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リアクション
場所:花婿控室 時刻:少し後
「こんにちは。この度は、おめでとうございます〜」
「準備の補佐をさせてもらおうか」
「あ……あぁ」
訪問者が帰り、ムティル一人になった控室。
そこに新たにやって来たのは、以前ジャウ家の執事を務めた事のある清泉 北都(いずみ・ほくと)とモーベット・ヴァイナス(もーべっと・う゛ぁいなす)だった。
その姿を見たムティルに何故か緊張と警戒が走る。
「そんなに警戒するな。眼鏡さえ汚さなければ、我が怒る事もない」
「そうそう。そんなに心配なら、はい」
北都はムティルに何かを手渡した。
「これは……」
眼鏡だった。
モーベットの。
「これがあればモーちゃんの暴走を抑えることができますよ」
「……できれば、もっと早く知りたかったな」
「だってまさか思いっきり眼鏡を汚す人がいるとは思いませんでしたからねぇ」
「……む」
北都の言葉に、悔しそうにどこか拗ねた様子で視線を外す。
しかし眼鏡だけはしっかりと胸ポケットに収める。
「眼鏡が無ければそうそう動けぬ。気を間際らすのも、今までの借りを返すのも自由だ」
腕を組んで椅子に座るモーベット。
「……お前がそんな様子だと何か調子が狂う」
ムティルはため息をつくと、その隣に腰を下ろす。
北都は控室の中を見て回ると、細々とした準備をはじめる。
「この結婚は家の為であると聞いたが?」
ムティルの様子を見て、モーベットはさらりと本題を切り出した。
「ああ。ジャウ家の為でもあり、ムシミスの為でも……」
「違うな」
「何故だ」
モーベットに即座に否定され、ムティルは立ち上がる。
「家柄だけでは食べていけない。家族を守ることもできない。このままではあいつにまともな暮らしをさせてやることもできない。資金は必要だ。その為に……」
「そう、でしょうか?」
いつの間にか、控室には高峰 結和(たかみね・ゆうわ)とエメリヤン・ロッソー(えめりやん・ろっそー)の姿もあった。
かつてジャウ家で使用したメイド服を着込んだ結和は、ムティルの前で首を傾げていた。
「無理に推し進めてしまっては、ムシミスさんも頑なになってしまうと思います」
「ムシミス様は、家より資産より、ムティル様と二人仲良く暮らせれば良いと考えていると思いますよ」
新郎の衣装にブラシをかけながら、北都も告げる。
「……あいつは、ムシミスは、俺ばかりを見て視野が狭くなっている。一度、俺と距離を取り、他の人間と関わって友情や愛情をもっと知るべきだ」
「その為に、結婚を?」
「それも、ある」
「愚かだな」
「何?」
黙って聞いていたモーベットの口から呆れたような声が漏れた。
「モーベットさんの言う通りです。だからといって、いきなり結婚は乱暴すぎます。……相手の方にも、失礼です」
「……む」
結和の追撃に反論しようとしたムティルは口を噤む。
「そもそも、愛する者が自分以外の誰かと結ばれる。それを見せつけられて幸せと言えるのか?」
「……それはっ」
モーベットに指摘され、ムティルは一瞬言葉を失う。
「これは、形式上の結婚に過ぎない……」
「ムティルさんは弟を守るのが年長者の役目だと、そうありたいとおっしゃってましたね」
以前、結和がジャウ家でメイドをしていた時。
弟、エメリヤンとの関係に悩んでいた結和にムティルが語った事だった。
結和自身にも様々な影響を及ぼしたその言葉。
「色々考えた末で出した結論だと思いますが、きちんと言葉にしないと、ムシミスさんに伝わらないと思いますよ」
「……う、む」
結和を見て、結和を心配そうに見ているエメリヤンを見て、そして北都とモーベットを見て。
ムティルはがくりと項垂れた。
「たしかに、あいつには説明不足だったと思う。……家族の事で、心配かけてすまなかった」
首を垂れるムティルに、結和は優しく告げた。
「謝罪なら、まずはムシミスさんにするべきだと思いますよ」
「そうだな」
そんなムティルの様子を見ていた北都は、ふと気になっていた事を口にする。
「あの、ムシミス様と距離を取るって……ムティル様が他の方ともっとお付き合いしたいから、という意図もあるのでは?」
「……ああ、それもなくは……いや、勿論それだけでは」
そもそもあいつは家族だしまず俺は保護者としてあまり深い繋がりを持つべきでは……と、途端に歯切れの悪くなったムティルに、北都はため息をつく。
「まずは、ムシミス様に謝りましょうね」
「……ああ」
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