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リアクション
ブライダルイベント会場には、妙に物陰や控室用の小部屋が多かった。
その中の、ひとつ。
「ちょ……そこは……っ」
「えー、何なにナニ〜? ただ着替えを手伝ってあげてるだけだけどぉ?」
スープを被ってしたたかに濡れたレイスは、まだ着替え中だった。
「ほら、早く着替えないと風邪引くよぉ?」
煙の、手伝いという名の悪戯によってそれはいつまでも終わらない。
「ばっ、だから、変なトコロ触るなって……」
「変なトコロって、ここ?」
煙の手がすうっと、首筋をなぞる。
「ひゃ!」
「それとも、ここ?」
次いで、肩を。
「ん……」
「相変わらず弱いねえ」
「な、なんでもねえ!」
的確に弱点をついてくる煙に、ついつい甘い声が出る。
くすくすと笑われなんとか反論するが、その実、体はもう限界で。
「なあ、もう、止めろよ……っ」
「んー、無理」
「無理って」
「あんな声聞かされちゃ、もう止まらないよ」
「な……っ! あっ、う……んっ」
まだまだ着替えは終わりそうになかった。
◇◇◇
「……いや、別に気にしている訳ではありませんよ。あんな奴のことなんか。ええ、ただ僕がいるにも関わらず……」
控室の一つ。
浚は、拗ねていた。
先程、春とムティルが会話をしていた。
その時の春の様子を思い出し、嫉妬の炎を燃やしながら。
こくん。
首を傾げながらその様子を見ていた春は、用意されていたドリンクを飲みこんだ。
そして、変化は起こる。
「ね……」
くいくい。
浚の服を引っ張る。
「どうしたの? あいつが良かったんじゃないの?」
「ね、ざっくん……ちゅーして」
がたっ!
突然の春の甘えた様子に、嫉妬の炎は瞬時に鎮火する。
「……どうしたの? 式場の様子に当てられた? そんな可愛いと食べちゃうよ?」
「……食べて。なでなでして、ちゅーして、いっぱいかまって?」
「!?」
そこまで言われて、いや言われなくても浚が我慢する筈もなく。
「ん……」
即座に、しかしあくまでもそっと紳士的にソファの上に押し倒される春。
「……さあ、どこから食べようか? 大丈夫、春が気持ちいいことしかしないから」
そう言いつつも腕を、肩を、首を、頬を、あらゆる所を味見する。
「あっ、あ……浚、あんっ、ボク、なんか変なんだ……っ!」
「変じゃないよ。ちっとも……」
薬の効果が切れても、二人の吐息は途切れることがなかった。
◇◇◇
「ねぇ、セレアナ〜」
「……」
「ねえってば、まだ怒ってるの? せっかくここまで来たんだからさぁ〜」
「……」
休憩を利用してイベントを覗きに来たセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)とセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)。
しかし、二人の間に漂う空気はどこかぎこちない。
というか、一方的にセレンフィリティがセレアナに謝罪してばかりいた。
事の発端は2か月ほど前の夏祭り。
セレンフィリティが引き起こしたとある一件によりセレアナが嫉妬に狂い、それを根に持ってそれからというものずっと色恋沙汰に関しての彼女の反応は最悪だった。
このままじゃいけない、とセレンフィリティが今回のブライダルイベントに誘ったのだが……
(セレアナ、すごく怒ってるよなあ。でもそれって、それだけあたしの事を想っててくれたってことだよね。なのにあたしったら……)
はあ、とため息一つ。
顔を上げればそこはイベント会場。
目に入ってくるのはウェディングドレスやヴァージンロードなど素敵なアイテムの数々。
自分とセレアナがそれを着て、ヴァージンロードを歩く姿を夢想する。
それはとても甘美な夢で……
(ああ、あたし、やっぱりセレアナが好き。すごく好き。失いたくない!)
隣りに立つ、恋人を抱き締めるように背中から手を回す。
「ごめん、ごめんね、セレアナ。あたしったら無神経だから、セレアナがどんな思いをしてたか気づいてあげられなくて」
その手に、セレアナの手が重ねられた。
「セレン……私の方こそ、みっともなくてごめんなさい。……寂しかった」
「セレアナ! あたしたしも素敵な花嫁になれるかな?」
「なれたらいいわね……なりましょうね」
二人の間の空気がゆっくりと緩み始める。
さらさらと。
凍った空気が緩んで、解けて、流れて……突然燃え上がる。
「ね、セレアナ……どうしよう。仲直りできてほっとしたからかな? あたし、何だか変」
「セレンも? 私も、なんだか……妙に、あなたが愛おしいの」
「ああんもう我慢できないっ! さっき通ったあの部屋、誰もいなかったんだけど!」
「そうなの……行く?」
「行きましょう!」
……それからしばらくの間、その部屋は内側から鍵がかかり使用不可能となっていた。
「あっ、セレンんっ……駄目、聞こえちゃう!」
「いいじゃない、聞かせれあげれば」
「やっ、やだ、駄目……ひゃあぁんっ!」
「いいわ、セレアナ……んっ」
そんな声が漏れ聞こえてきたとかこなかったとか。
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