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リアクション
場所:花婿控室
「悪い話じゃないな」
ソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)から、翔がエリザベタに話したのと同じ提案を持ちかけられたムティル・ジャウ(むてぃる・じゃう)は静かに頷いた。
「いや、むしろ願ってもない提案だ。相手がそれで問題ないようなら、こちらは全面的に協力する」
「ああ、分かった。相手の方もきっと喜ぶと思うよ」
医師の格好をしたソールは、ムティルの言葉に喜んで携帯を取り出す。
愛するパートナーへの連絡の為に。
「えーえ話やないか」
ソールが部屋から出たのを見計らって、ムティルに近づいた影があった。
彼に話があるとあらかじめ控室で待っていた、大久保 泰輔(おおくぼ・たいすけ)だった。
馴れ馴れしい様子でムティルの肩に手を置くが、ムティルの方もそれを嫌がる様子もなく黙って話を聞いている。
「相手がその気なら、もっと割り切って考えたらええ。こっちは資産目当て。あっちは、『ジャウ家』という名門の血筋が目当て」
つ、と泰輔の指がムティルの首を伝う。
その皮膚の下には、血管。
「そうだ。たかが妻一人に、自由を縛られることもなかろう」
讃岐院 顕仁(さぬきいん・あきひと)が泰輔の言葉を補足するように怪しく笑う。
「男も、女もそなたの好きにすればいい。花嫁に、そなたが女の喜びを教えてやることも……」
「女に性的な興味はない」
顕仁の、どこか下卑た色合いを含む言葉にムティルは首を振る。
その表情は曇ったまま。
「まあ、そなたの好きすればいい。嫁の事も、そなたの愛しい弟御の事も」
「……」
弟、という言葉にムティルは僅かに反応を見せる。
「覚えておくがいい。結婚など、形式に過ぎぬとな」
「相手の事は、単なる金蔵だと思ったらええねん。あとは、あんさんが何をしようと勝手や」
泰輔が、自分の指先――ムティルの首元に顔を寄せる。
囁くように。
「こういう具合に、な」
艶めかしい吐息が耳にかかる。
ふ、とムティルの力が抜けるのを感じる。
それが笑ったのだと気づいたのは、彼の顔を見てからだった。
「……そうだな」
く、と泰輔の首が上向く。
ムティルの指が、彼の顎を支えていた。
躊躇うことなく、二人の唇が重なる。
「ん、む……」
「ん……っ」
慣れた様子で泰輔の体を隅にあるソファーへと導く。
そのまま二人の時間へ……
「あの、はじめまして! この度結婚式で能を躍らせて頂くことになりました、丙と……」
控室の扉を開け、そこまで言いかけた明神 丙(みょうじん・ひのえ)ははっと言葉を飲む。
挨拶しようとした当の花婿は、控室の片隅のソファーで、半裸のまま泰輔と絡み合っている最中だった。
「え、え、あの、すいません……っ!」
混乱しながら謝罪の言葉を並べつつも、目はムティルたちから離すことができない。
「どうした?」
ムティルは小さく笑うと、体を起こして丙の方に歩み寄る。
「そんなに此方を気にして……混ざりたいのか?」
「そ、そんなっ!」
思わず声が裏返る。
だけど、否定することができない。
「嫌なら、逃げればいい」
ムティルの指が、震える丙の唇をなぞる。
「あ、ふ……」
その指先が触れた所が、熱くなる。
「ええやないか。3人なら3人の方が楽しいで」
泰輔が追い打ちをかける。
「異論はないようだな」
「え、あ……んっ」
これ以上の言葉を聞く気はないとばかりに唇が塞がれた。
すとんと能の衣装が落とされ、丙の細い体が露わになる。
その体に手が伸びる。
顕仁は黙ったままそんな3人を見ていた。
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