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夏合宿 どんぶらこ

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夏合宿 どんぶらこ

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「これでいいのか?」
 真空波でビニールシートを細く切り裂いたジュレール・リーヴェンディさんが、カレン・クレスティアさんに聞きました。どうやら、紐を作っていたようです。
「うん、じゃあ、縛るのを手伝ってよ」
 仮組された筏を前にして、カレン・クレスティアさんが言いました。
 等間隔にならべた五本の丸太に、三本の丸太が横に渡されています。やや隙間が空いているので格子状です。その隙間にはペットボトルを埋め込んでガムテープで固定してあります。
 後は、真ん中にマストを立てて、テントから作った帆を張るだけです。
 その間に、ジュレール・リーヴェンディさんは丸太を削ってオールを作りました。
「さあ、遅れた分を取り戻すよー」
 川に浮かべた筏の帆を風術でふくらませて、カレン・クレスティアさんが言いました。
 
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「うりゃぁりゃりゃりゃっ!!」
 大きな丸太に、拳を叩き込んで芦原郁乃さんが削っていきます。抉るようにして、打つべし、打つべし。
怪我に、気をつけましょうね
 蒼空学園女子公式水着を着た秋月 桃花(あきづき・とうか)さんは、見守るしかできません。
 うっかりぶち抜かないように気をつけなければ行かないためにやや手こずりましたが、それでもなんとか人二人が乗れるくぼみが完成しました。カヌーの左右には、ペットボトルを段ボールで巻いた物をガムテープで貼りつけてアウトリガーにしてあります。段ボールにはなぜかお魚の顔と鱗が書かれていました。
「完成、おさかな号!!」
 芦原郁乃さんが高らかに宣言します。
「さあ、行くぞっ! 遥か大海原へ!! わたしは航海王になるっ!!」
 もう、テンションは上がりまくりです。
「郁乃様、落ち着いてくださ〜い」
 このテンションは自滅フラグだと敏感に感じとった秋月桃花さんが、なんとか芦原郁乃さんをなだめようとしましたがほとんど役にたちません。
「さあ、桃花。私の仲間になれ!」
「嫌あ〜!」
 川に浮かべたカヌーに半ば無理矢理秋月桃花さんを引きずり込むと、芦原郁乃さんは飛び乗る勢いでカヌーを離岸させました。
 
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「本当に、私も参加していいのか?」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)くんが、高天原 鈿女(たかまがはら・うずめ)さんに聞き返しました。ちなみに、高天原鈿女さんはセクシーなオレンジに白の水玉のビキニで、それに合わせてコア・ハーティオンくんも腰の部分をラブ・リトル(らぶ・りとる)さんがドラゴランダー塗装用スプレーで蒼空学園男子公式水着の模様にペイントしています。一緒にいる夢宮 未来(ゆめみや・みらい)さんはビキニのスポーツ水着、ラブ・リトルさんはふんだんにフリルのついた真っ赤なビキニ姿です。
「大丈夫よ、ちゃんとハーティオンの体重から計算したから。全員の体重を合わせると、必要なのはおよそペットボトル五十本。安全性を考えると、まあ百本というところかしら。さあ、分かったら、早くペットボトルを集めてきて。数が足りなかったら、せっかくの計算も無駄になるんだから」
 高天原鈿女さんにせっつかれて、コア・ハーティオンくんたちは急いでペットボトルを確保しに行きました。おかげで、瀬山裕輝くんがペットボトルを手に入れられなかったわけです。
「ハーティオンなんか乗せて、大丈夫なの?」
 ラブ・リトルさんは、なんだか自分の羽根で飛びたげです。その方が安全ですが、もちろんルール違反です。
「大丈夫なように、しっかりと私が固定しよう」
 間違っても分解しないようにと、コア・ハーティオンくんが、しっかりと筏を完成させました。ペットボトルの上には段ボールを貼って、床と手摺りにします。そして、最後の補強材として、コア・ハーティオンくん自身が筏の上にべったりと大の字で貼りつきました。結果的に、他の三人はコア・ハーティオンくんを踏んづけて上に乗る形になります。
「ハーティオンさん、大変ですね」
 『夏合宿キター! ハーティオン涙の川下り?!の巻』と書かれた看板を掲げ持った夢宮未来さんが、そう言いつつコア・ハーティオンくんを踏みつけました。
「大変ですけど、ちょっと楽しいです」
 なんとなく足の下のコア・ハーティオンくんも喜んでいると感じた夢宮未来さんが、用済みとなった看板を投げ捨てて、舵取り用の練気の棍を手にしました。
「さあ『華麗なるラブちゃんとその下僕達号』の発進よ!」
 ラブ・リトルさんの号令一下、華麗なるラブちゃんとその下僕達号が出発していきました。
 まだ川辺に残っているのは二組だけです。すでに先頭グループは、遥か先へと進んでいました。
 
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「ねえ、もうみんな行っちゃったよー。どうするんだもん?」
 ほとんどの人が筏を完成して出発していったのに、まだ川に入ろうとしない霧島春美さんに、ディオネア・マスキプラさんがちょっと不安そうに聞きました。このままでは、食いっぱぐれてしまいます。
「心配ないよ、ディオくん。準備という物は、常にしておくものなのだよ」
 そう言って、霧島春美さんが、手書きの地図を広げました。
「ほら、みんなが下っていったうねうねした川ではなくて、ちょっと先にあるこの小さな川。これはまっすぐに流れて行って、途中でみんなの川と合流しているだろう。つまりは、そういうことなのだよ」
 これでバッチリと、霧島春美さんがディオネア・マスキプラさんにウインクしました。
「でも、このマークは何? もしかして滝なんだもん?」
「うん。でも、ホームズが滝を怖がってちゃダメでしょ。この間の特訓のときだって、無事に帰ってこられたし。ホームズは、滝からは帰還できるように運命づけられているんだから」
「そうかなあ……」
「ディオだって、少しでも早く着いて何か食べたいでしょ。よし、決まり。私は私の道を行く。イッエレメンタリマイディア
 そう言うと、霧島春美さんは、ディオネア・マスキプラさんと一緒に、もう一つの川にむかって丸太船を運んでいきました。
 
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「ふふふふ、ひらめいたあ。なんということだ、どんどんとアイディアが湧き出でてくる。まさに天災、いや、天才。やはり俺は、悪の天才科学者ドクター・ハデス(どくたー・はです)なのだあ!」
 なんだか、絶好調のドクター・ハデスくんが、凄い勢いで大量に確保した段ボールを組み合わせていきます。おかげで、瀬山裕輝くんは段ボールも手に入らなかったわけです。
 しかし、天才科学者の白衣の下に海パン一丁の姿は、ちょっと変態チックです。
「えーと、兄さん……? 沈まない船を作るのはいいんですけど、それって、明らかにオーバースペックじゃ……?」
 黒いビキニ姿高天原 咲耶(たかまがはら・さくや)さんが心配そうに言いました。なんだかいつもの格好とあまり変わりがないような気がするのは気のせいでしょうか。
「こら、見ているだけなら手伝え。そうだなあ、我が超弩級段ボール戦艦に搭載するペットボトルロケットでも作っていろ。設計図と材料はそのへんに用意してある」
「はあ……」
 ドクター・ハデスくんに命令されて、高天原咲耶さんが川に行ってペットボトルを逆さにして川につけました。うーんっとサイコキネシスで中の空気を極限まで圧縮します。その分だけ川の水が吸い上げられたのを確認して、特殊な蓋をつけていきました。
「くっくっくっ……。ここの装甲を厚くして、こちらを艦橋にし、そしてペットボトルロケットの主砲を装着させて……」
 要塞化強化装甲対電フィールドと、段ボールなのになぜか機晶技術を総動員した、先端テクノロジーの塊のような段ボール戦艦ができあがっていきました。
「フハハハ! これぞ我が最高傑作、M−21991式第1種段ボール戦闘艦、段ボール戦艦オリュンポス号だ!」
「えっと、戦闘艦なのに戦艦というところですでに……いえ、なんでもありません、兄さん。でも、もう日が沈みかけているんですが……」
 夕焼けの中を、カラスがカアカアと飛んでいくのを指さして高天原咲耶さんが言いました。
「はははは……。すぐに出港だあ。前を行く奴らは、全て撃沈してくれる!」
「追いつけたらの話ですけど……」