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リアクション
ことり。
グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)は手に持っていたドリンクのコップを置く。
華々しい様子に似つかわしくない沈んだ表情のまま、周囲を見渡す。
ベルテハイトに勧められてブライダルイベントに顔を出したグラキエスだが、彼の気持ちは明るい場所に行けばいくほど内へ内へと沈んでしまう。
友人のベルクがフレンディスと一緒に衣装を着ているのを見た時も、それは変わらなかった。
華やかで幸せそうな人々。
翻って、自分は?
ベルテハイトやエルデネスト達を、失いたくない。
しかしこのままでは、彼らが俺を失ってしまう。
その前に、彼らには別の大切な存在が必要なのではないだろうか……
いつも以上に彼らに依存しているような、そんな重苦しい気持ち。
グラキエスは、それが薬のせいだとは気づかない。
「グラキエス様、容器を片付けましょうか? ……どうなさいました?」
飲み物を持ってきたエルデネスト・ヴァッサゴー(えるでねすと・う゛ぁっさごー)が、物思いにふけるグラキエスに声をかける。
「エルデネスト……」
薬のせいだろうか、どこか、甘えがあったのかもしれない。
いつもなら抑え込んでしまうその気持ちを、先程まで考えていたことを、エルデネストに話してしまった。
一緒にいたい気持ちと、別に大切な人を作って欲しい気持ち。
しかしそれを聞いたエルデネストの反応は、グラキエスの予想を遥かに超えたものだった。
「……ふ。ふふ、ふ」
「エルデネスト?」
「いや、残念です。実に残念でなりません」
「どういう事だ?」
「私がどれだけ貴方を求めているか、欲しているか。貴方はちっとも理解しておられなかったようですね」
ぐいと、腕を引く。
グラキエスが軽く悲鳴を上げるほど、強引に。
いつもなら、ここまで我を忘れて激高することはない。
エルデネスト自身、薬と怒りのせいで抑制を失っていた。
「エルデネスト、何、を……っ」
近くに会った部屋に、グラキエスを引きずり込む。
「教えてあげましょう。その体に。じっくりと、念入りに、嫌というほど……」
「っ痛、エルデネスト、エ……」
唇を塞がれた。
体の自由を奪われた。
いつの間にか衣服は奪い取られ、空調の効いた空間に肢体が投げ出される。
これよりしばらくの間、彼の体は彼のものではなくなる。
エルデネストの受け止めきれない程の激情を、ただただ受け止め続ける存在となる。
◇◇◇
「ふふふ〜、どう? キラキラのベールにふわふわのブーケ〜」
くるりくるり。
純白のドレスを着た師王 アスカ(しおう・あすか)が回転する度に、ドレスの裾がふわりと広がり、宙を舞う。
「あ、ああ……」
アスカの隣で花婿のタキシードを着た蒼灯 鴉(そうひ・からす)は、目のやり場に困ったように視線を躍らせる。
(何を戸惑ってるんだ、俺は……)
彼の困惑も無理はなかった。
常日頃、アスカからラブラブになりそうな寸前で台無しにされるフラグクラッシャー的攻撃を受け続けてきた彼にとって、目の前で幸せそうにウェディングドレスを着てはしゃぐ彼女はまさに未知の姿。
その上、彼はよく知っていた。
彼女は、彼は、互いに『結婚』という形に歩を進めることを望んではいないということを。
彼らの道は、常に平行線。
ただし、誰よりも近くに寄り添う。
そんな二人にとって、まるで皮肉のようなブライダルイベント。
しかし、鴉はそれを受け入れる。
幸福の一つの形として。
そして鴉はアスカへと、手を差し伸べた。
「もう……悔しいなぁ」
「何が」
苦笑する鴉を見て、アスカは眉根を寄せて口を尖らせる。
(鴉のタキシード姿、似合ってて格好良すぎ)
口に出しては言わないけれど。
言えないけれど。
ウェディングドレスに憧れないわけじゃない。
だけど、それを望んだことはない。
ただ、それでも一緒にいたいと望む相手はいる。
その上、相手も同じことを思ってくれて、望む言葉をかけてくれる。
これって、なんて不思議。
なんて奇跡。
「アスカ?」
王子様のように、アスカの手を取ると口付ける鴉。
ふわりと、アスカの体が飛ぶ。
驚きながらそれを事も無げに受け止める鴉に、アスカの顔が近づく。
二人のキスを、ベールが隠した。
「むう、いいなあ……アスカ達ったら、ベルを置いて幸せそう」
そんな二人を少し離れて見ているのは、オルベール・ルシフェリア(おるべーる・るしふぇりあ)、ドゥルジ・ウルス・ラグナ(どぅるじ・うるすらぐな)。
「シャミも、ああいうのに憧れるのか?」
あまり表情を作らないドゥルジがオルベールを見る。
彼女には、それが怪訝そうな表情だと理解する。
しかし、それよりも前に……
(あぁあ、ドゥルジのタキシード姿、かっこ良ぃ〜!)
ドゥルジもオルベールも、それぞれウェディングドレスとタキシードを身に纏っていた。
「シャミ?」
「え、えぇえと……ど、ドゥルジはどう?」
「俺? 俺は……分からない」
ほとんど考える時間もなく、返る答え。
分からない。
それが、彼の今の本当だった。
その姿を僅かに悲しそうに、そして多分に愛おしそうに見守るオルベール。
「ところでシャミ」
「なぁに?」
「その衣装、よく似合っているな。綺麗だ」
「な! なななななななにを言ってるのぉお!?」
「混乱させたようなら、謝る……」
「謝る事ないのよっ! ええっと、うん、その……ありがとぅ……」
語尾はほとんど消えかけていた。
「あぁ、喉が乾かない? あそこにドリンクコーナーがあるわ。何か取って来ましょうか」
「俺も行く」
「そぉ? ついでにアスカ達のも……バカラスはいっか」
コップになみなみと注がれるドリンク。
ごくり。
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