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舟の制作

 
 
 丸太筏組が、材料集めに苦労しているころ、用意されている段ボールから舟を作ったり、ペットボトルから筏を作ったりしている組は素早く作業を進めていました。
ひゃっは〜! ティー・ティー(てぃー・てぃー)たちには負けないよー」
 葦原明倫館女子公式水着を着た屋良 黎明華(やら・れめか)さんが、気合いを入れました。同じコミュニティ兵学舎の仲間たちには負けたくないようです。
 段ボールで箱を作って、側面の四隅と中央にペットボトルをあてがうと、ぐるぐるぐるぐるぐると、ガムテープをしっかりと巻きつけて補強していきます。見てくれよりもスピードです。ペットボトルで浮力をプラスして、後はガムテープの防水力に賭けます。
ひゃっは〜♪ 後は黎明華だけよー」
 そう言うと、サラシの上と褌の下の間の細い腰にペットボトルを何本もあてがい、腹巻きのようにグルグルとガムテープで巻いていきます。即席のライフジャケットです。これで、いつ沈没しても大丈夫でしょう。多分……。
勝利の美酒を味わうのは、この黎明華なのだ
 真っ先に完成した屋良黎明華さんが、段ボール舟をかかえて川へと飛び込みました。どんぶらこっこと流されていきます。トップでスタートです。
 
    ★    ★    ★
 
「絶対沈まない舟を作ってよね!」
 屋良黎明華さんのように、百合園女学院公式水着の上から身体にペットボトルを巻きつけた秋月 葵(あきづき・あおい)さんが、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんに言いました。泳げないので必死です。
「なあに、任しておくのだ」
 フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんが、段ボールで作ったでっかいタライを前にして自信満々で言います。
 そして、なぜか、できあがったタライ舟を、川から汲んできた水でびちょびちょに濡らしていきます。これでは進水する前に浸水してしまいそうなものですが、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんは自信満々です。
「凍姫、招聘!」
 濡れた段ボールタライを、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんが氷術で凍らせました。そのまま水をかけつつ凍らせるを繰り返して、人が乗っても大丈夫な厚さにまで氷を成長させます。できあがったところで食卓塩をパラパラと降りかけて、軽く一面だけ水で濡らした段ボールを内側の底面に貼りつけます。これで、直接氷に座るよりは冷たくないでしょうし、人の体温で氷が溶けてしまうのも少しは防げるでしょう。
「もう少し、補強しようよお」
 秋月葵さんが、ペットボトルをタライ舟の周囲をぐるりと囲むように立てて、ガムテープを巻いていきました。これで、浮力の補助と、ぶつかったときのダンパー代わりにはなるでしょう。
「よおし、完成じゃ。舟の名は、そう『クトゥルフ』としよう。水の邪神、この舟の名にぴったりであろうが」
 かっかっかっとフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんが、嬉しそうに笑います。
「ええっー」
 なんだか不吉で嫌だと、秋月葵さんがちょっと顔を顰めました。
「異議は認めない。さあ、進水式じゃ」
 そう言うと、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんが秋月葵さんと一緒に氷のタライ舟を持ちあげました。
「ちめたい!!」
 それはそうです。しかも、今は夏ですから、見る間にも溶け始めています。
「早く浮かべるのじゃ!」
 急いで川に浮かべると、あわてて氷術で溶けかけたところを凍らせます。
「そこの彼女、オレも乗せてくれんかあ?」
 瀬山 裕輝(せやま・ひろき)くんが、ほとんどナンパみたいに声をかけてきました。ナンパ……難破……不吉です。
「ダメです。これ以上乗ったら沈むかもしれないじゃないですか。しっしっ!」
えげつないやっちゃなあ
 犬のように追い払われて、瀬山裕輝くんが別の舟に乗せてもらおうとそこを離れていきました。
「では出港じゃあ!」
 気をとりなおして、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんが言いました。まあ、港はないのですが……。
 雪国ベアくんからもらった長い竹竿で岸辺をツンと突くと、フォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんと秋月葵さんが出発していきました。
 
    ★    ★    ★
 
 段ボール舟組が早々と出発する一方、ちょっと手間のかかるペットボトル筏組は、黙々とペットボトルを繋げていました。
「材料を忘れるとは……」
「なんとかします」
 アガレス・アンドレアルフス(あがれす・あんどれあるふす)くんに言われて、リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)さんが必死に答えました。本当は紐でしっかりとペットボトルを縛って結ぶ予定でしたが、肝心の紐を用意するのを忘れていました。普通はありそうなものですが、なかったので仕方がありません。すかさず代案として、ガムテープで巻いてペットボトルをくっつけていきます。
「よし、後はこれじゃ」
「えっ、なんですか? お師匠様」
 アガレス・アンドレアルフスくんが、つんつんとプティフルスティックを差し出しました。
「もちろん、我が輩の止まり木じゃ」
「はあ」
 とりあえず、リース・エンデルフィアさんがアガレス・アンドレアルフスくんに言われた通りに、筏の中央にプティフルスティックを止まり木として突き立てます。固定は、ガムテープです。
「それでは出発します。頑張って完走しますから見ていてください、お師匠様」
 アガレス・アンドレアルフスくんにそう言うと、リース・エンデルフィアさんが筏で川に乗り入れました。
「えいっ」
 超賢者の杖で岸を突いて出発です。
「はううっ」
 やっぱり、急ごしらえのペットボトル筏では結構波で大きくゆれます。途中で分解しないといいのですが……。
「リースよ、これしきでの波飛沫で何をそんなに怯えておる。情けないぞ。我が輩を見習わぬか」
 アガレス・アンドレアルフスくんが杖の上で微動だにせず言いました。その瞳は、すぐ後ろでクルクルと回転するタライ舟の中のフォン・ユンツト著『無銘祭祀書』さんの白いスクール水着にじっと注がれています。ゆるぎありません。
 
    ★    ★    ★
 
「シンプルに、素早くいくでありますよ」
 そう言うと、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)さんが手早くロープでペットボトルを縛って繋げていきました。さすが、サバイバル慣れしています。
「それはいいけど、その格好はなんなのよ」
 ビキニ姿のコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)さんが、当然のように突っ込みました。
「陽射し対策よ」
 紙袋を被ったスクール水着姿の葛城吹雪さんが、さも当然のように言いました。こちらも、ゆるぎありません。
「ちょっと、そこの彼女……、いやなんでもないわ」
 声をかけようとした瀬山裕輝くんが、紙袋を被った葛城吹雪さんを見てくるりと背をむけて去って行きました。ほとんど、二人に気づいてももらえません。
「それより、ちゃんと手伝ってほしいであります」
「はいはい」
 夏合宿にいこうという葛城吹雪さんに押し切られる形で参加したコルセア・レキシントンさんですが、まさか川下りになるとは思ってもいなかったようです。葛城吹雪さんにつきあうとろくなことがないと、小声でぶつぶつ文句を言っています。
「さあ、電撃戦であります。出発!」
 丈夫な段ボールを載せてオーソドックスなペットボトル筏を完成させると、葛城吹雪さんはコルセア・レキシントンさんと共に出発していきました。