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リアクション
場所:新郎親族控室
ムティルの話を聞いたエメリヤンは、一足早くムシミスの所に向かっていた。
兄の、弟を庇護したいと言う気持ち。
それは、エメリヤンが結和に対して感じていたものとどこか重なるような気がした。
護って、くれていた。
護りたいと、思ってくれていた。
しかしそれは、自分が望むものではなくて……
「あ……」
「初めまして」
「の……きみ……」
「はい?」
控室の片隅で、所在無げに立っているムシミスに会うことができた。
訝しげな目で、突然入ってきたエメリヤンを見ている。
しかしエメリヤンは、上手く言葉を紡ぐことができなかった。
姉なら、結和なら、このエメリヤンの気持ちを汲み取って伝えてくれることもできたろう。
しかし今この気持ちを結和に通訳してもらうことには、抵抗があった。
「すみませんが、用事がないなら出ていってもらえませんか?」
そしてムシミスには、初対面の相手の意図を汲み取ろうとするだけの余裕はなかった。
くるりとエメリヤンに背を向ける。
そんなムシミスに更なる面会者が現れた。
「やあ、ムシミス君!」
「久しぶりだね」
「失礼するよ」
その3人の顔を見て、ムシミスの顔がぱっと明るくなった。
「先生! クリストファーさんたちも!」
以前、ジャウ家でムシミスの家庭教師だったアーヴィン・ヘイルブロナー(あーう゛ぃん・へいるぶろなー)、そしてとある顛末でとても世話になったクリストファー・モーガン(くりすとふぁー・もーがん)とクリスティー・モーガン(くりすてぃー・もーがん)だった。
「話は聞いた。ムシミス君の力になりに来たのだよ。愛のない結婚なん許されん!」
「先生……ありがとうございます」
頼りになる存在に、ムシミスの表情が緩む。
心底ほっとした顔を見せる。
「気にするな。元家庭教師として……そして、できれば未来の友人として、キミの事を気にかけていたのだよ」
「先生……いえ、アーヴィンさん……ありがとうございます」
アーヴィンの言葉に驚いたように目を見開き、そして微笑む。
アーヴィンは、ムシミスの様子に僅かな危惧を抱いていた。
(ヤンデレが許されるのは、2次元までだ! これ以上彼がヤンデレ化するのを放ってはおけん)
「ひとまず、ムティルを説得するとしよう」
「その前に、ムシミスくんの気持ちをまとめた方がいい」
クリストファーが真面目な表情でムシミスの前に立つ。
「感情論以外でムティルくんを言い負かすだけの説得力を持たないとね」
「は、はい。どうすれば……?」
「ムティルさんは家系のことを大切に考えているんだろう。でも、ムシミスさんはお兄さんを奪われるくらいなら、ジャウ家が絶えてしまっても良いと考えているのかな?」
「ちなみに、双方が同意するなら偽装結婚だったり……愛人や妾っていう手もなくはないけど。一夫一妻が全てってわけじゃない」
「冗談じゃありません! 兄さんが結婚するなんて、どんな理由があろうと考えられません。兄さんと一緒にいられるなら……ジャウ家なんて無くなっても構いません」
きっぱりと言い捨てるムシミスの様子に、アーヴィンは僅かに眉を潜める。
その瞳に、狂気の色を見たから。
「だとしたら、ムシミスさんはジャウ家を断絶させる意志をムティルさんに示すべきではないかな?」
「ああ、いざとなればそれは大丈夫なのだよ」
クリスティーの言葉にアーヴィンが何故か自信ありげな様子で語り出す。
「ムシミスくんは未来人という種族を知っているか? 彼らの中には、同性間の子供だと自称する存在もいる。ということはそう遠くない未来に同性同士で子供を作れる可能性があるということだ!」
「まあそれはそれとして」
クリストファーがさらりと流す。
「一度、話し合ってみたらどうかな。ちょうど……ほら、件のお兄さんがやって来たよ」
走ってくる足音を聞きつけ、クリストファーは扉を開けた。
そこには、ムティルが立っていた。
「兄さん!」
「ムシミス…… その、悪かった。お前にきちんと話をしないまま進めていって」
クリストファーたち知った顔の存在に僅かに戸惑いながら、ムティルはムシミスの前に立つ。
「このままでは、ジャウ家当主としてお前を養うことが難しくなる。資金的な問題を解決するために、偽装結婚という形を取ろうと……」
「……たとえ、どんな理由があったにせよ結婚なんて許しません」
ムティルの言葉を、絶対的な零度で遮るムシミス。
「……お前は、最近俺しか見ていない。もっと視野を広げるためにも、距離を……」
「ジャウ家なんてなくなってしまっても構いません! 兄さんしか見てなくて何が悪いんですか! 結婚は止める。永遠に僕の、僕だけの側にいる。それ以外の言葉は聞きたくありません!」
見る間に感情を露わにしたムシミスは、これ以上話を聞きたくないとばかりに控室を飛び出して走って行ってしまった。
「あ、ムシミスくん!」
「ムシミス……」
残された面々は、慌てて彼の後を追いかけた。
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