰らってもらう……!」
 死角へ回り込むと、刀真は右腕にはめた《平家の籠手》で握る《黒の剣》を『神代三剣』で振るい、素早く周囲のツタ全てを切り刻む。容赦のない切り刻みかたであり、まさに死神を模している――否、死神そのものといっても過言でない。
 そして、間髪入れずに《白の剣》で『絶零斬』を放ち、切り刻んだツタの水分ごと、化け物頭部の大部分を一気に凍結させていく!
 化け物の頂点部を彩る形となった炎と氷。幻想的な情景を生み出してはいるものの――その情景の下地となったボス化け物はあまりにも蓄積したダメージによって、その命を終わらせようとしていた。だが、そのまま命を終わらせるなど、できはしない……それこそ、植物の本能。
「――まずい! 種を放出しようとしている! 絶対に種を放出させるな!!」
 上空からダリルが全員に叫び通す。一刻も早く種を処理しないと、このボスクラスのツタの化け物が複数生まれてしまうことになる。それだけは何とか防ごうと、それぞれの契約者は慌ただしく動き始めた。
 しかし、問題が起こってしまう。……絶命寸前を踏みとどまり、このボス化け物は生きていたのだ。あと一撃の命ではあるものの、強い再生力を使ってすぐに命を咲かそうとしている。だが、種の処理に奔走する契約者たちはそれに気づいていない……!

「でああああああああああっ!!!」

 瞬間。ボス化け物が大きく殴り飛ばされ――揺らぐ。そして化け物はおぞましい雄叫びとも言えるような奇音を猛々しく上げると……咲かそうとした命を、散らされてしまった。
「な、なんなんだ一体……」
 思わず契約者たちも一度手を止めて、奇音の直前に聞こえた叫び声の主に視線を向ける。……その叫び声の主は、契約者なりたての格闘家・天翔 翼だった。



「――失敗、か」
 気づかれぬよう、高い所より今までの戦いを見ていた黒い影。だが魔力を借りて生み出したモノを倒されてしまった様子に、思わず舌打ちをしてしまう。その時携帯のバイブレーションが震え、影に連絡が来たことを知らせる。
「あたしよ。……そう、見つけたのね。すぐに回収しておきなさい、あたしもすぐ行くわ」
 短いやり取りの後に連絡を切ると、すぐにその姿は消えてしまうのであった――。