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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 6

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【祓魔師のカリキュラム】一人前のエクソシストを目指す授業 6

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第1章 ジャタの森・出発前

 
 ケルツェドルフの村の住民だけでなく観光客たちまで突然、失踪してしまったという事件の解決依頼を受け、エリザベート・ワルプルギス(えりざべーと・わるぷるぎす)ラスコット・アリベルト(らすこっと・ありべると)は祓魔術を学ぶ生徒たちに、強化合宿のカリキュラムとして実戦経験を積ませようと考えた。
 村に到着した生徒たちはさっそく、村とジャタの森で調査を行った。
 彼らは狙われる対象の年齢、失踪者の行方、人々を攫った魔性の情報を掴んだ。
「ケルピーたちの呪いなどについて、ちゃ〜んと覚えましたかぁ〜?人々をジャタの森の川辺で、溺れさせるはずですぅ〜!!」
「げっ…」
 エリザベートの言葉にグラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)は眉間にぎゅっと皺を寄せ、おおよそ少女らしからぬ声を上げた。
 単純に“泳げない”からってこともあるが、それ以上に水場は溺れる危険性もある。
 彼女にとって縁起が悪い場所でもあり、しかも相手は“餌を溺れさせる”魔性だ。
 もしもケルピーの呪いにかかったら、水場に直行の可能性大。
 普段なら謹んで辞退したい、というか全力で回避したいところだ。
 しかし情報収集の不出来を埋め合わせると誓ったばかりだ。
 それに獰猛化したケルピーが攫った可能性が高いのなら、校長の口ぶりからすると前回のグレムリンなどとは比にならない。
 わがままな子供のいたずらを止めるのと、呪術を使う相手とは比較にならなのだ。
「悪戯、で済ませられるような状況じゃないわね」
 捕食狩りする者を野放しにするわけにもいかず、ここは腹を括るしかない。
「グラルダさん、どうぞ。暗くなると、歩きづらくなるでしょうから」
 ミリィ・フォレスト(みりぃ・ふぉれすと)はロウソクに火を灯し、明かり用のランタンをグラルダに渡す。
「ありがとう。(ダーグビジョンでも見えるけど。不可視の者が見えるようになった時に、見逃さないためにも借りておこうかしら)」
 スペルブックを片腕で抱え、ランタンを受け取った。
「魔性のケルピーは、言葉による呪術を使うんだったよね」
 対抗策を身につけていない者なら、あっけなくかかるのだろう。
 だが、こちらにも例外なく“餌”の対象として見られ、精神を侵食しようと襲われる可能性だってある。
 召喚の準備を終えた五月葉 終夏(さつきば・おりが)は、ニュンフェグラールを掲げ、いつも手順通りに行う。
 呼び出しに応じたカスミソウのような小さな少女、スーは終夏の肩に飛び乗る。
「スーちゃん、今回の相手は呪いを使うんだって。コテージを出る前に、呪いに対する耐性がほしいんだ」
「ここはおみせみたいに、そんなにひろくないから。お花いちりんぶんでいいかなー?」
 少女が足元から細い茎を伸ばすと、小さいつぼみが1つずつ顔を出し、あっとゆう間に開花した。
 白い花を摘み、ふぅ〜っと息をかけた瞬間それは砕け散った。
 宝石の粒のように輝きながら、コテージ内にいる者たちに降り落ちる。
 粒は彼らや床などに触れると浸透するように消えてしまう。
「クローリスの香りは出発前でも有効ってことか…」
 クリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)も召喚を終え、手の平に触れては消えていく、白い粒を見つめながら言う。
「そうだよ。その代わり、早く出発しないとね。ここに長くとどまる分だけ、効果の適応時間が無駄になっちゃうから」
「うん。捕食される前に探さないといけないからな。…ケルピーの呪いって進化後のクローリスや、進化前のクローリスで解除できないのか?」
「スーちゃんたちの香りで、呪いにかかりにくくすることは出来るけど、呪いの解除は出来ないよ。それと能力が増える前は、呪いにかかりにくくする香りを出せないし、呪いの解除も出来ないよ」
「てことは俺が呼び出したクローリスは、呪いに対する効果があるってことか」
「ボクは呪いを解除してもらった人が、攫われてしまった時のことを思い出して、怯えないようにしてあげようかな。よろしくね、クローリスさん」
「わかった、クリスティーおにーちゃん」
 クリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)にピンク色のワンピースを纏った少女が頷く。
「カメリアさん、能力をイメージ的なもので補強みたいなことはできたりしないでしょうか?香水を広げるだけでなく、こう花のつぼみに溜めるイメージで凝縮するような感じなのですが」
 効率よく皆を守るために、ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)がカメリアに質問する。
「出来なくはないけど…私の能力を引き出すためには、もう少し実戦での鍛錬が必要ね。術者の精神力を糧に、発動する力だから…。効果を与える人数が多かったり持続時間が長いほど、あなたの負担が大きくなってしまうもの」
「もっと経験を積むことで、いずれは可能になるってことですね」
 今は手持ちの香水と、カメリアの香りで抵抗力を得てもらうほうがよさそうだ。
「…作るのに時間がかってしまいましたから、大事に使いませんとね…」
 1本の香水の小瓶をきゅっと握り締める。
「オレたちは皆のサポやね」
「不可視化されたら、ルカたちは見えないからよろしくね♪」
「―…弥十郎も見えないのよね?」
 “黄色”扱いされた賈思キョウ著 『斉民要術』は農業専門書は、まだご機嫌斜めの様子でパートナーに背を向けた。
「最近、いろいろごめんね。これで機嫌直してよ。超極細繊維だから、本体も傷が付かずに綺麗に磨けると思うよ?」
 斉民に機嫌を直してもらおうと、村で買った超極細繊維の布を供物のように捧げる。
「仕方ないわね…。これに免じて、今回は許してあげるわ」
 いつまでもケンカしてるわけにもいかず、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)の手からひったくるように掴んだ。



「皆、出発の準備を整えたか?全員一緒にいられないような状況になるかもしれない。俺がテレパシーを送って、パイプ役を担おうと思うんだがいいか?」
「そっか。川辺といっても皆が近くにいるわけじゃないもんね。ケルピーが攫った人を、別のところに連れて行こうとする可能性もあるわ。その時は、何人か川辺に残ってもらうことになるかも」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)佐野 和輝(さの・かずき)に頷き、万が一の状況について話す。
「確かにな…。その場合、連絡役を兼ねて俺たちは川辺に残るとするか」
「プッロ、話の流れは理解出来たか?」
「人々を救出ために、必ず多人数で行動しろというのだな」
 天城 一輝(あまぎ・いっき)に呼ばれ、ケルツェドルフ村に到着したユリウス プッロ(ゆりうす・ぷっろ)は、銃型HCを通して情報をもらう。
「生き物を食らうための呪いか。なんとも厄介だ」
「言葉により精神侵食し、徐々に呪いをかけるタイプのようだな」
「かといって、防音対策するわけにもいかんからな」
 パラミタの地には時期に夜が訪れ、ジャタの森も真っ暗な闇に覆われることだろう。
 視界の悪い場所で他者の位置や生存を知るためには、発炎筒か声以外に和輝のテレパシーのみ。
 1本の発炎筒を使ってしまうと、ミリィが配っているランタンの明かりが届かないほど、仲間と離れてしまったら合流も難しい。
「―…なあ、フレイ見なかったか?」
 もう出発時間だというのに、フレンディス・ティラ(ふれんでぃす・てぃら)の姿がない。
 ベルク・ウェルナート(べるく・うぇるなーと)は近くにいるコレット・パームラズ(これっと・ぱーむらず)に聞く。
「なんか、コテージに置いていくものがあるとか言ってたわ」
 コレットは宿泊するほうの部屋に行ったと教える。
 そのフレンディスは…。
「マスターから頂いたものに、傷をつけるわけにはいきませぬ」
 手首に巻いているレッドスターネックレスを外した。
 アクセサリーが入っていた箱を開け、ベルクからもらった大切なものを傷つけないようにしまい、コテージのテーブルに置く。
「ねー、もう出発するよ!なんかパートナーの人が探してたけど?」
「マ……マスターが…っ。す、すみません、今行きます」
 同室のコレットに呼ばれたフレンディスは慌ててコテージか出た。